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【第2話】封印の間、紅き目覚め

last update Tanggal publikasi: 2025-10-07 10:40:26

 音が、消えた。

 封印の間の扉が開いた瞬間、まるで別の世界が顔を覗かせたかのように、空気が変わる。

 風が吹き込む。鼻の奥を突く焦げた匂い。鉄と火薬を混ぜたような、獣の匂い。

 琉苑は本能的に後ずさろうとしたが、脚が動かない。

 何かがこの場に“引き寄せられている”。そんな感覚だった。

 ――熱い。

 額に浮いた汗が一滴、こめかみを伝って落ちる。

 抑制剤は確かに打った。高濃度の特製だ。

 それなのに、心臓が早鐘のように脈打つ。

 呼吸が荒くなり、手が震える。

 (これは、発情……? いや、まだそんなはずは――)

 扉の奥。

 重く、静かに、何かが歩いてくる音。

 ゆっくりと姿を現したのは、人だった。

 いや、“人のかたちをした何か”。

 深い闇を思わせる漆黒の髪。

 瞳は金――燃えるような金色。

 裸の上半身には、かすかに鱗のような痕跡が浮かんでいる。

 その目が、まっすぐに琉苑を見ていた。

 「リウ……」

 また、あの声だ。夢の中で何度も聞いた、あの低い声。

 「……やっと会えたな」

 男が一歩踏み出すたびに、足元の大理石が軋む。

 圧力がすごい。魔力というより、“存在感”そのものが重い。

 琉苑は喉を詰まらせたまま、後ずさった。

 が、それよりも早く、相手が近づいてくる。

 「待っ……近寄るな」

 必死に声を出す。

 だが相手は止まらない。

 目の前まで迫ると、琉苑の耳元に顔を近づけ――

 首筋のあたりに、そっと息を吹きかけた。

 「この匂い……間違いない。番の匂いだ」

 瞬間、琉苑の背筋がゾクりと震えた。

 全身の神経が逆立つ。

 そこに、触れられていないはずなのに――熱が走る。

 肌の内側から火が這い上がってくる。

 脚の力が抜け、膝がふらついた。

 「抑制剤、使ってるのか……。だが、効かない」

 男――シュア=ラグナが、低く笑う。

 その声は優しげでいて、どこか危うい熱を孕んでいた。

 「体は嘘をつけない。おまえは……俺を欲しがってる」

 「っ、違っ……そんな、わけ……」

 琉苑は言葉を詰まらせた。

 認めたくなかった。

 だが、身体の反応はどうしようもなかった。

 シュアの手が、琉苑の頬に伸びる。

 熱い掌が触れた瞬間、電流のような痺れが走った。

 「本当に、よく似ている……あの時と」

 誰のことだ、と問いかける暇もなく、

 シュアの指が、琉苑の首筋にそっと触れた。

 その場所は、“番契の刻印”が現れる場所。

 Ωにとって、最も敏感で、最も支配される場所。

 そこに、熱を持った指先が触れるだけで――

 「やめろっ……! 触るなっ……!!」

 琉苑が振り払おうとした瞬間、

 空気が震え、空間全体が圧縮された。

 封印が反応している。

 神殿そのものが、この接触を拒んでいる。

 シュアは舌打ちして一歩下がり、右手を掲げて空中に紋を描いた。

 瞬時に紅の結界が現れ、封印の再発動を抑えるように展開する。

 その魔力の奔流に巻き込まれ、琉苑の意識が揺らいだ。

 視界がぐにゃりと歪む。

 力が抜けて、床へ崩れ落ちそうになる。

 だが、その身体は落ちなかった。

 誰かの腕が支えてくれたからだ。

 ――熱い。

 この体温、知っている。夢の中と、同じだ。

 「焦らなくていい。……だが、覚えておけ」

 耳元で囁かれる。

 それは命令でもなく、甘さでもない。

 ただ、絶対的な“確信”だけがこもっていた。

 「おまえはもう……俺の番だ」

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