花紋の少年と魔法図書館

花紋の少年と魔法図書館

last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-08-12
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ภาษา: Japanese
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この世界の魔法は、本に記された“言葉”を読むことで発動する。 同じ詩でも、読む者の感情や記憶によって、まったく異なる魔法が咲く。 中でも“花紋”を持つ者は、書かれていない言葉すら咲かせる特別な存在――。 幼き日の魔法事故で親友を喪った少年・ユウリは、ただ一つの願いを胸に旅に出る。 「もしどこかに、“言葉で死をほどく魔法”があるなら——」 たった一人の親友が残した“読めなかった言葉”を、もう一度届けるために。 伝えられなかった想い。咲かなかった詩。 その全てを抱えて、少年は“読む”旅を始める。 魔法と言葉が織りなす、やさしくも苛烈な異世界ファンタジー──。

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บทที่ 1

咲かない言葉

朝の光が、町の広場をやわらかく照らしていた。

土で舗装された訓練場では、数人の少年少女が輪を作り、それぞれ手元の魔導書を読み上げている。

「花が開け、風が流れよ——《風舞の一節》!」

少女の声が響くと同時に、風の花弁がくるりと舞い上がり、目の前の的をそっと撫でた。

周囲から歓声が上がる。彼女は恥ずかしそうに笑いながら本を閉じた。

その光景の少し外れで、一人の少年が立っていた。

ユウリ。優しい金の髪と、少し気弱そうな目元。魔導書を胸に抱え、目を閉じる。

深く息を吸って——声を発した。

「炎よ、目覚めて……」

「……」

魔導書は何も反応しない。ページが風にめくられるだけ。魔法の兆しは、一片もなかった。

しばし沈黙。やがて、近くにいた教官の男が眉をひそめて歩み寄ってくる。

「またか。ユウリ、お前、読むときの“解釈”が甘すぎるんだよ」

「……はい」

「ただ読んだって魔法は出ねえ。“感じる”んだ、言葉を。魔導書は機械じゃない」

ユウリはただ、小さくうなずいた。

——わかってる。そんなことは、何度も言われてきた。

彼の手の中にあるのは、古びた魔導書だった。他の子たちのように学校で与えられた本ではない。

数年前、魔法事故で命を落とした親友が残した、世界に一冊だけの魔導書。

ページの端は焦げ、ところどころ文字がにじんで読めない。

それでもユウリは、この本だけは手放せなかった。

「……また、咲かなかったな」

小さく呟いた声は、誰の耳にも届かなかった。

少年の周囲では今日も、魔法の花が軽やかに咲き誇っていた。

夜の静けさが広がる部屋の隅、ユウリは一人、灯の消えた魔導書を膝に置いていた。

ページを指でなぞる。焼け焦げた跡の先には、もう読めなくなった詩文の断片だけが残っていた。

「……これ、何て書いてあったっけな」

問いかけは、当然誰にも返されない。けれどユウリの脳裏には、あの日の光景がはっきりと浮かんでいた。

あいつは笑っていた。

魔法の訓練中、みんなの前で堂々と詩を読み上げ、綺麗に咲かせた花を見て、「どうだ」と胸を張っていた。

ユウリは、そんな親友の背を少しだけ羨ましく思いながら、心から尊敬していた。

でも、それは一瞬で終わった。

読み間違い。魔導書の暴走。封印魔法の不発。

真っ白な花が咲いた瞬間、それは爆ぜた。誰も対処できなかった。

ユウリは、ただその場に立ち尽くしていた。何もできなかった。ただ、声をかけることすらできなかった。

「こわくて……動けなかったんだ、あのとき……」

震える声で呟くと、喉の奥が痛くなった。情けないほどに、今も昨日のことのように思い出せる。

思い出の中で、親友は最期に言っていた。

「なあユウリ。魔法図書館って知ってるか?世界に一冊、“死をほどく言葉”があるかもしれないってさ」

それは冗談だったのか、本気だったのかもわからない。

けれど、ユウリの胸にはずっと残っていた。

「死をほどく魔法……そんなもん、本当にあるわけ……」

それでも、言葉はあった。

“言えなかった”自分と、“届かなかった”想いの中に。

彼は本をそっと閉じ、目を伏せた。咲かなかった花のように。

でも、まだ手は離さなかった。あの日からずっと、ただの一度も。

その日は、静かに始まった。朝の空気に混じって、どこか遠くで鐘の音が鳴っていた。

ユウリは市場の外れ、荷運びの手伝いをしていた。咲かない魔法でも、肉体労働はできる。

魔導書を胸に抱えたまま、荷台を引いていたときだった。

空が、一瞬だけ赤く染まった。

次の瞬間、広場の方向から地鳴りのような音が響く。誰かの悲鳴が、風を裂いた。

「魔法の暴走だ!!」

叫び声に背を向けて人々が逃げていく。その群れに逆らうように、ユウリは走った。

本能だった。考えるより先に足が動いた。

広場に辿り着いたとき、そこは火の海だった。

魔導書を読み間違えたのか、詩蝕寸前の暴走魔法が、周囲の建物を焼いていた。

中心には、幼い女の子が一人。泣きながら動けずにいた。

「くそっ……!」

ユウリは咄嗟に駆け寄る。魔法は止まらない。誰も咲かせる言葉を持たず、近づこうともしなかった。

でも、彼には——あの日から、ずっと胸に残っていた言葉があった。

炎の壁の前で、ユウリはボロボロの魔導書を開いた。

喉が焼けそうに乾いていた。でも、声を出した。

「……もし、どこかに“死をほどく魔法”があるなら」

「——今ここで咲いてくれ。……頼むから……!」

ページが震えた。風が巻いた。

ユウリの手の中で、本が光を放つ。

「《還雷の詩・未詩篇》……!」

その言葉と共に、空に花が咲いた。

雷の花。咆哮と共に放たれた一閃が、暴走魔法の中心を貫き、世界を浄化するかのように炎を消し去った。

広場が静寂に包まれた。

ユウリは、まだ咲いたばかりの花の残滓の中で、呆然と立ち尽くしていた。

静けさの中、光がゆっくりと消えていく。

その中心にいたユウリは、自分の手を見つめていた。

掌が、わずかに震えていた。けれど恐怖ではない。何かが、確かに変わった感触があった。

胸元が熱い。

シャツをずらすと、肌の上に淡く浮かぶ文様が見えた。

それは花のようであり、雷のようであり、けして誰かと同じ形ではない——

「……花紋……」

誰かの声が広場の片隅から漏れる。

次々に人が集まり、ユウリを取り囲む。視線の色が変わった。

「見たか、今の……」

「あれ、花紋じゃないか……?」

「まさか、こんな田舎に……」

ざわめきはすぐに、恐れと警戒に変わる。

花紋者。国家によっては“兵器”として徴用され、あるいは“禁忌”として排除される存在。

多くの者にとって、それは「関わってはいけないもの」だった。

「通報しろ。あれは“登録されてない”花紋者だ」

「本部に連絡を……!」

ユウリは一歩、後ずさった。

誰かを救ったはずなのに、向けられるのは称賛ではなかった。

それでも、花が咲いたのだ。彼自身の言葉で。

小さな手が、ユウリの袖を掴んだ。あの時、魔法の中に取り残されていた少女だった。

「……ありがとう、おにいちゃん」

その声に背を押されるように、ユウリは走り出した。

人々の視線を背に受けながら、魔導書を胸に抱きしめる。

もう、ここにはいられない。

でも、もう逃げるだけの自分ではない。

親友が遺した言葉が、再び頭をよぎる。

“魔法図書館には、“死をほどく言葉”があるかもしれない”

だったら探す。

もし、どこかにそんな詩があるなら——

「今度こそ、咲かせてみせる。あの時、伝えられなかった言葉を」

夜の街を抜けて、ユウリは旅に出た。

魔導書を抱きしめ、まだ咲かぬ言葉を胸に抱いて。

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朝の光が、町の広場をやわらかく照らしていた。土で舗装された訓練場では、数人の少年少女が輪を作り、それぞれ手元の魔導書を読み上げている。「花が開け、風が流れよ——《風舞の一節》!」少女の声が響くと同時に、風の花弁がくるりと舞い上がり、目の前の的をそっと撫でた。周囲から歓声が上がる。彼女は恥ずかしそうに笑いながら本を閉じた。その光景の少し外れで、一人の少年が立っていた。ユウリ。優しい金の髪と、少し気弱そうな目元。魔導書を胸に抱え、目を閉じる。深く息を吸って——声を発した。「炎よ、目覚めて……」「……」魔導書は何も反応しない。ページが風にめくられるだけ。魔法の兆しは、一片もなかった。しばし沈黙。やがて、近くにいた教官の男が眉をひそめて歩み寄ってくる。「またか。ユウリ、お前、読むときの“解釈”が甘すぎるんだよ」「……はい」「ただ読んだって魔法は出ねえ。“感じる”んだ、言葉を。魔導書は機械じゃない」ユウリはただ、小さくうなずいた。——わかってる。そんなことは、何度も言われてきた。彼の手の中にあるのは、古びた魔導書だった。他の子たちのように学校で与えられた本ではない。数年前、魔法事故で命を落とした親友が残した、世界に一冊だけの魔導書。ページの端は焦げ、ところどころ文字がにじんで読めない。それでもユウリは、この本だけは手放せなかった。「……また、咲かなかったな」小さく呟いた声は、誰の耳にも届かなかった。少年の周囲では今日も、魔法の花が軽やかに咲き誇っていた。夜の静けさが広がる部屋の隅、ユウリは一人、灯の消えた魔導書を膝に置いていた。ページを指でなぞる。焼け焦げた跡の先には、もう読めなくなった詩文の断片だけが残っていた。「……これ、何て書いてあったっけな」問いかけは、当然誰にも返されない。けれどユウリの脳裏には、あの日の光景がはっきりと浮かんでいた。あいつは笑っていた。魔法の訓練中、みんなの前で堂々と詩を読み上げ、綺麗に咲かせた花を見て、「どうだ」と胸を張っていた。ユウリは、そんな親友の背を少しだけ羨ましく思いながら、心から尊敬していた。でも、それは一瞬で終わった。読み間違い。魔導書の暴走。封印魔法の不発。真っ白な花が咲いた瞬間、それは爆ぜた。誰も対処できなかった。ユウリは、ただその場に立ち尽くしていた。何もでき
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霧の深い山間を抜け、谷底へと続く崖道を降りた先。そこに、“それ”は眠っていた。断崖の地肌に埋もれるように作られた巨大な石の門。苔に覆われ、風化した魔導装置の名残だけが、その場の異質さを語っている。だが、ユウリたちの前に現れた門は、ただの遺跡ではなかった。「これが……分館……?」ユウリの声は自然と低くなる。トアの魔導書に導かれ、辿り着いた先。そこには確かに、かつて“魔法図書館の外縁”として存在した、封印された研究施設の痕跡があった。門の中央には、閉ざされた魔導書のレリーフがはめ込まれている。けれど表紙に記された文字は擦れており、かすかに浮かぶ花紋だけが光を湛えていた。「反応するのは……詩の刻まれた花紋だけ、かもしれない」セリアがそっとつぶやく。ユウリが言葉を返す前に、トアが一歩前へ出た。彼女の左手に刻まれた“壊れた花紋”が、光の揺らぎとともに脈動をはじめる。無言のまま、そっとその手を門へと伸ばす。ぴたり。指先が触れた瞬間、花紋の光が不安定に揺れた。門の魔力もまた、わずかに波打つ。だが、何も起こらなかった。風が止まり、鳥の声さえ遠のいた空間で、ただ、沈黙だけが残った。「……ダメか」ユウリがぼそりとつぶやく。トアは目を伏せ、小さく肩を落とした。彼女の花紋は、確かに反応を示した。けれど、“咲かなかった”。セリアが眉をひそめる。「……壊れた花紋では、鍵にならない。まだ早い、のかもしれない」ユウリが歩み寄り、トアの隣に立つ。自分の左手を見つめ、そっと力を込めると、花紋が光を放った。彼の花紋は、トアのように欠けてはいない。けれど、まだすべてが開いているわけでもない。未完成の光が、門へと向かって伸びていく。次の瞬間——重い石が軋むような音とともに、門が微かに震えた。魔導書のレリーフが割れるように左右へ開き、封印された空気が外へと流れ出す。「開いた……!」だが、扉の奥から流れ出てきたのは、古びた本の匂いではなかった。言葉にならない、沈黙の気配。空間そのものが“読むな”と警告しているような、異常な静寂だった。ユウリはごくりと喉を鳴らし、一歩、門の内へと足を踏み入れた。ユウリが門をくぐった瞬間、空気の質が変わった。それは温度でも湿度でもない。“読む”という行為そのものが、空間に拒絶されているような違和感。足を踏み出
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黒頁の牙
詩の獣は、音もなく空間を満たしていく。最初に感じたのは、言葉の匂いだった。古びた紙の香りではない。燃え残った詩文と、湿った墨の気配が混じり合い、嗅いだだけで胸の奥にざらつきが残るような、そんな気配。ユウリが一歩踏み出した瞬間、獣の体が揺れた。その皮膚にはびっしりと詩文が刻まれている。まるで、誰かが何百、何千という詩を“書き捨てていった”かのように。目も口も持たないその顔の中心には、黒い円——未詩の花が、開きかけたまま凍りついていた。「……あれが、“咲かなかった詩”の成れの果て」セリアが呆然とつぶやいた。それは魔法というより、呪いだった。魔導書の構造すら無視して咲き続ける、“読み手を持たなかった詩”。詩の獣は、腕のような触手を伸ばすと、空気にひとつの詩を放った。目に見える文字列が、空間に焼き付けられる。まるで天に浮かぶ黒い書。それを読んだ——いや、見ただけで、ユウリの頭が揺れた。「うっ……!」意味が、勝手に流れ込んでくる。言葉の意味、構文、詩の解釈。それらが一斉に脳へと押し寄せ、思考の回路を塗りつぶしていく。「読むな! 見るなユウリ!」セリアが叫んだ。だが、すでに視界には詩の痕跡が焼きついていた。“読む”ことが本能であるこの世界において、“読むな”という行為は、目を閉じても避けられない。次の瞬間、地面が裂けた。詩が“咲いた”。まるで爆発のように、花弁にも似た文字が空間に拡がる。壁を穿ち、空気を裂き、風を沈黙させる黒い花。ユウリが身を引こうとしたそのとき、トアが彼を抱き寄せて転倒した。直後、彼らの背後をかすめて、詩の花が咲き砕いた岩が吹き飛んだ。「……っ、ありがとう」「読むと、喰われる……わたし、あれ、知ってる」トアの声は震えていた。彼女の記憶に、あの獣が刻まれている。けれど思い出せない。過去が、読めない詩文のように心の奥に封じられている。「また、来た……」その言葉の意味を、ユウリはまだ知らなかった。詩の獣が咲かせるのは、言葉の罠だった。目に映るだけで、意味が流れ込んでくる。詠唱も、魔導構造も超えた、“読む”という衝動そのものに干渉する暴力。「意味が……脳に、勝手に……っ!」ユウリが額を押さえ、膝をついた。彼の魔導書がページを開いたまま震えている。そこに刻まれた詩文が、読み取れな
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言葉の残響
夜明け前、空がまだ青く眠っている頃。ユウリは目を覚ました。昨夜までの疲れが体に残っているはずなのに、不思議と意識は冴えていた。原因は、枕元に置いた小さな黒い紙片——分館で手に入れた黒頁の欠片だ。指先で触れる。ひやりとした感触のあと、視界の奥に一瞬だけ文字が浮かんだ。——“花は欠けても、咲く”短い詩の断片。意味をつかむ前に、その言葉は霧のように消える。「……なんだ、今の」呟いた瞬間、隣で眠っていたトアが身じろぎをした。そして——彼女の胸元に刻まれた花紋が、淡く光を帯びた。「……ユウリ?」まだ半分夢の中のような声。だが光は確かに、欠けた花弁の縁から脈動していた。その様子に気づいたセリアが、寝袋から顔を出す。「今、反応した……それ、黒頁に触れたときでしょ」ユウリはうなずく。「トアの花紋と繋がってるみたいだ」トアは不安そうに自分の胸元を押さえる。「痛くはないけど……あたたかい。呼ばれてる、みたい」光はまるで脈拍のように強弱を繰り返す。そして、ほんのわずかに方角を示すかのように揺れていた。「これは……導きだな」セリアは立ち上がり、周囲の地図を広げる。「でも反応が安定しない。このまま追っていいのかは……」「行くべきだ」ユウリは即答した。「これは偶然じゃない。何かに繋がってる」トアは短く息を吸い込み、ゆっくりとうなずいた。「なら……一緒に行く。怖いけど、知りたい」夜明けの光が地平から差し込み、黒頁の欠片に反射する。その輝きは、まるで次の物語の頁を開こうとしているようだった。黒頁の欠片が示す光の揺らぎを頼りに、三人は森を抜けた。朝靄の中、鳥の鳴き声が遠くで響く。しかし歩を進めるごとに、その音も少しずつ遠のいていく。代わりに耳に届き始めたのは——かすかな囁き。誰かがすぐそばで、本を読むような、淡い声。「……聞こえるか?」ユウリが振り返ると、トアもセリアも頷いた。「文字を読む音……でも、人じゃない」セリアは耳を澄ませたまま歩く速度を落とす。やがて木々が途切れ、目の前に荒れた丘陵地帯が広がった。大地はひび割れ、ところどころに灰色の花びらが積もっている。その花びらは乾いているのに、風が吹くたび微かに震え、何かをささやいているようだった。「……言葉の残響」セリアが低く呟く。「昔、誰かが読んだ詩が、
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沈黙を破る花
夜明けの光が、草原の端に淡く降りていた。谷を抜けた風はまだ冷たく、靴底に触れる土は、夜露をたっぷりと含んでいる。ユウリは歩きながら、胸の奥に沈む黒頁の欠片をそっと指先で確かめた。指に伝わるひやりとした感触は、ただの紙のはずなのに、時折脈を打つように微かに震えている。横を歩くセリアが、ちらと彼を見た。「……まだ反応してる?」「うん。谷で拾ったときより弱まってはいるけど、完全には消えてない」ユウリはそう答え、視線を前方に移す。遠く、朝靄の向こうに広がるのは、草原と岩場が混じった荒涼地帯。そこだけ色彩が抜けたように見え、風も乾いている。その中央、緩やかな丘が盛り上がり、その上に黒く細い影が二つ並んでいた。木か、岩か、それとも——。「“二つの影が交わる丘”……黒頁の詩が示したのは、あそこかもしれない」ユウリの言葉に、セリアが頷く。だがその瞬間、後方から小さな吐息が聞こえた。トアが立ち止まり、両手で耳を押さえている。「……ざわめき、が……聞こえる」掠れた声が、風に溶けた。ユウリも耳を澄ます。はじめは何もなかったが、やがて微かな低音が、地面を通して響いてくる。人の声とも、風音とも違う。——詩が眠りから身じろぎする音。「黙詩派の仕業かもしれない」セリアは険しい表情になり、魔導書を抱き直す。「このざわめき、聞き続けると“読む前に意味を奪われる”わ。以前、報告書で読んだことがある」ユウリは唇を噛んだ。前回の詩の獣戦で掴んだ手応え——読むよりも語ることで未詩に抗える感覚——が脳裏をよぎる。しかしセリアの警告は重い。「敵は学習してくる」。ならば、今度は語ることすら許さない仕掛けを持ってくるはずだ。丘の黒い影が、朝靄の中でゆっくりと形を変えていく。まるで、誰かがこちらを待っているかのように。その輪郭が重なった瞬間、ざわめきが一段と大きくなった。「行こう。ここで立ち止まっても、向こうから来る」ユウリは短く告げ、歩みを早めた。背後で、トアの欠けた花紋が淡く光を放ち、その光が丘の方向を指し示していた。丘の頂には、きっと新たな頁が待っている——だが同時に、言葉を奪う敵もまた、そこにいる。丘を登るにつれ、草の色は徐々に褪せ、足元の土は灰色を帯びていった。風は弱まり、代わりにあの低いざわめきが耳を侵食するように強まっていく。まるで地面その
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2025-08-09
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