冷酷夫、離婚宣言で愛を暴走
結婚して一年が過ぎたころ、黒澤時生(くろさわ ときお)は突然、私に触れようとしなくなった。別荘にはわざわざ仏間を作り、数珠も肌身離さず身につけるようになった。
私がどれほど誘っても、彼は冷たい態度のままで、心ひとつ動かす様子もなかった。
ある夜、浴室の前で、私は目を疑った。彼が別の女の写真に向かって、欲望をあらわにしている姿を見てしまったのだ。
その瞬間、悟った。禁欲を装っていた時生も、結局は欲に逆らえなかった。そして、その欲は私にではなく、別の女に向けられていたのだ。
私は彼を騙し、離婚協議書にサインさせると、彼の世界から跡形もなく消えた。
けれど後になって耳にしたのは――彼が狂ったように私を探し回っているという噂だった。
その後、やっとの思いで再会したが、それは彼の叔父の結婚式だった。
純白のウェディングドレスに身を包んだ私を目にした時生は、真っ赤な目をしながらも、どうしても言えなかった。「おばさん」という、その一言を。