เข้าสู่ระบบあひるの市に着いたのは、夜だった。支社の明かりは、ほとんど落ちている。会議室。二人だけしかいない。新幹線から戻って、そのまま。机の上には、資料とPC。「……これ」浅井さんが画面を指す。新しく開かれたデータ。中間業者の口座。その先。さらに細かく追われた資金の流れ。「……」息が止まる。「この振込」浅井さんの声は、いつも通り低い。「名義は別会社」「でも」次の画面。「最終的に戻ってる」「……」見える。はっきりと。中間業者 → 別法人 → TK Network関連口座。さらに。もう一段。松村側のファンドへ。「……これ」やっと声が出る。「完全に」「うん」浅井さんが頷く。「確定」短い一言。でも。重い。「……」手が、少し震える。ここまで来た。本当に。「……」「五年前と違う」浅井さんが言う。「今回は、線じゃなくて証拠がある」「……」「逃げられない」確信。「……」胸の奥が、じわりと熱くなる。「……伊藤」名前を呼ばれる。顔を上げる。距離が、近い。さっきまでより。少しだけ。近い。「ここからが本番」低く言う。「……はい」答える。でも。呼吸が浅くなる。距離。近い。「……」「新幹線で」浅井さんが続ける。「“会社と向き合う”って言ってたよね」「……はい」「本気で言ってる?」「……」一瞬、迷う。でも。「本気です」はっきり言う。「……」浅井さんが、ほんの少しだけ息を吐く。「じゃあ」一歩。さらに近づく。机も椅子も意味を失う距離。「覚悟して」低い声。「……」鼓動が速くなる。「……何を」「全部だよ」短く言う。「何が起きてたのか」「高山や松村とのことも」「それと」ほんのわずかに、間。「俺と過ごす時間も」「……」意味が、遅れて落ちる。逃げ場がなくない。これは、仕事だけの文脈じゃない。流石に、気づく。「……」浅井さんは視線を逸らさない。でも。ほんの少しだけ。揺れている。ほんの一瞬。言葉にしない不安が滲む。「……戻れないよ」静かに言う。それは警告じゃない。確認に近い。「……」その続きが来る前に、分かる。(確かめてる)(私が、本当に来るのか)「……分かってる?」低く続く。でも。さっきより
東京駅には、夜に着いた。改札の手前。人の流れが、波みたいに動いている。スーツケースの音。アナウンス。行き交う足音。「……」その中で。ふと、足が止まる。少し離れた柱の横に。人の流れに入らず、静かに立っている人がいる。黒いコート。片手にスマホ。視線は、時計と改札の間。「……」浅井さん。本当に、ここに。元々どこにいるか、連絡はくれていたものの。まさか本当に、東京に来るとは思ってなかった。一瞬、現実感がなくなる。でも。次の瞬間。浅井さんが顔を上げる。目が合う。迷いがない。最初から、そこにいる前提みたいに。「……来てたんですか」やっと言葉が出る。「来てるって言ったでしょ」低く返る。「……あれ、冗談かと思ってました」「冗談で来ない」短い。でも、当然みたいな言い方。「……」言葉が続かない。「時間、言ってたから」それだけ付け足す。「……」確かに。帰る時間は伝えていた。でも。来る理由にはならない。普通は。「……あひるの、どうしたんですか」「朝イチで出てきた」さらっと言う。「……」意味を理解するのに少し時間がかかる。あひるの市から。わざわざ。ここまで。「……仕事ですか」「半分」「……もう半分は?」一瞬だけ間。「伊藤を迎えに」「……」息が止まる。何も言えない。でも。逸らせない。「……」浅井さんが視線を外す。「行くよ」それだけ言う。自然に、歩き出す。私もついていく。改札を通る。新幹線のホームへ。「……」並んで歩く。何も言わない。でも。さっきまでと違う。一緒にいてくれる人がいる。その感覚だけで、少し楽になる。「……どうだった」浅井さんが聞く。短く。でも、核心。「……最低でした」正直に言う。「……」浅井さんは何も言わない。ただ、少しだけ歩幅を合わせる。それだけで。守られている気がする。「……みゆが」続ける。「全部分かっててやってたって」「……」「私がどうなるかも」「全部」「……」「それでも必要だったって」「……」静かな沈黙。でも。今は、苦しくない。「……それでいいの?」浅井さん。「……よくないです」はっきり言う。「だから、真実を突き詰めて」「会社と向き合いたい」「……」浅井さんが、
「やっぱり」小さく呟く。「知ってたんだね」みゆは、笑顔を戻した。でも、少し硬い。「知ってるっていうか」「家の話だから」「結婚する、家と家同士の話だし」家の話。その軽さ。「補助金の不正も?」「不正って言い方、好きじゃないなあ」みゆが言う。「調整だよ」「……」「地方事業ってさ、きれいごとだけじゃ回らないの」「資金を先に入れて、実績を後から整える」「そうしないと動かないこともある」「それを?」「必要な調整」「研究費を不正利用したことにされた人も、調整?」自分でも驚くほど、声が冷たかった。みゆの顔から、笑みが消えた。「……何それ」「五年前」一言だけ。みゆは黙る。完全に。「知らないの?」静かに聞く。「……私には関係ない」「まだ何も言ってない」「……」今度は、みゆが言葉を詰まらせる。初めて。「……愛海」声が少し低くなる。「それ以上、調べるのは本当にやめた方がいい」「脅し?」「忠告」「誰からの?」みゆは答えない。「松村家?」沈黙。「TK Network?」沈黙。「樹?」その瞬間。みゆの目が揺れた。「あの人は」言いかける。止まる。「……」「あの人は、何?」みゆは視線を逸らす。「樹は、愛海が思ってるほど自由じゃない」「だから?」「……」「だから、私が傷ついても仕方ない?」「だから、親友を裏切ってもいい?」「だから、会社の不正を見過ごしてもいい?」みゆの表情が、少しずつ崩れていく。でも。その崩れ方は、罪悪感じゃない。苛立ち。「じゃあ愛海はどうしたかったの?」急に声が強くなる。「樹を助けられた?」「会社を変えられた?」「上の人たちに逆らえた?」「……」「何も知らなかったくせに」言葉が刺さる。でも、今度は受け止めない。「知らなかった」認める。「でも、今は知ろうとしてる」みゆの目が、少しだけ大きくなる。「だから?」「止まらない」はっきり言う。「樹にも言われた」「深入りするなって」「みゆにも言われた」「でも、止まらない」「……」「私が失ったものを、仕方ないで済ませた人たちを」声が静かに落ちる。「そのままにしない」みゆが笑う。乾いた笑い。「復讐?」「そう」初めて、迷わず言えた。「復讐」みゆの顔が、少しだけ歪
昼過ぎの東京。駅を出た瞬間、人の流れに飲まれそうになる。あひるの市とは、空気が違う。音も。速度も。視線も。全部が、少しだけ鋭い。「……」スマホを見た。みゆから送られてきた場所。駅から少し歩いた、ホテルラウンジ。いかにも、静かで。人に聞かれにくくて。でも、逃げにくい場所。「……行こう」小さく呟く。バッグの中には、メモ。聞くこと。確認すること。感情じゃなくて、情報。浅井さんの言葉が、まだ残っている。ラウンジに入る。奥の席。みゆは、もう座っていた。白いブラウス。細い指。きれいに整えられた髪。何もなかったみたいな顔で、手を振る。「愛海」昔と同じ声。昔と同じ笑顔。でも。もう、同じには見えない。「……久しぶり」向かいに座る。「来てくれてありがとう」みゆは嬉しそうに笑った。「忙しいのに、ごめんね」「急ぎで直接話したいことがあるんでしょう?」「そうなの」軽く頷く。>その言い方が、軽すぎる。「何の話?」先に聞く。みゆは紅茶を一口飲む。カップを置く動作まで、余裕がある。「樹のこと」その名前が出ても。もう驚かない。「樹があひるのに行ってたんだってね」「仕事で」「そうだね」みゆは笑う。「仕事で」その繰り返し方が、嫌だった。「何回も会ったんでしょ?」「必要な確認があったから」「ふうん」みゆが少し首を傾げる。「それだけ?」「……何が言いたいの」「愛海ってさ」笑ったまま言う。「ほんと、昔からそういうところあるよね」「……」「自分は正しいことしかしてませんって顔」空気が、静かに冷える。「そういう話をしにわざわざ東京まで呼んだの?」「違うよ」みゆはすぐに言う。「でも、言いたくなっちゃった」軽い。あまりにも。「大学の頃から、ずっと思ってたの」「……何を」「愛海って、真面目で不器用で」みゆは指先でカップの縁をなぞる。「努力家で」「ちゃんとしてて」「周りから信頼されてさ」「……」「でも本人は、そういうの全部“普通です”って顔するじゃん」「……」「それが、すごく嫌だった」一瞬、聞き間違えたのかと思った。「……嫌?」「うん」みゆは、あっさり頷く。「目障りだった」胸の奥が、冷たくなる。「……」「だってさ」みゆは笑
資料が広がったままの、夕方の会議室。内容を詰めるのに必死で、気づいたら時間が経っていた。浅井さんが他の案件で離れたり、入ってきたりして。私はひたすら、部屋で作業をしていた。そして、見つけた。「……ここ」指を止める。中間業者の口座。補助金の振込。その前に動いている資金。「承認前に流れてます」「うん」浅井さんが頷く。「普通はあり得ない」「……でも帳簿上は成立してる」「そう」TK Network。中間業者。そして、松村。線は、もう見えている。「あと一つ」浅井さんが言う。「出口を押さえれば、持っていける」「……はい」そのとき。スマホが震える。...みゆから、だった。このタイミングでの電話。不吉な予感しかしない。「……」浅井さんがこちらを見る。何も言わない。でも。誰からなのか、分かっている。「……出ます」席を外す。廊下。「……もしもし」『愛海?』軽い声。変わらない。それが逆に気持ち悪い。「……何か用?」『樹、来てたんだって?』「……うん」一瞬で、空気が変わる。少し、声がいつもよりかは冷たい。「……聞いたんだ」『そんなの、当たり前じゃん』婚約してるんだから、と笑う。『何回も会ってたよね?』「……仕事でなら」『へえ』短く笑う。少し、皮肉を含んでいるかのように。『それだけ?』「……」言葉が詰まる。『ねえ』少しだけトーンが変わる。『東京に、来てよ』「……」「なんで」やっと出た言葉。『来る必要があると思って』即答で、少し真剣な様子で。『今じゃないと意味ない』「……何の話」『全部』「……」『愛海さ...』少し空いた間で、迷っている様子を感じ取った。『どこまで関わってるか、分かってる?』「……」でも、はっきりと責めているような感じで。私を問い詰めるかのように聞いてきた。『樹のことも』『樹の案件自体に対しての、調べ方もさ』『全部、踏み込みすぎてない?』「……」『だから、東京で話そう』静かに言う。『こっちでしかできない話がある』「……」断りたい。でも。...断れない。「……仕事がある」『大丈夫』被せられる。『私の事業部から、出張リクエスト出しといたから』「……は?」一瞬、思考が止まる。『メール、届いてるでしょ
いつも通りに、次の日が来た。でも。社内の空気が少し違う。「伊藤さん、おはようございます」山川さん。「おはようございます」挨拶をして、コーヒーを取りに行く。なぜか。今日はどこかからか、視線を感じる気がする。「……」席に着いて、パソコンを開いて。昨日の続きを整理する。TK Network。松村。中間業者。「……」線は見えている。でも。まだ、全ては証明できない。「伊藤」声。浅井さん。「はい」「少し来て」いつも通りの、会議室。ドアが閉まる。「……これ」資料を差し出される。新しいデータだ。「中間業者の口座の流れ」「……」目をすぐに通す。振込。補助金。外注費。その中に。一つだけ、違和感。「……このタイミング」思わず口に出る。「承認前に資金が動いてる」「うん」浅井さんが頷く。「普通はあり得ない」「……」「でも」ページをめくる。「帳簿上は成立してる」「……」まただ。データが綺麗すぎる。「……」「この辺が歪み」浅井さん。「完全じゃない証拠」「……」「この部分を起点にして」「本社に持っていくのに、準備しよう」「……はい」理解する。でも。同時に、気づく。「……これ」少し言おうか、迷う。でも、止めなかった。「結構リスク、大きいですよね」「大きいよ」即答。「だからやるつもり」「……」迷いがない。「……」そのとき。ノック。ドアが開いて。「浅井さん」田中さんが立っている。「本社から、事務に連絡が」「……誰」「高山さんです」「……」空気が変わる。一瞬で。「了解。こっちから繋ぐ」浅井さん。短く言うと。すぐに、会議室でスマホを開いて。スピーカーで、浅井さんは電話した。『お疲れ様です』樹の声。仕事の声。「何」浅井さん。『一点だけ、確認したいことがあって』「簡潔に教えて」『補助金の対象業者についてですが』一瞬、間。『再検討の必要があると思ってます』「理由は?」『現場レベルでの運用に無理があるので』言葉を選んでいる。分かる。でも。「……それだけ?」浅井さん。少しだけ低い。『……』沈黙。その一瞬で。全部伝わる。言えない。でも。止めたい。「……」「それは無理」浅井さん。即答。『理由を聞







