10年の愛は風と散る
文化財修復コンテストまであと一週間という頃、高橋美咲(たかはし みさき)は石井グループとの機密保持契約にサインした。
契約が発効すれば、これから三年間、誰ひとりとして彼女の行方を突き止めることはできない。
町中では、美咲が中村悠真(なかむら ゆうま)の溺愛する婚約者だということを知らない者はいなかった。
十八歳のとき、悠真は満天の星空の下で彼女に永遠の愛を誓った。
だが、あの日――美咲は偶然、悠真とその仲間たちの会話を耳にしてしまった。
「悠真、お前、美咲さんのコンテスト用の陶器をすり替えるなんて……バレたら別れられるかもって思わないのかよ?」
悠真は秘書を抱きながら、軽く笑って答えた。
「何を心配するんだよ。美咲は俺のことが好きすぎて、離れられるわけがない。
花音が優勝したいって言うなら、当然叶えてやるさ」
その瞬間、美咲は十年分の想いを手放し、彼の世界から、完全に消えることを決意した。