あのパーティーで、夫は女子学生を愛人にした
大手財閥・橘グループの忘年会の最中、一人の女子学生が会場の中心に立ち、橘玲央(たちばな れお)に向かって突然こう言った。
「私をあなたの愛人にしてください」
いつも冷静沈着で感情を表に出さない玲央が、珍しく表情を凍らせた。
その少女の顔は、数年前に亡くなった彼の初恋、そして今も心に棲みついて離れない女性――梅原みゆき(うめはら みゆき)に、あまりにも似ていたのだ。
玲央は皮肉めいた笑みを浮かべると、低く呟いた。
「僕の奥さんの前で、愛人にしろって言うのか?追い出されるのがオチだぞ」
だが、少女は一歩も引かなかった。彼の初恋を彷彿とさせるまっすぐな瞳で彼を見据え、首を少しだけ傾ける。
「その奥さんって、ただのおまけみたいな人でしょ?あなたの意思を左右できるような立場じゃない。玲央さん、私の母を助けられるのはあなただけ。だから愛人になるから、母さんを助けて!」
その通りだ。ただの取引材料にすぎない私は、玲央の意思を左右できるわけがない。
玲央が彼女に向ける、私が見たことのない柔らかなまなざしを目にして、私はふんと鼻を鳴らした。
負け犬のように追い出されるくらいなら、自分の意思で身を引こう。