Masukその日の夜……。
「えっ、ドゥラン様のところへご奉公に行くの?」
ランプの明かりに照らされたダイニングで、家族と夕食を囲んでいたアデーレ。
向かい側に座る両親との話題は、昼間のメリナと交わしたやり取りだ。
真っ先に反応したのは母のサンドラ。
アデーレは母親似で、特に背中の辺りまで伸ばした青交じりの黒髪はサンドラ譲りだ。
「やってみないかって誘われただけだから。確かに六年前のことはあるけど……」
六年前のことは、島の者なら誰でも知っている。
大貴族バルダート家の一人娘に楯突いた農家の娘。 そのことで
あの頃は良太が物を知らなかっただけのことで、バルダート家がどういった家柄なのかもわからず口を挟んでしまった。
お嬢様ことエスティラの父、ドゥラン執政官。
執政官とは、ここシシリューア共和国における国家元首なのだ。
後にそのことを知ったアデーレ……というより良太は、いよいよ国のトップの娘に口出ししてしまったのかと、色々な意味で自分に感心してしまったものだ。
だが、後悔はしていないし、自分が悪いことをしたという認識もない。
何よりメリナと知り合えることも出来たのだ。今ではいい思い出だろう。一応は。
「父さんは悪くないと思うよ。数年働けば、転職の際の紹介状も書いてもらえるらしいじゃないか」
「そうは言ってもあなた、もしもエスティラお嬢様に目を付けられでもしたら」
「なあに、あのドゥラン様のご息女だよ。六年も前のことを根に持つようなことはないさ」
手にしていたスプーンを皿に置いて、アデーレの顔色をうかがうサンドラ。
楽観的なヴェネリオに対し、やはりサンドラは娘の身を案じているようだ。
「メリナさんが、一般の人はお嬢様に会うことはめったにないって」
「そうかもしれないけど……やっぱり心配だわ」
サンドラのため息が、アデーレの耳に残る。
過保護を人の形にしたようなヴェネリオほどではないにしても、サンドラも人並みの母親以上の思いをアデーレに抱いていることが伺える。
「まぁまぁ。それで、アデーレはどう考えているんだい?」
「私は……一度屋敷に行ってみようと思う」
「そうか」とつぶやき、ヴェネリオが姿勢を改める。
アデーレの言葉を聞いたサンドラは、相変わらず不安げに娘の顔を見つめている。
「ドゥラン様のお屋敷の使用人だ。雇われるにしても外見や能力で厳しく判断されるはずだよ」
「うん」
「でも父さんは、アデーレなら必ず雇われると信じているよ。何せ父さんと母さんの娘なんだから!」
ヴェネリオの自信は、いったいどこから湧いてくるものなのか。
いや、これは単純に子煩悩を極めているだけだろう。
しかし容姿に関しては、誘ってきたメリナからもお墨付きをもらっている。
そういったことがあるため、アデーレ自身も使用人として雇われるかどうかについてはそれほど不安はなかった。
(自分でもこんな自信家だったとは、ちょっと驚くな)
そんなことを内心思うほどだ。
と、ここでうつむき加減だったサンドラが顔を上げる。
「分かったわ、あなたがそう決めたのなら」
伸ばされたサンドラの手が、テーブルの上にあったアデーレの手に重ねられる。
「でも、危ないと思ったらいつでもお母さんに相談してね。絶対よ?」
――アデーレは、本当に両親に愛されている。
それが心地よくも、気恥ずかしい。
佐伯 良太としての一面が、そう感じてしまうのだろうか。
だが、触れ合っているこの瞬間こそが、それ以上に羨ましいとも思ってしまうのだ。
生まれ変わった自身の幸せだというのに……。
「うん。ありがとう、お母さん。お父さん」
無償の愛を注いでくれる両親に、感謝の言葉を告げるアデーレ。
その表情は、かすかに微笑みを浮かべていた。
◇
通常、何事にも段取りってものがあるはずだ。就職なら面接とか、掃除ならばまずは上からとか。
だが、自らが置かれた現状に、アデーレは困惑していた。
アデーレは、生まれて初めて貴族の屋敷へ足を踏み入れることとなった。
まず大きな格子門の先には、ロントゥーサでは珍しい芝生が敷かれた広い前庭が広がっていた。
前庭を中央から貫くように敷かれた白い道の先には、大きな両開きのドアを有する三階建ての屋敷が待ち構えている。
(どれだけ広いんだ……)
思わず心の中でつぶやくアデーレ。
本日の彼女の格好は、作業に適した物が良いという母の提案から、汚れても心配ない木綿の青いワンピースだ。
とはいえ、決して裕福な家ではない。他の服装もこれと大した差はないのだが。
「どうしたの? ほら付いてきて」
アデーレの前を歩くのは、ピンク色のワンピースに、白いキャップとエプロンを纏ったメリナだ。
現代日本の記憶を持つアデーレからすると、彼女の格好は自分が知る【メイド服】というものとはかなりかけ離れている。
だが、母やメリナの話を聞いてみると、午前中は自前で用意した作業のしやすい服装を着ることが基本らしい。
「それにしても、アデーレが来てくれて本当に助かるよー」
そう言うメリナの笑顔には、明らかに疲れの色が伺える。
屋敷の方を見ても、数名の使用人が掃除道具や籠を持って屋敷前をせわしなく移動しているようだ。
「随分と忙しそう」
「急にお嬢様が住むってなっちゃったからね。三日前からずっとこんな感じだよ」
「うわ……」
お嬢様を迎え入れる準備が間に合っていないとなれば、屋敷が修羅場になるのは当然だ。
なのに昨日の段階で既に屋敷入りしているという。
こうなると、なかなかにハードな状況と言わざるを得ない。
「とりあえず、今日一日は私と一緒にいてね。仕事覚えてもらうから」
「え? ちょっ、こういうのってまずは責任者の人に会って色々……」
「今は特例っ。その辺は私の判断でいいってことになってるから」
いつもせわしないお姉さんというのが、アデーレが抱くメリナの印象だった。
しかしどうやら、バルダート家の使用人としてはそれなりの立場にあったらしい。
お嬢様に困らされていた時のことが色濃く記憶されていたためか、率先して前に立つメリナの姿はアデーレの目にも新鮮に映る。
これも彼女が、使用人としてのキャリアを重ねてきた賜物なのだろう。
「難しいことはしなくていいから。とにかく今は私の手伝い、お願いねっ」
疲れが見え隠れする笑顔を見せるメリナ。
そんな彼女を前にして、もはや段取りがどうとか言うのは野暮だと、アデーレは言葉を飲み込んだ。
◇
三階建ての屋敷というのは、ロントゥーサ島では灯台に次いで高い建物だ。だがそれ以上に、バルダート別邸は敷地が広い。とにかく広い。
吹き抜けのエントランス。床一面に敷かれたワインレッドのカーペット。
白を基調とした美しい内装は、慣れないアデーレには眩しく映る。
「アデーレっ、手が止まってるよ!」
窓ふき用の布を手にしたアデーレを、メリナが顔も向けずに叱責する。
アデーレは今、廊下の窓の乾拭きをメリナと共に進めていた。
しかし、ここは貴族の屋敷だ。自宅の窓を綺麗にするのとはわけが違う。
とにかく長く伸びる廊下には、前庭が伺える大きな窓が整然と並んでいる。
枚数は軽く二十は超えるだろうか。この全てを使用人たちで綺麗にしていかないといけないのだ。
使用人たち……とはいうが、この場にいるのはアデーレとメリナ。
それと、廊下の反対側から作業を進める二人の使用人だけだ。
どうやら反対側もアデーレ達と同じく、ベテランと新人がペアとなって作業を進めているように見える。
「メリナさん……これ、いつ終わるんですか?」
「いつなんて考えないっ」
隣の窓を拭くメリナの手際は、恐ろしい程に良い。
腕を一杯に伸ばして、上から下に向けて窓を磨き上げていく。
その手は角のわずかな汚れ一つ見逃さず、ペースもアデーレの倍ほどの速さだ。
アデーレが一枚の窓を終わらせる頃には、メリナは三枚目の窓に取り掛かっていた。
「今日のうちに三階までの窓終わらせなきゃいけないんだから、余計な事考えてる暇ないよっ」
「ああ……」と、アデーレは思わず落胆の声を漏らす。
当然だ。この上階には、現在受け持ってるのと同じ長さの廊下があるはずなのだから。
使用人控室に通されたと思えば、そのまま掃除用具を持たされ、屋敷中の掃除をさせられているアデーレ。
その顔には、間違いなく使用人の仕事を甘く見ていたことへの後悔の念が浮かんでいた。
ふと、頭の中に母サンドラの顔が思い浮かぶ。
『危ないと思ったら、いつでもお母さんに相談してね』
あの時の母の優しい言葉を、今になって恋しく思う。
一般家庭の家事など基礎の端くれ。いつも通りが全く通用しない、屋敷の掃除。
今のアデーレが思い抱くのは、不作をもたらした天候に対する恨み言ばかりだった。
礼拝堂を後にしたアデーレは、一人バルダート家の屋敷に続く坂道を上っていた。 この道は港から続く大通りで、馬車も通れるよう頑丈な石畳によって舗装されている。 バルダートのお嬢様と最悪の出会いを果たしたのも、この場所だった。 バルダート家がこの地に別邸を持ったのは、避暑のためである。 シシリューア島は周囲の島々に比べると、地熱の影響により気温が高いらしい。 だからロントゥーサ島の、風通しが良く港からも近い土地に別邸を建てたそうだ。 (だからって、歩いて通うのにこの坂はちょっと大変だ) 額に汗をにじませながら、アデーレは屋敷へ続く坂道を上る。 勾配は緩やかだが、それでも今日の晴天はほどほどに疲労を蓄積させてくる。 これが夏本番になると、気温はさらに上昇する。 こうなると、たとえ実家が近いとはいえ、屋敷の使用人部屋で住み込みという選択肢も出てくる。 なお、その場合の父の反応は、推し量るまでもなく容易に想像がつく。 そんな、アデーレ・サウダーテとしての日常。 これまでを振り返り、そしてこれからに思いを馳せ……。 時折思うのは、この先自分はどういう人生を送るのだろうということだ。 今はまだ、佐伯 良太として歩んだ時間の方が長い。 だが後十年も経たずして、アデーレは良太の享年を超えることとなる。 今後、アデーレとしてそれらしい人生を送るのだろう。
その日は一日、屋敷の掃除に明け暮れることとなった。 拭き掃除に掃き掃除、使われていなかった家具を磨き本家から運ばれた食器を磨き……。 幸いだったのは、夕暮れまでに帰宅することが許されたことだろうか。 「そう。そんなに急なお話だったの」 テーブルに突っ伏すアデーレを、食器を片付けるサンドラが心配そうに見つめる。 いつもは率先して家事を手伝うアデーレだが、慣れない重労働で動く気力を失っていた。 「家事ならって……正直、なめてた」 「さすがバルダート家のお屋敷だな。掃除一つ取ってもうちの比じゃなかったんだね」 顔を上げずに話すアデーレの肩を、ヴェネリオが優しくさする。 「それだけじゃないよ。あんなに広いのに人が少ないし」 メリナと仕事を進めていくうちに、アデーレは気づいたことがあった。 それは、メリナのような経験を積んだベテランの使用人が、一人か二人の新米使用人を連れて仕事をしてたということだ。 ベテランの使用人は、おそらくメリナを含めて十人ほど。 彼女達が率いる新人は、同年代の顔見知りばかりだった。 顔見知りが多いのは気楽だが、未経験者ばかりでは手際が悪い。 そうなると仕事量は増え、一人ひとりの負担も大きくなる。 その結果が、帰るなり息も絶え絶えのアデーレというわけだ。 (メリナさんもそうだけど、先輩たちの手際
その日の夜……。「えっ、ドゥラン様のところへご奉公に行くの?」 ランプの明かりに照らされたダイニングで、家族と夕食を囲んでいたアデーレ。 向かい側に座る両親との話題は、昼間のメリナと交わしたやり取りだ。 真っ先に反応したのは母のサンドラ。 アデーレは母親似で、特に背中の辺りまで伸ばした青交じりの黒髪はサンドラ譲りだ。「やってみないかって誘われただけだから。確かに六年前のことはあるけど……」 六年前のことは、島の者なら誰でも知っている。 大貴族バルダート家の一人娘に楯突いた農家の娘。 そのことで忌諱されるなどといったことはなかったが、良くも悪くも度胸がある子だと一目置かれることとなった。 あの頃は良太が物を知らなかっただけのことで、バルダート家がどういった家柄なのかもわからず口を挟んでしまった。 お嬢様ことエスティラの父、ドゥラン執政官。 執政官とは、ここシシリューア共和国における国家元首なのだ。 後にそのことを知ったアデーレ……というより良太は、いよいよ国のトップの娘に口出ししてしまったのかと、色々な意味で自分に感心してしまったものだ。 だが、後悔はしていないし、自分が悪いことをしたという認識もない。 何よりメリナと知り合えることも出来たのだ。今ではいい思い出だろう。一応は。「父さんは悪くないと思うよ。数年働けば、転職の際の紹介状も書いてもらえるらしいじゃないか」「そうは言ってもあなた、もしもエスティラお嬢様に目を付けられでもしたら」「なあに、あのドゥラン様のご息女だよ。六年も前のことを根に持つようなことはないさ」 手にしていたスプーンを皿に置いて、アデーレの顔色をうかがうサンドラ。 楽観的なヴェネリオに対し、やはりサンドラは娘の身を案じているようだ。「メリナさんが、一般の人はお嬢様に会うことはめったにないって」「そうかもしれないけど……やっぱり心配だわ」 サンドラのため息が、アデーレの耳に残る。 過保護を人の形にしたようなヴェネリオほどではないにしても、サンドラも人並みの母親以上の思いをアデーレに抱いていることが伺える。「まぁまぁ。それで、アデーレはどう考えているんだい?」「私は……一度屋敷に行ってみようと思う」 「そうか」とつぶやき、ヴェネリオが姿勢を改める。 アデーレの言葉を聞いたサ
良太の記憶を取り戻して、六年の歳月が過ぎた。 あれからアデーレの性格は、徐々に良太の人間性に引っ張られてしまった。 しかし彼女も元来おとなしい性格だったためか、周囲から違和感を抱かれたことは数えるほどしかない。 また、両親に恵まれなかった良太とは違い、アデーレの両親であるヴェネリオ、サンドラ夫妻は深い愛情を持っていた。 一人娘故の溺愛ともいえるが、農民なりに女性として満足のいく生活を送らせてあげようと、アデーレに着飾る機会などを与えてくれた。 今のアデーレは、良太が送った二十一年の人生と地続きになったような状態だ。 純粋なアデーレ・サウダーテとして育てられた十年の月日があったためか、幸いにも性別が変わったことを受け入れるのにそれほど時間が掛かることはなかった。 むしろ、そうでなければ……そんなことをふと思いつつ、着替え中の自身を鏡に映す。「中身、男のままだったらまずかったなぁ、これ」 そう言って、肌着越しに自分の胸に手をやる。 佐伯 良太としての率直な感想は、でかい。町でも上の方の大きさである。 おかげで町の男共の視線を集めるし、コルセットやら何やらは息が詰まる。 自分が女性であるという自覚があるからまだよかったが、着替える度に毎度ガチガチに抑え込むのは苦痛だった。 また、身長もかつての良太に比べれば低いとはいえ、女性としては高い方だろう。 東洋人では考えられない脚の長さについては、初めて気づいたときに感動してしまったほどだ。 とはいえ、男の頃の生活を思い出すと、今の身だしなみに気を遣わなければいけない生活は窮屈で仕方がない。 髪は伸ばした方が似合うと母に言われ、現在は長い髪を腰の上あたりで切りそろえている。 これを毎度キャップが収まるようまとめるのが、とにかく面倒なのだ。 大体これでは伸ばした意味があるのかと、アデーレとしては常日頃疑問に思っていた。「アデーレ、ちょっと来てくれないかしらー?」 扉越しに聞こえる母の声。 さすがに下着姿のまま自室を出る訳にもいかない。「ちょっと待っててー」 扉に向けて返事をするアデーレ。 そのまま周囲の衣服を手に取り、手早く朝の着替えを済ませるのだった。 ◇ 十六歳になったアデーレの仕事は、主に農作業の手伝いだ。 サウダーテ家の農場は港町
石灰の塗られた白い建物が並ぶ、石畳の大通り。 道の両側には店舗が並び、軒先に日よけを張り、野菜や日用雑貨が陳列されている。 路肩に積まれた木箱や樽。道行く人々。 日常の雑多な風景の中に、人々が取り巻く生活空間が生まれていた。 その中心にいるのは、眉を吊り上げ腕を組む、いかにも不機嫌そうな金髪の少女だ。 周囲の人々が着るくたびれた服とは違う、フリルをこしらえたピンク色のドレスは、彼女が高貴な家柄の人物であることを物語っている。 さて、そんな少女の前には、十代後半と思われる少女が膝立ちになり、何かを懇願している様子だった。 彼女の姿は黒いワンピースにエプロンドレス。白いキャップを被った明るい茶髪。 おそらくは、目の前の少女の家に仕える使用人だろう。「私のやることにケチ付けるとか、メイドのくせにっ」「で、ですが奥様からの言いつけですので、どうか」「いーやーだー!」 懇願する使用人に対し、お嬢様は耳を押さえてそっぽを向く。 状況の分からないアデーレだったが、それだけでお嬢様がわがままを通そうとしていることは分かる。 外見からして、彼女はまだ十歳に満たないくらいの子供だろう。 そうなれば、きっとアデーレと同じぐらいの年齢だ。 ただしこちらの精神面は二十歳過ぎの男でもある。 わがままを通そうとするお嬢様の姿に、内心呆れていた。「ありゃあ、バルダート様んトコの娘さんか?」「まーたお嬢様の癇癪かぁ」
最初に感じたのは、吹き抜ける潮風だった。 鼻をくすぐる海の匂い。全身を包む柔らかな感触。 とても穏やかに、体が揺れる。 (……あれ?) それは、あまりにもおかしな感覚だった。 違和感が脳内を駆け巡り、急ぎ周囲を確認するため目を開けてみる。 眩しさに目を細めた後、目の前に広がっていたのは楽園を思わせる美しい海。 海底の砂が見えるほどの透明度と、青と緑の混じるエメラルドグリーン。 そんな海を見渡せる白い砂浜の上に、脚を伸ばして座っていた。 しかし、その脚は小さく細く色白で全く見慣れないものだった。 手に付いた砂を払おうと、視線を下に移す。 ……見慣れない服。髪も長くて鬱陶しさを覚える。 手のひらは小さく、これまでのトレーニングのおかげでごつくなった手ではない。 砂浜の白に負けないほどに美しい、色白でほっそりとした子供の手だ。 更に視線を落とせば、多少だが胸に膨らみがあるように見受けられる。 (何だ? 何が起きてる?) ゆっくりと、裸足のまま砂浜に立つ。 青い海、白い砂浜。遠くには白い岩の岬が海に向かって伸びる。 そして今になって気づく。【彼は】自分がズボンをはいていないことに。 着ている服は、男からすれば馴染みのないベージュのワンピースというもの