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第2話「父のスマホに何がある?」

مؤلف: 団紡るう
last update تاريخ النشر: 2026-10-30 13:40:57

 翌日の夕食後、優香はリビングのソファでスマホを操作する父の光司を眺めていた。テレビではニュースが流れているが、光司は画面に目を向けていない。片手でスマホを持ち、何かを読んでは口元を緩めていた。

 まただ。

 昨日から気になっていた父の不自然な行動は今日も続いていた。食事中にも何度かスマホを確認し、通知が届くたびに画面へ目を落としていたのだ。以前からスマホを使ってはいたが、食卓に持ち込んでまで気にすることはなかった。

 光司は画面を指で操作し、しばらくすると小さく笑った。声を出すほどではない。それでも、普段はニュース番組を見ながら難しい顔をしている父を知っている優香には、十分すぎる変化だった。

「お父さん。何見てるの?」

 優香が声をかけると、光司の肩が跳ねた。スマホを伏せるように持ち替え、画面を消してしまう。

「何だよ。急に」

「いや、今笑ってたから。面白いものでも見てるのかなって」

「別に。何でもない」

 返事をしながら光司はスマホをズボンのポケットへしまった。動作が妙に速い。優香は父の顔とポケットを交互に見た。

「スマホで何か見てたんでしょ?」

「仕事の連絡だよ」

「仕事?」

「ああ。ちょっと確認してただけだ」

 光司はテレビへ顔を向けた。ちょうどニュースキャスターが経済の話題を取り上げている。父はその内容を聞いているふうだったが、ポケットの中でスマホが震えると一瞬だけ視線を落とした。

 優香は見逃さなかった。

「仕事の連絡って、今も来るんだ?」

「連絡くらい来るだろ。明日のこともあるしな」

「ふうん」

 優香はそれ以上追及せず、スマホを手に取って自分の画面を確認した。父が本当に仕事の連絡をしていたのなら、これ以上聞く理由はない。けれど、さっきの笑顔と慌てた反応がどうにも引っかかる。

 仕事の連絡を読んで、あんな顔をするだろうか。

 少なくとも優香は、父が仕事のメールを見て嬉しそうに笑うところなどほとんど見たことがなかった。むしろ面倒そうに眉を寄せ、必要な返信だけを済ませるのがいつもの姿だ。

 光司はテレビを見ながら、ポケットの上からスマホに触れた。通知を確かめたいのを我慢しているようにも見える。

 優香は口を開きかけたが、結局やめた。根拠が足りないまま問い詰めても、父は仕事の連絡だと繰り返すだけだろう。昨日の夕食での反応もそうだった。否定するほど不自然になるのなら、こちらが焦って質問を重ねる必要はない。

 まずは観察する。

 優香は頭の中でそう決めた。

 翌朝の朝食でも、光司はスマホを食卓の端に置いていた。祐実が味噌汁をよそっている間に画面を確認し、通知がないと分かると何事もなかったように箸を取る。だが、食事の途中で短い振動音が鳴ると、すぐにスマホへ手を伸ばした。

「食事中くらい後にしたら?」

 祐実が穏やかに注意すると、光司は手を止めた。

「ああ。悪い」

 スマホを置いたものの、数秒後にはまた画面へ目を向けている。祐実が不思議そうに夫を見たが、光司は気づかないふりをして味噌汁を飲んだ。

 優香は焼き魚を口に運びながら、父の様子を確かめた。

 通知が来た直後、光司は一瞬だけ画面を見ていた。そのときの表情は、昨日の夜と同じだった。嬉しさを隠そうとしているのに、口元がわずかに緩んでしまう。

 けれど、祐実がそばにいると気づいた途端、表情を引き締めてスマホを伏せた。

 優香は箸を動かしながら考えた。

 仕事の連絡なら、勤務時間中にも同じように反応するはずだ。少なくとも父は会社で働いている間にもスマホを確認する機会がある。ところが、家で見せる反応には何か特別なものがあった。

 とりわけ母が近くにいるときだ。

 優香は父のスマホを勝手に調べようとは思わなかった。家族であっても本人の持ち物を無断で見るのは違う。ましてや、まだ何かを隠していると決まったわけではない。

 ただ、普段と違う行動が続いているのなら、その変化を記録することはできる。

 その日の夜、優香は自室のノートを開いた。昨日書いた記録の下に新しい項目を作り、今日の出来事を整理する。

 夕食後。スマホを見て笑う。声をかけると画面を閉じる。仕事の連絡だと説明する。

 翌朝。食事中に通知を確認する。母に注意されても、すぐにまた画面を気にする。母が近くにいると表情を隠す。

 書き出してみると、単なるスマホの使いすぎでは説明しにくい点が目についた。光司はスマホそのものに夢中というより、届く何かを待っているように見える。

 優香はペンを止めた。

 誰かと連絡を取っているのだろうか。

 そう考えた途端、昨日の夕食で母を見つめていた父の顔が浮かんだ。祐実が笑えば光司も嬉しそうにする。母がそばにいるとスマホの扱いが変わり、画面を隠すような動作を見せる。

 もし、父が誰かと秘密のやり取りをしているのだとしたら。

 優香はその考えをノートには書かなかった。まだ推測にすぎない。仕事の連絡という説明が嘘だと断定できる材料もなかった。

 それでも、疑いは消えなかった。

 数日後の夕方、優香は夕食の支度をする祐実のそばで食器を並べていた。リビングでは光司がソファに座り、いつものようにスマホを操作している。画面を見た父がふっと笑った。

 優香の手が止まる。

 光司はすぐに顔を上げ、台所にいる祐実の姿を確かめた。母がこちらを見ていないと分かると、再びスマホへ目を落とす。指先が画面を動き、また口元が緩んだ。

 優香は食器を一枚ずつ置きながら、その様子を頭に刻んだ。

 今の反応も記録できる。けれど、それだけでは何も分からない。相手が誰なのか、何をやり取りしているのか。父が何をそんなに嬉しそうに読んでいるのかも、まだ見当がつかなかった。

「優香、お箸を出してくれる?」

 祐実の声に、優香は食器棚へ向き直った。

「はーい」

 返事をして箸を取り出す。食卓へ戻る途中でリビングに目をやると、光司はすでにスマホを伏せていた。何もなかったようにテレビを見ている。

 優香はその横顔を見つめたあと、何も聞かずに箸を並べた。

 父が何かを隠している可能性は高まっている。けれど、まだ決定的な手がかりはない。

 次に同じ反応を見せるのはいつだろう。

 夕食の準備を手伝いながら、父のスマホが再び震える瞬間を待っていた。

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  • 7×8 〜◯◯が好きすぎるおとこのはなし   第3話「お母さんも気づいていた」

    夕食の支度を手伝っていた優香は、母の祐実が何度も時計を気にしていることに気づいた。父の光司はまだ帰宅していない。いつもなら仕事が終われば決まった時間に帰ってくるため、特別遅いわけでもなかった。 祐実は味噌汁の火を弱めると、ふと手を止めた。「ねえ、優香。最近のお父さんってどう思う?」 思いがけない質問に優香は顔を上げた。「どうって?」「何だか変じゃない?」 やはり母も気づいていたらしい。優香は手に持っていた箸を食卓へ置いた。「やっぱりそう思う?」「優香も気づいてたの?」「うん。ここ数日だけど」 祐実は少し迷ったあと、流しの縁に手を置いた。「実はね。ここ数週間くらい前からなのよ」 優香は母の顔を見つめた。自分が異変を意識し始めたのはつい最近だ。けれど、祐実はもっと前から夫の変化を感じ取っていたらしい。「最初は気のせいだと思ってたの。年齢のせいかしらとか、仕事で何かあったのかしらとか。でも、ちょっとずつ変わってきて」「例えば?」「急に服装を気にするようになったのよ」 祐実は洗い終えた皿を水切りかごへ置いた。「今までは私が何を着ていこうと何も言わなかったのに、自分のシャツを選ぶときに妙に時間をかけたりするの。先週なんて、出かける前に鏡を何度も見てたのよ」「お父さんが?」「そう。髪まで気にしてね。何かあるのって聞いたら、別にって」 優香の頭の中で、父の最近の様子がつながり始めた。スマホを見ては嬉しそうに笑い、誰かが近づくと慌てて画面を閉じる。母の一挙一動を目で追い、目が合うと不自然に視線をそらす。 そこに服装へのこだわりが加わった。「それだけじゃないのよ。私が出かけるときも、帰りは何時になるのか聞いてくるようになって」「今までは聞かなかったの?」「必要があれば聞いてきたけど、最近は何度も確認するの。友達と出かけるって話したら、何時に帰るのかとか、夕飯は外で食べるのかとか。そんなことまで気にする人じゃなかったのに」 祐実は困ったように笑った。笑顔を作ってはいるが、目元には戸惑いが残っている。「それにね。私が今日あったことを話すと、前よりずっと熱心に聞くのよ。昔から話を聞いてくれない人じゃなかったけど、適当に相槌を打って終わりだったの。ところが最近は細かいことまで聞いてくるし、私が笑うとお父さんまで嬉しそうにするの」 優香は

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