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愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました
愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました
مؤلف: 霜月イヅミ

1.冷徹な契約

مؤلف: 霜月イヅミ
last update تاريخ النشر: 2025-07-01 15:34:07

 私の名前はセリーナ・フェルティア。公爵令嬢である。

 由緒正しきフェルティア公爵家の一人娘として生まれた私は、物心ついた頃から「政略結婚」という二文字を運命として受け入れていた。それが貴族というものだ。特に不自由なく暮らしているのだから、その程度の覚悟はとうに決めていた。

 けれど、まさか相手が彼だとは。

「お前に、愛は与えない」

 冷たく言い放ったのは、私の婚約者となるアシュトン・ヴァルター公爵。黒曜石のような瞳と、彫刻のように整った顔立ちを持つ彼は、まさに絵画から抜け出してきたような美しさだった。だが、その美しさとは裏腹に、感情の欠片も感じさせない冷徹な雰囲気を纏っている。〝氷の公爵〟と呼ばれる所以だ。

「……承知しております」

 私の返答は、きっと誰もが予想したものだっただろう。政略結婚なのだから、愛などなくとも構わない。そう教えられてきたのだから。

 王家からの圧力により、急遽決まったヴァルター公爵との婚約。名門同士とはいえ、ヴァルター公爵家は代々、王家と距離を置くことで知られていた。そんな彼が、どうして私との結婚を受け入れたのか、周囲は誰もが首を傾げたものだ。

 公爵邸での顔合わせの日、私はヴァルター公爵の執務室に招かれた。

「初めまして、セリーナ・フェルティアです。この度は、大変光栄なご縁を賜り――」

 私が型通りの挨拶を述べようとすると、彼は私の言葉を遮った。

「無駄だ」

 その一言に、私はぴくりと眉を上げた。けれど、すぐに表情を取り繕う。

「……はい」

「単刀直入に言う」

 彼の声は、まるで凍てつく冬の風のようだった。

「この結婚は、純粋な政略だ。貴様が愛を求めるのであれば、今すぐにでも破談にする」

「愛を求めるつもりはございません」

 間髪入れずに答える。彼の言葉に、ほんの少し苛立ちを覚えたのは事実だ。私だって、望んでこの結婚を選んだわけではない。けれど、フェルティア公爵家の娘として、与えられた役目を果たすのが私の使命だと思っていたから。

「そうか」

 彼はつまらなさそうに頷いた。

「ならば良い。俺は、貴様に愛など与えぬ。求めるな。そして、俺に余計な干渉もするな」

 彼の言葉は、まるで私に釘を刺すようだった。これほどまでに、露骨に愛がないことを宣言されるとは。もちろん、政略結婚に愛を期待していたわけではない。けれど、ここまで言い切られると、胸の奥がチクチクと痛むのを感じた。

「ええ、承知いたしました」

 私は精一杯、淑女らしい笑みを浮かべてみせた。

 その日から、私とヴァルター公爵の奇妙な婚約期間が始まった。

 週に一度、公爵邸を訪れるのが私の役目だった。けれど、そこで彼と会話を交わすことはほとんどない。せいぜい、挨拶を交わす程度だ。

 公爵はいつも執務室に閉じこもっているか、騎士団の訓練に熱中しているか。社交の場に顔を出すことも滅多になく、私のことは完全に無視しているようだった。

 周囲からは、「冷遇されている」とか「かわいそうに」などと囁かれることもあった。

 けれど、私は何とも思わなかった。いや、思わないようにしていた、と言った方が正しいかもしれない。

 だって、彼が私に愛を与えないのと同じように、私も彼に愛を抱いてはいなかったから。

 政略結婚なのだから、それでいいのだと自分に言い聞かせていた。

 ある日、公爵邸の庭園を散策していると、珍しく彼が訓練をしている姿を見かけた。

 鋭い剣さばき。研ぎ澄まされた動き。まるで、獲物を狩る猛禽類のようだ。

 彼の姿に見惚れていると、不意に視線が合った。

 その瞬間、彼の表情は一層険しくなったように見えた。

「何をしている」

 冷たい声が飛んでくる。

「庭園を散策しておりました」

 私は慌てて答えた。

「俺の邪魔をするな」

 彼はそう言い放ち、再び剣の訓練に没頭した。

 私は、その場に立ち尽くすしかなかった。

 彼は私を鬱陶しいと思っている。邪魔だとさえ思っている。

 彼の視線には、私への興味の欠片もなかった。

「愛がないなら、結婚する意味なんてないじゃないですか?」

 ふと、胸の奥からそんな言葉が湧き上がってきた。

 今までずっと、政略結婚だからと割り切ってきたはずなのに、彼のあまりの冷たさに、私の心は少しずつ摩耗していたのかもしれない。

 この結婚は、私にとって何なのだろう?

 私は一体、何のためにこの公爵邸に足を踏み入れているのだろう?

 そんな疑問が、私の心を支配し始めた。

 そして、その疑問は、やがて確信へと変わっていく。

「私、この結婚、破棄したい」

 これは、私が密かに抱き始めた、小さな反逆の始まりだった。

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  • 愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました   9.王妃選定試験

     陛下の突然の来訪、そして私を次期王妃候補とする命令は、私の日常に大きな波紋を投げかけた。 アシュトン様は、私を王妃選定試験に参加させまいと、ますますその執着を強めた。公爵邸は、まるで私を閉じ込めるための厳重な檻と化したかのようだった。「セリーナ、今日は外出しないのか?」 朝食の席で、アシュトン様が私に尋ねた。彼の視線は、私の行動を常に探っているかのようだった。「はい。今日は、公爵邸の図書室で過ごそうかと」 私がそう答えると、彼は満足げに頷いた。「賢明な判断だ。外は騒がしい」 彼の言葉に、私は息苦しさを感じた。彼は、私が自主的に公爵邸に留まっていると思っているのだろうが、実際は彼の監視下から逃れることができないだけだ。 しかし、王妃選定試験への参加は、王命である。私が拒否すれば、フェルティア公爵家が危うくなる。 私は、アシュトン様の目を盗んで、父に手紙を送った。王命に背くことはできない、と。 数日後、父からの返信が届いた。そこには、王妃選定試験には必ず参加するように、という指示が書かれていた。そして、アシュトン様には、私が王妃選定試験に参加せざるを得ない状況であることを、それとなく伝えるように、とも。 私は、手紙を読み終えると、覚悟を決めた。 私は、王妃選定試験に参加する。それが、私の使命だ。 その夜、私はアシュトン様に、王妃選定試験に参加する旨を伝えようとした。 夕食の席で、彼がデザートに手を伸ばした時、私は意を決して口を開いた。「アシュトン様。私、王妃選定試験に参加させていただきます」 私の言葉に、アシュトン様の手がぴたりと止まった。 彼の顔から、一瞬にして血の気が引いていくのが見えた。 そして、ゆっくりと顔を上げ、私を射抜くような視線で睨みつけた。「……何を言っている?」 彼の声は、低く、そして怒りに満ちていた。「陛下からの命令でございます。フェルティア公爵家として、王命に背くことはできません」 私がそう言うと、アシュトン様は立ち上がり、テーブルを

  • 愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました   7.秘密の部屋

     アシュトン様が私に見せる歪んだ執着は、公爵邸での私の生活を大きく変えた。 私は彼の監視下にあるような息苦しさを感じつつも、彼が私にだけ見せる、微かな人間らしい感情の片鱗に、抗えない興味を抱き始めていた。 そんな中、私はある日、公爵邸の裏庭にある古びた離れに、ふと足を踏み入れた。普段は立ち入り禁止になっている場所で、使用人たちも近づかない不気味な雰囲気の場所だった。 好奇心に駆られ、私がその扉を開けると、そこには思いがけない光景が広がっていた。 埃を被った家具の数々、古びた肖像画。そして、壁にはびっしりと、色とりどりの植物の押し花が飾られていた。 それは、まるで時が止まったかのよう

  • 愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました   6.秘められた過去

     アシュトン様の、私への歪んだ執着は、日を追うごとに巧妙になっていった。 彼は私に「自由」を与えると宣言しながらも、その実は、見えない鎖で私を縛りつけようとしていたのだ。 社交の場には、彼の護衛が必ず同行するようになった。彼らは私を影のように見守り、私が誰かと長く話し込めば、さりげなく会話を遮り、私を彼の元へと連れ戻そうとする。 友人たちも、私の変化に気づき始めていた。「セリーナ、最近、ヴァルター公爵の執着が噂になっているわ。大丈夫なの?」 親友であるリーゼロッテが、心配そうに尋ねてきた。「ええ、大丈夫よ。アシュトン様は、私に興味を持ってくださっただけだから」 私は努めて明るく

  • 愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました   3.動き出す執着

     アシュトン様の呟きは、重い沈黙となって執務室に広がった。 その間、私は彼から視線を逸らさなかった。彼の言葉に動揺を見せないように、という私の最後の意地だった。 契約破棄の同意書に目を落としたままの彼は、まるで時が止まったかのように微動だにしなかった。その横顔は、普段と変わらない冷徹さを保っているように見えたが、私には確信があった。彼の内側で、何かが確かに動き出している。「……セリーナ」 やがて、アシュトン様が、私の名を呼んだ。 それは、今まで聞いたことがないような、少しだけ掠れた声だった。「貴様が、本当にこの婚約を破棄したいと?」「はい。私の意思は固うございます」 私は、き

  • 愛がないなら結婚する意味ないじゃないですか?と契約破棄したら、冷徹公爵が私に執着し始めました   2.決意の破棄

     その日、私は公爵邸の図書室にいた。 普段は滅多に人が訪れない、静かで落ち着く場所だ。埃一つない書架には、貴重な書物がずらりと並んでいた。 そこで私は、とある一冊の恋愛小説を読んでいた。身分違いの二人が、数々の困難を乗り越え、真実の愛を育んでいく物語。登場人物たちの情熱的な言葉や、互いを想い合う気持ちが、私の心を強く揺さぶった。「馬鹿げている」 読み終えた時、そう呟いたのは自分自身だった。 愛なんて、貴族の政略結婚には必要ない。そんなことは、頭では十分に理解している。けれど、心はどうだろう? 毎日のように突きつけられる彼の冷淡な態度。まるで空気のように扱われる日々に、私の心は悲鳴を

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