เข้าสู่ระบบ屋敷パニック
「な、なんだと──!? 急に、旦那様が……“帰還”!?」 報告を受けた瞬間、屋敷の空気が一気に凍りついた。 伝令の兵士が書状を掲げ、震える声で読み上げる。 『近日中に帰還する。 家の準備を整え、妻に伝えよ。 夫婦として迎える用意を怠るな。』 沈黙。 三秒ほどの静寂の後── 「えっ……“妻”!?」 屋敷中が悲鳴に包まれた。 「奥様は!? どこ!?」 「部屋に……いません!!」 「じゃあ教会! 教会のお知らせって何?これ、」さっき、牧師がもってきました。 「本日の手続き……“離婚成立”ですって!!」 「はぁぁぁぁぁぁ!?」 廊下を使用人たちが右へ左へ駆け回り、 階段を上下する足音が地鳴りのように響く。 「奥様を探せぇぇぇっ!」 「誰か! 居場所を知ってる人!」 「知りません! 今まで無視してましたから!!」 屋敷中が大騒ぎ。 普段は死人のように静かな屋敷が、 この日だけは**突然“生き返った”**かのようだった。 ⸻ 一方そのころ マルグリットは、すっかり“普通の町娘”になっていた。 やわらかい生成りのワンピースに、リボンを結んだ麦わら帽子。 誰が見ても、ただの庶民の娘。 「この服、動きやすいわね」 鏡の前で軽く一回転してみせる。 窓から差し込む日差しは暖かく、 もう誰の目も気にせずに笑える。 「今日は花を買おうかな。……そう、久しぶりに。」 市場通りの花屋に入ると、 小さなブーケが並んでいた。 ピンクのチューリップ、白いスズラン、黄色いラナンキュラス。 「この組み合わせ、いい香りね」 「お嬢さん、新生活ですか?」 「ええ、そんなところ」 マルグリットは微笑んで、花束を抱えた。 帰り道にはお気に入りのパン屋。 焼き立てのクロワッサンを二つと、いちごジャムの瓶をひとつ。 紅茶の茶葉を手に入れて、 小さなコテージでお茶の支度をする。 湯気の立つティーカップ。 バターの香り。 そして、手のひらの花束。 「最高の朝食ね。あとは……昼寝でもしようかしら」 ――屋敷が血相を変えて彼女を探しているとは知らずに。 奥様奪還騒動、勃発! 「旦那様が……帰ってこられる!?」 「報告書を! 早く!」 屋敷の使用人たちは青ざめていた。 「ま、まずい! 奥様が行方不明なんだぞ!?」 「いや、正式に離婚が成立してます!」 「そんなバカな! 誰の許可で!?」 「教会で3年の白い結婚が認められました。」 「だが、旦那様の許可をもらっていません!」 「白い結婚は、夫婦関係がないと認められてます。結婚当初から、3年お会いになってませんから、当然、夫婦関係ありません」 全員が真っ青。 国への報告書には「夫婦円満」「家内安泰」としっかり書かれている。 ――完全なる虚偽報告だった。 「旦那様が知ったら、首が飛ぶ!」 「いや、飛ぶのは誰だ!?」 「全員だ!!」 屋敷の中は地獄のような騒ぎ。 まるで火のついたアリの巣。 「奥様を探せーーッ!!」 「町中でもどこでも! 痕跡を!」 ⸻ 一方そのころ。 マルグリットは、 今日もご機嫌に町を歩いていた。 「うーん、次はカーテンね」 朝食のあとの紅茶とクロワッサンにいちごジャム。 完璧な朝だった。 お気に入りの花を花瓶に飾り、 コテージの窓に日差しが差し込む。 「この光に合うのは……レースかしら。ちょっと生成りっぽいのがいいわ」 通りの角にある小さなカーテン屋。 ふんわりと布の香りがする。 優しい女店主が声をかけてきた。 「新しいお家ですか? それともお引っ越し?」 「ええ、まあ……“独立記念日”みたいなものですの」 店主はくすっと笑い、生成りのレースを手渡す。 「この柄、陽の光を柔らかくするんですよ。朝がきれいになります」 「素敵ね。……それ、いただくわ」 紙袋を受け取って外に出ると、 潮風にレースがふわりと揺れた。 「お茶の時間に間に合うわね」 そう呟きながら、のんびり帰るマルグリット。 ――まさか今、屋敷と街中で「奥様奪還指令」が正式に発令されているとは知らずに。 庶民の暮らし、ちょっとむずかしい 「……あら?」 カーテンを広げてみたものの、 マルグリットは腕を組んだ。 「えっと……この、棒に……どうやって……?」 椅子の上に立って、カーテンレールと格闘する。 ふわりと布が顔にかかり、バランスを崩して―― 「わっ! ……危なっ!」 慌てて椅子から飛び降りる。 息を整えながら、呟いた。 「……無理ね。やっぱり人に頼もう」 その足で、再びカーテン屋へ向かう。 ドアの上のベルが、チリンと鳴った。 「あら、戻ってきたのね。どうかした?」 女店主が微笑む。 「ええ、その……つけるのが、想像以上に難しくて」 「まぁ、お嬢さんの手じゃ大変よ。取り付け、頼みましょうか?」 「お願いできるかしら?」 店主は頷き、若い職人を呼ぶ。 「マルク、午後からコテージに行ってあげて。取り付けお願いね」 「了解です!」 元気な声の青年が笑う。 「お任せください、すぐ終わりますよ!」 「助かるわ」 マルグリットはほっと息をつき、 「じゃあ、お茶でも飲んで待ってますね」と軽やかに微笑んだ。 ⸻ そのころ、屋敷では――。 「王宮からの使者だと!?」 「旦那様ご帰還! 奥様との面会を楽しみにされているとか!」 「ど、どうする!? 奥様いないのに!」 家令が頭を抱え、侍女長マルタが泣き出した。 「ま、まさか“王命で呼び戻し”なんてこと……!?」 「王命……!?」 「王命で夫婦同伴を命じられたら、どうするんですか!」 屋敷の混乱は極限に達していた。 ――そして、港町のコテージでは、 マルグリットが“レース越しの陽だまり”を見ながら、 「いい感じねぇ」とご満悦だった。 今日の晩御飯は、ロールキャベツの、テイクアウトかしら?バケットつきで。スザンヌ、動く「スザンヌ様、王都の記録課からお返事が」侍女が書状を持ってくる。スザンヌは紅茶を片手に封を切った。「……ふむ、やっぱりね」文面を読み進めながら、唇の端が上がる。「マルグリット・ド・リュミエール、 正式に“婚姻解消”と記録されてる。 現在は“マリー・グラン”の名で暮らしているそうよ」侍女が目を丸くした。「まぁ……侯爵夫人が、庶民の名前で?」「ええ。どうやら静かに、楽しそうに暮らしてるみたい。 紅茶店に通って、花屋で買い物して……」スザンヌは、カップを軽く揺らして香りを嗅いだ。「幸せそうね」侍女はためらいがちに口を開いた。「では、侯爵様には……?」「まだ言わないで。 あの子、自分で見つけなきゃ気づかないわ」紅茶を飲み干し、スザンヌは立ち上がった。鏡の前で帽子をかぶりながら、独り言のように言う。「どうしようかしらね。 放っておくのも、女の意地として悪くないけど……」指先でブローチを整え、にやりと笑った。「会いに行くのが一番だわね」「えっ!? スザンヌ様、自ら!?」「だって、気になるじゃない。 “白い結婚の元侯爵夫人”がどんな顔して幸せにしてるのか。 それに―― どんな女が、うちの愚かな甥より強かったのか、見てみたいもの」そう言ってマントを翻し、スザンヌは颯爽と屋敷を後にした。鏡の前で帽子をかぶりながら、独り言のように言う。「どうしようかしらね。 放っておくのも、女の意地として悪くないけど……」指先でブローチを整え、にやりと笑った。「会いに行くしかないわね。」「えっ!? スザンヌ様、自ら!?」「だって、気になるじゃない。 “白い結婚の元侯爵夫人”がどんな顔して幸せにしてるのか。 それに―― どんな女が、うちの愚かな甥より強かったのか、見てみたいもの」そう言ってマントを翻し、スザンヌは颯爽と屋敷を後にした。屋敷の応接間。時計の針が、静かに時を刻む。テオドールは書類に目を通していたが、ドアのノック音に顔を上げた。「スザンヌ叔母上。 ……お帰りでしたか」「ええ、ちょっと王都まで。 お茶を飲みにね」軽い口調で言いながら、スザンヌはゆっくり椅子に腰を下ろした。「あなたの元奥様、見てきたわ」ペン先が、止まった。「……なんですって?」「偶然を装って、少し話も
翌日の午前。侯爵邸の玄関扉が勢いよく開く音が響き渡った。レディ・スザンヌが、紫の羽をあしらった帽子を片手に堂々と入ってくる。「執事! いますか!」慌てて姿を現した執事が深々と頭を下げた。執事「れ、レディ・スザンヌ……お戻りとは伺っておりますが……何かご用で?」スザンヌ「使用人全員を“今すぐ”集めなさい。 ひとり残らず。いいわね?」その場にいた侍女たちまで息を飲む。執事「……はっ!」屋敷に緊張が走った。いつもは静かな廊下を、召使い達が走り回る。ほどなくして、居間には使用人たちが整列させられた。⸻◆居間――尋問の場スザンヌは姿勢よく椅子に座り、扇子をテーブルに置いた。彼女の後ろには堂々と立つマシュウ卿の姿もある。スザンヌ「では―― マルグリット侯爵夫人が、この屋敷でどのように扱われていたのか。 一から、順番に答えてもらいます」使用人全員が硬直した。目線が泳ぎ、誰も口を開かない。スザンヌ「まあ……誰かが先に話せるはずよね?」重い沈黙。その沈黙を破ったのは、侍女頭だった。侍女頭「……奥様は、お部屋におこもりで……」スザンヌ「理由を聞いているのよ」侍女頭「ご主人様が戦地にいらしたので…… その……私どもも奥様のお顔を見たことがなく……」スザンヌ「それで?」侍女頭はしどろもどろになりながら続ける。侍女頭「ですので……奥様に特別お仕えすることも…… お食事は、廊下に……運んで……」スザンヌ「廊下に?」侍女頭「……お返事がない日もありましたので……」スザンヌ「返事がなければ、床に置いて戻った、と?」侍女頭は顔を青ざめさせ、うなずくしかなかった。⸻スザンヌは、扇子を“ぱちん”と閉じた。スザンヌ「あなたたち、それで“お仕えしていた”つもりなの?」誰も顔を上げない。スザンヌ「洗濯は? 掃除は? 衣服の世話は?」侍女のひとりが弱々しく答える。若い侍女「……たまに……」スザンヌ「“たまに”!?」部屋の空気が震えた。執事までも冷や汗を拭う。執事「れ、レディ・スザンヌ……まことに申し訳ございません……」スザンヌ「申し訳、とは誰に? 私に? この家に? 違うでしょう――“いなくなった奥様に”よ」沈黙。誰も反論できない。した途端、全てがバレる。⸻スザンヌは
夕暮れのリビング。レディ・スザンヌは帰宅するなり、足音も豪快に、帽子をソファに投げ落とした。「聞いて、あなた! 今日はもう、腹が立つなんてもんじゃないの!」新聞を読んでいた夫――マシュウ卿は、眼鏡をずり上げて、「また何か騒ぎかね」と静かに向き直る。「騒ぎじゃ済まないわ! あの子よ、テオドール!!」「……甥の話か。今度は何があった?」スザンヌは紅茶のポットを乱暴に置き、身を乗り出した。「王命での結婚よ? “夫婦として国を支えよ”って、あの王妃陛下までおっしゃったのに―― 結婚式もお披露目もなく、そのまま戦地へ行って、 帰ってきたら離婚されていたのよ!」マシュウは、新聞を静かに閉じた。ゆっくり、両眉が上がる。「……なんだと?」「まだよ! もっとひどいの!」スザンヌは、指を折りながら怒涛の勢いで続ける。「三年間、一度も手紙なし! 贈り物もなし! 誕生日も祝ってない! 顔も見てない! 会ったことすら、ない!!」「……会ったことが、ない?」「ないのよ! まったく! 書類の婚姻だけで、そのまま三年! で、離婚届だけ置かれて、はい終わり!」マシュウは額を押さえた。「スザンヌ…… あいつ、戦地ではどれだけ働いていた?」「さあね。でも今日、あの子の部下に聞いたわよ」スザンヌの声が、急に落ちる。「“侯爵様は、寝落ちる兵の代わりに見張りにつき、 倒れた騎士の代わりに地図を引き、 夜明けまで指揮と救護と事務を全部ひとりでやっていました” ですって」「…………」マシュウの表情が、一瞬で深く沈む。スザンヌもまた、怒りの中に痛みを滲ませた。「“侯爵様は三年間、一度も休暇を取りませんでした。 食事もまともに取らず、 手紙を書く時間があれば、誰かの傷を縫っていました” って……。 どう思う?」マシュウはゆっくり息を吐いた。「……あいつは、真面目すぎる。 愚直に、命令だけを守るのが悪い癖だ」「そうよ!」スザンヌはカップを強く握った。「でもね、だからといって―― “妻を三年も放っていい理由にはならない”のよ!」「……ああ、その通りだ」スザンヌの声は怒りと痛みが混ざり、震えていた。「戦場で死ぬ覚悟があったのかもしれない。 恋なんて自分には似合わないと、勝手に諦めていたのかもしれない。 でも――」
王命による結婚――それが、テオドールの始まりだった。自分の意思ではなく、国の命令。「戦場に出る前に、身を固めておけ」上からのたった一言で、名も顔も知らぬ伯爵令嬢と婚姻書類に署名し、そのまま戦地へ赴いた。帰ってきてみれば、妻はいない。教会の記録には、淡々と“離婚済み”の印。そんな男は、決して珍しくなかった。⸻■「戦地帰還者支援室」役所の片隅に申し訳程度に作られた相談窓口。薄い壁、金属の椅子、どこか落ちつかない蛍光灯。テオドールは重い足取りでそこへ向かった。鎧より重たく感じる書類の束を握りしめて。「ええと……どのコースをご希望ですか?」若い受付係が事務的な調子で書類をめくる。指先だけはやたら軽やかだ。「……家庭再建、で」「はい、かしこまりました。 ご相談内容は……“戦地に行っている間に、妻が離婚していた”ですね? ああ、こちら、よくあるケースです」“よくあるケース”。その言葉が落ちた瞬間、胸の奥で何かがきしりと音を立てた。「……そうか」声は平静を装っているのに、手だけが微かに震えていた。⸻やってきた相談員は、にこやかではある。しかし、その目は一度たりともテオドールを見ない。書類の上を、忙しない指が動いているだけだ。「奥様と離婚……はいはい、確認しました。で――復縁をご希望ですか?」「……制度上できないと聞いている」「まあ、そうなんですよねぇ。 じゃあ次のステップに進みましょう」「……ステップ?」「ええ、“再婚を前提とした生活設計見直しコース”です。 この状況からどうリスタートするか、という内容でして」テオドールは言葉を失った。「……私は、再婚の話など――」「奥様がいなくなったのはお気の毒でしたね。 でも、人生は続きます。前向きに行きましょう」相談員の声は明るい。まるで“壊れた時計の修理”をすすめているような軽さだ。「……」(何を聞かされているんだ、俺は)⸻テオドールは椅子を引いた。金属が擦れる音が、妙に大きく響く。「……結構だ」「えっ? もうよろしいんですか? はい、では次の方どうぞー!」あっけらかんとした声。引き留める気配は一切ない。まるで最初から、テオドールという“相談者”など存在していなかったかのように。⸻外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。空はやけ
教会の控え室。 古い木の机の前で、司祭が書類をめくっていた。「では……白い結婚の解消について、あらためてご説明しますね」淡々とした声だったが、どことなく優しい。テオドールは正面で座り、表情を引き締めている。 ただ、その目には疲れと焦りが滲んでいた。「白い結婚というのは、形式上の結婚です。 三年間、夫婦としての交流がない場合――婚姻は自然に無効になります」司祭は紙をそっと置いた。「奥さまは、三年間ずっとお一人でした。 姿を見せず、手紙も送らず、声もかけないとなれば…… 神様から見ても“夫婦ではなかった”と判断されるのは当然です」テオドールの喉が動く。「……つまり、私はもう夫ではないと?」「はい。すでに正式に解消されています」短く、しかしはっきりとした返事だった。しばらく沈黙が続く。 その後、司祭は書類を整えながら、ふと問いかけた。「三年も会いに行かなかったのに…… 今になって奥さまを探されるのは、どうしてでしょう?」テオドールは息を飲んだ。「……放置したつもりはなかった」「ですが奥さまから見れば、三年間“夫として存在しなかった”わけです。 どんな理由があっても、結果だけは変わりません」司祭の声はやわらかいのに、言葉は鋭かった。紙を閉じる音が静かに響く。「もうひとつ。 白い結婚が解消されたあと、同じ相手と“元に戻る”ことはできません。 一方だけが望んでも不可です。 再びご縁を結べるのは――」司祭は静かに微笑んだ。「お互いが“本当に望んだときだけ”。 義務でも、気まぐれでも、情けでもいけません。 神はそのあたり、案外きびしいのですよ」テオドールの唇がかすかに震える。「……そうか」「ええ。どうか、お間違えのないように」テオドールは立ち上がり、礼を言って部屋を出た。外に出ると、光が眩しかった。(……三年。 俺は、何をしていたんだ……)午後の風だけが、静かに彼を抜けていった。遠く離れた港町では、 マルグリット――いや、“マリー”がちょうど紅茶を注いでいた。「新しい茶葉、当たりね。香りがいいわ」まったく別の時間を、 まったく別の人生を生きているふたり。 それでも、偶然はまだ彼らをすれ違わせるつもりでいる。 教会でのすれ違い教会の鐘が、昼の時を告げていた。テオ
王命による結婚――それが、テオドールの始まりだった。自分の意思ではなく、国の命令。 「戦場に出る前に、身を固めておけ」 上からのたった一言で、名も顔も知らぬ伯爵令嬢と婚姻書類に署名し、 そのまま戦地へ赴いた。帰ってきてみれば、妻はいない。 教会の記録には、淡々と“離婚済み”の印。そんな男は、決して珍しくなかった。⸻■「戦地帰還者支援室」役所の片隅に申し訳程度に作られた相談窓口。 薄い壁、金属の椅子、どこか落ちつかない蛍光灯。テオドールは重い足取りでそこへ向かった。 鎧より重たく感じる書類の束を握りしめて。「ええと……どのコースをご希望ですか?」若い受付係が事務的な調子で書類をめくる。 指先だけはやたら軽やかだ。「……家庭再建、で」「はい、かしこまりました。 ご相談内容は……“戦地に行っている間に、妻が離婚していた”ですね? ああ、こちら、よくあるケースです」“よくあるケース”。その言葉が落ちた瞬間、 胸の奥で何かがきしりと音を立てた。「……そうか」声は平静を装っているのに、 手だけが微かに震えていた。⸻やってきた相談員は、にこやかではある。 しかし、その目は一度たりともテオドールを見ない。 書類の上を、忙しない指が動いているだけだ。「奥様と離婚……はいはい、確認しました。で――復縁をご希望ですか?」「……制度上できないと聞いている」「まあ、そうなんですよねぇ。 じゃあ次のステップに進みましょう」「……ステップ?」「ええ、“再婚を前提とした生活設計見直しコース”です。 この状況からどうリスタートするか、という内容でして」テオドールは言葉を失った。「……私は、再婚の話など――」「奥様がいなくなったのはお気の毒でしたね。 でも、人生は続きます。前向きに行きましょう」相談員の声は明るい。 まるで“壊れた時計の修理”をすすめているような軽さだ。「……」(何を聞かされているんだ、俺は)⸻テオドールは椅子を引いた。 金属が擦れる音が、妙に大きく響く。「……結構だ」「えっ? もうよろしいんですか? はい、では次の方どうぞー!」あっけらかんとした声。 引き留める気配は一切ない。まるで最初から、 テオドールという“相談者”など存在していなかったかのように。⸻外







