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商隊長さんなんか、「キャラバンも潮時か?」とか言ってるし、元々価値のあるものを運んでいるいつ襲われるかもしれない採算や命の勘定で冒険的な商売が、今や割に合わないって計算になってるようだし確かにヤバいね。「でな、ここに来るまでの間に二ヶ所、同じように盗賊の被害にあった村があって生き残った村人を保護してきたんだが……」 と、隊長さんはとりあえず今日はここで泊まろうと旅装を解いて準備をしているキャラバンを振り返る。「お前さん、どうする?」 ん?「どうするって?」「オレたちと一緒に来るか? って話よ」 ……おぉ!「他の被害者は?」「ん? ああ、できればどこかで暮らしたいって言ってたんだけどな?」 何かいいかけて赤くなりかけている空を見上げる。「ま、話は後にしようか。すぐに日も暮れるし、続きは飯でも食いながらだ。ところでお前さん、どこで寝泊まりしてたんだ?」「水車小屋のそばにちょっとした小屋を建てて住んでる」 そういうと、隊長さんは目を丸くしてこう言った。「冬を越せるような小屋をお前さん一人で作ったのか? そりゃ……なんていうかすげぇな」 確かに、前世記憶に助けられたのはあるし、半ば自然児的田舎もんとはいえ十五で究極の一人暮らしはすげぇよな。 よゐこ濱口もびっくりだよ。「おじさん」「なんだい?」「まだ準備に時間かかるよね?」「そうだな」「一旦うちに戻ってくるね」「そうか。じゃあ後でまたな」「あ、欲しいものがあるんだけど……」「欲しいもの?」「うん。けど、銭はない」「だろうな」「で、買ってもらいたいものがあるんだ」「なるほど、物々交換でいいぞ。特別に多少まけてやる」「ありがとう!」「結構あるのか?」 走りかける背中に隊長さんが声をかけてきたので、僕は立ち止まって答える。「
雪がとけて用水路の水の流れが早くなった頃から僕は、毎日昼頃から日が暮れるまで焼け跡を片付けながらキャラバンが来るのを待っていた。 記憶が確かならいつも日のあるうちに村に来てたからね。 さすがに午前中は雑木林に入って狩りをしたり柴刈りしたり用水路で魚釣ったりしてたけど。 そんな日を十日くらい繰り返した頃、待ちに待ったキャラバンが到着した。 商隊の隊長さんは結構がっしりした体格のおじさんで、物心つく頃にはもう隊長さんだったからおじいさんに近い。 隊長さんはあらかた片付いてさっぱりと何もない廃村に驚きながら、僕のところにやってきた。「生き残っているのはお前さんだけなのか?」 そんな聞き方をするということは、予想外の事態じゃなかったと言うことか? 僕は頷いて事のあらましを語る。 隊長さんは時々質問を挟みながら僕の話を聞いてくれた。 いつぶりだろう? 妖精以外と話すのは。「なるほどな。ずいぶん大変だったろう」 隊長さんは僕の背中をトントンとあやすように叩く。「実はね、この国は今大変なことになっているんだ」 村に来るキャラバンは三つあって、一つは今目の前にいるキャラバン。 二つ目は暑い盛りに来るキャラバン。 もう一つが他国から不定期にやって来るキャラバンだ。 それぞれ売っているものと、この村で仕入れるものが違う。 品物も重要だけど、キャラバンが一番の商品にしているのは情報だ。 ちなみに二番目は子種。 血を適度に薄めるためだ。 まぁ、それはいい。 隊長さんが言うには、この国の王様が身罷られ(要は亡くなって)代替わりすることになったんだけど、立太子(後継を決定)しなかったんで跡目争いが起こっていた。 それが激化して武力衝突に発展して大分になるそうだ。 たぶん、この件は大人たちにはしていたんだろう。 子供だった僕に語られなかっただけなんだ。 時系列でいうと
発見! 尾行して、接近。 そして、八シャッケンという長柄の槍で突く! 冬毛のもふもふラバトを十日で四匹ゲットして新鮮な肉で鍋料理を作ったり皮をなめしたり。 魚を釣って刺身で食ったり乾物や燻製作ったり。 集めたマルルン茹でたり蒸したり炊いたり焼いたりして食べたり。 そんなこんなで暮らしてかれこれ三ヶ月が過ぎた頃、唐突に思い出したのがキャラバンの存在だ。 この世界にも、新年を祝うという風習がある。 一年の始まりは冬の終わり。 あとふた月くらい先な訳だけど、毎年キャラバンが村に商品を売りにやってくる。 山奥のど田舎に人が訪れるのはこのキャラバンと領主様が年貢の取り立てをよこす時くらいなもんだった。 よくぞ思い出してくれたぞ現世の僕。 物語が動くぞ。 人間気力が湧くとできることが増えるんだろうか? 狩りでは二度目のデヤールを仕留め、ラバトを一日で三羽も仕留めたりした。 究極の一人暮らしな僕には有り余る肉なんだけど、キャラバンに売ろうと思ってせっせと食肉加工。毛皮は売れるほどの品質じゃないから自分用。 人と会うのに着た切り雀はさすがに気が引ける。 革は他にも作らなきゃならないものがいっぱいある。 袋とかバッグとかさ。 そんな充実した日々を過ごしていると、雰囲気ってのは伝わるものらしく、「最近楽しそうね」 なんてリリムに言われる始末だ。 なんでもそうだけど何事もやればやるだけ上手くなる。 骨角器も打製石器も自分でびっくりするほど上手にできてる。 最初にリリムが言ってた通り、神様は人よりちょっぴり優秀な人間として転生させてくれているようだ。 もちろん、職人ばりの出来とは言えないけど、実用に耐えるものになっている。 最近じゃ、磨製石器も作り始めてる。 けど、鉄器の方が本当はいいよね。 そんなことをしているうちに気温が日に日に暖かくなり、そろそろキャラバンが村を訪れる頃になった。
僕が作ろうとしていたのは前世でいう柿渋なわけで、柿渋ってのは防腐、殺菌効果があって平安時代から染色に利用されていたものなんだけど、皮のなめしにわざわざ柿渋を使う必要はないわけだ。 ああ、なんで勘違い、なんて早とちりなんだ。 タンニンさえあればいいんじゃないか! さて、気を取り直して皮なめしを再開する。 確か塩を混ぜてこの『なめし液』に皮を浸し時々撹拌する。 この作業を五日から十日繰り返す。 多分塩を入れるのはなめし液が腐らないようにだと思う。 けど、タンニンも皮も生物由来だからあんまり長く浸しておくと腐るんだろう。 念の為七日浸け込んで再び水車で洗濯。 これを乾かせばとりあえず完成なはず。 でも、前世では時々油をなじませてたな。 息子のグローブとか仕事用の革靴とか。 けど、そんな便利なもの手元にない。 一人原始時代生活は思った以上にサバイバルだ。 革ができるまでの間、僕はデヤールの骨角器作りを並行して行った。 これも(前世世界の)人類が最初期から手にした道具の一つだ。 まずは大雑把に角をそのまま使うハンマー。 脚の骨で銛と槍。 肋骨でなんちゃって日本刀。 刀はそこまでの切れ味はないけど、武器がないよりまし。 銛を作ったことで用水路にいる魚を獲ることができるようになった。 ハンマーをゲットすることで黒曜石の加工が飛躍的に精度が上がるようになった。 そして、黒曜石の鋭いナイフができたことで革で服を作るための骨の針と、釣り針も作れるようになった。 てってれー♪ 僕はサバイバーレベルが上がった。 …………。 虚しい。 とりあえず話し相手はいる。 やることはいっぱいある。 けど寂しい。 雪がちらつき始める頃、僕はなんとか革の上着と靴を手に入れた。 一張羅が二張羅になった。 その毛皮の服と靴で雪の中、雑木林に狩りに出る。
「鞣し」って知ってるかい? そのままだとすぐに腐っちまう動物の皮を道具として利用するための工程のことさ。 僕は今、デヤールの肉の保存と並行してこの作業に追われている。 ちなみに昨日は新鮮なデヤール肉のステーキを食べた。 果物以外で久しぶりに食べた生鮮食品だった。 うまかった。 まず、肉の処理だけど鍋釜かき集めて塩水にじっくり浸す。 「塩はどうした?」って? 山奥の村だって塩を手に入れる方法はいっぱいあるもんさ。 どうもこの辺は昔海だったらしく(前世的地学知識)岩塩が取れるんだ。 で、これを干して熟成させてを繰り返せば干し肉の出来上がりだ。 ポイントは脂身が少ない肉の方がうまいことと、空気が乾燥している今時期(秋から冬にかけて)に作ることだ。 一部は炉の上にぶら下げて燻製にする。 ざっくりいって生ハムだ。 僕の生まれ育った村はなぜか干し肉だけでハムをつくる風習がなかった。 燻製工程ができなかったからだろう。 炉の上に吊るすなんてのは日本の知恵だからな。 脂身の多いところはベーコンにする。作り方は実は生ハムとそんなに違わない。 保存用の肉の加工は実は手間はそんなに多くない。 熟成だとか燻製だとかで時間がかかるだけなので、その合間に皮をなめす。 まず、洗濯。 この作業は水車くんにお任せ。肉を塩漬けしている間にじゃぶじゃぶ洗ってもらった。 次に柔らかくなった皮に残ってる脂や肉をこそげ落とす。 そんなこんなをしている間に渋ピサーメを雑木林から採ってくる。 なめしにはタンニンという成分が必要ってことでタンニンって渋のことだよなぁ……と泥縄ながらタンニン作りを始めたわけだ。 ピサーメを叩いて潰して水に浸す。 …………。 なんか忘れてる。 僕は慌てて脳内検索をかける。 確かにこの作り方でタンニン作れそうなんだけど、発酵して熟成するまで二年くらいかかりそうだ。「
とっさに槍を構えたけど、こんな大きなデヤールの突進を受け止められる自信ないぞ。 でも、ここで逃すわけにもいかない。 僕は、黒曜石の槍の威力を信じて槍を構える。 これでも僕は前世で剣道有段者だ。 デヤールの突進力を槍の攻撃力にそのまま利用するために槍の尻を地面に落として、頸動脈があるあたりに狙いを定めて突き刺す。 微妙に角度をつけた槍は突き刺さるんじゃなく首の皮を切り裂いた。 狙い通りに頸動脈が断ち切れたらしく、盛大に血がしぶく。 この成功の代償に槍の柄がポッキリ折れたのはまぁ仕方ない。 穂先を手に取りデヤールの血抜きを始める。 これは現世で経験がある。 父ちゃんたちと狩をした時に教えてもらった。 一人でやるのは初めてだけど、何度かさせてもらった経験がある。 あの時は父ちゃんたちが弓矢で仕留めてたっけ。 …………。 感傷に浸っている暇はない。 血の匂いにひきつけられて肉食のファレクスやナルフ、冬ごもり前のバヤルがきたら大変だ。 僕は、村の作法に則って前足一本切り落とし、森の捧げ物としてその場に残してデヤール担いで雑木林を後にする。 用水路からこちらに渡ってくれば一安心。 今の所用水路からこちらは人のテリトリーという暗黙の了解があって動物たちは滅多にこちらには来ないからだ。 もっとも、僕以外に人がいなくなった今、この暗黙の了解がいつまで有効に作用するかは未知数だ。 陽の高いうちに戻ってきた僕は、用水路で血を洗い落として玄関フードへ。 槍に使わなかった方の黒曜石をナイフとして利用する。 デヤールの解体作業の開始だ。 前世の自分なら「グロ」とか騒いでいるんだろうけど、現世では日常の一コマだ。 一人で解体するのはもちろん初めてだし記憶をたどりながらの作業なのですげぇ苦労したけど、何とか皮を剥ぐことができた。 次は肉の解体だ。 これも黒曜石のナイフで部位ごとに切り分けていく。「なぁ、リリム」「何?」「現世知識