深夜2時。トイレに起きた私は、喉の渇きを覚えて廊下に出た。冬の夜の冷たい空気が、肌をさす。キッチンへ向かう途中──氷室様の部屋から、低いうめき声が聞こえた。「くっ……」苦しそうな声に、私は思わず足を止める。ドアの前に立ち、耳を澄ます。中から、何かが壁にぶつかったような鈍い音。そして、荒く途切れ途切れの呼吸。ノックすべき?でも、氷室様の部屋は立ち入り禁止。神崎さんにも、はっきりと言われている。私の手がドアノブに伸びかけ、途中で止まった。もし、怒られたら?もし、契約を破ってクビになったら、家族を救う道が閉ざされる。数秒の葛藤のあと、私は唇を強く噛みしめ、音を立てずに廊下を戻った。自分の部屋に入り、ベッドに座り込む。胸が苦しかった。氷室様は、大丈夫だろうか。先ほどのあの苦しそうな声が、耳から離れない。氷室様は今も苦しんでいるかもしれないのに、私は契約という壁に阻まれて何もできない。自分の臆病さと家政婦という立場の限界に、強い歯がゆさを覚えた。もどかしい気持ちを抱えたまま、私は夜明けを待った。◇翌朝。いつもの時間になっても、氷室様はリビングに現れなかった。7時。7時半。テーブルには朝食が並び、温かい湯気が立ち上っている。その日常の光景と、彼の不在との間に、違和感が広がった。8時を過ぎた頃、社用スマホが鳴った。神崎さんからだ。「はい、森川です」『おはようございます。氷室様は本日、在宅勤務です』「在宅勤務……ですか?」『はい。体調を崩されたようで。森川さん、無理はさせないでください』やはり、昨夜の声は体調不良だったのだ。「わかりました」電話を切って、私は静かに朝食を片付けた。彼のために、何かできることはないだろうか。◇昼になっても、氷室様は部屋から出てこなかった。私はリビングで
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