風雨に別れを告げ、花の季節を迎える
彼氏と一緒にウェディングドレスの試着に来て、ちょうど会計しようとしたそのとき、手にしていたドレスをいきなり別の女にひったくられた。
「ごめんなさいね、これ、私が先に目をつけてたの!」
私は眉をひそめた。すると友人がふいに私の肩を叩き、小声で言った。
「大丈夫、彼氏に言ってもらいなよ。そのドレス、新作が出たときにもう予約してたんでしょ。絶対、あんたのために取っておいたんだって」
私は反射的に森田和真(もりた かずま)へ視線を向けた。案の定、彼は前へ歩み出た。
けれど――彼がしたのは、女の腕からずり落ちた裾を、何気なく整えてやることだった。
「向こうが先に気に入ってたなら、仕方ないだろ」
彼は私の頬をつまんで、優しく、それでいてどこか軽い調子で笑った。
「うちの咲良ちゃんはいちばん聞き分けがいいもんな。どうせこの一着じゃなきゃ駄目ってわけでもないだろ?」
私は、その女の得意げで勝ち誇ったような顔を、ただぼんやりと見つめていた。
何も答えなかった。
ただ、気まずそうな顔をしている友人に向かって、小さく笑ってみせた。
「大丈夫。このドレスは、もういらない」
ウェディングドレスなんて、別にこの一着じゃなきゃいけないわけじゃない。
結婚する相手だって同じだ。
和真でなければ駄目というわけでも、もうなかった。