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第540話

作者: かおる
雅臣は、綾子の理不尽な言葉に、こめかみを押さえるようにして低く言った。

「母さん、もういい。

上に行って休んでて」

それを合図に、雨音がすぐに彼女の腕を取り、強引に階段の方へ導いた。

「お母さん、ここはお兄ちゃんに任せて。

きっとうまくやってくれるから」

――母が感情的なのは仕方ない。

けれど、娘の雨音は冷静だった。

星は翔太の実母であり、しかも今は葛西先生という強力な後ろ盾がいる。

その彼女と敵対するのは、得策ではない――そう理解していたのだ。

綾子が退室すると、重苦しい空気が少し和らぎ、屋敷のリビングに静寂が戻った。

航平の視線が、ようやく仁志の方へと向く。

彼はずっと無言だったが、存在感の薄さとは裏腹に、どこか周囲の空気を変えるものを纏っていた。

「こちらの方は......?」

星は考えごとに沈んだまま、短く答える。

「......ただの友人よ」

彼女がそれ以上語る気がないと察して、航平も深く追及しなかった。

話題はすぐに翔太の拉致事件へと戻る。

犯人の目的が金なのか、怨恨なのか――

全員が推測を巡らせていた、そのとき。

――着信音が鳴り響いた。

雅臣がスマホを取り出す。

画面に表示されたのは、登録のない番号。

一瞬、眉がわずかに動く。

星を一瞥してから、彼は通話ボタンを押し、スピーカーモードに切り替えた。

「......神谷雅臣。

お前の息子と――初恋の女、今俺が預かってる」

変声機を通した、くぐもった声。

聞く者の背筋を冷たく撫でていくような、歪んだ響きだった。

「通報なんてしたら、どうなるか分かるだろう?

人質は一人いれば十分だ、どちらか殺しても構わない」

雅臣の声は低く、沈着だった。

「分かった。

警察には通報しない」

彼と航平の実力を考えれば、警察の介入がなくとも対処は可能だ。

相手は笑ったような息を漏らし、続けた。

「身代金は一人二十億。

金と人を同時に交換する。

――それから、取引には元妻を来させろ。

変な真似をすれば......その時は容赦しない」

言い終えると同時に、通話が切れた。

沈黙が落ちたリビング。

そこに、航平の低い声が落ちる。

「今すぐ、発信源を特定させる」

そう言って素早く別の電話をかける。

雅臣の視線が、星へと向かった。

彼女はわずかに頷
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