Masuk息子の哲也(てつや)が幼稚園から拉致された。 見つかった時、彼の小さな体には時限爆弾が仕掛けられていた。 私は安井薫(やすい かおる)。夫の伊藤一輝(いとう かずき)は、全国トップクラスの爆発物処理の専門家だ。 一輝は急いで現場に駆けつけた。 私は車内で、モニター画面をじっと見つめていた。 画面には、頭に粗末な麻袋を被らされ、全身が激しく震えている哲也が映っている。 一輝の初恋でありアシスタントでもある夏目奈々(なつめ なな)も現場に入っていた。 彼女は爆弾処理に行きたいと言い出した。 「一輝さん、私にも爆弾処理を手伝わせて!私だって、一輝さんのように人を助けたいの!」 一瞬の沈黙の後、一輝は優しい微笑みを浮かべた。 「落ち着いて。赤い線を切ってくれ。万一の時は、俺が責任をもつ」 奈々は覚悟を決めたように、ハサミを手に取った。 一瞬のためらいもなく、彼女はあの青い線を切った。 次の瞬間、爆弾のカウントダウンが、10分から一瞬で残り10秒へと切り替わった! 一輝と奈々は表情を一瞬で変え、パニック状態でその場から逃げ出そうとした。 私は焦り、哲也の元へ駆け寄ろうとした。 その時、小さな手が私の裾を引っ張った。 「ママ……パパが翔太(しょうた)をきっと助けてくれるよね……?」 ふと我に返ると、なんと私のそばに、哲也が立っていることに気づいた。 突然、今朝哲也が言ったことを思い出した。 「ママ!翔太が今日、どうしても僕と服を交換したいって言うんだ。僕の服の方がかっこいいって!」 翔太は奈々の息子、つまり哲也の腹違いの弟である。
Lihat lebih banyakやはり、私の予感は的中していた。一輝が消えてから36時間後、警察の捜査にも疲れが見え始め、誰もが彼はすでに三崎市から脱出したと思い始めた。まさにその時――一輝がついに姿を現した。その日、私は哲也を実家の両親に預けていた。一輝は実家に侵入し、哲也を連れ去ったのだ。彼は知らない番号から私に電話をかけてきた。受話器の向こうからは、狂気じみた声が響いてきた。「薫!東町の廃ビルに来い!一人で来ること!そして俺に対するすべての訴えを取り下げろ!さもなければ……今度こそ、子供を失う思いを味わわせてやる!」彼は、自ら爆弾を仕掛けたあの廃ビルで、私と決着をつけようとしていた。電話を切るとすぐに、守に連絡した。守は直ちに緊急対応を開始し、東町一帯を封鎖した。相手は全国トップクラスの爆発物処理の専門家であり、狂気に駆られた一輝である。無理な突入は最悪の事態を招きかねなかった。私は一人でその廃ビルへと向かった。一輝は哲也を柱に縛りつけていた。哲也の周囲は、一輝が自ら製作した、極めて複雑な連動仕掛けの爆弾で埋め尽くされていた。一輝の顔は狂気で歪んでいた。だが私は少しも慌てず、静かに問いかけた。「あなたは、勝ったつもり?哲也の命で私を脅せる、逆転できると思っているの?」彼は一瞬、たじろいだ。私は首を振り、目にはむしろ哀れみの色さえ浮かべた。「何に負けたのか、まだ気づかないの?一輝、あなたはほんとの自惚れ屋なのよ。ずっと、『自分は誰よりも凄い、世界の中心は自分だ』って思ってきたでしょでも、その能力で罪のない人を傷つけた時点で、もう誇りなんかじゃない。それはあなた自身を滅ぼす落とし穴でしかなかったのよ」私は床に落ちていたハサミを拾い上げた。様々な色の線には目も向けず、ほこりを被った一見関係なさそうな別の配電盤へ歩み寄った。「かつて、このビルはあなたのキャリアの中で最も完璧な爆破作品だと、私に話してくれたことを覚えている?」彼の顔の笑みがこわばった。私は続けた。「忘れたの?あなたは、このビルが自分の最高『傑作』だって自慢してたわ。トップ級の専門家しかわからない巧妙さがあるって。どこに仕掛けたか、どこが爆破ポイントか、目を閉じていてもすべて頭に浮かぶほど完璧に覚えているって。
守は直ちに最高レベルの緊急対応を開始した。「市内全域を封鎖しろ!」指揮本部で、守の命令は電波に乗り、市の隅々まで伝わった。「全ての出入口、高速道路のインターチェンジ、駅、空港に、最高レベルの検問を設置せよ!伊藤の写真と情報を、至急全警察官の端末に配信せよ! 発見次第直ちに逮捕せよ!」巨大な電子地図上で、警察力を示す赤い点が、市内の各交通結節点に素早く集結し、包囲網を張り巡らせていく。「伊藤のデジタル記録を徹底的に調べ上げろ!カード、SNSアカウント、通信履歴など、少しでも怪しい動きがあれば即時報告だ!それと、伊藤の人間関係をすべて洗い出せ!伊藤が潜伏している可能性がある場所全てに見張る人員を配置しろ!」指揮センター全体が張り詰めた空気に包まれ、全員がフル回転する精密機械のようだった。しかし、まる十二時間が経過しても、何の手がかりも得られなかった。一輝は、この世界から跡形もなく消えていた。彼はどの電子端末も使わず、友人にも一切連絡を取らない。警察は、得られた情報をもとに、彼が逃走時に捨てた囚人服と盗まれた車を発見した。だが、全ての手がかりは、複雑な下水道設備の入り口で、ぷつりと途絶えていた。彼は三崎市の地下通路に関する知識を利用した。地下に潜む鼠のように消え、最も複雑な場所に身を隠すことで、捜査網を見事にかいくぐったのだ。指揮センターの空気は、極限まで重くなった。彼らが直面しているのは、普通の犯罪者ではない。冷静で狡猾、しかも捜査側を熟知した一流の専門家なのだと。一輝は得意の手口で、警察を手玉に取っていた。その間、私は家で待っているだけではなかった。私は哲也を連れ、守が手配した最高警備レベルのセーフハウスに身を寄せていた。巨大な激しい感情の揺れを経た後、私はやっと冷静になっていた。一輝の本性は、私が誰よりも見抜いていた。彼は重度の「自己愛性人格障害」だ。ひっそり逃げるはずがない。彼は必ず、派手な「最後の大勝負」を計画するに違いない。そしてその舞台の主役は、必ず私と、私の唯一の弱点――哲也だろう。私はセーフハウスに座り、同様に巨大な地図を広げていた。私は警察がマークした主要道路には気にせず、見過ごされやすい隅に視線を向けた。赤いペンを手に取り、地図上
一輝の手には冷たい手錠をかけられていた。囚人の身でありながら、歪んだ自尊心だけは手放さなかった。「俺と薫は夫婦だ。これはただの家庭内のトラブルだ。黒崎隊長は部外者だろう?ここまで熱心に調査するのは、おかしいと思わないか?」守は一輝の挑発には応じず、一枚の書類を彼の前に差し出した。「こちらは薫の傷害診断書だ。頭部は重度の脳震盪、全身に二十数か所の軟部組織損傷、軽度の内出血が認められる。これがお前の言う『家庭内のトラブル』か?」一輝の顔が一瞬にして青ざめた。守は言葉を続けた。「お前が平然と夏目と不倫していた頃、薫は懸命に資産を管理していた。毎年利益の七割以上を、お前の倒産寸前だった『伊藤セキュリティ株式会社』にこっそり注ぎ込み、今日の業績を支えていた。これでもまだ『家庭内のトラブル』と言い張るのか?」一輝は声も出ず、疑うような眼差しを浮かべた。守は冷ややかに笑った。「お前は知らないだろう。小賢しいことしかできず、ただ自分の脆い自尊心を守ることしか考えていないからな。お前を愛した薫を、徹底的に利用し、最後には捨てるつもりだったんだ」彼は録音データを机に置き、再生ボタンを押した。そこからは、私が電話で全てを語り、もだえ苦しむ声が流れた。守は一輝を睨みつけ、抑えきれない怒りを込めて言った。「お前は自らの手で、かつてあれほどお前を信じていた薫を、こんな姿に追い込んだんだ!お前は彼女を台無しにしただけでなく、爆発物処理の専門家としての誇りも汚した!」録音される私の引き裂かれるような声を聞き、守の目に隠しようもない軽蔑と怒りを認めた一輝の堪えていた感情が一気に崩れ落ちた。もはや言い逃れもせず、強がりも見せず、ただ頭を抱え、檻の中の獣のように、嗚咽しながら泣いた。彼らの行く手に待ち受けるのは、法の定める究極の制裁であった。拘置所で、一輝は弁護士を通じて、無期懲役の可能性を知らされた。自分を守るため、奈々は既に全ての罪を主犯である彼に押し付けていた。彼は絶望の淵に沈んだ。絶望の中、彼はふと、自分の唯一の取り柄を思い出した。――自分の専門能力。三崎市の地下通路から建築構造、警備システムに至るまでの知識と、拘置所内で観察した警備の盲点……これらの全てを利用して、大胆な脱獄
私は哲也を抱き、ソファに座っていた。何時間も緊張し続けていた神経が、ようやく少し緩んだが、今度は体が、もう止められないほど激しく震え出した。これは、恐怖のためではなく、胸にたまりにたまった怒りと悲しみのためだった。私が最初にしたことは、ずっと覚えていたあの番号に電話をかけることだった。電話はすぐに繋がった。受話器の向こうから、落ち着いて、気遣いのこもった声が聞こえた。「薫、どうした?」聞こえたのは、幼なじみの黒崎守(くろさき まもる)の声だった。彼は今、警察官をしている。彼の声を聞いた瞬間、憎しみと冷たさで満たされてきた私の心は、ようやく柔らかくなった。私の声には、初めて、嗚咽が込み上げてきた。「守……私、薫よ……」守は私の様子がおかしいことに気づいたようだった。彼の声は一瞬で緊迫した。「薫、今どこにいる?大丈夫か?また一輝が何かしたのか?」私は深く息を吸い、わかりやすく説明しようと努めたが、震える声はやはり私の感情を裏切った。「一輝が……奈々と……哲也を殺そうとしたの……翔太くんは……死んでしまった……」私はできるだけ平静な口調で話した。奈々が自ら拉致を計画したと認めたことから始まり、一輝の職務を怠ったことと指揮ミス。そして、二人が遺体を侮辱し、ライブ配信で私に濡れ衣を着せようとしたことまで、すべてを伝えた。私が一言話すたびに、守の息遣いが荒くなるのを感じた。すべてを話し終えた時、電話の向こうで長い沈黙が続いた。あまりの怒りに、彼が無意識に拳を握りしめて、骨の節が「ギリ」と軋む音まで聞こえた気がした。しばらくして、ようやく守の声が戻ってきた。「わかった。もう大丈夫だ」その声は、極限の怒りを押し殺しつつも、プロとしての冷静さを保っていた。「どこにも行くな。哲也と一緒に家で待ってろ。スマホの位置情報を有効にしておけ。すぐに同僚を連れて向かう。今からは、俺が薫と哲也を必ず守る。安心しろ。あとは、俺に任せろ」一時間も経たぬうちに、数台のパトカーが到着し、私の住む一帯を幾重にも包囲した。守自身が指揮を執り、殺人未遂や共謀による拉致、それに遺体損壊などの容疑で、外で暴れてドアを破壊しようとしていた一輝と奈々を逮捕した。冷たい手錠をかけられる瞬間、一輝はま