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67.就任パーティー

last update Data de publicação: 2026-03-18 19:03:01

麗華side

市街地の華やかさが遠ざかり、並木道すら途絶えて、人影も車もまばらになった殺風景な場所に、五十嵐工業のオフィスはあった。 

……いえ、「オフィス」なんてオシャレなものではない。創業六十五年という歴史が、ただの「古臭さ」として蓄積され、ペンキの剥げたパッとしたしない二階建ての『事務所』。それが私の職場だった。

この春から五十嵐社長の後任としてこの会社に従事することになったけれど、その実態は私が思い描いていたキラキラした生活とは、天と地ほどもかけ離れていたの。

まず、秘書もいなければ、社長専属の運転手もいない。

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  • 離婚して、今さら愛してると言われても   71.逆転

    遥side会場を包み込んでいた熱狂的な拍手が波を引くように静まり返っていく。ダンスを終え、月島さんの腕に導かれてホールの中央に立つ私は、心地よい高揚感の中にいた。対照的に、そこから数メートル離れた場所では、怒りと屈辱で顔を真っ赤に染めた麗華が、荒い息をつきながら立ち尽くしている。「……何よ、今の……。今日は、私の就任パーティーなのよ! あなた、自分が何をしたか分かっているの!?」麗華は、重いドレスの裾を振り乱しながら詰め寄ってきた。その形相は、もはや社長の器など皆無で、ただ自分を引き立て役として使われたと怒り狂っているだけだった。「身の程をわきまえなさいよ!こんな主役を陥れるようなことをして見苦しい」言葉を荒らげる彼女に対し、私の隣に立つ月島さんが一歩前に出た。その表情は、冷静で射抜くような鋭さを持っていた。「星野社長。お言葉ですが、あなたのその振る舞いこそが周囲に何を印象付けているか、ご自覚がないのですか?」「何ですって……!? 部外者のあなたが口を出さないで!」「部外者? 私は五十嵐工業のメインバンクの担当者として、ここに立っています。……今、この会場にいる数百人の経営者や役員たちは、あなたのダンスではなく、あなたの『品格』を査定しています。公の

  • 離婚して、今さら愛してると言われても   70.悪意のダンス

    遥side披露パーティーも中盤に差し掛かった頃、会場の照明が突如として落とされ、ステージ上にスポットライトが一点に集中した。マイクを握り、意気揚々とステージに現れた麗華は、わざとらしく客席の最前列に座る私へと視線を向けた。その瞳には、勝ち誇ったような卑屈な光が宿っている。「皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。ここで、参加して頂いた皆さまにも楽しんでいただけるようにちょっとした余興を用意させて頂きました」麗華が言うと、会場に音楽が流れ出した。(この曲……この余興は私に向けて用意されたものなのね)決して忘れることのないダンスミュージック。この曲は、離婚する寸前に、奏多に言われて出席したパーティーで流れた曲だ。そして五年前、この曲が流れると奏多は迷うことなく麗華に手を差し伸べてダンスホールの中央へと歩んでいったのだった。周囲の注目を集める中、奏多と麗華は自分たちが主役かのように華やかなステップと舞を披露したのであった。息のぴったり合った二人と華やかな雰囲気に、二人は『最高の夫婦』だと賞賛されていた。その声を聞いて、本当の『妻』ではある私は、惨めな気分になってこっそりと会場を後にした。麗華はその時の高揚感が忘れられないのだろうか、それとも私にまた惨めな思いをさせたいのだろうか、どちらにしてもこれは麗華が悪意を持って選んだことだけは明白だった。「今日は、あの日本を代表する東宮グループのお二人もこの就任パーティーにお越しいただいております。是非とも一緒に踊って頂けると嬉しいわ」とどめを刺すように、麗華はマイク越しに私の事を名指しでダンスに参加するように誘ってくる。会場の視線が一気に私たちに向けられた。麗華は壇上から降りると、奏多の元へ行き一緒に踊るようにドレスの裾を両手で少し持ち上げると軽く頭を下げて誘っている。麗華の動作に、奏多は周囲を見渡してから麗華に手を差し出して、会場の中央へと移動していった。「遥……どうする?僕たちも踊るように言われているけど……」「そうね。指名された以上、このままと言うわけにはいかないわね」俊と話をしていると、隣にいた月島直人が苛立ちを隠せないという様子で拳を握っている。「俊さん、ここは私に任せてもらえませんか?」奏多と麗華が会場の中央で踊っている。流れている曲は、あと二分ほどでサビの一番の盛り上がり部分へ

  • 離婚して、今さら愛してると言われても   69.眺望

    奏多side都内五つ星ホテルの大広間は、眩いばかりのシャンデリアの光と豪華な生け花で、会場全体が見事に洗練されて高級感のある雰囲気を作り上げていた。『五十嵐工業 新社長就任披露パーティー』壇上の上に大きく掲げられた看板を俺は麗華の隣で静かに見つめていた。経営難の子会社に、実務経験ゼロの彼女を据えるという無茶を押し通した父への不信感と、現場の混乱を収めるための激務が、俺の心に影を落としていたのだ。「見て。こんなにたくさんのお花が届くなんて、私の新しい門出をみんなが祝福してくれているんだわ」今日の主役である麗華は、真紅シルク生地にゴールドの刺繍をあしらった豪華なドレスに身を包んで上機嫌で、甘えるように麗華は俺の腕に手を絡めようとしてきた。そのことに気が付いて、とっさに腕を避ける。「麗華、お前は五十嵐工業の社長だ。それに今日は就任パーティーで大勢の人が見ている。社長としてふさわしい振る舞いをしてくれ」その時、会場の入り口で一際大きなざわめきが起こった。一瞬で会場の空気をかえたことに俺もつられるように周囲と同じ方向へと視線を向ける。重厚な扉から現れたのは、夜の帳をそのまま纏ったかのような、深いミッドナイトブルーのイブニングドレスに身を包んだ遥だった。最高級のサテンが描く流麗なシルエット、デコルテで静かに光を放つサファイアのネックレス。そして何より、堂

  • 離婚して、今さら愛してると言われても   68.招待状

    遥side住吉商事の特別監査が終わり、私は本来の仕事である東宮グループとハリーの会社との共同プロジェクトの現場に戻っていた。その日の午後、共同プロジェクトの定例打ち合わせが終わると、兄の俊が私と月島のもとへ少しばかり奇妙な表情を浮かべて近づいてきた。その手には、上質で装飾を施された封筒が握られている。「月島さん、遥、ちょっといいかい?」「ええ、大丈夫よ。どうしたの?」月島と顔を見合わせてから視線を向けると、俊は、結婚式の招待状に使われるような豪華なレースの飾り印字が施された封筒から二つ折りの案内状を取り出した。「実は、ある会社の就任パーティーの招待状が届いたんだ。僕と遥宛なんだけど、東宮グループとしては全く取引のない会社なんだ。なぜ僕たち兄妹が指名で招待されたのか、気になってね。それと、月島さんのところにも同じものが届いているんじゃないかと思って」「取引のない会社から、突然の就任パーティー……。不自然ですね。それで、その送り主は?」眉をひそめて月島が尋ねると、俊は私たちに見えるようにゆっくりとその案内状を開いた。「……え、五十嵐工業…………?住所も間違いない

  • 離婚して、今さら愛してると言われても   67.就任パーティー

    麗華side市街地の華やかさが遠ざかり、並木道すら途絶えて、人影も車もまばらになった殺風景な場所に、五十嵐工業のオフィスはあった。……いえ、「オフィス」なんてオシャレなものではない。創業六十五年という歴史が、ただの「古臭さ」として蓄積され、ペンキの剥げたパッとしたしない二階建ての『事務所』。それが私の職場だった。この春から五十嵐社長の後任としてこの会社に従事することになったけれど、その実態は私が思い描いていたキラキラした生活とは、天と地ほどもかけ離れていたの。まず、秘書もいなければ、社長専属の運転手もいない。五十嵐と父、祖父の親子三代で細々と築き上げてきたこの会社は、数名の事務員と営業、油の匂いをさせた作業員という、必要最低限の人数でギリギリ回されている。社長専用の高級車なんて夢のまた夢。五十嵐社長は、毎日、自分の運転で通勤していて、車は、免許取りたての息子にぶつけられたという凹みがある軽自動車で、社長の威厳なんて微塵もなかった。二十年前に建て替えた事務所の建物自体も、ところどころ修繕が必要だ。間取りもセンスも古臭く、昼間でも電気をつけないと真っ暗な給湯室に、水色のタイルがひび割れた冷たいトイレ。 そして、五十嵐『工業』という名前の通り、敷地のほとんどは巨大な自社工場と資材置き場。バスも通らないような片田舎で、周りには飲食店さえない。

  • 離婚して、今さら愛してると言われても   66.恩義

    奏多side「佐藤、こんなところでどうした? 何かあったのか?」社長室の手前の廊下で秘書の佐藤が落ち着かない様子で立っているのが見えた。秘書は通常、秘書室で業務をこなし、連絡や言付けがある時のみこうして部屋や廊下の前で待機している。佐藤が、待ち構えているのは何か俺に伝えることがあるということだ。眼鏡の奥の瞳が不安げに揺れているのを見て、俺は嫌な予感を覚えた。「…………実は、アポなしで来客がありまして。現在、社長室の前でお待ちになっています」「アポなし? いきなり俺のところへ通さずに関係部門の責任者に通せばいいだろう。普段からそうしているじゃないか。何をそんなに戸惑っているんだ」「それが……営業ではなく、住吉社長本人への面会を強く希望されておりまして。『内容は社長ご自身が一番よく理解しているはずだし、非常に重要な事柄のため、秘書の私にも話せない』とのことでして……」「俺に個人的な用件だと? 一体、誰だというんだ」声を潜めて問いただしたが、その答えは俺が聞き返すよりも早く、廊下の向こう側からカツ、カツ、カツという音が響いてきた。「奏多、待っていたわ。会長室に行っていたんでしょ? それなら、私がここに来た意味も、もう分かっているわよね…&he

  • 離婚して、今さら愛してると言われても   12.庭園の願い

    遥sideパーティー当日。窓から差し込む朝の光を受け、ハンガーに掛けられたパステルブルーのドレスは、太陽の光を浴びて呼吸をしているかのようにキラキラと繊細な光を反射させていた。 上質なシルクと幾重にも重なる薄いチュール。その眩い輝きは、まるでおとぎ話のシンデレラのような優雅で周りを魅了する魔法がかけられているようだった。。「…

    last updateÚltima atualização : 2026-03-18
  • 離婚して、今さら愛してると言われても   11.東宮家の令嬢

    遥sideある日の朝、書斎で資料に目を通していた私に俊が穏やかな笑みを浮かべて語りかけてきた。「遥、今度の財界のパーティーがあるのだけれど、僕と一緒に出席しないかい?」その言葉に手にしていたペンを止めた。華やかなパーティー、それは使用人として奏多と

    last updateÚltima atualização : 2026-03-18
  • 離婚して、今さら愛してると言われても   8.真の家族

    遥side東宮俊の車で連れてこられたのは、博物館のような立派な洋館の屋敷だった。重厚な門構えの中に入ると手入れのいき届いた広大な庭が広がり、ガレージには高級車が何台も停められている。住吉家以上に豪華な佇まいに圧倒していると、玄関前に車が到着して運転手がすぐさま後部座席のドアを開けてくれた。車から降りると、私たちの

    last updateÚltima atualização : 2026-03-17
  • 離婚して、今さら愛してると言われても   9.後悔 奏多side

    奏多side遥が俺に離婚を突きつけるなんて冗談でも考えたことがなかった。大事な話があると電話で言われた時も、電話を切った俺に秘書が慌てた様子で話しかけてきた。「社長、星野麗華様から連絡があり、お腹の具合が悪いから至急来て欲しいとのことです。」麗華を優先しても遥は何も言わずに許すだろう。先日の流産の件もあり、麗華の体調を心配してすぐに駆けつけた。「奏多、来てくれてありがとう。この前のお茶の件もあるし、不安でおかしくなりそうだった。でも、奏多がきてくれたおかげで安心したわ」「もう、身体は大丈夫なのか?」「ええ、少し横になって休めば大丈夫よ。だけど、体調が悪くなった時に誰もいないのは不安

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