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教会の離婚説明、マルグリットの実家

ผู้เขียน: yumemado
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-13 08:11:45

教会の控え室。

古い木の机の前で、司祭が書類をめくっていた。

「では……白い結婚の解消について、あらためてご説明しますね」

淡々とした声だったが、どことなく優しい。

テオドールは正面で座り、表情を引き締めている。

ただ、その目には疲れと焦りが滲んでいた。

「白い結婚というのは、形式上の結婚です。

 三年間、夫婦としての交流がない場合――婚姻は自然に無効になります」

司祭は紙をそっと置いた。

「奥さまは、三年間ずっとお一人でした。

 姿を見せず、手紙も送らず、声もかけないとなれば……

 神様から見ても“夫婦ではなかった”と判断されるのは当然です」

テオドールの喉が動く。

「……つまり、私はもう夫ではないと?」

「はい。すでに正式に解消されています」

短く、しかしはっきりとした返事だった。

しばらく沈黙が続く。

その後、司祭は書類を整えながら、ふと問いかけた。

「三年も会いに行かなかったのに……

 今になって奥さまを探されるのは、どうしてでしょう?」

テオドールは息を飲んだ。

「……放置したつもりはなかった」

「ですが奥さまから見れば、三年間“夫として存在しなかった”わけです。

 どんな理由があっても、結果だけは変わりません」

司祭の声はやわらかいのに、言葉は鋭かった。

紙を閉じる音が静かに響く。

「もうひとつ。

 白い結婚が解消されたあと、同じ相手と“元に戻る”ことはできません。

 一方だけが望んでも不可です。

 再びご縁を結べるのは――」

司祭は静かに微笑んだ。

「お互いが“本当に望んだときだけ”。

 義務でも、気まぐれでも、情けでもいけません。

 神はそのあたり、案外きびしいのですよ」

テオドールの唇がかすかに震える。

「……そうか」

「ええ。どうか、お間違えのないように」

テオドールは立ち上がり、礼を言って部屋を出た。

外に出ると、光が眩しかった。

(……三年。

 俺は、何をしていたんだ……)

午後の風だけが、静かに彼を抜けていった。

遠く離れた港町では、

マルグリット――いや、“マリー”がちょうど紅茶を注いでいた。

「新しい茶葉、当たりね。香りがいいわ」

まったく別の時間を、

まったく別の人生を生きているふたり。

それでも、偶然はまだ彼らをすれ違わせるつもりでいる。

教会でのすれ違い

教会の鐘が、昼の時を告げていた。

テオドールは司祭に一礼し、重い扉を押して外へ出る。

石畳を踏む音が、静かな礼拝堂に少しだけ残った。

「三年か……」

彼は短く呟いて、陽の光の中へ歩き出す。

すれ違いざま、白い扉がもう一度開いた。

「こんにちは、神父様」

柔らかな声。

入ってきたのは、淡いブルーの瞳をした若い女性。

手には小さな花束。

「おや、マリーさん。ようこそ」

司祭は穏やかに微笑んだ。

「お祈りをしにまいりました。

 新しいお仕事もうまくいって、お部屋も整いましたし……

 ようやく落ち着いたので」

「それは良いことです」

マルグリット――今は“マリー”として生きる彼女は、

祭壇の前に膝をついた。

光がステンドグラスを通り、髪に色を落とす。

「どうか、これからは穏やかに暮らせますように。

 誰にも見つからず、静かに……

無視されるより、知らない方がいい」

小さく手を合わせて微笑む。

司祭は優しく言った。

「教会は、いつでも弱き者の味方です。

 どうかお幸せに、マリーさん」

「ありがとうございます」

マルグリットは深く頭を下げ、

花束をそっと祭壇の隅に置いた。

外の石畳には、

さっき彼が残した足跡がまだ温もりを残している。

けれど、今回ふたりは出会わない。気づかない。会ったことないのだから、

ほんの数分のすれ違い。

それだけで、世界は何事もなかったように回り続けていた。

「マルグリットの実家を訪れ、すべてを知ってしまう」

テオドールは、執事の

「奥様には身寄りがありません」

という言葉を、最初は信じ切れなかった。

――まさか。

貴族の令嬢だ。

誰も心配しないなど、ありえるのか。

確認せずに信じるほど、彼は楽観的ではない。

いや、むしろ自分が“何も知らない夫だった”と認めたくなかったのかもしれない。

だから足を運んだ。

■実家の門

名門貴族のはずの屋敷は、見る影もなかった。

塗装は剥げ、門は歪み、庭木は伸び放題。

(……こんなはずは)

鐘を鳴らすと、肥えた女が扉を半分だけ開けた。

目つきは鋭く、明らかに歓迎の色はない。

「どちら様?」

テオドールは名乗る。

「マルグリットの夫……だった者です」

女は、あっけらかんと返した。

「はあ? マルグリット知らないわよそんなの」

心臓が、一拍遅れる。

「彼女は……こちらに戻っていませんか」

「戻る? ないない。

あの子が家にいたのなんて、ほんの短い期間よ。

死んだ旦那が、あの子追い出して、出ていったきりよ。あんたの所じゃなかった?

でも、私にとっては“他人”だもの」

平然と言い放った。

■女の無関心な一言が、容赦なく刺さる

「……心配は?」

ようやく絞り出した問いに、女は乾いた笑いを返す。

「心配?

家に金ひとつ置かずに出ていった子に?

逆でしょ。心配されたいのはこっちよ」

テオドールの眉が微かに動いた。

女は続ける。

「あの子、存在感がないのよ。

使用人より気配が薄い。

家にいたかどうかなんて、気づいたことすらないわね」

使用人より気配が薄い。

家族にも認識されなかった娘。

胸の奥に、冷たいものが落ちていく。

女はさらに追い討ちをかけた。

「旦那が死んでからの相続も、全部私がやったし。

あの子にはもう何も残ってないわ。

……あなたも、もう関わらなくていいんじゃない?」

まるで埃でも払うように、門が閉じられた。

■容赦のない現実の前に、言葉が消える

静かな道に取り残される。

風の音だけが耳に入る。

テオドールは、立ち尽くした。

(……誰一人、マルグリットを気にかけていない)

(家も。家族も。身内も。

そして……俺もだ)

刺したのは後妻の言葉ではない。

事実そのものだ。

彼は三年、妻の実家を訪れたことも。

妻の交友を調べたことも。

妻の寂しさに思い至ったことすら、一度もなかった。

(……俺は――

彼女を愛していなかったどころか。

“存在すら見ていなかった”んだ)

胸が、ぎゅうっと締めつけられる。

戦場で受けた傷は痛みを誤魔化せた。

だが、この痛みだけはどうにもならなかった。

(俺は……

あの子にとっての“最後の居場所”すら奪っていたのか)

拳を握る手が震えた。

マルグリットが出ていった理由が、

ただ一つの明快な言葉となって胸に落ちた。

――「もう誰にも期待しないため」。

テオドールは、ようやく理解した。

自分こそが、

あの子を追い詰めた“最後のひと押し”だったのだ。

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