沈黙の底に、あなたを忘れていく
情事を終えた後、神宮寺景(じんぐうじ けい)は満足げに立ち上がり、力が抜けてぐったりとした神崎佳奈(かんざき かな)を優しく抱き上げて浴室へと運び、体を丁寧に洗ってあげた。そして再び彼女をベッドに戻し、そっと寝かせた。
いつもなら、この時間には佳奈はもう目を閉じて眠っているはずだった。
でも今夜は違う。景のために心を込めて用意した誕生日プレゼントを、まだ渡していなかったのだ。
景がバルコニーで電話をしている間、佳奈はこっそりと隠しておいたプレゼント場所からプレゼントをそっと取り出した。
赤いベルベットの小さな四角い箱。その中には、彼女がプロポーズに使おうと準備していた指輪が入っている。
彼女は一歩ずつバルコニーへと歩み寄り、声をかけようとしたその時、突然そこで固まった。
テーブルに無造作に置かれた景のスマホから、驚愕した男の声が響いた。
「マジかよ!景、正気か!佳奈の心臓を詩織に移植するつもりなのか?」