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第9話

작가: 笹しぐれ
「ふざけんな!たかが掃除のおばちゃんの分際で、俺に楯突こうってのか。ただで済むと思うなよ……!」

惟人が激昂して腕を振り上げ、力任せに打ち下ろしてきた。

夕凪の背後は壁だった。逃げ場などどこにもない。迫ってくるその手を、目を見開いたまま見つめることしかできなかった。

「唐沢さん、相手はただの清掃員ですよ。そこまで熱くなることはないでしょう」

ちょうどその時、ドアを押し開けて司が入ってきた。にやにやと笑いながら。

司の姿を見て、惟人の腕が宙で止まった。

彼は忌々しげに舌打ちして、手を下ろした。

司が、早く行けとばかりに夕凪へ目配せをした。

夕凪ははっと我に返った。顔面は蒼白だったが、ホステスの手を引いて急いでその場を離れようとした。

だが背後から、惟人の底意地の悪い声が追いかけてきた。

「おい桐生、最近ずいぶん羽振りがいいみたいだな。そろそろこの店、営業停止にでもしてほしいのか?俺なら半月もあれば潰せるぞ」

司の顔色がさっと変わった。

夕凪は思わず足を止めた。見れば分かる。言葉の端々からも伝わってくる。この惟人という男の権力は、司を遥かに凌いでいるのだ。だからこそ、他人の店でここまで露骨に脅せるのだ。

事実、司は一瞬屈辱に顔を歪めたが、すぐに無理やり笑みを作って惟人に向き直った。

「唐沢さん、どうすればこいつを見逃していただけますか」

惟人の目に、陰湿な光がよぎった。テーブルに並んだ酒瓶を指差し、冷ややかに笑う。

「こいつがこの酒を全部飲み干したら、水に流してやるよ」

夕凪の顔からさらに血の気が引いた。膝が折れそうになる。

どれもアルコール度数の高い酒ばかりだ。普段から一滴も飲めないうえに、すっかり弱り切っている今の体でこんなものを流し込まれたら、命に関わる。

「わ……私は……お酒が飲めません……」

惟人は片眉をつり上げ、顎でホステスを指した。

「じゃあ、そっちの女に代わりに飲ませろ」

ホステスは金切り声を上げ、必死に手を振った。「嫌よ!私は関係ないわ!このおばちゃんが勝手にあなたを怒らせたんじゃない!私じゃないわ!この人に飲ませてよ!私には関係ないの……!」

夕凪の顔が、さらに白くなった。

胸の奥を、鋭利な刃物で抉られたような痛みが走った。

三年もの間、あの地獄で散々思い知らされたはずなのに。自分はまだ、赤の他人を庇ってこんな馬鹿な真似をしているのか。

「俺が代わりに飲もう」

司がホステスを冷たく一瞥した。その目には「お前はクビだ」とはっきり書いてあった。

ホステスは喚くのをぴたりとやめ、腰が抜けてその場にへたり込んだ。

だが司が酒瓶に手をかけた途端、惟人は腕を組んだまま鼻で嗤った。

「桐生、お前が代わりに飲んで、それで済むとでも思ってんのか?自分を何様だと思ってる。お前ごときに、俺を引き下がらせるだけの『顔』がきくと思ってんのかよ」

酒瓶を握った司の腕が、力なく止まった。

手の甲に青筋を浮かべながらも逆らえず、怒りを飲み込むしかない司の姿を目にして、夕凪の心は奈落の底へ叩き落とされた。

司でさえ、助けられない。今夜こそ、本当に終わりだ。

これだけの酒を無理やり流し込まれたら、死ななくても脳がやられる。

終わった……

ほんの少し前まで、新しい人生への希望に胸を膨らませていたのに。何もかも、終わってしまった。

絶望に心が完全に折れかけた、その時。

入口から、低く冷え切った男の声が響いた。

「俺が代わりに飲もう。俺の『顔』なら――文句はないな」

夕凪の体が、大きく震えた。

室内の全員が凍りついた。

中でも惟人は、入口から悠然と歩み入ってくる長身の男を見て、限界まで目を見開いた。

背が高く、纏う空気が凍てつくように冷たい。その姿を認めた瞬間、惟人の声が恐怖に震えた。

「み……御堂さん……」

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댓글 (1)
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郁子
最初の設定では,夕凪は清掃員の中で一番若いとなっていたよね。
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