All Chapters of 月給80万円の偽装花嫁: Chapter 21 - Chapter 30

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第20話

深夜2時。トイレに起きた私は、喉の渇きを覚えて廊下に出た。冬の夜の冷たい空気が、肌をさす。キッチンへ向かう途中──氷室様の部屋から、低いうめき声が聞こえた。「くっ……」苦しそうな声に、私は思わず足を止める。ドアの前に立ち、耳を澄ます。中から、何かが壁にぶつかったような鈍い音。そして、荒く途切れ途切れの呼吸。ノックすべき?でも、氷室様の部屋は立ち入り禁止。神崎さんにも、はっきりと言われている。私の手がドアノブに伸びかけ、途中で止まった。もし、怒られたら?もし、契約を破ってクビになったら、家族を救う道が閉ざされる。数秒の葛藤のあと、私は唇を強く噛みしめ、音を立てずに廊下を戻った。自分の部屋に入り、ベッドに座り込む。胸が苦しかった。氷室様は、大丈夫だろうか。先ほどのあの苦しそうな声が、耳から離れない。氷室様は今も苦しんでいるかもしれないのに、私は契約という壁に阻まれて何もできない。自分の臆病さと家政婦という立場の限界に、強い歯がゆさを覚えた。もどかしい気持ちを抱えたまま、私は夜明けを待った。◇翌朝。いつもの時間になっても、氷室様はリビングに現れなかった。7時。7時半。テーブルには朝食が並び、温かい湯気が立ち上っている。その日常の光景と、彼の不在との間に、違和感が広がった。8時を過ぎた頃、社用スマホが鳴った。神崎さんからだ。「はい、森川です」『おはようございます。氷室様は本日、在宅勤務です』「在宅勤務……ですか?」『はい。体調を崩されたようで。森川さん、無理はさせないでください』やはり、昨夜の声は体調不良だったのだ。「わかりました」電話を切って、私は静かに朝食を片付けた。彼のために、何かできることはないだろうか。◇昼になっても、氷室様は部屋から出てこなかった。私はリビングで
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第21話

数時間後。私がリビングで洗濯物を畳んでいると、廊下から物音がした。そっと廊下を覗くと、氷室様の部屋の前に置いたトレイが、きれいさっぱり空になっている。生姜湯のカップも、鎮痛剤の包装も、冷却シートの袋も。全て、部屋の中に持ち込まれていた。よかった……!ほっと、胸をなでおろす。少しでも、楽になってくれたらいいな。◇夕方、17時を過ぎた頃。私がキッチンで夕食の準備をしていると──廊下から足音が聞こえ、氷室様がリビングに現れた。黒いシャツに、グレーのパンツ。髪は少し乱れているが、顔色は昨日よりもずっと良い。「氷室様!」私は抑えきれない安堵とともに、声を上げた。「お体、大丈夫ですか?」氷室様はソファに座り、小さく頷く。「……ああ。少し、片頭痛がしただけだ」氷室様は、テーブルの上の空のカップに目をやる。「……ありがとう」ぼそりと小さな声。だが、その言葉は私の心を射抜いた。「い、いえ!お役に立てたなら、良かったです」「ああ。君の生姜湯が効いた」氷室様は、私を見た。その目は、わずかな温かさを帯びていた。「助かった」その言葉に、私の口元が勝手にゆるむ。なんてことのない言葉なのに。相手が氷室様っていうだけで、「ありがとう」も「助かった」も、なぜかものすごく嬉しかった。「お食事、お作りしましょうか?消化に良いお粥もすぐに……」「いや、普通の食事で構わない。先にシャワーを浴びてくる。食事はその後でいい」「かしこまりました」◇30分後、リビングに戻ってきた氷室様からは、石鹸の香りがした。夕食の献立は、鶏肉の照り焼き、野菜の煮物、味噌汁、ご飯。消化に良く、栄養バランスを考えたものだ。「どうぞ」席を勧めると、
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第22話

12月24日。クリスマスイブ。昨夜、氷室様から『明日、10時にリビングへ。私服で構わない』とメッセージが届いて以来、不安と期待が交錯し、私はほとんど眠れなかった。◇朝10時、私はリビングで氷室様を待っていた。紺色のワンピースに、ベージュのコートを羽織っている。控えめにメイクし、髪は後ろで一つにまとめた。鏡で何度も確認したが、そのたびに心臓が激しく鳴った。どこに行くのか、何の用事なのか。そして――なぜ、私なんだろう。廊下から足音が聞こえ、息を呑む。氷室様が、リビングに現れた。黒いロングコートに、首元をすっきりと見せるダークグレーのタートルネック。いつもの隙のないスーツ姿とは違う、大人の余裕を感じさせるラフな装い。……心臓に悪いほど、格好いい。「おはようございます」私は、慌てて立ち上がった。「ああ、おはよう」氷室様は私を一瞥した。その視線に、私の顔はカーッと熱くなる。「……似合っている」「え?」「そのワンピース。よく似合っている」その言葉に、心臓が思いきり跳ねた。「あ、ありがとうございます……」まさか、褒めてくれるなんて。氷室様は、少しだけ口角を上げた。「準備はいいか?」「はい」「では、行こう」◇タクシーに乗り込むと、氷室様は運転手に行き先を告げた。「銀座、四越百貨店まで」銀座?私は、少し驚いた。高級ブランドが立ち並ぶ、あの銀座。一体、何の用事だろう。タクシーが走り出す。車内は、静かだった。窓の外、東京の街はまばゆいクリスマスの装飾で彩られている。街路樹のイルミネーション、華やかなショーウィンドウ。街中が、幸せそうだ。私は、隣の氷室様をちらりと見た。彼は、窓の外を見つめたまま、何を考えているのか
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第23話

売り場には、ウール、カシミア、シルク、様々なマフラーが並んでいた。氷室様は、一つ一つ手に取って見ている。その真剣な横顔に、私は胸が温かくなった。不器用な人だ。でも、ちゃんと気持ちがある。「これは、どうだ?」氷室様が、グレーのカシミアのマフラーを手に取った。シンプルだけれど、上質な生地。触れると、柔らかい。「素敵ですね。落ち着いた色で、どんなスーツにも合いそうです」「そうか」氷室様は、マフラーを見つめた。「祖父は、派手なものは好まない。これくらいがちょうどいいかもしれない」「きっと、喜ばれますよ」私がそう言うと、氷室様は少しだけ微笑んだ。「……そうだといいが」氷室様は、店員を呼んだ。「これを包んでください。ギフト用で」「かしこまりました」私はその様子を、少し離れたところから見ていた。いつもの冷たい社長ではなく、一人の孫として振る舞う彼に、心が温かくなるのを感じた。◇百貨店を出ると、外はすでに夕暮れ時だった。街は、イルミネーションの光で満ちている。街路樹に巻かれた光がキラキラと輝き、いつまでも見ていたいくらい綺麗だった。「……綺麗だな」氷室様が、ぽつりと言った。「はい」私も頷く。氷室様が立ち止まり、こちらを振り返った。どうしたんだろう?数秒の沈黙。街のざわめきが、遠くに聞こえる。「イルミネーションも綺麗だが……君のほうが綺麗だ」え?今、なんて?私は、固まってしまった。頬が一気に熱くなる。「な、何を急に……」氷室様は、くすりと笑った。その笑顔は少し意地悪だが、心から楽しんでいるような顔。「事実だ」その言葉に、心臓が激しく脈打つ。顔も耳も熱
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第24話

震える手でリボンを解き、箱を開けると──。中には、小さなネックレスが入っていた。シルバーのチェーンに、小さな雪の結晶のペンダント。「あ……」氷室という名を持つ彼から贈られた、氷の花。シンプルだけれど、光を受けてキラキラと輝いている。「氷室、様……これ……」私の問いかけに、彼は夜の静寂に溶けそうなほど穏やかな声で、短く答えた。「……君に、似合うと思ったんだ」「綺麗」思わず声が出た。「気に入ってくれたか?」「はい……ですが、こんな高価なもの……」「高価?」氷室様は、少し首を傾げた。「値段なんて気にするな。君に似合うと思って選んだんだから」『君に似合うと思って──』その一言が、私の胸を一杯にした。視界が滲む。「ありがとうございます。大切にします」氷室様は、歩き出した。私も、その後に続く。手の中には、小さなティファニーブルーの箱。胸には、温かいものが広がっている。初めて、『咲希』と面と向かって名前で呼ばれた。そして……私に似合うと思って、プレゼントまで選んでくれた。こんなに嬉しいことって、あるだろうか。『咲希』名前を呼んでくれたときの彼の声が、まだ耳に残っていた。◇帰りのタクシーの中。私は、窓の外を見ていた。街のイルミネーションが、流れていく。氷室様は、隣で静かにしている。何も話さないけれど、居心地は悪くない。むしろ、心地いい。この時間がずっと続けばいいのに……そう、思ってしまった。──タクシーが、スカイレジデンス東京の前に停まった。「ありがとうござ
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第25話

翌日、クリスマスの朝。私はいつものように朝食を作った。フレンチトースト、スクランブルエッグ、サラダ、コーヒー。少し特別な、クリスマスの朝食。テーブルには、小さなクリスマスツリーの飾りも置いた。7時、氷室様がリビングに現れた。黒いスーツ姿。髪は完璧に整えられている。そして――私の首元を見て、少しだけ目を細めた。「おはようございます」「ああ、おはよう」氷室様は、席に着く際、私の首元に視線を止めた。白い肌の上で、昨日彼自身が選んだ雪の結晶が静かに輝いている。彼はそれを確認するように、一瞬だけ熱を帯びた瞳で目を細めた。「……それ、似合っているな」小さな声だったけれど、確かに聞こえた。頬が、熱くなる。「ありがとうございます。とても大切にしています」氷室様は、少しだけ微笑み、朝食を食べ始めた。その雰囲気は、昨日を境に、いつもよりずっと柔らかい。私も向かいの席に座り、首元のネックレスにそっと触れた。全てが夢のようだが、これは夢じゃない。「ごちそうさま」全て食べ終えると、氷室様は立ち上がった。昨日買ったマフラーの入った袋を手に取る。「今日は、祖父のところへ行ってくる。夕食は、遅くなるかもしれない」「わかりました。お気をつけて」氷室様は、玄関で振り返った。「昨日は、ありがとう」「いえ」「おかげで、いい一日だった」その言葉に、胸が温かくなった。私も、本当にいい一日だった。「私も……とても楽しかったです」氷室様は、少しだけ微笑んだ。「そうか」それだけ言って、氷室様は出て行った。いい一日だった、と言ってくれた。そして、私も楽しかったと伝えられた。胸に手を当てると、心臓がまだドキドキしている。どうしよう。氷室様のことを考えると、胸の鼓動が速くなる。これは、一体なんだろう?◇その日の夜、22時を過ぎた頃。氷室様が帰宅した。「お帰りなさいませ」「ただいま」氷室様は、少し疲れた表情をしていた。「お食事、温めましょうか?」「……頼む」珍しく、すぐに頼んでくれた。祖父との時間は、心労もあったのだろう。私は、キッチンで夕食を温める。今夜は、鶏肉のトマト煮込みとサラダ、パン、スープ。テーブルに並べると、氷室様がリビングに戻ってきた。スーツを脱ぎ、シャツの袖をまくっている。「おじい様は、喜ばれましたか?」「……ああ。喜ん
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第26話

「どんな猫だったんですか?」私がそっと尋ねると、氷室様は遠くを見るような目をした。「白い猫だった。名前は、ユキ」その名を聞いた瞬間、私の指先が自然と首元のネックレスに触れた。雪の結晶。ユキ。……彼は、自分が失った最も大切なものの名前を、私に贈ってくれたのだろうか。「ユキ……」「母が拾ってきた。雪の降る日に、捨てられていたらしい」氷室様の声が、少しだけ柔らかくなった。「母は優しかった。ユキを大切に育てた。俺も、ユキが好きだった」「……」「小さくて、ふわふわで。俺が学校から帰ると、いつも玄関で待っていてくれた」氷室様は、タブレットを見た。「この動画の猫を見ると、ユキを思い出す」その声は、懐かしそうだった。そして、少しだけ――悲しそうだった。「だけど、病気で……俺が10歳の時に、母は亡くなった」氷室様の声が、少し震えた。「……辛かったですね」私は、小さく言った。「ああ」氷室様は、窓の外に目をやった。「母が亡くなって、ユキも元気がなくなった。毎日、母の部屋の前で鳴いていた」「……」「そして、半年後……ユキも死んだ」その言葉が、胸に刺さった。「母を失って、ユキも失った。それから、動物は飼っていない……飼えない」氷室様は、私を見た。「失うのが、怖いからだ」その言葉は、彼の冷たい仮面の下にある、孤独の理由を全て物語っていた。失うのが怖い。だから、人を信じられない。だから、距離を置く。彼は、そうやって生きてきたのだ。母親を失って、ユキを失って。そして――きっと、他にも失ったものがあるんだろう。私は、何も言えなかった。ただ、静かにその痛みを受け止めることしかできなかった。しばらくの沈黙の後、氷室様が口を開いた。「君には、家族はいるのか?」「はい
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第27話

12月下旬。年の瀬が近づき、東京の空は厚い雲に覆われていた。冷たい雨が降り続き、街全体が灰色に染まっている。寒い。本当に、寒い。私は、ベッドの中で体を丸めていた。喉が、針で刺されるように痛い。頭痛が、脈打つように響く。昨日の夜から体調がおかしかった。でも、大丈夫だと思っていた。一晩眠れば、治る。そう信じていた。それなのに――朝になっても、体は動かなかった。◇いつもなら、6時には起きる。朝食の準備をして、氷室様を待つ。それが、私の日課だった。でも、今日は起きられなかった。目覚まし時計が鳴っているのが、遠くに聞こえる。止めなきゃ。そう思うのに、体が動かない。意識が、遠のいていく。体が、燃えるように熱かった。◇どれくらい時間が経ったのか。遠くで、ノックの音が聞こえた。――コンコン。「咲希、朝食は?」「!」氷室様だ。返事をしなきゃ……そう思うのに、喉が張り付いて声が出ない。呼吸するのも辛い。「咲希?」少し心配そうな声。「おい、咲希!?」今度は、焦ったような声。返事もできぬまま、意識が再び途切れかけた――その時。ドアが開く音がした。「入るぞ」足音が近づいてくる。そして、額に何かが触れた。まるで凍えるような冷たさ。いや、私の額が熱すぎるんだ。「熱い……」氷室様の声が、驚きと焦りを含んで響いた。「待ってろ。すぐに……」その声が遠くなる。私の意識は、そこで完全に途切れた。◇次に目を覚ました時、部屋は薄暗かった。カーテンが閉められ、額には冷たいタオルが乗せられている。体は重いながらも、さっきまでの灼熱地獄は引いていた。私はゆっくりと目を開け、部屋の中の人影を見つけた。
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第28話

「……気にするな。ちょっと、不手際があっただけだ」氷室様は気まずそうに顔を背けた。もしかして、このおかゆを作ってくれるときに?普段、何億円という契約書にサインをするその指が、私のために慣れない包丁を握り、鍋を火にかけ、傷ついたなんて。その事実が、胸の奥をぎゅーっと締め付けた。「冷めないうちに、早く食べろ」有無を言わさぬ声だけれど、優しい。まさか、食べさせてもらえるなんて。私は恥ずかしさと熱で顔が真っ赤になるのを感じたが、逆らえず口を少し開けた。温かいおかゆが、口の中に広がる。薄い塩味と、微かな生姜の香り。シンプルなのに、これ以上ないほど優しい味だ。私は、ゆっくりと飲み込む。「……美味いか?」その心配そうな目に、私は堪えていたものが決壊するのを感じた。じわりと、涙が溢れる。「……はい」かすれた声で、答える。「泣くな」氷室様は困った顔をした。「すみません……嬉しくて。優しくされると、泣いちゃいます」「……そうか。うれし泣きなら、いい」氷室様は、そっと私の涙を親指で拭った。その手が、ただただ温かかった。もう一口、また一口。氷室様が優しくおかゆを食べさせてくれる。温かいおかゆが、乾いたスポンジのように体に染み渡る。私は、涙が止まらなかった。嬉しかった。こんなふうに誰かに優しくされたのは、いつぶりだろう。子供の頃、風邪で寝込んだ時、母が看病してくれた。あの時と同じ。温かくて、安心できる。半分ほど食べたところで、私はもう食べられなくなった。「もう……無理です」「そうか」氷室様は、スプーンを置いた。「じゃあ、薬を飲め」解熱
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第29話

【蓮side】咲希が眠った。穏やかな寝息が聞こえる。俺は椅子に座ったまま、彼女を見ていた。頬が少し赤い。熱で、火照っているのだろう。額にかかる髪を、そっと払う。柔らかい。驚くほど、柔らかい。今朝、彼女がリビングに現れなかった時、胸が冷たくなった。何かあったのか、どこかへ行ったのか。こんなふうに、誰かのことで不安になったのはいつぶりだろう。部屋のベッドで苦しそうに眠る咲希を見つけ、彼女の額に触れた瞬間、俺は焦った。医者を呼ぶことすら忘れて、パニックになった。俺は近所の薬局に走り、慣れない手つきでスマホを見ながら、おかゆを作った。米の研ぎ方すら怪しく、火加減を間違えて鍋を吹きこぼし、慌てて素手で蓋を掴んで指を火傷した。「はあ……」我ながら、いい歳をしてかっこ悪い。流水で冷やした指に、不器用な手つきで絆創膏を貼り付けた。高級なシステムキッチンは、見るも無惨に汚れたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。母が昔作ってくれた、あの味を再現することだけに必死だった。生姜を刻んで鍋に入れ、弱火でコトコト煮る。不器用ながら、何とか形になった。咲希の部屋に戻ると、彼女はまだ眠っていた。俺は、椅子に座って待った。彼女が目を覚ますまで、ずっと。そして、目を覚ました彼女におかゆを食べさせた。息を吹きかけて、冷まして。スプーンで、一口ずつ。彼女が泣いた時、俺の胸は締め付けられた。『優しくされると、泣いちゃいます』そう言った咲希。今まで、どれだけ一人で頑張ってきたのだろう。どれだけ、我慢してきたのだろう。俺は、ベッドに横になる彼女を見つめた。穏やかな寝顔。少し苦しそうだけど、さっきよりはだいぶマシだ。俺は、ほっと胸を撫でおろす。「咲希……」小さく呟いた。咲希本人にも、誰にも聞こえない。だが、俺は確かにその名前を口に出した。俺は胸に手を当てる。胸の奥が苦しい。この感情が何なのか、もうごまかせない。咲希がいない朝が、これほどまでに辛い。咲希の作る料理が、これほどまでに恋しい。咲希の笑顔が、自分の平穏に必要なものになっていた。俺は、いつからこんなに彼女に依存していたんだろう。いや、依存じゃない。これは――。愛、なのか?考えた瞬間、指先が凍りつくような恐怖を覚えた。愛してしまえば、失うのが怖くなる。あの猫のユキのように、
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