仏にも 愛しき君にも 背かぬ道 この世にあらじと 嘆く心よ 詩はひどくロマンチックだが、早瀬若葉には関係ない。なぜなら、早瀬若葉の婚約者は、浮世離れした仏子だったから。 しかし、彼が還俗したのは彼女のためではなく、空色戒を破ったのも彼女のためではなかった。 仏子は決して心を動かさないだろうと彼女は思っていたが、後に、彼が心を動かさないのは、ただ彼女のためではなかったのだと知る。 だから、早瀬若葉は諦めた。 彼女は、江藤白夜を忘れるために、自らに七日間の猶予を与えた。
もっと見るかつての江藤白夜もそうだった。彼は早瀬若葉への愛が十分に固くなく、だからこそ、何度も彼女を突き放し、何度も試練を与え、彼女が自分を愛していることを確かめたかった。彼が如来に捧げた佛心もまた、十分に固くなかったため、修行半ばで還俗したのだ。 最終的に、早瀬若葉が仏門に帰依したことで、江藤白夜は自身の心の奥底を完全に悟り、己の無恥さも認めた。 彼はその瞬間、住職が円寂前に言った「人は己が心に従うべきだ」という言葉を真に体現したのだ。 そして彼もまた、心の中の如来――早瀬若葉に巡り合った。 だから彼は再び出家することを選び、彼の如来、彼の信仰を守り抜いた。 この瞬間、彼の傷ついた佛心は再び円満となり、彼もまた解脱したのだ。 一方、早瀬若葉は青い灯火を友とし、経典に七年を費やした。 彼女は自分自身の佛心が固いと思い込んでいたが、実は一度も自分の心と真剣に向き合ったことがなかった。 当初、彼女が仏門に帰依したのは、俗世が彼女を裏切ったからではなく、江藤白夜が彼女を裏切ったからだった。 彼女が佛祖を心から慕っていたわけではない。ただ、自分には『石橋禅』に描かれているような永遠の愛を決して手に入れられないと悟ったのだ。江藤白夜に対する自身の愛でさえ、それほど純粋で無私なものではなかった。彼女は愛に深く失望し、それゆえに全てを捨てたのだった。 しかし、江藤白夜は再び彼女の元に戻ってきた。かつて彼女が情熱を燃やして彼を追い求めたように、彼もまた信仰を抱いて彼女を守り始めたのだ。 永遠の愛がこの瞬間、形を成し始めたかのように見えた。そして、早瀬若葉の佛心もまた、それによって揺らぎ始めた。 しかし、彼女はそれを認めたくなかった。 自分があらゆるものを犠牲にして得た佛心が、こんなにも頼りなく、ごく小さな愛だけで揺らいでしまうことを認めたくなかった。 全てに絶望して仏門に帰依したのが、実は江藤白夜が彼女を裏切ったためだったという事実を認めたくなかったのだ。 おそらく、住職は全てを見通していたのだろう。だからこそ、円寂する直前まで、「人は己が心に従うべきだ」と、繰り返し彼女に語りかけたのだ。 そして今、江藤白夜の導きによって、早瀬若葉はついに自分の心と向き合うことを選んだ。 そうして、彼女が自分の心に率直に向き合ったその瞬間
ロサンタンジュの心の中では、白夜の仏学における造詣は、彼女より上だった。 なにしろ彼女は七年しか修行していないのに対し、彼は一生をかけて修行してきたのだ。 だから、過去の因縁はさておき、仏法についてのみ言えば、彼女は白夜を深く尊敬していた。 そこで彼女は頷いた。「尋ねなさい。必ず心に従って答えるわ」 そして、白夜は彼女に尋ねた。「若葉、君はなぜあの時仏門に帰依したんだい?」 今回、彼は彼女をタンジュとは呼ばず、かつての名である若葉と呼んだ。 あの時の若葉は、なぜ仏門に帰依したのだろうか? 「心の平静を得たかったの」ロサンタンジュは言った。「仏法は私を落ち着かせてくれる。それが魂の帰依先であり、私の心が惹かれる場所だと感じたから」 「俗世では平静になれなかったのかい?」白夜は重ねて尋ねた。 この問いに、ロサンタンジュは言葉を詰まらせた。 彼女は「なれなかった」と答えようとしたが、それは真実ではなかった。なぜなら、俗世が彼女を裏切ったことなど一度もなく、彼女自身も、俗世のどこにも悪いところがあると感じたことはなかったからだ。 最初から最後まで、彼女を裏切ったのは、白夜だけだった。 白夜こそが、彼女の心を平静にさせなかったのだ。だから彼女は全てを捨て、仏門に帰依し、仏法の中に心の安らぎを見つけようとした。 「若葉、仏道を修めるのは逃避するためではなく、自分自身の心と向き合うためだ」白夜は言った。「心の向かうところが、即ち如来。私もかつては煩悩に目が曇り、仏子という身分ゆえに、心の傲慢と偽善ゆえに、自分自身の内なる考えを認めようとせず、最も真実の自分を受け入れようとしなかった」 「だが、今はそれを受け入れた。そして愛は強要するものではなく、占有するものでもないと悟った。私は君を愛しているが、君に返事を強要しないし、独り占めすることもない。君は自由だ。君が仏となれば、私は仏を拝む。君が俗世に戻るなら、私も一生君を守り抜く」 「『石橋禅』のあの詩を覚えているかい?私は石橋石橋に生まれ変わり、五百年の風に吹かれ、五百年の雨に打たれ、五百年の日差しにさらされても構わない。ただ来世で、あなたがその橋を渡るためだけに…… 私はかつて、ずっと疑問に思っていた。仏教は明らかに男女の私情を禁じているのに、なぜ仏典の中に、このよ
禅院では、住職のために盛大な葬儀が執り行われた。 ロサンタンジュも白い僧衣を纏い、住職を見送りに向かった。 住職は彼女にとって、単なる住職ではなかった。師であり、人生の道しるべとなる明かりであった。彼女が迷いを感じるたびに、住職を訪ねては、道を示してもらっていたのだ。 だが、今や住職は逝ってしまった。 彼女の心は、なおも深い霧に包まれていた。己の心の内を見極めることができず、しかし、もはや誰も彼女に進むべき道を教えてくれる者はいなかった。 住職が荼毘に付された後、その遺骨は九つの舎利と化した。伝え聞くところによれば、悟りを開いた高僧が円寂する際にのみ、遺骨が舎利に変わるのだという。 禅院の僧侶たちは、住職への敬意を一層深めた。住職の遺身が化した舎利は佛堂に納められ、ロサンタンジュは毎日、舎利に線香を一本捧げた。師が天にあって霊を宿し、再び何らかの示唆を与えてくれることを願って。 「……人は己が心に従うべきだ」彼女は師が円寂する前に告げた最期の言葉を繰り返した。「ですが師匠、もし私自身が己の心の内を見抜けないのであれば、どうすれば良いのでしょうか?」 その時、白夜が入ってきた。彼は毛布を抱えていた。 ロサンタンジュは、師の舎利の前で経を誦していた。白夜は彼女を邪魔することなく、ただ黙って毛布を彼女の肩にかけた。 すでに秋の気配が深まり、夜は冷え込む。彼女が連日こうして経を誦しているため、彼は彼女が風邪を引くのを心配したのだ。 ロサンタンジュに毛布をかけ終えると、白夜は振り返って立ち去ろうとした。 だが、ロサンタンジュは彼を呼び止めた。 「白夜、あなたも師の弟子だ。幼い頃から彼に従って修行していた」彼女は静かに言った。「師が円寂する前に、私に一言申したの。私はこの数日、毎日その言葉を思い、考えているのだけれど、どうしても理解できないの……私を助けてくれる気はある?」 白夜は微笑んだ。「もちろんだ。君のためなら何でもするよ」 ロサンタンジュは濃密な長い睫毛を伏せた。白夜の告白には気にも留めず、続けて言った。「師は言ったわ。『諸相は相にあらず、すなわち如来を見る。仏とは如来ではない、聖僧でもない、ましてや寺院でもない。それは心の向かうところだ……人は己が心に従うべきだ』と」 その言葉を聞き、白夜は明らかに呆然
玲奈から手渡された汐蔵族の祈願紐に、ロサンタンジュの穏やかな心は、珍しくさざ波を立てた。 紅瑪瑙は永遠の愛を意味する。 だが、愛は本当に永遠たり得るのだろうか? 彼女はかつて白夜を、あれほどまでに情熱的で、激しく愛したのに……結局は心が冷め、彼のもとを去ったではないか。 人々は常に永遠に変わらぬ愛を期待するが、この世に、永遠に変わらぬ愛などどこにあるというのだろう。 大いなる愛だけが永遠なのだ。 玲奈は懺悔を終えると、禅院を後にし、婚約者とともに家へと帰っていった。 静まり返った禅院には、ロサンタンジュと白夜の二人だけが残された。 ロサンタンジュは片手で佛珠を捻り、もう片方の手で汐蔵族の祈願紐を握りしめ、言いようのない重い気持ちに沈んでいた。 「七年だわ、もう丸七年が過ぎたわね」 ロサンタンジュは軽くため息をついた。彼女は振り向いて白夜を見つめ、尋ねた。 「今、あなたが拝むのは如来様か、それとも私か?」 白夜は静かに笑いながら答えた。 「あなたこそ、如来」 僧侶たちが如来を拝むのは、心の中の信仰を拝むのだ。 そして彼の心には、最初から最後まで彼女しかいなかった。 だから、彼女こそ如来なのだ。 「愛が五百年も続くなんて、ありえないわ」 ロサンタンジュはため息をついた。彼女は手にしている汐蔵族の祈願紐を白夜に返すつもりだったが、なぜかそれを固く握りしめ、手放すことができなかった。 「おそらく、無理だろうね」 白夜は笑った。 「だが、信仰ならできる」 信仰ならば、確かに可能だ。そうでなければ、仏教が何千年もの時を経て衰退することはないだろう。 ロサンタンジュは何も言わず、振り返って立ち去ろうとしたが、背後から白夜の笑みを帯びた声が聞こえてきた。 「そして、あなたこそが、私の信仰なのだ」 ロサンタンジュの足がぴたりと止まった。 彼女は先ほど彼に尋ねたのだ。七年が過ぎた今、彼が拝むのは如来なのか、それとも彼女なのかと。 彼の答えは「あなたこそ如来」だった。 「私が拝むのはあなただ」とは言わなかった。 なぜなら、この数年間、彼が拝んだのは決して愛ではなく、信仰だったからだ。 彼女こそが、彼の全ての信仰だった。 愛は五百年も続かないが、信仰ならできる。彼女
神様というのは、時に本当に茶目っ気たっぷりな冗談を言うものだ。 若葉は白夜に凡人の心を与えた。かくして、本来七情六欲を持たなかった仏子である彼に、欲望と私心が芽生えた。その私心と欲望に駆り立てられ、彼は玲奈の運命を変えた。玲奈を若葉の身代わりとして、次代のダンマ女神に据えたのだ。そして、その罪悪感から、玲奈を百方にも慈しみ、果ては共に各国を旅し、仏法を体得させた。 しかし玲奈は、それによって白夜を愛するようになった。私心から、彼女は若葉と白夜の間の感情を故意に破壊しようとした。だが、それが皮肉にも、若葉の仏心を成就させる結果となった。 おそらく、すべてはとうに定められていたのだろう。 彼ら三人は、互いに互いの因果を成就させたのだ。 「白夜お兄さん、本当に私を責めないの?」玲奈は涙を拭いながら言った。「もし私がいなければ、若葉お姉さんは出家しなかったかもしれないのに」 しかし白夜は淡然と微笑んだ。彼は地面に跪いた玲奈を立ち上がらせ、そして笑って言った。「彼女は元々、宿命のダンマ女神なのだ。たとえ君がいなくても、彼女は仏になっただろう」 仏法を修め直した後、白夜も多くのことを見通せるようになった。 ある種のことは、やはり宿命なのだろう。 かつての彼は知恵を絞り、若葉の仏縁を断ち切り、彼女がダンマ女神になるのを阻止しようと奔走した。だが結局、彼の行いは、一歩一歩若葉を仏門へと押しやったのだ。 因果応報、輪廻転生。時にそれは、かくも玄妙なものなのだ。 彼は玲奈の運命を変え、玲奈もまた彼の姻縁を断ち切った。仏はとうにすべてを見通していたが、ただ微笑み、何も語らず、ただ世人が苦海で藻掻くのを憐れむばかり。 人とは! 運命とは! 「若葉お姉さん、あなたも私を責めないの?」玲奈は振り返り、涙を流しながらロサンタンジュの方を見た。 ロサンタンジュは微笑んで首を振った。「玲奈、あなたは自分を責める必要などない。もし私の心が、本当に白夜を堅く選んでいたのなら、たとえあなたが邪魔をしたところで、私の選択はそう簡単には変わらなかったでしょう。変わったのは、この愛がまだ十分に確固たるものではなかったからだ」 「私がまだ若葉だった頃、私は『石橋禅』に記されたあの恋の詩が大好きでした――【私は石橋に生まれ変わり、五百年の風に吹かれ、
「若葉お姉さん、今日私がここに来たのは、実は懺悔するためなんだ」玲奈は俯き、羞恥心で顔を真っ赤にしながら言った。「ごめんなさい……私は少しも純粋なんかじゃないし、善良なんかじゃない。昔の私は、本当にあなたにひどいことをたくさんしたの」 「五年前、白夜お兄さんが私を南の方へ遊びに連れて行ってくれた時、私はわざとあなたのウェディングドレスを着たの。なぜなら、その時の私は、白夜お兄さんが好きなのは私なのに、あなたとあなたの家族が婚約で彼を縛りつけ、無理やり結婚させようとしている、って思っていたから」 「だから陰に陽にあなたを邪魔したし、あの日、あなたが私を遊園地に連れて行った時も、私はわざと迷子になったの。白夜お兄さんにあなたを責めさせたかったし、二人が婚前にもめさせて、最終的に二人の結婚式をぶち壊したかったのよ」 「白夜お兄さんがすぐに私を見つけられたのは、私がずっと遊園地の入り口に隠れていたからよ。白夜お兄さんを見つけたら、すぐ駆け寄って行ったの。いわゆる以心伝心なんて、全くなかった。全部私が……全部私が……ひどすぎるからよ!」 ここまで話すと、玲奈は思わず顔を覆って泣き始めた。 ロサンタンジュの表情は終始穏やかで、懐からハンカチを取り出し、玲奈に差し出した。 玲奈はハンカチを受け取ると、涙を拭いながらさらに嗚咽混じりに言った。「白夜お兄さんが私を見つけた後、私、嘘をついたの。あなたが私にすごく意地悪で、罵って、汐蔵県に帰れって、ここにいて邪魔をするなって言われたって……」 「だから、あの夜、白夜お兄さんはあんなに怒っていたのね。私を見つけた後、本当はあなたに電話をかけようとしていたんだけど、私が彼に抱きついて、『すごく怖い、追い出されるのが怖い』って言ったの。それで彼は電話を置いて、私を慰め始めたの……」 「それから二人の結婚式。白夜お兄さんが本当は結婚したいのはずっとあなただった。私が、あなたこそが私に代わってダンマ女神になった女の子だと知った後、本来ならこのことを白夜お兄さんに伝えるべきだった。でもしなかった。なぜなら、私があなたに代わって、白夜お兄さんの花嫁になりたかったから」 「あの日、あなたが僧衣を着て結婚式の会場に来た時、私、本当はあなたを見たの。でも、わざと見ないふりをした。あなたに諦めて引き返してほしかったから…
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