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16久しぶりの二人

Penulis: 月山 歩
last update Terakhir Diperbarui: 2025-09-23 09:37:25

 ボクサーラーメンのカウンターで、久しぶりのラーメンを味わう。

 湯気の向こうにもやしとチャーシュー、黄金色のスープがふわりと香る。

 濃厚な味噌の香ばしさが心にじんわりと染みていく。

 そう言えば、侑斗以外とここのラーメンを食べに来たことは、なかった。

 私達二人はずっと「味噌派」だけど、普段は相手に合わせて、別のも食べる。

「やっぱりここのラーメンは最高だな。」

「一人でも食べに来てた?」

「ないなあ、ラーメンは好きなんだけど。

 ここって華と来るイメージ。」

「わかる。

 私もなんとなくそう思ってた。」

「あのさぁ、疑問なんだけど、何でよりにもよって、森田とかき氷ばかり食べに行ってたわけ?

 刑事に言われて、俺も不思議だった。」

「えっ、だって森田君とはとにかく意見が合わなくて、白熱して議論してると暑くて喉が渇くから、帰りにティラミスかき氷が食べたくなるんだよね。

 そしたら、たまたま森田君もかき氷好きだって言うから、課題の後はかき氷が定番だったの。

 それが、どうかした?」

「いや、華が知るわけないしいいんだけど、ティラミスかき氷は俺も食べたい。」

「えっ、侑斗もかき氷好き?

 じゃあ、一緒に食べに行こうよ。

 彼女いないならいいよね。

 確認だけど、私が行きたいかき氷屋さんって、混んでるけど、並んでも食べたい人?」

「華と一緒なら、並んでもいい。」

「えー、楽しみ。

 じゃあ、どこにするか、調べておくね。」

 私がかき氷のお店を思い浮かべて、一緒に行きたいところを考えていると、侑斗がフッと笑った。

「華は相変わらずだな。」

「えっ?」

「さっきまで容疑者として留置所にいて、ぐったりしていたのに、もう意識が先に向いてる、本当呑気。

 でも、そこが可愛い。」

 そう言って、侑斗は私を笑顔で見つめる。

「えっ、侑斗に可愛いって言われたの初めてかも。」

 急な侑斗の褒め言葉に、驚きつつもニヤけてしまう。

「いつも思ってたよ。

 でも、そんなことを言う資格はまだ俺にはないと思って、言わなかっただけ。

 司法試験通る前は、口が裂けても言えなかったし…。

 でも、もういいよな。

 俺、ちゃんと弁護士になったし。

 華は今、彼氏いないんだろ?」

「まぁ、そうだけど…。」

 とは言え私は、相変わらず理想の自分になれていないため、言い淀む。

「何?

 俺とはやっぱり距離置きたいとか、そういうやつ?」

「そうでもないんだけど、もう少し待って欲しかった。」

「何で?」

「…。

 今は言いたくない。」

「ダメ、言って。

 前回それで俺失敗してるから。

 華の言いたくないことだからって尊重すると、多分、俺また間違う。」

「何それ?」

「華が言うまで、諦めないからな。」

「そんなことを言われても…。」

 私達はしばし沈黙して、お互いにラーメンを食べ終える。

「華、俺もう後悔したくないんだ。

 頼む。」

 カウンターで並んで座っていた侑斗が、私に向き直り、真剣な眼差しで見つめる。

「…うん、わかった。

 あのね、実は私、通信大学で学んでいるの。」

「うん、知ってるよ。

 それで、今回の騒動の仲間と出会ったんだろ?

 それがどうした?」

「その大学に行っているのは、侑斗と同等でいたいっていうか、釣り合う自分になりたいっていうか、その思いでやってるの。」

「は、何で?

 この前も釣り合わないとか何とか言ってたな。

 そもそも今更釣り合うとか、必要?

 そんなの俺達に関係なくない?

 だって華は、俺が勉強ばっかしてても、友達でいてくれたろ?

 それと何が違うんだよ。」

「まぁ、そうなんだけれど、これは私の気持ちの問題なの。」

「ふーん。

 で、釣り合ったらどうなる?

 俺と付き合ってくれるの?」

「うん。

 大学を卒業してからだけど。」

「えっ。

 いいの?」

 侑斗は驚いて、目を見開いた。

「うん、侑斗が私のことをその時まで好きでいてくれたら。」

「もちろんずっと好きだよ。

 じゃないと最初から付き合おうなんて言わないから。」

「でも、今回のことで私のことを軽蔑してない?」

「するはずないだろ。

 華が思い出したくないだろうから言わなかったけれど、大した証拠もなく、長く拘留したこと、俺、怒っているから。」

「えっ、そうなの?」

「当たり前だろ。

 薬物検査で引っかかっていないのに、関係性を疑い、長く拘留したせいで、華のメンタルが壊れかかってた。

 俺がいなかったら、華はもっと病んでたはずだ。」

「うん、私、不安でおかしくなってたよね。」

「見てすぐにわかったよ。

 転校して、一人で薄暗い部屋にいたあの時と同じ目をしていた。」

「そっか、あの時も気づいていたんだね。」

「当たり前だろ。

 俺達の仲なんだから。」

「ありがとう。

 いつも侑斗は落ちそうになる私を、引っ張りあげてくれる。」

「俺、元気のない華を見ると、体から力が溢れて来るんだ。

 何とかして、助けたいって。

 その気持ちはどんなに忙しくても、伝えて来たつもりだったんだけど、届いてた?」

「うん、私、ピンチの時は侑斗に頼ってきたよね。」

「だったら良かった。

 俺は華に頼られるのが、好きなの。

 俺の存在意義はそこだと思うから。

 でも反対にやたら元気な時は、気が抜けるんだよ。」

「えっ、それって良いこと?」

「わかんない。

 でも、俺達は二人で一つって気がするんだ。」

「それ、何となくわかる気がする。」

「本当か?

 華なのにわかるのか?」

「ひど~い、私だって何となく感じるよ。」

「何となく?」

「何となく、多分…。」

「はは、冗談だって、華はいつだって俺の宝物だから。

 命があったら、次に欲しいのは華。

 ずっと好きなのも華。」

「侑斗、嬉しい。」

「じゃあ、通信大学を卒業したら、納得して俺と付き合えるんだな。

「うん。」

 私達はお互いに付き合うことを想像して、しばし沈黙する。

「ところで、大学卒業まで後何年あるんだ?」

「後二年半かな?」

「二年半?

 長いよ。」

「えー、これでも頑張っているんだよ。

 言っとくけどね、仕事しながらって、思ったよりもきついからね。

 二年半だって、成績次第では確実ではないし。」

「わかった。

 手伝うよ。

 この後、すぐに勉強だ。

 俺がスパルタで教えてやる。」

「ちょっと待って。

 私、やっと釈放されたんだよ。

 とりあえず、今日は許して。」

「冗談だよ。

 じゃあ、明日からだな。」

「そんな急がなくても。

 私は逃げないよ。」

「いや、逃げてる。

 散々逃げてる。

 心配だから、もう家に連れて帰りたい。」

「ふふ、オーバーだよ。

 侑斗は。」

「そのくらい華が好きなんだよ。

 ラーメン屋のカウンターで、好きだ、好きだって、言い過ぎだけど。」

 二人でそっと周りを見渡すと、ピークを過ぎた店内には、ほとんどお客さんがおらず、店員さんも裏に行ったきりで、私達の会話を気にする人は誰もいなかった。

 それなら、私も遠慮なく。

「私も侑斗が好き。

 だから、早く卒業できるように頑張るね。」

 そう言って彼を見つめると、彼は顔を少し赤らめながら、体を寄せてきた。

「華、可愛い。

 そんなの反則だよ。

 今日、警察署の中だったとしても、会えて良かった。

 昨日の夜に、初めて華が捕まったって聞いたんだけど、心配で気が狂いそうだった。

 ほとんど寝ないで、朝を待ってた。

 だから、俺のテンションも今はどこかおかしい。」

「えっ、ごめんね。」

「謝らないで。

 俺は華を助けることがしたいの。

 昔からずっと。

 華が好きだから。

 それを忘れないで。」

「わかった、ありがとう。」

 侑斗が繰り返す「好き。」「助けたい。」という言葉のシャワーがどんどん私の心をほぐしていく。

 今までこんなに彼が、真っ直ぐな想いを伝えてくれたことはなかった。

 きっと侑斗は、私の自信を取り戻そうと、あえて言葉に出して、言ってくれているのだろう。

 その優しさも含めて、嬉しさが込み上げる。

 だって今までは、私達はお互いを思っていても、言葉にはしないで来ていた。

 けど今は、素直に言うことができる。

 だったら、思いの深さの分好きって言おう。

 この想いをやっと飲み込まず、真っ直ぐ言えるようになったんだから。

 私は立ち上がり、侑斗の耳元で何度も、「好き。」と呟く。

 すると、彼は顔を赤らめ恥ずかしそうに笑ったけれど、次の瞬間、お返しされた。

 きっと、私達は日本中のラーメン屋で一番甘い二人だね。

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