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【第5話】契約①(とあるイキモノ・談)

ผู้เขียน: 月咲やまな
last update วันที่เผยแพร่: 2025-11-26 14:41:21

 気を失っているのか、瞼を閉じている少女から溢れ出した血が周囲の地面を真っ赤に濡らしている。木々の隙間から差し込む茜色の夕日が彼女の体を染め上げ、遺体にも似た姿を一層綺麗に飾っていた。呼吸は浅く、時々途切れてもいる。後頭部にはヒビが、背骨を含む全身の骨が折れているし、内臓も当然破損しているだろう。ほぼ平坦なこの地域で、滅多に無い崖から落ちるだなんて……。運がいいの悪いのか。

 崖上ではコボルト達がやり場のない怒りに震えて叫んでいる。『煩いからアレも処分しておこう』と決め、僕は瞬時に、数多く居たコボルト達をあの三人の人間達と同じように影の中に沈めて喰らっておいた。

 少女は今にも事切れる寸前である。だが体は『死んでたまるか』と主張するみたいに、勝手に回復し続けているみたいだ。だが、もう彼女の魔力はすっかり枯渇していて、足りない分は無理矢理魂を削りながら得ている状況にある。そんな事をしたって回復しきれない程に少女の体は破損しているから無駄な行為でしかないのだが、自覚アリでやっている感じではないから、本人も止めようがないといった所か。

 このまま放置しておくと、この少女の形成している全てが消え去り、転生する機会すらも無くなるだろう。

(あぁ、僕にとって、何て都合が良いんだろうか)

 瀕死であれば心に付け込み易いはずだ。『生きたい』と、藁にも縋る思いだろうからな。

 少女の影の中に潜み、少しだけ彼女の回復能力を高める魔法をかけてやる。せっかく見付けた逸材だ、死んでしまっては面白くないからな。

 ——五分程経過しただろうか。

 少女は激しく咳き込みながら血を吐き出しはしたが、一命は取り留めたみたいだ。だがまだ体はまともには動かず、夕日は刻々と沈み続けている。春先の風は次第に冷たさを持ち始めているし、大量に流した血の臭いを嗅ぎつけた夜行性の獣達が此処まで来るのも時間の問題だと、きっと少女の頭の中は不安でいっぱいなはずだ。内臓の破損は早急にどうにかしたみたいだが骨を再生するには魔力が足りず、痛みを麻痺させ、呼吸を辛うじて回復させたくらいでは安全な場所に隠れる事も出来ない。まさに、四面楚歌と言えるこの状態なら……。

『僕が、アンタを助けてやろうか?』

 突然聞こえた声にも関わらず、少女は何故か「……ふふっ……」と力無く笑った。その反応に面食らい、しばらく様子を伺っていると、今度は「コレが、“幻聴”かぁ……」だなんて、虚な目で空を見上げて呟いた。

「お花畑とか、三途の川も、そのうち見えたり……する、のかなぁ。対岸にお迎え……来てくれるとしたらリアンかな。あ、でも……リアンまだ生きてるや」

 ははっと短く笑い、少女が瞼を閉じようとする。僕の声が聴こえはしたみたいだが、側に何かが居るという発想にはなれていないみたいだ。

『幻聴じゃないぞ。酷い怪我だな、上から落ちたんだろう?僕が助けてやろうか』

「……え?」

 瞼を少し開け、少女は周囲を見ようとしたが体はまだ動かない。また、都合の良い幻聴だと切り捨てられる前に僕は、言葉を畳み掛けた。

『実はね、僕は他者の能力を高める魔法が使えるんだ。今の君にも少しだけその魔法を掛けてある。そのおかげで今は回復魔法を多少は使えているだろう?だけど、このペースのままなら全快するまでには何日も必要だろうね。もっとちゃんと助けてあげたい気持ちはあるんだけど、今のままではこれが限界なんだ。このままだと、ずっと野晒しのまま動けず、水も無く、食糧も持っていないし、血の臭いに気が付いた獣も寄って来ちゃうかもしれないなぁ。……こんな所で死にたくはないだろう?僕のお願いを聞いてくれるなら助けてあげてもいいけど、どうする?』

 真実に少しの嘘を混ぜた。一気にちゃんと回復させる手助けをしてやる事なんか僕には余裕だが、それだと僕の話を聞かずに逃げる可能性もあるからだ。

 ぼんやりと耳を傾けていた少女の口がゆっくり開く。『わかった、死にたくないし』とでも言うのかと思っていたけど、彼女の口からは予想外の言葉が出てきた。

「……別に。目を開けたらまだ生きていたから、仕方なく生きているだけだし、なぁ……」

 ボソッと呟く声はきっと本心だ。自分に有利な状況を引き出そうとしているとか、そんな駆け引きをしたい感じじゃない。

「あ、でも……リアンが保育所で待ってるから、お迎え……行かないと、か」

 声が途切れ、ちょっと思案しているみたいな間を置いてから、「お願いしよう、かな。早くお迎え行かないと、延長料金かかっちゃう」と言い、少女は力無く笑った。

(——は?まだ生きたい理由が、『保育所へのお迎えの為』って……。一体どんな生活をしているんだ、コイツは)

 まぁいい。そんな事は僕には関係の無い話だ。気持ちを切り替え、話を続ける事にする。

『僕からの“お願い”の内容も聞かずに決めて良いのか?』

「んー……選択の余地は、なさそうだし」

 自分の置かれた状況を把握しているのか、全て無条件で受け入れる気のようだ。

『まぁ、そうだね。僕が立ち去ればアンタは確実に死ぬ。回復しきる前に、獣か大自然に負けるだろうね』

 一度目を閉じ、少女が再び瞼を開ける。僕の言葉をきちんと受け止めようとしているような雰囲気だ。

「うん、だと思った。……ワタシは、アナタに何をしたらいいの?」

『僕と、契約を結んで欲しいんだ』

「契約……?」

『アンタが回復能力を持っているように、僕は補助魔法が得意なんだ。契約してくれれば僕は、アンタの能力を無尽蔵に引き上げてやろう。そうすれば一瞬でその怪我も治せるし、今後も色々役に立つだろう?』

「……そんな事をして、アナタに、メリットはあるの?」

 胸が苦しいのか、少女の言葉が途切れ途切れだ。傷は塞がり、血は止まっているみたいだが、既に失った血液の量が多いから夕日を浴びても誤魔化せていない程に顔色が悪い。

『もちろん、ある。——実はね、僕は姿を持たない存在なんだ。今だって、声しか聴こえてはいないだろう?』

「……そう、だね」

『他者と契約を結ぶ事で僕は相手の想像力を借り、体を手に入れられるんだ。自慢じゃないが、色々多才な僕だけど、コレばっかりは人様を頼る他なくってね』

「成る程……」

 納得したのか、少しだけ彼女の首が動いた。無意識に頷こうとしたみたいだ。

「お互いに、助け合う感じの約束なんだね」

『……まぁ、そうとも言える、かな?』

 そんなふうに受け取った相手は今までいなかったから、拍子抜けしてしまう。善人の発想が僕には理解出来ない。

「ワタシは“ルス”っていうの。ねぇ、アナタの名前は?」

 突如された質問に驚き、『な、名前?』と発した声が裏返る。

「契約して助け合うなら、これからは一緒に居る事になるのかな?と思って。呼ぶにしても、名前を知らないと困るでしょう?」

(僕が自我を持ってから、初めて名前を訊かれたな……)

 今までに、契約相手から『お前は何者だ?』くらいは問われる事もあったけど、ちゃんと“個”としての名前を訊かれたのは、永く生きてきたのに初めての経験だった。契約前は姿を表す事さえも出来ないような存在だ。そんな相手の呼び方なんかどうだっていいのだろう。だから僕は、『お前』とか『アンタ』などと呼ばれる事に抵抗も無かったし、当たり前だとさえ思っていたんだ。

 なのに、この少女は僕の名前を訊いてきた。

 そのせいか、自分の深い部分がじわりと熱くなり、とんでもなく不快だ。頭に血が昇る錯覚まで感じてしまう。だけど……心の片隅で、ちょっとだけ『嬉しい』と思う自分が確かに存在した事は認めておこう。到底受け入れ難い感情ではあるが、それを認める事により得られる成長もあるのだから。

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