方言的・横断的な観察からさらに一歩踏み込むと、似た機能を果たす語が各言語にあることが目に入る。僕は英語での'all the more'やフランス語の'd'autant plus'などと感覚的に比較することが多いが、重要なのは'ひとしお'が日本語固有の歴史を経て独自の語感を獲得している点だ。平安期の仮名表記や中世の語用実践があって、近代の表記統一を経て今日の語感に落ち着いたと僕は考えている。
翻訳の現場で培った勘を頼りに書くと、まず『ひとしお』は「量や程度が普段より増す」というニュアンスを持つことが多いと受け取ります。だから英語ではコンテクストに応じて複数の表現を使い分けるのが普通で、代表的なのは 'all the more' や 'even more'、場合によっては 'particularly' や 'especially' です。
私がよく選ぶのは状況と感情の度合いを照らし合わせる方法で、感動や驚き、悲しみといった情緒の強調には 'all the more' が自然に響きます(例:彼の言葉でひとしお心が動いた → His words moved me all the more)。一方、事実や特性を際立たせたいときは 'particularly' や 'especially'(例:この点がひとしお重要だ → This point is particularly important)を使うことが多いです。
語順や強調の仕方によっては 'more than usual'、'to a greater extent' などが合うケースもあるため、直訳よりも文脈に寄せた選択を心がけています。訳語は一語に決めつけず、文全体のトーンを見て最も自然に聞こえる表現を選ぶのがコツです。