仕事帰り、電車の中で借りた本のことを考えていた。 昨夜読み終えた。最後のページを閉じてから、しばらくそのままにしていた。静かに終わる話だった。派手な結末ではなかったが、主人公の選択がずっと頭に残った。 読み終えたと言えば、話ができる。 そう思っていた。 玄関を開けると、革靴があった。 揃えて置かれていた。見慣れた靴だった。足が少しだけ止まった。止まってから、鞄を下ろして、読み終えた本を手に取った。 地下書庫へ降りた。 灯はいつもの場所にいた。棚の前の椅子に座って、本を読んでいた。顔を上げた。 「お帰りなさい」 「ただいま帰りました」 今日は言い直さなかった。 本を差し出した。 「ありがとうございました。面白かったです」 灯は本を受け取った。表紙をそっと見てから、裏表紙を確認した。奥付を開いた。本を受け取るたびに、灯はこうする。状態を確認しているのか、それとも習慣なのか、どちらかは分からなかった。 「最後まで読まれましたか」 「はい」 「主人公の選択は、どう思いましたか」 少し考えた。 「派手じゃないけど、あれしかなかったと思います。別の選び方をしたら、別の話になっていた」 灯は少し間を置いた。 「この作品は、訳者によって最後の印象が少し変わるんです」 そう言って立ち上がり、棚の別の場所から一冊を取り出した。同じ作者の、別の版だった。装丁が違った。手に取ると、紙の厚みが違った。 「読み比べたことはありますか」 「ないです」 「最後の一文の訳し方が違っていて、読後感がずいぶん変わります」 「そんなに変わるものですか」 「はい。翻訳は解釈なので、訳者が違えば別の作品に近くなることがあります。特にこの作品は最後の一文が短いので、言葉の選び方が全体の印象を決めます」 灯が二冊を並べた。それぞれの最後のページを開いた。瑠衣には原文も読めなかったが、日本語訳を見比べると確かに言葉が違った。 「同じ場面なんですね」 「そうです。でも読んだ後に残るものが違います。こちらは解放感があって、こちらは余韻が長い」 どちらが好きか、という話になった。瑠衣は後者だと言った。灯は少し考えてから、同じです、と言った。 「じゃあなぜ両方持っているんで
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