Share

第二章:ロジータの掲げる正義

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-11-03 19:51:23

なぜ私が、スカルラッティ家でエルミニオと顔を突き合わせているのだろう。

あの時廊下で彼に遭遇したせいで、私はとっさに重要機密を自分の部屋に隠すしかなかった。

公爵家の私の部屋はそのままの状態で維持されていて幸いだった。

その時マルコに書類を託すから、エルミニオに見つからないよう密かに先に帰るようにと言ったが、彼は首を横に振った。

『俺はロジータ様の護衛です。

それに、エルミニオ様の目的が分からない以上、ロジータ様を一人にすることは危険です。』

そうきっぱり断ってきた。

確かにマルコの言うことも一理あった。

まるで私たちの動きが分かっていたかのようなエルミニオの訪問が、不気味としか思えなかった。

「スカルラッティ公爵に用事があって尋ねてきたんだ。

まさか不在だとは思わなくてな。」

応接間のソファに座るエルミニオは、相変わらず無愛想にティーカップのお茶を口にした。

かと思えばカップを置き、漆黒の髪をかき上げてから私を見つめた。

黒に繊細な刺繍の入ったダブレットに、モスグリーンのホーズ、革製のブーツ姿。

完全に外出用の礼服である。

確かに、窓から見渡すとスカルラッティ家の門前に王家の馬車が停まっていた。

「エルミニオ王太子殿下。

まさかお父様との約束もなく我が家に訪ねてきたのですか?

王族とはいえ、少々失礼だとは思いませんか。

それに、いくら何でも当主が不在中の邸宅に上がり込むなんて。」

私は彼の対面側のソファに座り、少々苛立ちながら言った。

顔には出さないがエルミニオの常識のなさに呆れている。

傲慢なこの態度が許せない。

「公爵夫人に通してもらったのだ。

お前にとやかく言われる筋合いはないな。」

エルミニオと少し離れて座る継母は、気まずそうに私から視線を逸らした。

彼女だって私たちには早くこの場を立ち去ってほしかっただろうに……。

だが立場的に弱い継母に、王太子の訪問を断ることはできなかっただろう。

「そうだとしてもです。

お父様は不在なのですから、殿下はそろそろお帰りになられてはどうですか?」

私は肝心のジャコモが帰ってくる前にこの邸宅を出たいのよ!

もし地下室から重要書類を盗んだと気づかれたら、私こそお父様に何をされるか分からないのだから。

いつも通り刺々しく言うと、エルミニオは露骨に不愉快そうな顔をした。

「ロジータ。

いくら解消したとは言え、俺たちは実に14年
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter
Comments (1)
goodnovel comment avatar
hime kichi
エルミニオ気持ち悪い。早く帰れよ!
VIEW ALL COMMENTS

Latest chapter

  • 悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜   第二章:ロジータの掲げる正義

    エルミニオの忠実な番犬、ルドルフォは燻んだ灰色の髪を揺らし、帯剣に手をかけた。「貴様!王太子殿下に刃向かうなど、言語道断だ!ルイス殿下の腰巾着が!」「……っく!ルドルフォ様。どうか理解して頂けませんか?俺はあくまでロジータ様をお守りしているに過ぎないのです!」二人の護衛騎士が睨み合うなか、エルミニオが一人だけ状況を楽しむかのように嘲笑う。明らかに立場的に弱いマルコを馬鹿にしている。本当に嫌な男だ!「マルコ、お願い。剣から手を離して。」彼なりに頑張ってくれているが、これ以上はマルコが本当に危ない。宥めるように言ったが、彼は頑なに首を横に振った。「ルイス様にロジータ様のことを頼まれたんです。ここで引くなどできません。」「マルコ。本当に私は大丈夫だから。」ルイスの忠誠心の熱い護衛騎士。正真正銘本物の騎士だ。誇らしくさえある。この貴重な人材を、エルミニオのせいで今ここで失うわけにはいかない。私はすうっと息を吸い込んで、エルミニオを冷たく見上げた。「分かりました。私が何をしていたのか殿下に教えます。ですからルドルフォを下がらせて下さい。」「ロジータ様!?」(大丈夫よ、マルコ。重要書類のことは絶対に言わないから)私が目配せすると、マルコは脱力したように肩をすくめた。「ルドルフォ、その男を見張っておけ。」「は!殿下!」暑苦しい返事をしたルドルフォが、再びマルコを目で威圧した。それを見てエルミニオが満足げに微笑する。そばにいた継母に軽く頭を下げると何食わない顔で告げた。「公爵夫人。今度はロジータのお部屋にお邪魔しますね。」「え、ええ、分かりましたわ。王太子殿下。」相変わらず立場の弱い継母は、何から何までエルミニオの言うなりだった。何がロジータよ、いい加減私を以前と同じように呼ぶのはやめなさいよ。それに私は一応ルイスの妻なのよ!密かに怒りを爆発させている私をよそに、エルミニオはマルコをルドルフォに牽制させて部屋を出ようとした。「殿下。部屋には私の護衛も連れて行きたいのですけれど。」「護衛は置いていく。また邪魔されては困るからな。」まさか私の私室に二人きりで向かうということ?そんな怖いこと了承するわけがない。一度私を殺そうとしたエルミニオを絶対に信頼できない。原作を考えると、この男にまた命を狙われるか

  • 悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜   第二章:ロジータの掲げる正義

    なぜ私が、スカルラッティ家でエルミニオと顔を突き合わせているのだろう。あの時廊下で彼に遭遇したせいで、私はとっさに重要機密を自分の部屋に隠すしかなかった。公爵家の私の部屋はそのままの状態で維持されていて幸いだった。その時マルコに書類を託すから、エルミニオに見つからないよう密かに先に帰るようにと言ったが、彼は首を横に振った。『俺はロジータ様の護衛です。それに、エルミニオ様の目的が分からない以上、ロジータ様を一人にすることは危険です。』そうきっぱり断ってきた。確かにマルコの言うことも一理あった。まるで私たちの動きが分かっていたかのようなエルミニオの訪問が、不気味としか思えなかった。「スカルラッティ公爵に用事があって尋ねてきたんだ。まさか不在だとは思わなくてな。」応接間のソファに座るエルミニオは、相変わらず無愛想にティーカップのお茶を口にした。かと思えばカップを置き、漆黒の髪をかき上げてから私を見つめた。黒に繊細な刺繍の入ったダブレットに、モスグリーンのホーズ、革製のブーツ姿。完全に外出用の礼服である。確かに、窓から見渡すとスカルラッティ家の門前に王家の馬車が停まっていた。「エルミニオ王太子殿下。まさかお父様との約束もなく我が家に訪ねてきたのですか?王族とはいえ、少々失礼だとは思いませんか。それに、いくら何でも当主が不在中の邸宅に上がり込むなんて。」私は彼の対面側のソファに座り、少々苛立ちながら言った。顔には出さないがエルミニオの常識のなさに呆れている。傲慢なこの態度が許せない。「公爵夫人に通してもらったのだ。お前にとやかく言われる筋合いはないな。」エルミニオと少し離れて座る継母は、気まずそうに私から視線を逸らした。彼女だって私たちには早くこの場を立ち去ってほしかっただろうに……。だが立場的に弱い継母に、王太子の訪問を断ることはできなかっただろう。「そうだとしてもです。お父様は不在なのですから、殿下はそろそろお帰りになられてはどうですか?」私は肝心のジャコモが帰ってくる前にこの邸宅を出たいのよ!もし地下室から重要書類を盗んだと気づかれたら、私こそお父様に何をされるか分からないのだから。いつも通り刺々しく言うと、エルミニオは露骨に不愉快そうな顔をした。「ロジータ。いくら解消したとは言え、俺たちは実に14年

  • 悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜   第二章:ロジータの掲げる正義

    私は久しぶりにスカルラッティ家に戻ってきた。ゴシック建築を取り入れた立派な邸宅はいつも人目を引いていた。近くにはやはり運河が流れ、行商船が頻繁に行き来する。少し曇り空のひんやりとした今日、ルイスはうまくジャコモを狩猟に連れ出してくれた。スカルラッティ家の持つ森は馬でも数時間かかる。二人はしばらく帰ってこないだろう。「マルコ。地下室の鍵を手に入れたわ。行きましょう。」私は動きやすいドレス姿に、濃い緑のローブを羽織っていた。「はい、ロジータ様!」同じくローブ姿のマルコも威勢よく返事した。さっき再会した継母と義母弟に挨拶をし、とある交渉を持ちかけた。承諾を受けてこの地下室の鍵を預かったというわけだ。ジャコモ・スカルラッティの地下室。立ち入りを禁止しており、誰でも簡単に入ることができない場所。もしお父様がリーアに関して重大な秘密を隠しているとしたら、ここで間違いないだろう。金色をした鍵を差し込むと、重たい扉が鈍い音を立てて開いた。マルコと二人でランタンを持ち、無言で頷いて下へと繋がる階段を降り始めた。中は薄暗く下に行くにつれひんやりと冷たい空気が流れてくる。「さすがに暗いわね。一体どこまで続いているのかしら。」「足元にお気をつけください。」背後からマルコの気遣いを感じる。私たちはなるべく歩くペースを合わせゆっくりと階段を下った。突き当たりに広々とした部屋があった。そばにランタンがあり、マルコが点灯する。机の上にはいくつかの古い本や資料、地図などが無造作に置かれていた。壁にはスカルラッティ家の家系図や先祖の似顔絵などが飾られている。奥に進むと、階段があり木製の棚がいくつも立ち並んでいた。禁書庫みたいな複雑さはないが、この中から探すのは一苦労しそうだ。「マルコ。打ち合わせ通り、『カルヴァリオス伯爵家』や、『奴隷売買書』と言った類の書類を見つけて。」「了解です!」

  • 悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜   第二章:ロジータの掲げる正義

    私とルイスは、ジャコモの断罪に向けて本格的に行動を開始することにした。原作の知識でリーアの出自である伯爵家の家門名は特定できた。『カルヴァリオス辺境伯』だ。リーア・カルヴァリオス。それがリーアの本名だ。王都からかけ離れた辺境にあった家門だから、ルイスたちに認知されていないのは当然だ。「確か原作では、リーアの家門が王家に謀反の罪を働いたという理由で破門に追い込まれたはずよ。それにお父様は、自分の悪事が暴かれる前に『偽の王命書』を使って伯爵邸に押し入り、リーアの家族を粛清したはずだわ。唯一生き残ったリーアはお父様によって奴隷商に売り飛ばされた……」「そうか。だから王家にリーアの家門の記録が残されていなかったんだな。父上は自分に刃向かった者には容赦なかったから。つまりジャコモは王家すらも欺いたというわけだな……卑劣な男だ。」ルイスの意見は最もだ。それも、この世界の実の父親がしたことだと思うと悍ましくもある。私は何も知らずに呑気に……いつものようにランタンが灯った寝室で、私とルイスは秘密を共有し合った。「謀反扱いでリーアの家門が王国から抹消されているなら、ここで証拠を見つけるのは難しいと思うの。だから私は、お父様が秘密を隠していそうなスカルラッティ家の邸宅を調べるわ。」「それなら俺も一緒に行こう。」「いいえ。ルイスには他にしてほしいことがあるの。私が邸宅で調査をする当日、お父様の目を逸らしていてほしいの。そうね……親睦を深めたいと言って、お父様を狩猟にでも誘ってほしい。お父様も王子であるあなたの誘いは断れないはずよ。その間に私は証拠集めをするわ。」「……!分かった。じゃあその間にお前にはマルコを護衛につけよう。」「助かるわ。それなら、ルイスにはお父様のことを頼むわね。」

  • 悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜   第二章:エルミニオは不愉快な感情を知る

    俺は舌打ちをし、手紙を暖炉の中に放り投げた。これだけ愛の言葉を送っておきながら、ロジータはもう俺を愛していないという。「俺にこんな手紙を送っておきながら……!あっさりとルイスに靡くなんて!」苛立ちながら俺は全ての手紙を暖炉の中に次々と投げ入れた。燃やし尽くしたかった。そうだ、これでいい。ロジータに関することを消してしまえばいい。だがふと、俺は最後に残った手紙を燃やすのをためらってしまう。《エルミニオ様———私は一生あなたを愛し続けます。私が王太子妃になったらあなたを懸命に支えていきます。》そこには、かつて熱心に俺を愛してくれていたロジータの気持ちが込められていた。変わってしまったのは俺か、ロジータか?手紙を眺めていると、脳裏に幼い頃の二人の姿が蘇ってきた。あの頃の俺とロジータはお互いに心から信頼し合っていたな。将来結婚するのを微塵にも疑わなかった。一体何がここまで二人を変えたんだ?何がこれほど俺を不愉快な気持ちにさせるのか。いや……待てよ。道から外れたのがこの不愉快さの原因なら。一度原点に帰るべきじゃないか?「そうだ……。ロジータは王太子妃になるのが決まっていた。ずっと決まっていたことじゃないか。例え俺の運命の相手が、『星の刻印』の相手がリーアだとしても。いくら俺がリーアを愛していても。予定通りに、ロジータは王太子妃になるべきじゃないのか?」そうすれば全て元通りじゃないか。ルイスに奪われる必要もないし、スカルラッティ家の権力も俺の手の中に戻ってくる。俺とロジータの関係も元通りだ。考えてみれば、なぜ争う必要があったんだ?俺の隙をついてロジータを奪ったルイスが悪いんじゃないのか?「そうだ。ルイスが悪い。あいつが俺のものに手をつけた

  • 悪役令嬢は星に誓う〜婚約破棄と契約結婚で愛と運命を逆転させる〜   第二章:エルミニオは不愉快な感情を知る

    それに二人が結婚式を挙げた直後から、貴族たちの動きが慌ただしくなっている。ユリには中央貴族たちを中心に、ダンテには地方の領主たちに不審な動きがないかを探ってもらっている。スカルラッティ家の後ろ盾を失った今、四方八方に気を配っておかなければならない。いつ弱点を狙われ、王太子の座を奪われてしまうか分からないからだ。「やはり第二王子派の動きが活発になっているようですね。ここぞとばかりに、ルイス様を王太子の座に押し上げようと狙っているようです。」ユリが調査報告をしに執務室を訪れた。その顔はどこか物憂げだ。「やはりそうか。今後も注意深く見張っていてくれ。それで、ルイスやロジータに何か動きは?」「いえ、今のところ特には。」「変だな。そろそろルイスが本格的に何かしてきてもおかしくないのに。」腹黒い俺の弟、ルイス。これまで俺の後ろで従順なフリをしていたが、ついに本性を表した。あいつは俺の婚約者であるロジータを奪ったのだ!スカルラッティ家の後ろ盾を得るために!だが……予想に反してルイスが表立って何かを仕掛けてくるということはなかった。「まさか本当に恋愛結婚だとでも言うのか……?は!笑わせるな!」俺は思わず、机の上にあった未記入の羊皮紙をグシャリと握りつぶした。そんなはずない。心臓を突き刺されたあの瞬間でさえ、ロジータは俺に愛を乞うていたじゃないか……!「エルミニオ様。今宮廷では、二人のラブロマンスが囁かれています。“王太子”に裏切られたロジータ嬢、ルイス殿下によって真実の愛を知る。または、ルイス第二王子とロジータ第二王子妃は初夜の日ずいぶんと激しく愛し合った……」ドン!と俺は机を激しく叩いた。「そんな話は聞きたくない!」俺が不機嫌になるとユリは

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status