「先輩……!?」 まぶしい光。 同時に飛び込んできたのは、聞き覚えのある、けれどこんな場所で聞くはずのない声だった。 混乱し、眩しさに目を細めながら、声の主を視界に捉えようとする。 そこに立っていたのは──。 夕暮れの桜の下で出会った、あの少女。 どこか儚げな僕の後輩、月瀬美琴だった。 「月瀬さん…!?」 驚きと戸惑いが、胸の奥で渦を巻く。 こんな場所で彼女と再会するなんて、想像すらしていなかった。 「どうして先輩がこんなところに……? それに、すごい音が聞こえましたけど……」 美琴は、不安げな表情で、けれど真っ直ぐに僕を見つめている。 その揺るぎない視線に、僕は少しだけ肩をすくめて、努めて平静を装った。 「……僕は、友達を探しに来たんだ」 「お友達を……?」 「うん。昨日の夜、面白半分でここに入った連中の中に、友人がいたかもしれなくてさ。まだ家に帰ってないから……何かあったんじゃないかって」 「例の生配信…ですか……?」 「……知ってるの?」 「いえ……詳しくは知りません。今朝、学校で少し話題になっていたので。ただ、何かの……霊らしきものが映った、と」 美琴は、どこか納得したように小さく呟き、そっと視線を落とした。 その手に、ボロボロな小さな木彫りの人形が握られているのが目に入る。塗装は剥げ、犬の足が一本もげてしまっている。けれど、長い年月を経ても失われない、どこか温かみのある形をしていた。 「それで…月瀬さんは一体、どうしてここに?」 僕が改めてそう尋ねると、彼女は、先程までの不安げな表情から一変し、静かに、そして決意を込めた口調で答えた。 「私は……これを、届けに来たんです」 「その人形を……届けに?」 一瞬、言葉の意味が分からなかった。届ける、いったい誰に? でもその瞳には、微塵の迷いもない。これは、決して冗談なんかじゃない。 「先輩……実は、私は、霊が見えるんです」 美琴の告白に、心臓を直接掴まれたかのように、鼓動が跳ね上がった。 「えっ……」 「私は……この病院にいる男の子の霊に、この人形を、どうしても届けなければならないんです」 男の子の霊。間違いない。彼女は、僕がついさっき出会ってしまった、あの子供の霊を、確かに見ている。
Terakhir Diperbarui : 2025-05-18 Baca selengkapnya