Home / BL / ピロトークを聞きながら / ピロトーク:運命の出逢い4

Share

ピロトーク:運命の出逢い4

Author: 相沢蒼依
last update Last Updated: 2025-07-02 21:36:31

 いつものように背中を丸めて、自宅傍にある児童公園へ向かった。目に映る青空が眩しく映る。午後3時過ぎという時間帯なれど、公園で遊ぶ子どもたちはまったくいなくて、誰も遊んでいない遊具が寂しそうに見えてしまった。

 それは今の僕の心情にとても近しい。

「はぁ……桃瀬さんに、気を遣わせてばっかりだよ」  

 ジュエリーノベルのコンテストの締め切りは、もう一ヶ月を切ってる。作品の大幅な書き直しに頭を抱えてるけど、それ以上に―― 。

『こんな汚ねえとこじゃ、お前を抱く気にもなれねえからだ。つべこべ言わずに、とっとと行け!』  

 桃瀬さんの本音が、胸にぐさっと刺さったまま抜けない。僕の過去を知ってるからこそ、大事にしてくれてるのは、痛いほどわかる。でも腫れ物に触るみたいなこの距離感が、すっごくもどかしい。もっと近くにいたいのに。もっと触れてほしいのに。 

 

「いっそのこと、僕から桃瀬さんを押し倒しちゃうとか? って、絶対無理無理!」

  

 そんなことばっかり考えてしまうせいで、原稿の修正がまるで進まない。公園のベンチに腰を下ろし、ため息ばかり吐いてる。  

 そうこうしてる内に、無駄に時間だけが過ぎていった。頭の中は桃瀬さんのあの真剣な目と、病室で垣間見たちょっと意地悪な笑顔でいっぱいだった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • ピロトークを聞きながら   ピロトーク:久しぶりに重なる肌

    「あー……いつの間にか、寝ちゃってたのか」 左手は涼一が握りしめて幸せそうな顔で寝ていたので、右手で枕元に置いてある時計を引き寄せる。(――午後4時過ぎ、か。普段の疲れもあっただろうが、久しぶりに肌を重ねることができたゆえに、無駄に頑張ってしまった……)「なんてったって浮気してないって証拠を、これでもかと見せつけなきゃならなかったもんな」 枕元に時計を戻し布団に入り直すと、涼一が肩口に頬をすりりと寄せてくる。「んっ…郁也さん、大好き……」 ほかにも何かブツブツ呟いて、微笑みながら眠り続ける涼一が可愛らしくて仕方ない。「寝ながら、俺を翻弄するんじゃねぇよ、まったく……」 涼一から発せられる愛の言葉に相変わらずテレてしまい、頬が赤くなってしまう自分。いつになったら、これに慣れるんだろうか。 普段は冷たいクセに無防備でいる俺に対して、涼一は絶妙なタイミングで投げつけてくる言葉の数々――。「そのたびに赤面して、どう返していいかわからなくなっちまうんだよな……」 いや……感謝の言葉や愛の言葉を、素直に言ってやればいいだけなのだが。気の利いた言葉を言ってる自分を、もうひとりの自分が見ていて、なにをカッコつけてるんだ! なぁんて批判するから、余計に言えなくなる。「バカみたいだ、ホント……」 「誰がバカだって?」 その声に驚き横を見ると寝ぼけ眼の涼一が、俺の顔をじっと見ているではないか。「!!」 「僕の悪口、言ってたんでしょ。昼間っからあんなCD、大音量で流しやがってって」(これって、寝ぼけているんだろうか? それとも文句が言いたくて、ケンカをわざわざ吹っかけてきているのか?) コイツのツンデレ補正は、相変わらず見極められないな。「涼一のことじゃない、俺自身のことだって」 「郁也さんのどこが、バカなのさ?」 責めるような口調なのに、相変わらず眠そうな表情を崩さない。 ――やっぱ寝ぼけてる?「俺はもっとお前に思ってることを、積極的に言ったほうがいいのかなと思ったんだ。どんな言葉を言ってほしい、涼一?」 「さっき聴いてた、ドラマCDみたいなヤツ」 「ぶっ!?」 いきなりの即答に、投げられる難題! ちなみに聴いていたエロCDのピロトークは、もっと内容が甘いもので、二回戦ヤっちゃうぞって感じだったような――?「ヤることヤってるのに

  • ピロトークを聞きながら   ピロトーク:厳かなブランチの僕と俺3

    「郁也さん、出かけるってどこに行くの?」  不思議そうな涼一の口の端を、ペロリと舐めてやった。「ちょ!? 」 「子どもじゃねえってのに、ケチャップつけっぱなし」 「だからって、いきなり舐めるなんて!」 「わざとだろ」  そう断言すると、涼一は頬を赤く染めて「違う!」と唇を尖らせる。 「わざとエロいCDを聴かせて、俺を煽ったり」 「それは偶然だよ!煽るためじゃないし……」 「今もそんな顔で煽ってるし」  赤らんだ頬、伏せた睫。見てるだけで衝動が抑えきれねえ。  細い肩を抱き寄せ、首筋に舌を這わせる。 「……んん、いきなり…うっ」 「声、出すなよ。外に漏れるぞ」 「だって郁也さんが……腰、そんなふうに押し付けてくるから」  涼一は嫌がりながらも、体を預けてくる。「じゃあ、どこならヤっていい? ん?」  耳元で囁くと俺を突き飛ばし、左手をぎゅっと握ってくる。睨んでも赤い顔だから、怒りが半減されてしまった。「ホント、郁也さんってば意地悪ばっかり言ってさ!」  悔しそうに吐き捨てながら、グイグイ寝室まで引っ張ってくる。耳まで赤い涼一、可愛すぎる。さて、このあとはどうしてやろうか。「腹がいっぱいになったら、次は昼寝か?」  ニヤニヤして指摘してやったら、涼一は目を見開き、口を真一文字にする。握ってた手首を投げるように手放した。 (コイツ、いつも俺の予想を裏切るからドキドキする。さすが恋愛小説家、読者と同じく翻弄されてしまうだろ) 俺から身を翻し、ベッドに飛び込む涼一。布団の中でゴソゴソ蠢く姿が目に留まる。「うわっ!」  涼一が着ていたTシャツが、いきなり顔に飛んできた。(ほほぅ、やる気満々じゃねえか!)  布団の中に入って見えないだろうが、次を寄こせというジェスチャーをすべく、人差し指をクイクイ動かす。(ほらほら、次は脱がねえのかよ?) ちゃっかり布団の隙間から、俺の様子を見ていたらしい。 「う~」 可愛らしく唸りながら、ふたたび布団の中がモソモソ動く。その数秒後、ジーパンが飛んできた。それをタイミングよくキャッチして足元に放り、また人差し指を動かして、次を要求する。「な!?」 「まだ脱いでねえだろ? それとも……」  ベッドに近づき、布団の隙間から見える涼一の顔を覗く。

  • ピロトークを聞きながら   ピロトーク:厳かなブランチの僕と俺2

    「涼一、ちょっとがっつきすぎだ。喉を詰まらせたらどうする?」 (こうして俺が作ったものを、いつも美味そうに食べてくれて嬉しいけどな……) 「あ、うん。でも……仕事の話の邪魔になるんじゃないかと思って」  目の前でナポリタンを頬張りつつ、チラチラ鳴海の顔色を窺う。(――そうか、涼一なりに気遣ってたのか) 「悪いが鳴海は客じゃねえ。手土産も持ってこないヤツの面倒は、俺は見ねえよ」 (しかもコイツは、いい場面を見事にぶち壊しやがったからな!) 「桃瀬先輩、そんな冷たくしないで! お願い! 企画書を見てくださいって!」 「見てあげたら? 困ってるのに」  涼一が助け舟を出したことに、俺の機嫌がめっちゃ悪くなった。「さすがは人気作家の小田桐センセ! すげぇ優しい!」 「いや、別に。郁也さんがせっかく早上がりしたのに、遠慮なく押しかけてくるのどうかなって」  レタスをバリバリ食いながら、ぽつり呟く。事実を突きつけられた鳴海は、思いっきり固まった。 「ぷっ! やられたな鳴海。手土産なしだとこうなるんだぞ」 (――やっぱり涼一は優しいな。俺のことをちゃんと気遣ってくれてる) 「キレイな顔してズバッと言うんすね。俺、帰った方がいいっすか?」  苦笑いする鳴海の目の前に、そっと右手を差し出した。「とりあえず、三木編集長に出す前に見せてほしいんだろ。褒めねえから覚悟しろ」「ありがとうございます! 編集長のツッコミ、実はすごく苦手で……」「あー、まあな。でも間違ったツッコミはしねえし、指示は的確だろ」  三木編集長。専務のコネでジュエリーノベルに引っ張られて来た逸材。編集部に顔を出し、現在刊行している雑誌を手早く読んで、バッサリ言いやがった。『こんなつまらん雑誌、誰も手に取らんわ!』  そして連載をフェードアウトさせ、作家と編集を洗い直し。なぜか営業の俺に声がかかった。『こういうのはな、作家が仕事したくなる面構えじゃなきゃダメだ』  そう言い放った三木編集長の言葉を聞いて周りを見ると、確かに男女とも見た目がグレードアップしていた。くたびれたオッサンズは、どこへ飛ばされたのか……。 『俺はジュエリーノベルのジュエリーを研磨しに来た。君たちもガッツリ研磨するぞ!』  メガネを上げてギロリと睨む目が、めっちゃ怖えのな

  • ピロトークを聞きながら   ピロトーク:厳かなブランチの僕と俺

    「すみませーん。すぐそこの作家さんのお宅に行って、思い出したんです。桃瀬先輩の家、ここら辺だったなって」 (へぇ、なるほど。これって絶対わざとでしょ!) 郁也さんは仕事ができるし、見た目もカッコいいし、面倒見だっていい。僕と違って愛想もいいから、誰にでも好かれる。「初めまして、小田桐センセ。俺、桃瀬先輩の同僚で、鳴海マサヤっす」 「ナルミ・マサヤさんね。どうも」 ノートパソコンの前で頬杖ついて、棒読みで返す。(――もう、いいとこだったのに!)  郁也さんが触れた肌がまだ熱くて、切なさが止まらない。その気持ち、きっと顔に出てると思う。 そんな僕をじっと見つめる鳴海さん。 「鳴海、そこら辺に座って待ってろ。涼一に、メシ作ってやらねえといけないんだ」 微妙な空気を無視して、郁也さんがキッチンに行ってしまった。 (困った……知らない人と一緒は、かなり苦痛だ。部屋に逃げるのも失礼だし、郁也さんの同僚なんだから、ちゃんとしないといけないよね) 「小田桐センセ、めっちゃ美人ですね」「は?」 「いや、男性に美人は変か。ビジュアル系バンドのボーカルみたいな、キレイな顔立ちっすね」 (――なんだよその表現!)  眉間にシワ寄せて不快感を表してやった。女々しい見た目が、すっごく嫌なのに。わざとイラつかせる気なんだろうか? 「桃瀬先輩、なんでサイン会断ったんすか? センセのビジュアルなら、大好評間違いなしなのに」  僕の不機嫌な表情をスルーして、鳴海さんがキッチンに移動した。そのことに、ほっとため息をついたら、楽しそうな声が聞こえてきて、余計にイラつく。 「見てわかるだろ、涼一は人見知りだ。誤解を招くから断ったんだ」 「勿体ないっ! ジュエリーノベルの人気作家がこんなにイケメンなら、間違いなく女性読者が飛びつくのに」「だから読者アンケートの抽選で、直筆サインの企画を立てただろ。今、執筆しながらサイン練習中だ」(ふん! 執筆もサイン練習も全然してないもんね!)  心でベロを出しつつ、キッチンの二人をチラ見する。仕事中、こんな感じで喋ってんだ。郁也さんって……。 普段なされる会話と比べて、じわっと寂しさが湧く。 結局僕は仕事相手、編集者からみるとただの商品になる。お金を生む存在に心をかける必要なんて、最低限でいいん

  • ピロトークを聞きながら   ピロトーク:不満満載なボク2

    (――マジでムカつくなぁ、もう!) イライラを消化すべく右手親指の爪を噛み噛みし、ノートパソコンの画面に向き直った。「なぁこのBGM、昼間っからなにエロい話を、大音量で流してるんだ?」「ぜんっぜん、エロくないし! むしろ聴いてて、仕事がばりばり捗っちゃうんですけど」 郁也さんは呆れた声で言いながら、着ていた上着をハンガーにかけていく。横目に映るそれを見ながら、同じように呆れた声で返してやった。「あっそ。それは良かったな」 良かったなと言いつつ、口調は全然良さそうじゃない。 口を尖らせる僕を尻目に、袖をぐるぐるとめくって、ネクタイをワイシャツのボタンとボタンの間にねじ込むと、ため息ひとつついて台所に立った郁也さん。「どーせメシ食ってないんだろ。今から作ってやる。ちょっと待ってろ」 いきなりの餌付け宣言――恋人ならまずは、ただいまのちゅーをしたり、抱きしめあったりするんじゃないの。 付き合って、半年以上経ってる僕たち。初々しい気持ちは、どこへやら。なのかな……。『なぁ、キスしてって言ってみ?』 空気を読むのが無理なハズなのに、スピーカーから僕の望むセリフが艶っぽい声で流れる。「涼一、悪いけどそのBGM、ちょっとだけボリューム落としてくれないか? 気になって、包丁の手元が危うくなる」「いやだね。今ちょうどいい、イメージが沸いてきてるんだ。邪魔しないでよ」 とは言ったものの――パソコンの画面は相変わらず某サイトを表示したままで、執筆する気配がないのは、手に取るようにわかるだろうな。 微妙な雰囲気の中、男の甘いため息とリップ音が、室内響きまくった。ドラマの展開的には、もういいコトをヤりまくってますって感じ。『……んっ、はぁはぁ……俺の声が、傍で聴きたいって?』 大音量で聴いているのに、耳元で囁かれるような、切ない声が特大音で流れる。すっごく手が込んでるんだな、思わずドキドキしちゃった。(――だけどドキドキするなら、郁也さんの声でしたいのに)「やっぱ、ダメ。昼間からこんなエロいの聴いてたら、頭が変になる」 よく言うよ。昼だろうが夜だろうが、以前なら関係なく襲ってきたくせに! 郁也さんは僕の傍を足早に通り過ぎ、オーディオの電源をご丁寧にブチ切った。「もぅ、なにやって――」 くれちゃうんだよと文句を言おうとしたけど、それ以上言葉が出

  • ピロトークを聞きながら   ピロトーク:不満満載なボク

     先日いろいろあって落ち込んでいる僕の元に、友人が元気になりますようにと、たくさんのCDを送ってきてくれた。その中の一枚――。「なになにー? 腕枕されながら耳元で甘く囁かれる、ピロトークをどうぞ?」 プレゼントされたCDは、なにかのドラマ仕立てのものらしい、略して腕ピロトーク。(……っていうか、最近は腕枕どころか一緒に寝た記憶が、遥か彼方の記憶なんですが) 僕は恋愛小説家、相手は編集者の関係なので、日々すれ違うことが多い。まぁこの仕事をしてたから、偶然巡り会えたっていうのもあるんだけど――。 付き合った当初は敬語で喋っていたのを、もっと距離を縮めるべく、ため口で話しかけてみたりと、自分なりに努力をした。ラブラブなふたり暮らしの、甘い生活を夢見ていたのに。 これまでのことを考えつつ、送られてきたCDの取説をぼんやりと眺めた。恋愛に苦労している、僕を労ってくれた友人のチョイスに、苦笑いを浮かべてしまった。「ヘッドホン推奨って、ここにはないし。そもそも僕ひとりだけなんだから、必要ないっと♪」 鼻歌混じりに、オーディオへCDをセットする。他の雑音が気にならないように、いつも音楽をかけながら執筆作業をしているんだけど、面白そうなCDだったので、大音量でかけてみた。(ここには誰もいないんだし、映画鑑賞だと思って聴けばいいや!) そしてノートパソコンの前に座り、ネットサーフィン。執筆の意欲が上がるまで、だらだら過ごす。言わば、アイドリング状態と表現しておこうか。 某サイトにアクセスしたとき、スピーカーから魅惑的な艶のある男性の声が響いた。どこかで恋人同士が仲良くデートしているらしく、彼が楽しそうに恋人へ話しかけていく。 ――さすがは声優、演技が上手いなぁ―― 音声はカレシのみで、恋人の声は一切なし。なので一人芝居なのである。声色ひとつで、その場の雰囲気を上手に作っていく演技に、すっごく感心した。「う~ん。僕も同じように、文章でソレを表現しなきゃいけないんだもんなぁ。てか郁也さんとデートしたのって、いつだっけ?」 一緒に暮らす前は気分転換だと、僕をよく外へと連れ出してくれた。今は連れ出してくれるどころか、かごの中の鳥になっている。そんな生活のつまらなさを、みずから再確認してしまい、深いため息をついたとき。『なぁ、ちょっと休憩してく?』 なぁんて甘

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status