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第132話

Author: ルーシー
心晴はグラスを掲げ、玲奈に視線を向けた。

「玲奈、さっき電話で呼んだ時に言いそびれてしまったけれど、今日こうして一緒に食事をしたいと思ったのは、謝りたかったからなの。前回、あなたと和真の件で警察沙汰になって......本当に心苦しくて。でも、あなたと和真にそのせいで溝ができてしまうのも嫌だったの。だって、あなたは私にとって一番の友達で、和真は私の最愛の人だから」

玲奈は返事をせず、隣の和真に目をやった。

彼はグラスを持っているが、心ここにあらずといった様子で、心晴の言葉などろくに耳に入っていない。

それでも心晴は玲奈が何も言わないのを見て、顔を上げ、一気に赤ワインを飲み干した。

そして、苦笑いを浮かべながら言う。

「ほら、私が先に飲んだから、許してくれる?」

玲奈は彼女を見つめ、胸が痛むような思いと諦めが混じった声で答えた。

「......うん」

その返事に心晴は嬉しそうに微笑み、急いで隣の和真を肘でつついた。

玲奈に乾杯だよ、と合図する。

和真は明らかに気が進まない様子で、しぶしぶグラスを持ち上げた。

「ほら、俺からも一杯」

玲奈は軽くグラスを持ち上げただけで彼と乾杯を合わせることはせず、ほんの少し唇を湿らす程度に飲んだ。

和真も同じで、形ばかりに口をつけた。

この場は心晴の顔をたてるため。

彼女が仲裁役だから玲奈もここにいるが、和真に笑顔を向けることは、この先一生ない。

食事は決して和やかなものではなく、終始、心晴が二人に会話をふっていた。

和真が一言投げれば、玲奈は「ええ」と返すだけ。

互いに嫌悪の色を隠そうともしない。

それでも心晴は必死に、なんとか二人の間をとりもとうとしていた。

けれど、ひとたび壊れたものは二度と元には戻らない。

それは玲奈にとって和真との関係もそうだし、智也との婚姻関係もまた同じだ。

どうにか食事を終えると、和真は席を立ち会計へと向かった。

心晴は玲奈の腕を取って尋ねる。

「気分が悪いの?」

「ううん。あなたが楽しければ、それでいいの」

その瞬間、玲奈はふと悟った。

――あの時、家族が自分に「智也とは結婚すべきではない」と言ってくれた理由がようやく理解できたのだ。

心晴は目を伏せ、小さい声でつぶやいた。

「......あなたが不機嫌なのはわかってる。でも――」

「もういいわ、
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Comments (1)
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煌原結唯
はぁ〜やっぱり絡んでくるの?まったくなんなのよ。レストランと言ったらココしかないの?心晴が出て来たのと思いきや、やっぱりな2人との鉢合わせにウンザリ。
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