เข้าสู่ระบบヴィスコンティ王宮の小広間。
月明かりでシャンデリアが淡く光り、重みで鈍く軋む。 吹き抜けの円柱の隙間から、運河の水流の音が聞こえる。 エルミニオが冷酷な目で、ためらいもなく私の胸を剣で突き刺す。 22年間、ロジータとして生き、エルミニオを必死に愛した記憶が私を苦しめる。 ただ彼に愛されたかった。 ロジータの感情は、痛みよりも、醜い嫉妬と果てしない絶望で崩壊寸前だった。「やめてーー!エルミニオ様。お願い……」
だがその時、一人の男性が優しく私を包み込んでくれた。
「七央、大丈夫だ。それは全部悪い夢だ。
俺がお前の側にいる。だからーーー」「理佐貴《りさき》……?」
彼はそっと私の涙を拭き、血に染まる真紅のドレスを着た私を抱きしめてくれた。
慈愛にあふれた手つき。優しい眼差し。 その瞬間、闇に閉ざされていた私の心が、明るい太陽の光に照らされた。 どうしてずっと忘れていたんだろう——。 川崎《かわさき》理佐貴。 前世でとても大切だった、恋人のことを。「は……っ!」
止まっていた呼吸をするかのように目覚めると、見慣れない灰色の天井が目に入った。
吊り下がる星型のランタン。ヴィスコンティ王宮にはよくある光景。 両脇にあるステンドグラスから暖かな太陽の光が差し込み、今が朝であることを告げている。「あれ……あ!そうだ。私、昨夜……」
ズキっと錘《おもり》を乗せられたような痛みが胸いっぱいに走り、思わず両手で押さえようとするとー
左手がグンっと何かに引っ張られた。「え?」
ーールイス?
見るとルイスが私の手を握ったまま、ベッドに伏せて眠っていた。 栗色のウェーブした髪が、愛らしい子犬のよう。 小さな銀のピアスが片方の耳の隙間から覗いている。白くてきれいな肌。 柔らかそうな頬……って、見惚れている場合じゃないわ。 そうよ、手。ルイスが手を握ったまま寝ているから。 でもまさか、あれからもずっと私の側に? 第二王子のルイス・ヴィスコンティ。 『無能の王子』と陰で呼ばれる王子。 物静かで、正直いつも何を考えているのか分からなかった。 そんなルイスがまさか、こんなにも慈悲深かったなんて。 握っている手も、なんて温かいのーー。「ん……?ロジータ?もう目覚めたのか?」
「は、はいっつ!」
私の心臓が激しく跳ねた。
寝起きのルイスの声があまりに色っぽくて。 ルイスは頭を抱えながら、ベッドから顔を上げる。まだすごく眠たそう。「ルイス様、お疲れのようですね。
私がベッドを占領したせいですよね?遠慮せず、隣に眠られてもよかったですのに。」私は何を口走っているの?
ルイスが寝起きにも関わらず、怪訝そうな視線を投げかけてくる。「ロジータ。お前は一体何を言っているんだ。」
自分でもよく分からない。
ほら、ここは一応〇〇禁の世界だから。 まあロジータの場合、ロマンスには程遠い世界だったけれど。「起きたなら、そのドレスを着替えてくれ。
替えを用意させる。」ふいっとルイスが私の手を離し、その場から立ち去ろうとしたので思わず引き止める。
「待って、ルイス様、昨夜の続きですけれどー」
手を伸ばし、無理やりベッドから起きようとした私は、ついうっかりバランスを崩してしまう。
「きゃああ!」
「ロジータ!」
あと少しで顔面を床に直撃、大惨事になるところだった。
けれど逞しいルイスの腕に引っ張り上げられ、私は彼の胸の中にいた。 ふわっと香る、ルイス甘い匂いに胸が高鳴る。 栗色の髪が揺れ、琥珀色の瞳が私を映している。 何これ、胸が苦しい。「きゃああ!ごめんなさい、ルイス!」
「だから、少しは落ち着け、ロジータ!
興奮しすぎだ。全く、傷が開くぞ。」口ではそう言いながらも、ルイスの眼差しは私を心配しているように見えた。
また心臓が激しく高鳴る。 何で意識してるのよ、七央。 あなたには、前世で理佐貴がいたじゃない。 せっかく大切な恋人のことを思い出したばかりだったのに……!二人で星を見上げた。確かキャンプの日だ。 いつか一緒に。 いつか結婚して、夫婦になろう。 そう誓った時、空には流星が———。 --- あれから二度目の流星祭りが開催されている。 主催者はマルツィオで、ビアンカとはあんな形になってしまったが、彼は今でも数多くの国民に愛されている。 あれからエルミニオは一般人として、立派に働いているそうだ。 モンテルチの神官は処刑、ビアンカは幽閉。 リーアは監獄で、地獄のような日々を送っているらしい。 一方、私とルイスは補佐役で、去年の比ではないくらい目まぐるしく動いていた。「ルイス様!ロジータ様!」向こう側から、手を振って歩いてくるアメリアとマルコたち。「アメリア、マルコ。」爽やかな笑顔を浮かべる、ダンテもいる。 そういえばダンテは目標金額を貯めて、お母様の離婚を勝ち取ったと。 良かったわね、ダンテ。 これで少しは、お母様と気兼ねなく過ごせるかしら。「それではまた後で!」三人はこの後出店に行くという。 楽しんでいるみたいで良かった。 多くの国民。家族が笑顔で私たちの横を通り過ぎて行く。 この後私たちも仕事をひと段落させて、二人きりであの赤い屋根の塔に登った。「わあ、見て!ルイス!」塔の最上階から見た星空。 手を伸ばせば届きそうに感じる。「ロジータ、手を。」今夜のルイスと私のドレスコードは煌びやかな群青色。 星の刺繍が裾を彩る。 輝く空の下で、私とルイスはダンスを踊った。「実はあなたのことを理佐貴じゃないかと感じたのは、ずっと前だったのよ。」「俺もそうだ。何度も何度も。 お前に懐かしさを覚えていた。」ルイスとの幸福なダンス。 嬉しくて回転していたらまた———滑った。 こんないい雰囲気で、例のドジが発動しなくてもいいでしょ!「きゃ!」「ロ
全てを丸く収めたマルツィオが、ルイスの前で誠心誠意、頭を下げた。「これまでお前に冷たくして、済まなかった。 キアーラの死をどうしても受け入れることができなかったんだ。 幼いお前のせいじゃなかったのに、私は残されたお前にどう接すればいいか、分からなかったんだ。」彼の前妻、キアーラ王妃への愛は深く。 私たちもまさか、マルツィオがリーアの真実を暴くとは夢にも思わずに。 ルイスは少し寂しげに微笑し、マルツィオに優しく応えた。「大丈夫です、父上。お気持ちはよく分かりましたから。 俺にも大切なロジータがいます。だから分かるんです。」「ルイス……!」良かった。二人の間の長い蟠りが解けたようで。 これからは親子仲良く、ヴィスコンティを導いていくことだろう。「ロジータの刻印が変化したのも、治癒力が使えるようになったのも、この世界の本物の神がお前たちを認めたからだろう。」マルツィオの言葉には感慨深いものがある。 確かに、私たちは本来の物語になかった道を歩んできたし…… それに、終盤では原作者も消えた。 リーア(ルクレツィア)の思い通りになることもなかった。 つまりこの世界の本物の神が、世界に干渉した、ということだろう。 あの禁書庫で聞いた女性の声。 あれが、ヴィスコンティの神話に登場する、星の女神だったのかもしれない。 --- これまで、本当に長かった。 私とルイスは宮殿のテラスから、二人で眩しい夜空を見上げた。 ヴィスコンティは星にまつわる伝説の多い国。 その瞬間も、宝石みたいに散らばる星が、空一面に輝いている。「『俺は大丈夫だよ、心配しないで。』と言いたかったのに、声が出なかった。 あの時、病室で…… 涙を流す君に触れて、安心させてやりたいのに、できなかった。 自分は何て無力なんだろうと。 泣いてる君に申し訳なさを感じながら、少しずつ目の前が真っ暗になっていった。 “約束守れなくて、ごめん”な。 あの言葉を、ずっと言いたかっ
ルイスは確かに七央と呼んだのだ。琥珀色の瞳で、しっかりと私を見つめて。「理……佐……貴?」喉がごくりと鳴る。また都合のいい夢でも見ているのかと。彼は傷の塞がった胸を見ながら、全ての状況を飲み込んだかのように頷く。私の手に支えられて、ゆっくりと上体を起こした。ダンテもエルミニオたちも、時が止まったように私たちを見ている。「黒い髪に、黒い瞳。名前は白石七央。俺たちは同じ大学だった……初めて会った時、すごく明るくて、可愛い子だと思ったんだ。だから告白した。趣味が似ていたよな。星が好きで……よく二人で望遠鏡を持って、キャンプに出かけた。暑い浜辺で、デートもした。あの時の七央、可愛かったな。結婚しようと、約束したよな……なのに。ごめんな。俺があんなことにさえならなければ……」「……私がおかしいのかな。なんだかルイスが、理佐貴に見えてくるわ。」目の前にいるのはルイスなのに、そのはずなのに。ルイスの姿と、かつて大好きだった恋人・理佐貴の姿が重なって見える。涙がまた溢れてくる。「おかしくないよ、七央。俺は、俺だったんだ。ずっと———お前のそばにいたのに、気づかなくてごめん。」彼が優しく囁いて、私の涙をそっと拭き取ってくれる。それから私の肩を抱きしめ、引き寄せる。どくん、どくんと心臓が音を奏でる。温かくて、どこか懐かしくて。私の知ってるルイスであり、理佐貴だ。夢なんかじゃない。これは現実だ。だって今目の前にいるルイスの中に、確かに理佐貴の存在を感じるのだから。「やっぱり、あなただったの……?理佐貴。会いたかった!」
原作者がロジータの脳内に直接語りかける。《ロジータ・スカルラッティ、お前は、物語の悪役令嬢だ!エルミニオとリーアの愛の物語を完成させるため、死ななければならない!》彼の怒鳴り声と、リーアの荒々しい声とが重なる。「あなたのせいよ!死んで!」リーアに狙われた私は逃げる暇もなく、反射的に目を閉じる。どこかで聞いたことのあるような、重く鈍い音が響く。あれ……?私、死んでない………。次の瞬間、エルミニオとダンテたちが叫んだ。「ルイス!?」「ルイス殿下!」「ルイス様!」ルイス……?瞑っていた目を開けると———。私の目の前で、ルイスがリーアにあの剣で胸を突き刺され、口から血を流していて……「そんな……ルイス、私はただ……」リーアは困惑した姿を見せ、剣を手放した。そうして、血のついた手を振り払う。あの時と同じだ。私がエルミニオに心臓を突き刺されたあの時と。息もできないほど、痛くて苦しいはずなのに。「ロジータ……無事か?お前が無事でよか……」「だめ、ルイス……」なぜ、私たちはまた、一緒になれないの?また?私は膝をつき、血で体が染まっていくルイスを抱き止める。「ロジータ様、無理に剣を抜いてはいけません!」あの時———エルミニオは、私から容赦無く剣を引き抜いた。そうして、虫の息だった私をルイスが救ってくれた。まずは剣を抜かなければ、何も始まらない。血が出続けるルイスの心臓を抑えながら、私は驚くほど冷静だった。アメリアはルイ
あの後、エルミニオに無理やりベッドに押し倒され、「ルイスと離婚しろ」とまで脅される。確かにエルミニオは私が14年間も愛した人。しかし今は、全くときめかない。嫌悪感だけが募っていく。本当の愛というのは、こんな自分勝手なものじゃない。「ロジータ。お前はもう逃げられない。」「私に何かしたら、後悔しますよ。」———と言ったら、今度は泣くし。一体何なのだろう。エルミニオの情緒が壊れてるのだろうか?リーアに操られたせい?彼もまた物語に抗っているのかもしれない。「俺が間違っていたんだ。ずっと、リーアを愛していると思い込んでいた。だが、リーアはどこかおかしい。その違和感に気づいてから、俺はもうリーアを信じれなくなった。だが、ロジータ、お前は違う。お前はかつて、温もりと優しさ、そして純粋な愛を向けてくれていた。その優しさに胡座をかいていたのは俺だったんだ。失ってはじめて、お前の大事さに気づいた。」そう号泣されても困る。私にはもう、エルミニオの大事さはルイスの爪の垢ほどもない。冷たい女かもしれないけれど、先に裏切りを働いたのはあなただ。だからこそ、いつまでも、物語に。リーアに踊らされていればよかったのに。「だが、それとこれとは話が別だ。俺から逃げようとした罰だ。ルイスが貪ったこの体を味わうのは、俺のはずだった。だから今からお前を奪う!お前に俺を刻み、ルイスのことなど忘れさせてやる!」「やめて……っ、私がルイスをどれだけ愛しているか……っ、私がルイスじゃなきゃ駄目な理由がたくさんある。あなたではルイスの代わりにはなれない!一生ね!大事だと思う誰かを裏切る時点で、あなたには愛を語る資格なんてないのよ!エルミニオ・ヴィスコンティ!」———人は、大切な誰かを想うことで変わる。私はルイスを。ルイスは私を。最初から私たちが結ばれない運命だったのだとしても。『星の刻印』が変化したように———私は何度だってルイスのために奇跡を起こす。「愛してる。ロジータ。もう離さない。」エルミニオが私の首筋に勝手に顔を埋める。勝手に指を絡ませてくる。私、ルイスを愛してる!こんなことされるくらいなら死を選んだ方がましよ!「ルイス———!」力の限り彼の名を呼ぶと。バタンと扉が開いた。「兄さん……いや、エルミニオ・ヴィスコンティ!血迷った
ルイスを弄んであげようとしたところへ、見張りの兵が慌てた様子で戻ってくる。「何ですって?エルミニオ様が来ない?」あのモンテルチの神官と同様、私を崇拝する兵たち。その一人が、気まずそうに目線をさげる。彼が言うには、確かに途中までは、エルミニオ様はこちらに向かっていたのだという。しかし、後になって、来た道を引き返すのが見えたと。「エルミニオ・ヴィスコンティ……!私があなたのヒロインで、あなたは私のヒーローなのに!私たちは絶対に結ばれるべき運命なのに!ばかにして!」ああああ!!っと叫び、また私はそこら中にあったティーカップや皿を床に投げつける。怒りが収まらない。原作者も私の手のなか。原作の知識も教えてもらって、完結間近まで知っている。急遽、原作の改変までしたのに……なんでこう、うまくいかないの!?一体、何が私の物語を邪魔しているの!「引き続き、エルミニオ様を追いかけて!早く……!」私が怒鳴り声をあげると、兵たちは慌てた様子でその場から立ち去って行った。ガリガリと爪を噛みながら、気を取り直してもう一度ルイスのいるベッドへと足を運ぶ。しかし、またしても———バタンと、荒々しく部屋の扉が開く。「今度は何……!」振り向いた瞬間、体が金縛りにあったように動けなくなった。え……?何これ!塔の扉を無理やり開いたのは、彼ら———。「やっぱり、あなただったんですね!リーア・カリヴァリオス様!」何でこの者たちがここへ……?「ルイス様を返してください!」ただのモブ———であるはずの彼らが一体なぜ、この場所







