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#1:石人形に贈る鉄華

Auteur: 渡瀬藍兵
last update Date de publication: 2025-05-19 20:05:38

 ──ぎぃっ、と。

 重苦しい蝶番の悲鳴が、静寂に沈んだ空間へと響き渡った。

 明かりの落ちた屋敷。かつては豪奢な夜会でも開かれていたのだろうその場所は、今や濃密な闇と不穏な気配に支配されている。

「……さて、討伐対象を捜索するぞ」

 短く鋭い声が落ちる。

 深いフードを目深に被った人物──エレンが、滑るような足取りで屋敷の中へと足を踏み入れた。

 月光を吸い込んだような白銀の髪が、フードの内側でわずかに揺れる。外套の下に隠された身体は、いかなる奇襲にも即座に対応できるよう、すでに臨戦態勢に入っていた。

 闇に慣れた深紅の瞳が、油断なく周囲を一瞥する。

 視界に飛び込んでくるのは、至る所に施された華美な装飾品だ。金糸の刺繍が施されたタペストリー、精緻な彫刻が施された柱、そして今は光を失った豪奢なシャンデリア。

「やれやれ。相変わらず貴族という生き物はよくわからんな」

 エレンは呆れたように小さく息を吐いた。

 その声には、実務を重んじる彼女(彼)ならではの冷笑が混じっている。

「煌びやかさが好みなのだろうが、結局のところ使わなくなれば、そんなものは無駄なだけだろうに」

 戦場を駆ける者にとって、実用性のない飾りなど死重でしかない。機能美こそが全てであり、使えなければ意味がない。そんなエレンの合理的すぎる思考が、ぽつりとこぼれ落ちた。

『あはは……。でも、ほら見て。例の討伐依頼の魔物の痕跡が、こんなにたくさんあるよ』

 意識の奥底。魂の共有領域から、春の日差しのように柔らかな声が響く。

 エレンとは対極にある、慈愛に満ちたエレナの声だ。

 そして、彼女の言う通りだった。

 かつては真っ白に磨き上げられていたであろう壁や大理石の床には、無数の惨状が刻み込まれていた。

 ボコボコに陥没した床。巨大な爪か刃物のような獲物で、乱暴に切り裂かれた壁面。それは明らかに、尋常ならざる何者かが派手に暴れ回った痕跡である。飛び散った染みや瓦礫の散乱具合が、この場所で起きた凄惨な蹂躙を物語っていた。

 エレンは細く息を吸い込み、気配を探る。

 空気の淀み。血と獣の匂い。

 ──獲物は、まだこの奥にいる。

「ふむ。討伐対象は──ガーゴイルだったな」

 周囲の気配を探りながら、エレンは低く呟いた。

 その言葉に呼応するように、意識の奥からエレナの弾むような声が返ってくる。

『そうだよ。ギルドに依頼が来たみたいなんだけど、なかなか受ける人が居なかったみたいで……私が受けちゃったんだ』

「ああ、その時の話は聞いていたとも。確か、もともとこの屋敷を守る防衛機構として、物好きな貴族がガーゴイルを飼っていた……だったか」

(魔物を飼うなど、正気の沙汰ではない。やはり、貴族とは何を考えているのか分からないな)

 エレンは心の中で深くため息をついた。

 魔を断つことを生業としてきた彼(彼女)からすれば、制御しきれない暴力に首輪をつけて愛玩しようなどという貴族の傲慢さは、愚行の極みでしかなかった。結果としてこうして制御を失い、屋敷を破壊し尽くしているのだから世話はない。

 壁の爪痕や破壊された調度品を横目に、油断なく奥へと進んでいく。

 やがて、廊下の突き当たりに一際大きな両開きの扉が現れた。かつては豪奢な彫刻が施されていたであろうその扉も、今は無残な傷だらけだ。しかも、中央から僅かに隙間が空いている。

 エレンは剣の柄に手を添えたまま、音を立てずにその扉を押し開けた。

 ──開けた視界の先に広がっていたのは、広大なダンスホールだった。

 かつては多くの着飾った男女がワルツを踊ったであろうその空間は、異様な造りをしていた。

 壁沿いに並ぶ太い柱にはそれぞれシャンデリアが据え付けられ、そして何より目を引くのは、ホール中央の天井から吊り下げられた一際巨大なシャンデリア。

 さらに、その巨大なシャンデリアの真上──天井の中央部分は、大きく切り取られたようなガラス張りになっている。そこから降り注ぐ青白い月光が、乱反射するガラスの破片や荒れ果てたホールを、冷たく、そしてどこか幻想的に照らし出していた。

 その瞬間、エレンの全身が反応した。

 思考より先に身体が動く。床を蹴り、横へと飛び込む──前転で距離を稼いだ直後、轟音が鼓膜を叩いた。

 巨大なハルバードが、エレンの立っていた場所へ、垂直に突き刺さっていた。

 石床が蜘蛛の巣状に罅割れ、砕けた大理石の破片が四方へ散る。踊り場の上から、一息に落下してきたのだろう。それだけの重量と速度が、床に深々と刃を埋め込んでいた。

「……やれやれ。とんだお出迎えだ」

 転がった先で片膝をついたまま、エレンは静かに言った。

 その声に、感情はない。驚きも、焦りも。あるのはただ、状況を測る冷えた眼差しだけだ。

 声を聞いたのか。

 ガーゴイルの頭が、ゆっくりと持ち上がった。

 岩で出来た全身が月光を鈍く照り返す。翼を持つ巨躯、石造りの牙が噛み合わさってがちりと音を立て、尻尾が──鎖のように連なった石の節が、ゆっくりと床を打つ。その一打ちごとに、重い振動がホール全体に伝わってくる。

 ハルバードを引き抜く音が、空間に響いた。

「……」

 エレンは無言のまま、腰の剣を鞘から抜き放った。

 刃が月光を一瞬だけ弾いて、静かに構えが定まる。

 余計な言葉はいらない。

 相手が何者であれ、やることは変わらない。

 刹那、二つの影が同時に地を蹴った。

 先手はガーゴイルだ。

 巨躯に似合わぬ速度で踏み込んできたかと思えば、ハルバードの穂先が連続して繰り出される。一突き、二突き、三突き──岩の腕から放たれる一撃一撃は、それだけで床を抉るだけの重さを持っていた。

 しかしエレンは、弾かない。受けない。

 ただ、躱す。

 上体を僅かに傾け、穂先が頬をかすめる軌道を見切る。次の突きは半歩退いて刃の外へ。三撃目は身体を捻り、風圧だけを感じながら流す。まるで水面に触れるように、最小限の動きで全てを外していく。それでも軌道を読み切れない一撃だけは、剣の腹で軽く逸らす──弾き飛ばすのではなく、あくまで方向を変えるだけの、繊細な操作で。

 エレナの身体は、力で押し返せるほど頑丈ではない。むしろ弱く、ガーゴイルの一撃を喰らえばそれだけで致命傷だ。

 だからこそ、当てさせない。

 連続突きが止んだ。

 その沈黙の直後、鎖状の尻尾が空気を裂いた。

 狙いはエレンの顔面。石の節が連なる重い一撃が、横薙ぎに迫る。

「──」

 エレンは踏み込んだ。

 迎えるように、右足を振り上げる。

 蹴りが尻尾を真上へと弾き上げた。

 鈍い衝撃が足首を伝う。重く。明確な殺意が込められた一撃。だが、蹴りによってその軌道は変わった。

 着地と同時に、間合いを詰める。

 一歩、踏み込んで──横薙ぎに、全力で剣を叩きつけた。

 が…手応えが、ない。

 刃が岩肌を走る感触は確かにある。しかし、それだけだ。斬れていない。削れてすらいない。ガーゴイルは低く呻いたが、その巨体はびくともしなかった。

(……ちっ、硬いな)

 エレンは即座に距離を取り、剣を構え直した。

 表情は変わらない。焦りも、苛立ちも、ない。ただ静かに、目の前の事実を飲み込んでいた。

 剣では、届かない。 ならば。

 エレンが跳んだ。

 全身の重力を乗せた、渾身の一撃。

 振り下ろされた剣がガーゴイルの翼を直撃する──しかし、やはり手応えはない。石の翼は微動だにせず、次の瞬間、エレンの身体は無造作に弾き飛ばされていた。

 空中で、回転を加える。

 吹き飛ばされた勢いを殺さず、むしろ利用して身体を捻り、後方へと飛び退く。着地は静かだった。まるで最初からそこに降りるつもりだったように。

 しかし、間を置かずガーゴイルが動いた。

 ハルバードが縦に振り下ろされる。床が割れる。

 エレンはすでにそこにいない。

 横へ躱しながら踏み込み、そのままガーゴイルの巨体を飛び越えた。

 着地したのは、ホール中央に吊り下げられた巨大なシャンデリアの上だ。

 ガーゴイルが自ら叩きつけたハルバードが巻き上げた粉塵が、ホール全体に広がっていく。白い霞の中で、ガーゴイルの頭がゆっくりと左右に揺れた。獲物を見失っている。

 エレンは、シャンデリアの上で静かに息を整えた。

 足元に広がる無数の装飾品を、一瞥する。

 そして天井へと視線を上げ、このシャンデリアを吊り下げている鎖を確かめた。

「このシャンデリア、随分と立派だな。そう思わないか、エレナ?」

 意識の奥へ、静かに問いかける。

『そうだね……って、エレン? 何するつもり?』

 エレナの声に、わずかな警戒が混じった。

 エレンの視線がシャンデリアへ落ち、ガーゴイルへ向かい、また鎖へと戻る。その動作の意味を、エレナは正確に読んでいた。

「見た目は煌びやかだが、質量は見事なものだ。飾りなど本来は何の役にも立たん」

 エレンは剣を握り直した。

「だが、重さを増しているという一点だけ見れば──まあ、役に立ったか」

『ま、まさか──』

 白刃が、閃いた。

 一条の軌跡。

 シャンデリアと天井を繋いでいた鎖が、断ち切られる。

「贈り物だ。石人形」

 沈黙が、一瞬だけ訪れた。

 そして重力が、仕事を始めた。

 巨大なシャンデリアが傾き、落ちる。みるみるうちに加速して、粉塵の霞の中へと消えていく。直後、凄まじい轟音がダンスホール全体を揺るがした。床が震え、風圧が波のように広がり、残っていた粉塵が一気に吹き飛ばされる。

 エレンはすでに飛んでいた。

 シャンデリアが床に叩きつけられるより一瞬早く、その場を蹴り離れ、着地する。

「っと」

 短く呟いて、エレンはゆっくりと振り返った。

 粉塵が晴れていく。

 シャンデリアの残骸が、ホールの中央に鎮座していた。

 エレンは近づき、その縁を覗き込む。

 ──翼が、潰れていた。頭部も、胴体も、シャンデリアの重量の下で原形を留めていない。かつてガーゴイルだったものが、石の粉と化して床に散らばっている。

 ただ一つだけ。

 シャンデリアの縁からはみ出すように、片腕だけが残っていた。根元から折れ、ぐしゃりと床に転がった石の腕が、静寂の中でぽつんと存在している。

 エレンは一瞥して、剣を鞘へと収めた。

「さて、任務は完了だ」

 エレンは残骸を一瞥し、静かに踵を返した。

『あ……あ……あ……』

「む? どうした、エレナ」

『ど、ど、どうしたじゃないでしょ!? 何してるのエレン!!』

 意識の奥から、エレナの声が裏返って飛んでくる。エレンは特に慌てる様子もなく、淡々と答えた。

「なにって、私の攻撃は通じん。ならちょうどいいところに、ちょうどいい質量を持った鉄の華があったからな。利用しただけだ」

『それはわかるよ!? で、でも書いてあったじゃない! 屋敷をあまり傷つけないようにって!!』

 エレンはゆっくりと屋敷を見渡した。

 抉れた床。深々と刻まれた爪痕。砕けた柱の欠片。どこを見ても、傷だらけだ。

「とは言ってもな。もう既にこの有様だが?」

『で、でもさすがに、シャンデリアの傷は比じゃないくらいの大きな傷だよ!?』

「注文が多いな……。なに、たんまりとある聖堂の金を使えばいいだろうに」

 ため息混じりの、どこか皮肉の滲んだ一言だった。

 自分が壊したのだから自分たちが払えばいい──そんな開き直りにも似た結論を、エレンはいつも何の迷いもなく口にする。聖堂の懐を心配する気など、これっぽっちもないらしい。

 しかし。

『……エレン。当分ピザ抜き!』

「な、なにぃ!? それとこれとは話が……!」

『違くないっ!! エレンが破壊しなければ済んだ話でしょっ!?』

 シャンデリアを落とし、ガーゴイルを葬り、戦場を制した最強の戦士は──ピザという単語の前で、はじめて動揺した。

 内なるもうひとつの存在が、身体の本来の持ち主である一人の少女に、今夜も完敗を喫したのだった。

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  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第115話:立ちはだかる二人

    ────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第114話:行動開始

    **────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第113話:助けたい心は皆同じ

    **────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第112話:リディアの交渉

    **────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第111話:届いた悲報

    (この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った

  • Soul Link ─見習い聖女と最強戦士─   第110話:二人の目覚め

    **────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ

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