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last update Last Updated: 2025-11-20 06:00:10

 綾音は震える手で扇子を落とした。ぱさり、と乾いた音が響き、会場の空気に吸い込まれる。綾音は膝から崩れそうになったが、誰も支えないし、見向きもしない。

 その一方で、一成にエスコートされる美桜は光の中心にいた。

 会場の人々が自然と道を空け、一成はその中央を堂々と歩く。美桜はまだ胸の鼓動が落ち着かず、少しうつむいてしまう。

「私なんかのために、ありがとう」

「私なんかって言うのは禁止だよ」

 一成が静かに言う。

「君は僕が選んだ人間だ。それはつまり、帝都中で誰より価値があるという意味だよ」

「そ、そんな……」

「照れなくていいよ。もっと言ってあげようか?」

 一成は美桜の手を取る。そのままゆっくりと自分の唇へ導いた。彼女を愛する眼差し、しぐさが令嬢や婦人の心を射る。帝都一の富豪が妻を溺愛する様子を見て、うっとりとため息が漏れる。自分もこんな風に素敵な男に愛されてみたい――そんな羨望の眼差しが美桜に集まる。

「あ、あなたっ……!」

 

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