LOGIN──透き通るような青空の下、その街は水と光に祝福されていた。
ベルノ王国の王都、ベルステラ。 幾重にも巡らされた水路が陽光を受け、きらきらと細かな光を返している。石造りの街並みは美しく、窓辺には色鮮やかな花々が飾られ、行き交う人々の穏やかな笑い声が、風に乗って街角を吹き抜けていく。 けれど、その美しい街を囲むように、巨大で堅牢な円形の城壁がそびえ立っていた。 それは、この世界が今も魔物の脅威と隣り合わせにあることを、静かに伝える防壁でもある。人々の暮らしを閉じ込めるためではなく、今日も変わらない日常を守るために、そこにある壁だった。 そんな街の中心から、重厚で、それでいてどこか優しさを含んだ鐘の音が響き渡る。 ゴーン、ゴーンと、空気を震わせるその音は、「鐘が象徴の平和な国」と呼ばれるベルノ王国の鼓動そのものだった。 鐘の音が降り注ぐ大聖堂の奥深く。 ステンドグラス越しに差し込む色とりどりの光が、静寂に包まれた礼拝堂の床へ、淡い模様を描き出している。 その光の中央で、一人の少女が静かに膝をつき、祈りを捧げていた。 陽光をそっと梳いて紡いだような、艶やかな金色の髪。 伏せられた長い睫毛の下には、湖面のように澄んだ碧眼が隠れている。 彼女の周りには、春のうららかな日差しに似た、やわらかな空気があった。ただそこにいるだけで、張り詰めていたものが少しずつほどけていくような、不思議な温かさがある。 その少女の名は、エレナ・フィーレ・ヴィクトリアス。 ベルノ王国における第二百代目の聖女、その正統後継者。今はまだ「見習い」という立場に身を置いているが、祈りを捧げる横顔には、年若さの中にも静かな使命感が宿っていた。 伏せた瞼の向こうで、何を思っているのか。 それを知ることはできなくても、見ている者には自然と伝わるものがある。 この少女はきっと、この世界を愛している。 人々の営みも、何気ない日々も、誰かが笑って帰る場所も。ひとつひとつを大切に思っているのだと。 そんな彼女の祈りが、礼拝堂の静けさに溶け込んでいた、その時だった。 重い扉が乱暴に押し開けられる音が、聖堂の奥まで響いた。 「エレナ様、ご祈祷中失礼します」 エレナのすぐ後ろから声が届く。 同じように膝をつき、祈りを捧げていたはずの女が、静かに立ち上がっていた。 腰の下まで流れるグレーの髪。アッシュ色の瞳は鋭く、修道女の白い衣をまとっていても、その佇まいには凛とした緊張感がある。 修道女たちを束ねる立場にある女、マリアン。 大聖堂の温かな光の中にあって、彼女は一本の細い刃のように、静かにそこに立っていた。 「なにやら、お客様が来られた様子でございます」 マリアンがそう告げた直後、礼拝堂の奥へと続く広間の扉が、勢いよく打ち開けられた。 飛び込んできたのは、一人の男だった。 息を乱し、顔を青ざめさせ、それでも足を止めずに駆け込んでくる。よほどのことがあったのだと、誰の目にも分かる姿だった。 「エ、エレナ様ぁ!!」 男の叫びが、聖堂の高い天井に反響する。 エレナはゆっくりと立ち上がった。乱れた裾を整えるように衣へ手を添え、男へ穏やかな微笑みを向ける。 「ごきげんよう。本日もいいお天気ですね。いかがされました?」 慌てふためく男の前で、エレナはいつも通りに言葉をかけた。 それは、事態を軽く見ているからではない。荒れた波の前で、自分まで波立ってしまえば、相手は余計に苦しくなる。だからこそ、まずは自分が凪であろうとする。 それが、エレナなりの気遣いだった。 男は一瞬、その落ち着きに触れて息を整えた。けれど次の瞬間、胸の奥に詰まっていたものを吐き出すように言葉をこぼす。 「はぁ……はぁ! た、大変です!! グ、グールが!! グールが商業区の方で出たんです!」 礼拝堂に、静寂が落ちた。 「……グールでございますか?」 マリアンは感情を乱さず、ただ事実を確かめるように続けた。 「何かの見間違いといった可能性は?」 男の表情が、悔しさと焦りに歪む。 ここに来る前にも、同じような目を向けられたのだろう。必死に訴えても、信じてもらえなかった。話を聞く前から、ありえないと決めつけられた。 その疲れが、彼の肩にも、握りしめた手にも残っていた。 「そ、そんな訳ありません! 私は、間違いなく見たんです!!」 「しかし、グール。その魔物は主に沼地に生息しているのですよ?」 マリアンは一歩も動かず、静かに言葉を重ねる。 「仮にそのグールが現れたとして、そもそもこの王都へ足を踏み入れられる訳がございません。王都への出入口は、騎士団が常に守りを固めております。魔物が城壁を越えようとすれば、その場で灰燼に帰す。それがこの街の鉄則です」 マリアンの言葉は、事実としては正しい。 ベルステラの守りは固い。魔物がたやすく入り込めるような街ではない。だからこそ、男の訴えには矛盾があるように聞こえてしまう。 けれど、正しさだけで、人の恐怖を退けていいわけではなかった。 「マリアン」 エレナが静かに口を開く。 「頭ごなしに否定することはおやめください。まずは、話を聞かなくては」 強く叱るのではなく、そっと道を示すような言葉だった。 マリアンは一瞬だけ瞼を伏せ、小さく頭を下げる。 「はっ……。失礼いたしました」 エレナは男の方へ向き直り、改めて穏やかに微笑んだ。 「詳しく、お話を伺えますか?」 男は、その一言で少しだけ息を落ち着かせたようだった。 「は、はい……。つい先程の出来事です……! 私が商業区の方を歩いていたところ、急に深い霧が立ち込めてきたんです……」 エレナがマリアンへ視線を向ける。 マリアンは無言のまま、虚空に向かって指先を滑らせた。まるで、見えない書物の頁をめくるように。 「はい。先程たしかに、深い霧が唐突に現れたことが確認されていますね」 (霧……。なにかの異常気象? それとも……) エレナの思考が、静かに動き始める。 グールがいたから霧が湧いたのか。 霧が先に現れて、グールはその後から来たのか。 あるいは、霧そのものの中から、その魔物は現れたのか。 まだ、どれも答えではない。 だからこそ、ひとつずつ確かめる必要があった。 「他には何かございますか?」 「え、えっと……。そ、そうだ! 白かった……! 全身がまるで幽霊のように白かったんだ! それに、普通のグールなんかとは比べ物にならないほど大きかった!」 マリアンの眉が、わずかに動く。 「……グールとは本来、緑色の皮膚を持ちます。それが白……ですか」 「ほ、ほんとうなんだ!!」 男の声が裏返った。 何度も疑われてきたのだろう。信じてもらえないことへの怯えと、どうしても伝えたいという必死さが、その叫びの中に滲んでいた。 「嘘じゃない……! 俺は確かに見たんです……! エレナ様、どうか……どうか信じてください……!」 「落ち着いてください」 エレナの声は、揺れなかった。 「なにも私は、あなたを疑ってなどおりませんよ」 その言葉に、男の肩から力が抜けた。 信じる。 たったそれだけのことが、今の彼には必要だった。 『ねぇ、エレン。この人の言ってること、なにかおかしなところある?』 意識の奥で、エレナは静かに問いかける。 『ない』 返ってきた声は短かった。 『そもそもこの怯えようは、演技などでは出せないな。本当に恐ろしいものを見たんだろう。あるいは見間違いという線も、完全には消せないが……』 一拍の間があった。 『生物には稀に、突然変異個体というものが存在する。魔物がそういった変異を起こさないとは、誰にも言い切れない』 断言はしない。 けれど、否定もしない。 エレンはいつも、可能性を簡単には閉ざさない。目の前の情報を見極め、そのうえで残すべき道を残しておく。 その冷静さが、今のエレナにはありがたかった。 (なら、私が取るべき選択は……) 「承知いたしました」 エレナは静かに、けれど迷いなく言葉を紡いだ。 「聖堂として、できる限りの対応を取ります。あなたはどうか、いつも通りの暮らしへお戻りください」 そして、少しだけ表情をやわらげる。 「不安は、私どもが引き受けます」 男は、しばらく動けなかった。 何度も疑われ、追い返され、それでも諦めきれずに辿り着いたこの場所で、初めて誰かが話を聞いてくれた。 それが胸に届くまで、少し時間がかかったのかもしれない。 「……信じていただき、ありがとうございます……ありがとうございます……」 男は深く頭を下げた。 来た時とは違う、静かな足取りで聖堂を後にする。 扉が閉まる音が、礼拝堂の奥まで穏やかに響いた。────エレナの視点──── 石造りの螺旋階段を、私たちは息を切らしながら駆け上がっていた。 ごつごつとした壁が、手に持つ灯りの光を不気味に反射している。下層から響いていた激しい戦闘音は、もう聞こえない。石段を踏みしめる足音と、荒い息遣いだけが、神殿の静寂を破っていた。 「グレンさん、大丈夫ですかね……!?」 ミストさんの不安そうな声が、静寂に包まれた階段に響いた。その声には、仲間への深い心配が込められている。 「……きっと、大丈夫!」 何の確証もない。けれど、私の胸の奥で、温かい光のようなものが「大丈夫だ」と囁いていた。それは昔から私の中に宿る、聖女としての直感のようなもの。 「私の直感が、そう告げてるの!」 「えぇ!? そ、そんな直感が……!?」 ミストさんが驚きの声を上げる。 (私も原理は分からんが……エレナには、その力が間違いなく備わっている。運命そのものを、その祈りの力で強引にねじ曲げてしまうような、不思議な力がな。だから、今回もきっと大丈夫だ) エレンの声が、私の内側で静かに響いた。 (うん……!) 彼の言葉が、私の直感を後押ししてくれる。 「それなら良いが……慢心はするなよ」 シイナさんが、冷静に釘を刺した。 「未来が見えるからと、それに胡坐をかいて行動するようでは、今の暗明の聖女と何も変わらないからな」 「……うん、そうだね。私は、この直感を絶対に正しいなんて、傲慢なことは思わないよ」 私にできるのは、この直感を信じつつ、でも決して過信しないこと。神様のお導きを感じながらも、自分の足で歩むこと。 「そこが、エレナさんの素敵なところですね」 シオンさんが、静かに微笑んだ。 その時、長く続いた階段が終わり、私たちの目の前に、だだっ広い広間が見えてきた。天井は高く、月光が差し込む窓から、青白い光が石床を照らしている。 「きっと、ここにも残りの騎士が待ち構えていることだろう」 「その時は、私が残ります」 シオンさんの言葉に、ミストさんが待ったをかける。 「いやいやいや! そこは私でしょうー!!」 「……?」 シオンさんが、心底不思議そうに首を傾げた。 「そのお顔はなんですかァァ!?」 「いえ……だってあなたは、戦いがあまり得意な方ではないでしょ
**────エレナの視点────** 「じゃあ皆、各々準備してくれ。五分後にはここを出て、リディアさんを助けに行くぞ」 シイナさんの力強い言葉に、私たちは一斉に頷いた。この小さな家の中に、静かだが確固たる決意が満ちている。みんなの表情に迷いはない。先ほどまでの混乱が嘘のように、今は一つの目標に向かって心が結束していた。 五分という短い時間の中で、私たちはそれぞれの装備を確認し、心の準備を整える。月光が窓から差し込み、武器の金属部分を青白く照らしていた。この静寂が、嵐の前の静けさのように感じられてならない。 「準備はいいか? 今回、ジンが大方の騎士は無力化してくれたという話だ。恐らく…すぐに四騎士との戦闘になるだろう」 シイナさんの声に緊張が走る。四騎士——この国の最強戦力との戦いが待っているのだ。 「ここの騎士たちの数は多かったからね。でも、気を付けて」 ジンさんが軽やかに言葉を続ける。 「流石に全部を倒すわけにもいかなかったから、十人程度は残ってるはずだから」 「それでも、そんなに多くの騎士を戦闘不能にするなんて……」 私は驚きを隠せなかった。一人でそれほどの騎士を相手にするなんて、どれほどの実力者なのだろう。 「はは、聖女様に褒めてもらえるなんて。なんだか嬉しいよ」 ジンさんの表情に、子供のような無邪気さが浮かんでいる。しかし、その奥に潜む何かが、私の心に小さな不安を芽生えさせた。 「ね、念の為に聞くのですが……殺しはしてないですよね……?」 恐る恐る尋ねた私の質問に、ジンさんの表情がふっと変わった。まるで別人のような、冷たい光が瞳に宿る。 「……剣を抜いた以上、お互いの命が尽きるまで刀を振り合うべきだと僕は思っているんだ」 その一言に、背筋が凍りつくような恐怖を感じた。ジンさんの声音には、戦いへの狂気じみた情熱が込められている。私の心臓が、ドクドクと激しく鼓動を刻んでいた。 「でも……今回は大丈夫。殺してないよ」 そう言って見せる笑顔は、まるで何事もなかったかのように穏やかだった。しかし、その急激な変化が、かえって不気味さを増している。 (今回は……? ということは、普段は……?) 心の奥で、暗い想像が渦巻いていた。 * * * 五分後。静寂を破って、私たちは行動を開始した
**────エレナの視点────**「という訳なんだ」ジンさんの軽やかな口調で語られた残酷な現実に、私の心は氷のように凍りついてしまった。リディアさんが捕らえられて、処刑される。その事実が、どうしても受け入れることができなかった。「そ、そんな……嘘ですよね??」私の声が震えている。まるで悪夢から覚めたいと願うかのように、その言葉にすがりついた。「……こんな時に嘘なんてつかないよ」ジンさんの飄々とした口調が、現実の重さをより一層際立たせる。「……くっ!!!」シイナさんが拳を強く握りしめ、歯を食いしばっている。その青白い顔に、激しい怒りと悲しみが刻まれていた。「皆は先にこの国を脱出してくれ……!俺は……俺はリディアさんを助けに行く!!」シイナさんが勢いよく立ち上がり、扉に向かって歩き出そうとする。その瞳に宿る決意の炎は、誰にも止められないほど激しく燃えていた。「待てよ!!そんなの俺たちだって同じ気持ちだ!」グレンさんが力強く立ち上がる。彼の声には、シイナさんに負けないほどの強い意志が込められていた。「ええ……彼女には計り知れないほど多大な恩があります。なので……グレンと私でリディアさんを救出に向かいます」シオンさんの顔に、鋼のような決意が浮かんでいる。「シイナ、あなたこそエレナさんやミストさんと共に先に脱出してください」「だめだ!今回はパーティリーダーの責任として、俺が行く!」「シイナ!」「俺が、彼女を助けてすぐに戻ればいいことだろう!」「おいシイナ!俺がやられたテッセンとかいうやつの事を忘れたわけじゃないだろ!?少し落ち着け!」三人の激しい言い争いが、小さな家の中に響き渡る。誰も一歩も引かない様子で、感情のままに言葉をぶつけ合っていた。「あわわわわ……みなさん!こんな時に言い争ってる場合じゃないですって!」ミストさんが慌てて三人の間に割り込もうとするが、激しい感情の渦に巻き込まれ、弾き飛ばされてしまう。「ぎゃー!!」(みんな……冷静さがすっかり抜けて、これじゃあ救える命だって救えないよ……!)(それに……私だってリディアさんを助けたいのに……)私の心の中で、やりきれない想いが渦巻いている。みんなの気持ちは痛いほど分かるけれど、このままでは誰も救えない。そう考えていた、まさにその瞬間だった。私の意識が、まるで深い
**────ジンのの視点────** やる気か、と。僕は心の中で、小さく呟いた。 ここは冒険者ギルド。依頼と情報が交差する、いわば中立の聖域だ。そんな場所で騎士が刀を抜き、殺し合いを演じようというのだから、面白い。実に、面白い。 僕は向かってきた騎士の剣戟をいなすどころか、その勢いを逆に利用して体ごと弾き飛ばした。空中で無様に体勢を崩した彼の喉笛へ、僕は逆手に持ち替えた刃を、まるで吸い込まれるかのように滑らせる。「がぁっ……!」 声にならない呻きを漏らし、騎士が床に崩れ落ちた。口からごぼりと泡を吹き、痙攣する手足が、彼の命が尽きかけていることを示している。 仲間の一人が一瞬で無力化されたというのに、残された騎士たちは状況が飲み込めていないらしい。驚愕に見開かれた目が、滑稽なほどにこちらを向いていた。「き、貴様っ! 正気か!?」「あはは、面白いことを言うね、君。先にその物騒な鉄の獲物を抜いたのは、そっちじゃないか」「そ、それにしてもだ! 我々騎士に刃向かうなど、あってはならないことだぞ!?」「残念だけど、僕はそんな立派な冒険者様じゃない。僕はジン。世界を渡り歩く、ただの傭兵だからね」「ジン……!?」 その名に、騎士の一人が息を呑んだ。どうやら僕の名も、多少は裏の世界に知れ渡っているらしい。「くそっ……! やられて黙っていては、騎士の名が廃る! こいつも捕縛しろ!」 別の騎士が、その手に蒼い水の魔力を纏わせながら、僕へと突進してくる。ギルドの中で属性魔法を放つ? ああ、本当に、愚かだな。「はぁ……後悔しても、知らないよ」 僕は腰に差した愛刀「雪月花」の鯉口を切ると、一閃、抜き放った。 (鳴神式抜刀術――神威の型。) 空気を切り裂く音だけが響き、騎士の右腕が、ごとり、と鈍い音を立てて石床に転がった。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!! お、俺の腕がァァァァッ!!」 やかましいね。腕の一本や二本、飛んだくらいで喚くなんて。自分から仕掛けておきながら、いざ返り討ちに遭えば獣のように吠え立てる。弱者の典型だ。「お、お前……! 自分が何をしたか、分かっているのか!?」「さっきも言ったはずだよ。先に始めたのは、そっちだってね」 僕は刀身に付いた血を振るい、ゆらり、と笑みを浮かべた。「まだまだ足りないな。……もっと、殺り合おうよ」 ああ、い
(この声に気配……覚えがある)エレンの意識が、私の奥底で警戒の炎を燃やし始める。(私もそう感じてた……なんだか、すごく(身に覚えがあるような……)(確か、夜の街で我々を襲撃してきた傭兵……名は確かジン……と言ったか)その名前を耳にした瞬間、あの記憶が、鮮血のように鮮やかに脳裏へと蘇ってきた。霊たちが彷徨う夜の街で、昼間の平穏な探索が一変した瞬間。突如として現れた謎の傭兵——。その圧倒的な実力は私には理解の範疇を超えていたけれど、エレン曰く、これまで戦った敵の中でも別格の強さを誇っていた……と。(そ、その人がなんでこんな場所に!? まさか、私たちを追ってきたの!?)(さあな。だが……敵意は微塵も感じられない。それに何か重要な情報を知っているようだ)(ここは一か八か、直接対峙してみるのも選択肢の一つだろう)「エレンが敵意は感じないから……出てみるのも一つの手だって……」私はシイナさんに、内心の不安を隠しながらそう告げる。「敵意を感じない……か。グレンもミストも意識を取り戻したことだし、直接話してみるか?」シイナさんの声に、慎重な判断力が込められている。(ああ、そうしてみてくれ)「そうして見てほしいって……」エレンの助言をそう伝えると、シイナさんが深く頷き、警戒を込めて扉の前へと歩を進めた。「何用だ」シイナさんの声が、扉越しに響く。「あれ、やっぱりいるんじゃないですかー」その飄々とした口調に、底知れない余裕が滲んでいる。「やあ、僕はジン。リディアっていう方からの重要な伝言があるんだけど、扉を開けてもらえないかな?」「残念だが、こちらにも複雑な事情があってな。このままでお願いしたい」シイナさんの慎重な対応に、扉の向こうから軽やかな笑い声が響く。「……あーそっか、いまこの国から追われてるんだっけ。それなら心配しなくていいよ」「大体の騎士は僕が片付けたから」「な、何だと!?」シイナさんの声が、驚愕に震える。「えっ!??」私も思わず声を上げてしまった。「ま、待て! この国の騎士一人一人は精鋭と言っても過言ではないほどに優秀だ。それをお前は単身で制圧したというのか?」「はは。まぁ確かにこの国の騎士はよく鍛錬されていたね。でも、僕も実力には自信があるんだ」その軽やかな口調で語られる内容の恐ろしさに、私たちは言葉を失った
**────エレナの視点────**次の日。「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」二人が目を覚ましたんだ。あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。でも……。聞かないといけない。二人に、何があったのか。「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」「とんでもなく強い奴?」シイナさんの声に、緊張が走る。「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」(見たこともない鎧に刀……か)エレンの声が、意識の奥で静かに響く。「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。(…………)エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」「エレンに……?」私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。「それは……かなり厄介そうですね」シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ







