愛の終止符、それぞれの明日へ
「中絶手術を受けろ」
つい先ほどまで妊娠の喜びに浸っていた森美陽(もり みはる)が、夫のその言葉を聞いた瞬間、心は底知れぬ絶望の淵へと沈んだ。
「……今、なんて言ったの?あなた、この子は私たちの子供なのよ……」
「幸人がお前の妊娠を知って、さっき飛び降りようとしたんだ。あの子はまだ新しい母親としてお前を受け入れていない。それなのに、その腹の子を認められるわけがないだろう」
幸人。また、葛西幸人(かさい ゆきと)のこと……
葛西圭(かさい けい)と結婚して以来、美陽は彼の息子――幸人に精一杯の愛情を注いできた。だが、幸人は執拗に美陽を嫌い続けた。
そして今、その悪意は美陽の子供にまで及ぼうとしている。
「圭、幸人があなたの子供なら、この子だってそうじゃないの?」
美陽の目から涙が溢れ出し、喉の奥にこみ上げる酸っぱい苦みとともに、声は途切れ途切れになった。
圭は沈黙した。
長い沈黙の後、ただ一言だけ告げた。
「子供ならまた作ればいい。聞き分けよくしてくれ。今は幸人を最優先にすべきなんだ」