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第二章:ロジータの掲げる正義

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-11-02 18:39:00

私は久しぶりにスカルラッティ家に戻ってきた。

ゴシック建築を取り入れた立派な邸宅はいつも人目を引いていた。

近くにはやはり運河が流れ、行商船が頻繁に行き来する。

少し曇り空のひんやりとした今日、ルイスはうまくジャコモを狩猟に連れ出してくれた。

スカルラッティ家の持つ森は馬でも数時間かかる。

二人はしばらく帰ってこないだろう。

「マルコ。地下室の鍵を手に入れたわ。

行きましょう。」

私は動きやすいドレス姿に、濃い緑のローブを羽織っていた。

「はい、ロジータ様!」

同じくローブ姿のマルコも威勢よく返事した。

さっき再会した継母と義母弟に挨拶をし、とある交渉を持ちかけた。

承諾を受けてこの地下室の鍵を預かったというわけだ。

ジャコモ・スカルラッティの地下室。

立ち入りを禁止しており、誰でも簡単に入ることができない場所。

もしお父様がリーアに関して重大な秘密を隠しているとしたら、ここで間違いないだろう。

金色をした鍵を差し込むと、重たい扉が鈍い音を立てて開いた。

マルコと二人でランタンを持ち、無言で頷いて下へと繋がる階段を降り始めた。

中は薄暗く下に行くにつれひんやりと冷たい空気が流れてくる。

「さすがに暗いわね。一体どこまで続いているのかしら。」

「足元にお気をつけください。」

背後からマルコの気遣いを感じる。

私たちはなるべく歩くペースを合わせゆっくりと階段を下った。

突き当たりに広々とした部屋があった。

そばにランタンがあり、マルコが点灯する。

机の上にはいくつかの古い本や資料、地図などが無造作に置かれていた。

壁にはスカルラッティ家の家系図や先祖の似顔絵などが飾られている。

奥に進むと、階段があり木製の棚がいくつも立ち並んでいた。

禁書庫みたいな複雑さはないが、この中から探すのは一苦労しそうだ。

「マルコ。

打ち合わせ通り、『カルヴァリオス伯爵家』や、『奴隷売買書』と言った類の書類を見つけて。」

「了解です!」

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