礼都の指が、わずかに止まった。目の前にある小さな鏡越しに、千暁を見る。千暁は腕を組み、片手で顎を撫でながら礼都をじっと見つめていた。「彼女は人妻だ。まさか、不倫相手になるつもり?」礼都は相手にしなかった。それでも千暁は引き下がらず、核心を突くように続ける。「仮に彼女が離婚しても、あんたたちが一緒になるのは無理だ。彼女の最初の夫が誰だったか、忘れたのか?稜平さんから後を託された事情があったにせよ、二人が婚姻届を出し、法律上の夫婦だったことに変わりはない。名目上とはいえ、自分の義姉だった女性と付き合えば、世間からどれほど非難されるか......それ以前に、土岐家の先代当主があんたを斬りかねないぞ」礼都は千暁へ冷ややかな視線を向け、薄い唇を動かした。「考えすぎだ」千暁は意味ありげに言った。「本当にそうだといいが」礼都は長い脚で大股に歩き、食堂へ入っていった。千暁も余裕のある足取りで、そのあとに続いた。夕食後、子どもたちは中庭で遊び始めた。望も参加したくて仕方がない様子だった。帰ろうと言いかけた梨沙だったが、楽しみにしている望を拒むことができず、あと30分だけ遊ばせることにした。望が子どもたちの輪に溶け込んでいく姿を見て、梨沙の口元に笑みが浮かぶ。そのとき、スマホが振動した。発信者を確認した梨沙は、スマホを手に少し離れた場所へ移動した。美琴からの電話だった。美琴は興奮した様子で話し始める。「明里の両親、あの子が派手な暮らしぶりをSNSに載せていたのを見て、ものすごく怒ったらしいよ。今日の午後、都北に行くって。もうすぐそっちへ着くと思う。身内同士で潰し合うところを、忘れずに動画に撮って送ってね。もう楽しみで仕方ないんだから」梨沙の父親は3人きょうだいだった。そのため梨沙には、父方の叔母と叔父が一人ずついる。美琴は、その叔母の娘にあたる従姉だった。一方、叔父はというと......かつて繁雄が亡くなったあと、叔父は梨沙と琉生を芳江の家の前へ置き去りにし、あとは勝手に生きていかせればいいと言い出した。千鶴がその提案を拒むと、叔父夫婦は腹を立て、千鶴と絶縁して町を離れた。その後、千鶴は一人で3人の子どもを育て上げた。幸い、叔母夫婦は心の優しい人たちで、たびた
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