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#2:入れ替わる意識

Author: 渡瀬藍兵
last update Last Updated: 2025-05-19 20:06:18

夜風が、唐突に凪いだ。

それまで頬を撫でていた柔らかな大気が、一瞬にして凍りつき、研ぎ澄まされた刃のような冷徹さを帯びる。

その感覚と共に──エレンはカッと目を見開いた。

エレナが閉じたその瞼の裏で、別の理を宿した瞳が、深淵なる闇を射抜く。

覚醒した意識は水鏡のように冴え渡り、風の音、虫の羽音、遠くで揺れる木の葉の擦れ音までもが、鮮明な情報となって脳髄に流れ込んでくる。

月光を吸って白銀へと変化した長い髪を、彼は慣れた手つきで後ろに束ねた。

そして、深々と外套のフードを目深に被る。この顔を、世俗の光から隠すように。

腰に帯びた剣の柄。その冷たい感触を指先で確かめ、低く呟く。

「……捜索を開始する」

声は夜の冷たい大気に吸い込まれ、誰の鼓膜を震わすこともなく、闇へと溶けていった。

〜*〜*〜*〜

規則正しい足音を響かせる夜警の騎士団。その巡回ルートを計算に入れ、エレンは人通りの絶えた裏路地を選んで進む。

石畳の上を滑るように、影から影へ。

闇に紛れるという行為は、エレンにとって呼吸と同じほど容易く、自然なものだ。

(……騎士団の人たちは表通りばかりだね。やっぱり、下水道の線が濃いのかな?)

(ああ。実務よりも形式美を重んじるのは……平和ボケした騎士団の悪癖だな)

エレナの不安げな声に、エレンは心中で短く吐き捨てる。

一切の迷いなく、街の最下層──汚濁の集まる地下への入り口へと足を向けた。

分厚い鉄格子の扉は、錆びつき、何年も開けられた形跡がない。だが、指先をかけ、わずかに力を加えただけで、それは悲鳴のような軋み声を上げて開いた。

〜*〜*〜*〜

ポタ、ポタ、ピチャン……。

汚水が壁面を伝い落ちる音が、湿った石壁に鈍く反響している。

鼻腔を強烈に刺すのは、吐き気を催すほどの腐臭だ。汚泥と、錆びた鉄、そして腐敗した有機物が複雑に混ざり合い、重く澱んだ空気を形成している。

(うぅ……やっぱりここの臭い、キツそう……)

(……問題ない)

エレナと意識の深層で言葉を交わしながらも、エレンの集中力が途切れることはない。

全身の神経を針のように研ぎ澄まし、一歩、また一歩。

視界の効かない闇の奥深くへ、泥濘を踏みしめて進んでいく。

その時──。

ヌチャリ……

粘性の高い液体が濡れた床石を叩くような、生理的な嫌悪感を催す音が、前方の暗闇から鼓膜に届いた。

(……何かいるな。それも、一匹や二匹ではない)

音から伝わる気配の〝質量〟が、この下水道に棲み着くドブネズミや野良犬とは根本から異なっている。

即座に腰を落とし、重心を前へ。音の発生源へ疾風の如く踏み込もうとした──その瞬間。

「──きゃああああっ!!」

甲高い、少女の悲鳴が静寂を引き裂いた。

思考よりも早く、生存本能として肉体が反応する。

踏み込む角度を鋭角に変え、悲鳴が上がった一点へと、砲弾のように身体を弾き飛ばした。

闇に濡れた閉鎖空間。

そこにいたのは、恐怖に腰を抜かし、瓦礫の隅で震える少女。

そして──その華奢な身体に覆いかぶさらんとする、緑色の悪夢。

腐敗が進んだ醜悪な腕が、毒々しい紫煙のような瘴気を立ち昇らせながら、振り上げられていた。

(瘴気に当てられ、意識が混濁したところを引きずり込まれたか──!)

救うか否か。そんな選択肢は、エレンの思考には存在しない。

エレンは床を強く蹴り、少女と魔物の間のわずかな隙間に、雷撃の如く割り込んだ。

抜刀の動作すら視認させない神速。

跳躍の勢いをそのまま切っ先に逃がし、横薙ぎの一閃を放つ。

──ズ、シュッ!!

湿った腐肉を断ち切る、生々しい感触が手元に残る。

濁った紫色の血飛沫が闇に舞い、グールの首がごとりと床へ落ちた。

数瞬遅れて、主を失った胴体が、操り人形の糸が切れたように崩れ落ちる。

残心。

息ひとつ乱すことなく剣を一振りし、刀身に付着した汚血を払う。

「下がっていろ。壁から背中を離すな」

静かに、だが有無を言わせぬ鉄の響きで少女に命じ、肩越しに視線を向ける。

「は、はい……! あ、ありがとうございます……!」

か細く震える声だが、瞳には光が残っている。

これなら問題ない。そして、今斬り捨てた個体は、ただの雑魚だ。エレンたちが探す「痕跡を残さない」異質な魔物ではない。

安堵したのも束の間。

(エレン! 正面、まだ来るよ! 囲まれる!)

エレナの切迫した警告が、脳髄に直接響く。

即座に姿勢を低く沈め、正面のさらに深い闇──その深淵へと剣の切っ先を向けた。

ヌチャ、ベチャ、ヌチャリ……

湿った足音が、おぞましい数となって重なり合う。

「グルルルゥ……」「グガァァァッ!!」

獣じみた低い唸り声と共に、腐肉を継ぎ接ぎしたような醜悪な群れが、次々と闇から這い出してきた。

五体……いや、六体か。

(エレン、待って! あの奥にいる一体だけ、瘴気の〝質〟が違う……! まるで、他の個体を操っているみたい!)

──なるほど。司令塔がいる、か。

群れの先頭にいた一体が、鋭利な爪を振りかざし、猛然と突進してくる。

単純な軌道。だが、暴力的な質量。

エレンはその凶悪な爪を、正面からは受けない。

振り下ろされる腕の軌道に剣の腹を軽く合わせ、触れるか触れないかの絶妙な力加減で軌道を逸らす。

勢いを殺されず、前のめりに体勢を崩すグール。

その一瞬の隙。エレンは敵の懐へ滑り込むと同時に、独楽のように高速回転し、遠心力を乗せた逆袈裟の一撃を叩き込んだ。

「──シッ!」

銀色の軌跡が、闇に弧を描く。

肉を断つ音と同時に、グールの太い右腕が骨ごと宙を舞った。

ボトリ、と湿った音を立てて落ちる腕。

エレンはそれらを一瞥もせず、深く被ったフードの位置を指先で直し、涼しげに呟いた。

「……これはまた、随分と湧いたものだな」

残り五体のグールが、仲間の血の匂いに興奮したのか、あるいは背後の「司令塔」に命じられたのか──一斉に咆哮を上げ、四方から襲いかかってくる。

(エレン! 司令塔の奴、後ろに下がったよ! 部下たちを盾にして、何かを企んでる!)

(……小賢しい真似を。だが)

エレンは剣を正眼に構え直し、迫り来る肉の壁と、その奥で嗤う真の敵を静かに見据えた。

「──問題ない。全て、土に還してやろう」

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