13.お見合い

「侑斗さんも、お母様に言われて仕方なくですか？」

「はい、同じです。」

　せっかくの休日、母へ日頃の感謝のため、ホテルでお見合いをしていた。

　正直、どうやって断ろうかと考えていたのだが、相手の女性も結婚する気は今はないらしい。

　確かに、俺達はまだ二十四歳で、大学を卒業してから、まだ二年しか働いていない。

　特に俺の場合は、司法試験が終了してから働き出したから、大学卒業後すぐに働き出した人よりも短かった。

　その時期に、結婚前提の付き合いなんて、よほど好きでなければあり得ない。

「良かった。

　私も仕事のキャリアを積みたいですし、誰かの生活に合わせるなんて今は無理です。

　それを親に中々わかってもらえなくて。」

「はい、それも同じです。

　僕も仕事中心の毎日に満足しているので、お付き合いしたとしても、期待に答えることはできない。」

「そうですよね。

　でも侑斗さんとは、このままこうして時々会えたら嬉しいです。

　あくまで友人としてですが、その方が色々収まりますので。」

「友人ですか？」

「はい、お願いできませんか？」

「伝えないでいようと思っていたのですが、実は僕にはずっと昔から好きな人がいて、その人以外とは結婚する気がないですけれど、それでもいいですか？」

「はい、それでかまいません。

　このまま侑斗さんと二度と会わないとなったら、新しい人を紹介されるだけなので、今は友人として様子を見たいと濁したいんです。」

「なるほど。

　でしたら、こちらからもお願いします。

　僕もその方が気が楽だ。

　どちらかが結婚する相手を見つけたら、自然に終わるということで。」

「はい、よろしくお願いします。」

　俺達はそう言い合い、笑顔を交わした。

　とは言え、きっと彼女はすぐに好きな人を見つけて、結婚してしまうのかもしれない。

　華を思う俺はなんとも思わないけれど、彼女ぐらい美人で聡明な女性なら、男が黙っていないだろう。

　キャリアを構築しようと意気込んでいる彼女に本音は見せないけれど、これで母に少しでも顔向けできるなら、それで十分だと思えた。

　お見合いを終え、帰りのタクシーの中で、華からのメッセージが届く。

　新しい部屋が決まったら招くつもりだったのに、彼女からの連絡はその淡い期待を打ち砕く内容だった。

「忙しくなるから、会えない」だって？

　そんなはずはない。

　俺達は今まで、忙しいを何度も乗り越えて来たからわかるけど、華の今の状態が忙しいとは、とても思えない。

　だが、彼女がそういうのなら、受け止めるしかない立場であることがつらい。

　今までの経験から、彼女から会うのが無理とはっきり言ってきた時は、彼氏ができた時のみで、それ以外ではあり得なかった。

　彼女に何かあった？

　それとも彼女自身が俺ともう会いたくないと思ったのだろうか？

　振られた時ぐらいの衝撃が、また胸を突く。

　いや、今回はそれ以上だ。

　振られた時でさえ、「会えない。」とまでは、言われなかったから。

　裏の意味に気づかず彼女の言葉を間に受けたとして、そもそもどうして急にそんなに忙しくなるんだ？

　華の仕事はほぼ定時で終わる。

　プロジェクト次第で予定が変わる俺と違って、彼女の仕事は安定しているはずだ。

　だから余計に違和感が募る。

　思い返せば、最近の華にはどこか引っかかるものがあった。

　小さな違和感を感じたのは、いつからだろうか？

　俺が告白をしたことが、余計に彼女の本心をわからなくさせているけれど、自分に自答してみる。

　記憶を頼りに振り返ると、最初は福岡の帰りにお土産を買って、華に家で待っていてもらった時だ。

　あの日、微かな違和感を感じた。　

　はるか昔にもそんな違和感を感じた時があった。

　あの時も、華が自分から距離を置いているような、そんな気がして彼女に聞いたけれど、華は答えをはぐらかした。

　もしかしたら以前と今回は、同じ条件だったとか？

　共通しているのは、華が家に来ていることだ。

　でも、それだけならば、珍しくもなんともない。

　その中で何が他と違うんだ？

　華が母と会ったことか？

　だが、俺達は幼馴染だから、彼女が母に会うことも何度もあった。

　じゃあ、どうして？

　考えても答えが出ず、タクシーに同乗していた母に尋ねてみた。

「この前、華が家に来た時、何か話をした？」

「えっ、この前？

　特に何も話してないわよ。

　クッキーを出して、あなたの好きなタイプを聞いたけれど、知らないって言われたわ。」

「そうか。」

「華ちゃんに好きなタイプとか教えてないんでしょ？

　そういう話はしないって言ってたわ。」

「まぁ、そうだね。」

　俺の好みのタイプは華だと、言葉にしたことは一度もなかった。

　あの時まで聞かれることもなかったし、勉強が最優先だったから。

　今はいくらでも華が好きだと言えるのに、それでも付き合うことはできなかった。

「好きなタイプとか抜きにして、相手のお嬢さんをどう思った？」

「しっかりとした人だね。」

「じゃあ、上手くいったのね。」

「いや、今はお互いに仕事を頑張りたいから、友達からってことになったよ。」

「えー、もったいないわ。

　そう言っている内に婚期を逃すのに。

　忙しくしていると、あっという間に時間が過ぎるのよ。」

「わかってる。

　でも、結婚は双方が納得するタイミングでしたいから、とりあえず様子を見るよ。」

「わかったわ。

　何も進展がないよりマシね。」

　母のその言葉を聞いて、彼女が「友人として関係を続けたい。」と言っていた意味がよくわかった。

　細くても繋がっていれば、周りにはまだ可能性があると思わせることができる。

　少なくともこれで、母の次なる女性の引き合わせは避けられるということ。

　それでも、華に抱いた違和感は、消えないままだった。