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#3

last update Dernière mise à jour: 2025-12-20 17:44:09

「そう考えたら悪いことばかりじゃない。本当に……」

壁に背を預けて、夕都は顔に貼ったシップをなぞるように指で触れた。

「俊紀さん。俺に思ってること、またちょっと変わった?」

「?」

「尚太から全部聞いたんだろ。今回のことは、俺があいつを巻き込んだんだ。でも俺、俊紀さんにはずっと話せなくて」

それは夕都が俊紀に交際を迫る前からで、近々の話ではなかった。

それでも確実に、自らの傷を庇うように隠していた。

自分が可愛いから、と捉えられても仕方ないほどに。

そしてそんな汚い心理を彼に知られてしまうことを、夕都は一番恐れていた。

「……見損なったよな」

絞り出した声は弱々しく、相手に届いたかも分からない。しかし言葉より先に、その答えは夕都に返ってきた。

「……っ!」

全身を包む温もりと、唇に当たった感触。

あ。

忘れていた。この人はいつも───俺が不安になってる時、こうしてくれたんだっけ。

俊紀は優しく夕都の額にも口付けを残し、微笑んだ。

「仮に見損なっても、見限る理由にはならなかったな。そんなことで嫌いになるほど、軽い気持ちで好きになったりしてない」

夕都の身体を更に引き寄せて、俊紀は甘く囁いた。

「お前がいなくなることの方がずっと、俺は怖かった。むしろ俺の方が、お前に捨てられんじゃないかって思うこともあった。未だにお互い知らないことばかりだし」

「捨てるって、俺が? そんなわけ……」

夕都は驚いて俊紀の顔を見返す。しかしその表情は苦しげに歪んでいた為、口を噤んだ。

「目を離したらすぐに居なくなりそうだからさ、お前。

でも好きだよ。どんなに離れても、どんなに経っても……お前が好きだ」

「俊紀さん……」

もう泣かないって決めたのに。

気付いた時には、涙が溢れていた。

「夕都。泣いてるのか?」

「うん。何でかな……って、俊紀さんも若干きてない?」

「だな。……また会えて嬉しいから……かもな」

夕都はただ、今の幸せを表現する術が見付からずに。俊紀もまた、そんな彼を大事に抱いて瞼を擦った。

静かな朝だ。静寂を破らぬよう、時針だけ進んでいる。

「何か飲むか?」

俊紀は椅子に腰かけて、ベッドで横たわっている夕都に問いかけた。

「うん」

もう太陽は完全に昇っていたが、カーテンを閉めきっている為活力が湧かない。それに何より、もう丸二日起きている。

体力なんてとっくに尽きている。けど頭が冴
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  • 恋の保護先   分かれ道

    月日が流れるのは速い。まばたきしてる間に数メートル先に進んでるみたいだ。それを意識させるのは環境の変化。けど自分の成長を感じさせるには少しばかり物足りない。「お疲れ様でしたー!」今ではすっかり慣れた、居酒屋のバイト。制服に着替えた夕都がキッチンに向かって叫ぶと、副店長の女性が手を振って微笑んだ。「お疲れ、梁瀬くん。気をつけてね」「ありがとうございます! お先に失礼します!」春は新入社員の歓迎会があるため、団体客が多く忙しかい。ひとまず賑やかな店を出て、一息ついた。何だかんだでもう一年も働いている。飽きっぽい自分にしては頑張ったと思う。一年はあっという間だ。夕都も高校三年生となり、身の回りの環境も少しずつ色を変えていた。大好きな恋人とも、もう一年近く付き合ったことになる。会いたいな。早く帰ろ。そう思って歩き出すと、スマホの通知音が聞こえた。宣伝広告を含めた五、六件のメッセージ。何となく確認しようと思っただけなのだが、一件の名前を見て手が止まった。開いてみると、たった一行。今どこにいる? ……というもの。「……」嫌な予感がする。久しぶりに重たい何かが肩にのし掛かった。これ以上外にいるのは危険と判断し、早足で駅の方へ向かう。しかしその瞬間、誰かに肩を掴まれ引き止められた。「ひっ!」恐怖がマックスだったせいか、本当に情けない声を上げてしまった。案の定、現れた人物は腑に落ちない表情を浮かべる。「なんだ。やっぱり夕都じゃないか」そこに立っていたのは黒いロングコートを着た、長身の青年。「兄貴……!」自分にとって唯一の家族、梁瀬秀一。彼のことは、それは嫌というほど知っている。「な、なんだはこっちの台詞だよ。何でここにいんの?」「お前なぁ。一年近くも家出してその言い草はないだろ。メッセージも返さないし……心配して会いに来たっていうのに」彼は呆れながらため息をつく。が、それにはつい言い返してしまった。「……家出はどっちだよ……」反発したものの、視線を逸らした。久しぶりに会えて嬉しいのは確かなんだけど。久しぶり過ぎて反応に困る、というのも本音。恐恐見上げると、彼も気まずそうにに頬を掻いた。「……そうだな。俺も家を空けてばっかだったから……ひとりにして悪かった。だから今日は久しぶりに、二人で過ごそうと思って帰って来たんだ」

  • 恋の保護先   #3

    「そう考えたら悪いことばかりじゃない。本当に……」壁に背を預けて、夕都は顔に貼ったシップをなぞるように指で触れた。「俊紀さん。俺に思ってること、またちょっと変わった?」「?」「尚太から全部聞いたんだろ。今回のことは、俺があいつを巻き込んだんだ。でも俺、俊紀さんにはずっと話せなくて」それは夕都が俊紀に交際を迫る前からで、近々の話ではなかった。それでも確実に、自らの傷を庇うように隠していた。自分が可愛いから、と捉えられても仕方ないほどに。そしてそんな汚い心理を彼に知られてしまうことを、夕都は一番恐れていた。「……見損なったよな」絞り出した声は弱々しく、相手に届いたかも分からない。しかし言葉より先に、その答えは夕都に返ってきた。「……っ!」全身を包む温もりと、唇に当たった感触。あ。忘れていた。この人はいつも───俺が不安になってる時、こうしてくれたんだっけ。俊紀は優しく夕都の額にも口付けを残し、微笑んだ。「仮に見損なっても、見限る理由にはならなかったな。そんなことで嫌いになるほど、軽い気持ちで好きになったりしてない」夕都の身体を更に引き寄せて、俊紀は甘く囁いた。「お前がいなくなることの方がずっと、俺は怖かった。むしろ俺の方が、お前に捨てられんじゃないかって思うこともあった。未だにお互い知らないことばかりだし」「捨てるって、俺が? そんなわけ……」夕都は驚いて俊紀の顔を見返す。しかしその表情は苦しげに歪んでいた為、口を噤んだ。「目を離したらすぐに居なくなりそうだからさ、お前。でも好きだよ。どんなに離れても、どんなに経っても……お前が好きだ」「俊紀さん……」もう泣かないって決めたのに。気付いた時には、涙が溢れていた。「夕都。泣いてるのか?」「うん。何でかな……って、俊紀さんも若干きてない?」「だな。……また会えて嬉しいから……かもな」夕都はただ、今の幸せを表現する術が見付からずに。俊紀もまた、そんな彼を大事に抱いて瞼を擦った。静かな朝だ。静寂を破らぬよう、時針だけ進んでいる。「何か飲むか?」俊紀は椅子に腰かけて、ベッドで横たわっている夕都に問いかけた。「うん」もう太陽は完全に昇っていたが、カーテンを閉めきっている為活力が湧かない。それに何より、もう丸二日起きている。体力なんてとっくに尽きている。けど頭が冴

  • 恋の保護先   #2

    「寒い……!!」指先は悴んで完全に感覚がない。俊紀達の動向を知る由もなく、圭司は弱々しく白い息を吐いた。「あいつら、戻ってくる気配ないな。これはマジで朝まで放置パターンじゃないか」なんて彼のぼやきを聞いた夕都は悲観的になりそうなのをグッとこらえた。これ以上ネガティブにはなりたくない。寒さと空腹だけでもうこりごりだった。 「まぁ、今度こそ何されるか分かったもんじゃないし。それぐらいなら戻って来ない方がいいっていうか」「いやでも戻って来なかったら餓死する」餓死も嫌だが、リンチにあうなら同じだろう。永遠に帰れない。結局八方塞がりだ。でもずっとこのままなんて……。一体前世で俺はどんな悪行をしたんだ、と圭司は考えていた。こんな事なら常日頃から遺書を用意しとけば良かった、なんて想いまで頭によぎる。しかし二十分後、その考えは断ち切れた。「兄貴! やっぱりここだったんだ……!」部屋に反響する透き通った声。この聞き慣れた声は────、「尚太!」小走りで駆け寄ってきた少年は幻ではなく、本物の弟だった。「お前、よくここが分かったな」「まぁね。……色々ごめん。さっ、早く出よう」尚太は圭司の手を縛るロープをほどきにかかる。「梁瀬を捜してたんだろ。何で俺も一緒にいるのか聞かないのか?」「……聞かないよ。兄貴が先輩に絡む理由なんて、どうせ俺の為だろうし」尚太の物言いにムッとして言い返そうとしたが、その前にロープは解けた。「でも、先輩は良い人なんだよ。兄貴と同じで口は悪いけど、俺のことを助けてくれた……だから俺は今ピンピンしたられるんだ」尚太は、圭司の袖を震えるほど強く握った。「わかってる。やっとわかったよ。……遅すぎだけど」二人は可笑しそうに笑い、手を取り合った。「本当にごめん。俺、これからはちゃんと学校行くから。早く家に帰ろう」……良かった。仲直りできたみたいだ。丸く収まった様子の二人を廊下から眺めて、すぐに俊紀は隣の部屋へ向かった。「夕都、待たせたな。生きてるか?」夕都は、部屋の一番奥に座り込んでいた。「生きてるけど、今にも死にそう」「大丈夫そうだな。待ってろ、すぐに解いてやる」色褪せたロープは雁字搦めに結ばれていたが、力押しで強引に緩めて解いた。「痛いところは?」「体勢がずっと同じだったからそこら中痛いけど……大した

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  • 恋の保護先   #5

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