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47話

Author: 籘裏美馬
last update Last Updated: 2025-10-25 18:19:23

「誰だ…?一般社員か…?」

社員2名の方に顔を向けつつ、瞬が呟く。

緊急の案件の対応をしている、と聞いていた。受付の人間が言っていた事は本当で、それが終わったのか、と瞬が考えていると。

「社長…あの方にベタ惚れじゃないか…?あんなに優しいお顔をしているの、見た事ないぞ?」

「ああ、確かにな。それも、俺たちを呼んだ理由がウイルスのチェックだもんな…。しかも、あの女性の私用スマホだぞ?社員のパソコンがウイルスに感染した時も冷静だったのに、あんなに焦って、心配している社長は見た事がない」

「あの女性、誰なんだろうな?」

「社長の婚約者か、…奥さん?あれ、でもまだ社員はご結婚されてないか。なら、未来の奥様じゃないか?」

などと、談笑しながら瞬がいる待合室を通り過ぎていく。

彼らが興奮気味で話していたせいか、その話し声はしっかり瞬の耳に届いてしまっていて──。

「心が、社長室に…!?」

瞬は思わずその場に立ち上がり、社長室の扉を睨みつける。

社員2人が出て行ったにも関わらず、瞬が呼ばれる気配はない。

瞬はイライラとしながらソファから立ち上がったり、座ったりとしつつ扉から視線を外せない。

「女を社長室に連れ込み、密室で何をしてるんだ…」

自分の権力を振りかざし、無理矢理心を連れ込んでいるのかもしれない。

瞬の思考は、あらぬ方向にどんどん飛躍していく。

「心も心だ。俺が好きなくせに、他の男と2人きりになるなんて──」

瞬が社長室に視線を向けた所で、1人の男が社長室に向かって歩いて行くのが瞬の目に入った。

瞬は、慌てて待合室から出るとその男に声をかける。

「すみません…!滝川社長をお待ちしているのですが」

瞬が声をかけたのは、滝川の秘書、間宮だ。

間宮はすっと表情を引き締め、瞬に向き直る。

そして、キッパリと言い切った。

「申し訳ございません。滝川は本日、急な案件と来客対応につき、時間の空きがございません。また後日、改めてご来社ください」

「──そうは言われましても。私も足を運んだ以上、手ぶらで帰る訳にはいきません。少しだけでも滝川社長とお話する機会をいただけないか、社長ご本人にお伝えいただけませんか?」

「……伝えてまいりますが、恐らく結果は変わりません。それでもよろしいでしょ
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