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第2幕

作者: 槇瀬光琉
last update 公開日: 2026-09-28 18:02:02

よっざくら、よっざくら  

きょっぉも、さいとくれぇ  

あのひとぉがあーいにきてくっれるよぉにぃ

花街の角で、子供たちが口ずさみながら遊んでいる。  

そんな子供たちを横目に、神城は普段は来ない花街を一人で歩いていた。

今宵の花街も、あの日と同じように賑わっていた。

神城に声をかけ、言い寄ってくる女性たちもいたが、神城はそれを断り歩みを進めた。

あの日と同じ、上流階級の華族たちが行き交う上品な雰囲気の場所まで来ていた。  

行き交う人は華族が多く、賑わってはいるが、下街よりは落ち着いていて、一人で歩く神城も安心していた。

ちりん、ちりん

と、鈴の音が心地よく鳴り響いている。

いろはに匂え 今宵の桜  

薄紅まとい 君は笑った  

触れれば消える 幻のように  

名前も知らぬまま 心を奪う

三味線の音と共に聴こえる唄は、あの日と同じ。

『…あの日と同じ…か…』

神城は一人、心の中で呟く。  

それでも歩みを止めぬのは、決まった目的があるわけではない。

ただ、気になったのだ。  

あの日の出来事が。

まるで彷徨うかのように足を進める神城。  

そんな折、ざざぁッと風が吹き、夜の花街に桜の花びらが、まるで何かを示すかのように舞った。

「あぁ、綺麗だな」

そんな風景を眺めながら、ポツリと言葉が零れた。  

桜の花びらに混ざり、ふわりと香るのは甘い花の香り。

まるでその香りに誘われるように、神城は進み続けた。

何軒かの店を通り抜け、川沿いの道に差し掛かると、水面に映る桜が揺れていた。  

紅い大きな橋を渡りかけた、その時。

「もし、そこの軍人さん」

声をかけられ振り返れば、そこに立っていたのは、あの日見かけた彼だった。

「…あなたは…」

そこまで言いかけて、言葉が止まってしまう。  

あの日と同じで、なぜだか言葉が出ない。

ただ見つめ合うだけの時間。

「あっ、堪忍ね。他に用があったんでっしゃろ?」

先に視線を外したのは、彼の方だった。

「あっ、いや、今宵は…あなたを探しておりました…」

神城は、ここへ来た目的を自然と口にしていた。  

その言葉を聞き、彼が少し驚いた顔をする。

「あっ…いや…すまない。急にこんなことを言われて、あなたも迷惑だろう」

神城は自分が口にした言葉に驚きつつ、彼に謝った。

「そんなことあらへん、わちしもお会いしとうございました」

彼の顔が少しだけ嬉しそうに緩む。

「…あなたも…店におるのであろう? 自分がここで引き留めていたら、迷惑になるんではないか?」

神城は会いたいと願っていた人物が目の前にいる喜びはあるものの、彼は店に出ている身であろうと心配になり、聞いてみた。

「心配せんとよかです。わちしは自由な身。好きな時間に好きな相手とですゆえ」

彼は少しだけ妖艶な笑みを浮かべる。

「なら、今宵は自分があなたの時間をいただいてもいいだろうか?」

神城の口から自然とそんな言葉が出てきた。  

驚いたのは彼の方である。

「ええんどすか?」

驚いたまま、彼が聞き返す。

「もちろん。あなたが迷惑でないのなら、もう少し、あなたと話がしたい」

神城ははっきりと言いきった。

「せやったら、店、いきましょか。わちしがつこうてる部屋ありますから、今宵はあなた様とゆっくり、語らいましょ」

彼は小さく笑い、答えた。

「なら、お手を。お店までお連れします」

神城は自然と彼に手を差し伸べる。

彼はその手を取り、

「ほな、お願いします」

神城と共に、彼が使っている店へと歩き出した。

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