第七大陸に渡り鳥はいない
十五歳まで、私は路傍の雑草のように生きていた。
白石朔也(しらいし さくや)と夏川奈々(なつかわ なな)に出会うまでは。
私が初めて食べた生姜焼きは、奈々が作ってくれたものだった。
初めて着たワンピースは、奈々が買ってくれたものだった。
彼女は繰り返し私に言ってくれた。私が一番の親友なのだと。
そして、白石朔也。
彼は、下卑た笑い声をあげる不良グループから私を救い出してくれた。
四十度の高熱を出した私を、必死の形相で病院へ運んでくれた。
酔った義父がまた私に手を上げようとした時、その頭を拳で殴り飛ばしてくれた。
後に彼は私に告白した。その瞳は愛おしさで満ちていた。
私の灰色の人生は、彼らのおかげでようやく鮮やかな色を取り戻したのだ。
二十三歳の誕生日、あの日までは。
私は聞いてしまった。朔也が奈々に向かって感情的に叫ぶ声を。
「この気持ちはどうしようもないんだ!俺がお前を好きになってしまった、それがどうした!お前だって同じ気持ちだろう?」
美しい奈々は、苦渋に満ちて赤くなった男の目を見て、ついに泣きながら彼の胸に飛び込んだ。
「でも……詩織はどうするの?」
私は物陰に隠れ、苦い笑みを浮かべた。
どうするもこうするもない。
二人とも、私が最も愛する人たちだ。
あなたたちを困らせるなんて、私にはできない。
指導教官に電話をかけ、私は静かに言った。
「あの、二十年間の南極科学探査プロジェクトですが、申請してもよろしいでしょうか?」