Share

41

last update publish date: 2026-04-12 18:11:37

 晶子さんはダイニングテーブルの上に並べられた私の料理と、義母の黒い煮物をジロジロと見比べた。

「うわ、本当だ。お母さんの煮物、めっちゃ美味しそう! ……っていうか、真由美さんのご飯って相変わらず味が薄そうねえ。これ、豚肉の炒め物? 色が全然ついてないじゃない。これじゃ食べた気がしないわ。お母さんの煮物があってよかったー」

 晶子さんは、ケラケラと甲高い声で笑いながら言った。

 他人の家にアポなしで押しかけてタダ飯を食いに来た分際で、いけしゃあしゃあと料理の文句を垂れる。

 その神経の図太さは、隕石でも跳ね返せそうだ。

(タダ飯を食いに来たくせに、よくもまあ偉そうに)

 私の脳内でツッコミが炸裂する。

 以前の私なら彼女の態度に傷ついて、「どうして私ばかりこんな目に」と苛立っていただろう。

 けれど今の私の心は完全な氷点下だ。

 彼らの言葉は、ただの不快なノイズとして耳を通り抜けていくだけ。

 怒りよりも、彼らのドン引きするよ
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 100日後に離婚する嫁   66:最悪の裏切り

     私と香奈さんが今後の対策について話し合いを終えてから、約1時間が経過した頃のこと。 ピンポーン。ピンポーン! 夕暮れが迫る我が家の玄関のチャイムが、乱暴に何度も鳴らされた。 私が急いで廊下へ向かい、内側から玄関の鍵を開けた途端、ドアが勢いよく引かれた。「あーあ、今日も新台全然出なかったわ! 最悪!」 言うなり、晶子さんは私を押しのけて強引に上がり込んでくる。 いい大人なのに靴を脱ぎ散らかしたままで、「お邪魔します」の一言もない。まあ、もう諦めているけれど。 彼女は玄関の隅で縮こまっている自分の息子たちには声をかけることもなく、目の前にいる私を小馬鹿にするように鼻で笑った。「ちょっと真由美さん、夕飯できてる? 負けちゃったから、今日はここで食べていくわよ。子供たちも腹ペコなんだから、早くしてよね」 自分のギャンブルの都合で子供を他人の家に押し付けておきながら、当たり前のように夕食の催促をする。 香奈さんの指摘通り、この人の無神経さは常軌を逸している。 私が呆れて言葉を失っていると、晶子さんは私を押しのけるようにして廊下を進み、リビングへと向かった。「ちょっと、聞いてるの? お腹空いてるって言ってるでしょ」 しかしリビングで晶子さんを待ち構えていたのは、一人掛けのソファに座った香奈さんだった。「お姉ちゃん、随分と遅かったわね。子供たちを放置して、さぞかしパチンコが楽しかったみたいだけど」「何よ香奈、来てたの?」 晶子さんは間の抜けた声を上げて、部屋の中を見回した。 私がその後ろからリビングに入ると、香奈さんは表情を一切変えず、ローテーブルの上に置いてあった私のスマートフォンを手に取った。「お義姉さんに文句を言う前に、これを見て」 香奈さんは再生ボタンを押し、スマートフォンの画面を晶子さんに向けた。 そこには、甥っ子たちがリビングの壁紙を面白半分に剥がし、陽菜を乱暴に突き飛ばす一部始終がはっきりと映し出されていた。 動画を見終わっても、晶子さんの顔に罪悪感の

  • 100日後に離婚する嫁   65

     その言葉は、私にとってどれほど心強かったか知れない。 1人で証拠を集め、孤独な戦いを覚悟していた私にとって、香奈さんは暗闇に差し込んだ一筋の光だった。 味方は1人もいないと思っていた義家族の中に、こんなにも強力で頼もしい助力者が現れたのだ。「分かりました。これを見てください」 私は香奈さんの言葉に深く頷くと、エプロンのポケットからスマートフォンを取り出した。 この家から脱出するための具体的な反撃の糸口が、ついに見え始めた。 私は香奈さんと協力して、あの身勝手な夫と非常識な義家族たちに、必ず相応の報いを受けさせる。 そう固く心に誓いながら、私は香奈さんにスマートフォンの画面を差し出した。 香奈さんはスマホの記録を読むと、はあっとため息をついた。「これはひどい……。私は前から、うちの実家がおかしいと思っていたんです。常識はないし、あの甥っ子たちもろくに躾されていない。でもここまでとは思いませんでした」 香奈さんはスマホを私に返しながら続ける。「私は独身だけど、夫婦は協力しあって暮らすものですよね。和也お兄ちゃんがお義姉さんに家事と育児を全部押し付けて、その上お母さんが嫌な姑に成り下がっている」 彼女は首を振った。 確かにひどい人たちだけど、香奈さんにとっては実の家族だ。複雑な心境なのだろう。「お義姉さん。お義姉さんの気持ちはどうなんですか? もし本当に離婚を考えているなら……」 香奈さんの眼差しを受けて、私は頷いた。「正直、離婚に傾いているわ。このままなら私と陽菜だけで暮らした方が安心できる。お金もたぶん何とかなる」 こういう時、働いていて良かったと思う。経済力があれば、陽菜を連れてこの家を出ていける。「ただ、すんなり別れられるか分からなくて。この家はペアローンだから、和也は手放したくないはず。それに家事と育児放棄だけで、離婚が通るかも私には分からない」 不倫とか強い暴力とか、決定的なことはない。 裁判やら調

  • 100日後に離婚する嫁   64

     陽菜はぽかんとして従兄弟たちを眺めている。 そうして彼らは怯えきった手つきで、床に散らばった壁紙の破片を必死に拾い集め始めた。 泣きじゃくりながら、おもちゃ箱にブロックやパズルをしまう。 首の伸びたウサギのぬいぐるみを、まるで壊れ物にでも触るかのようにそっとテーブルの上に置く。 私はその様子を、ただ無表情で見つめていた。 彼らが謝罪したからといって、私の心の中にある氷が溶けることはない。 壁紙を剥がされたことへの怒りも、陽菜を突き飛ばされたことへの憎しみも、決して消えることはない。(子供だからと許すには、あの子たちはやりすぎた。特に陽菜への暴力は、許せない) だが香奈さんが彼らに与えた「鉄の裁き」は、私に一定の救いをもたらしてくれた。 私の力だけでは、甥っ子たちを制裁することすらできなかった。 陽菜を守ることもできなかった。 情けなくて悔しくて、それでもずっと耐えていた。 私の力だけではどうにもならなかった閉塞感から、ようやく少しだけ解放された気がしたのだ。 ただ、問題の本質は甥っ子たちだけではない。 彼らに毒を吹き込んだのは、義母と義姉だ。 あの2人を、いや、こんな騒ぎの中でも素知らぬ顔を貫いている和也を含めて何とかしなければ、根本的な解決にならない。 甥っ子たちは、泣きながらリビングの片付けを終えた。 香奈さんはそれを確認すると、「もう二度と、他人の家で勝手な真似はしないこと。わかったわね」 と最後に釘を刺した。 2人は「はいぃぃ」と涙声で返事をして、玄関の隅に丸くなって縮こまった。 晶子さんが迎えに来るまで、そこで一歩も動かないつもりらしい。 香奈さんはようやく肩の力を抜いて、私の方へ歩み寄ってきた。 それまでの冷徹な表情がふっと和らぐ。私の腕の中にいる陽菜の頭を、優しく撫でた。「陽菜ちゃん、怖かったね。ごめんね、香奈おばちゃんがもっと早く来てあげられればよかったのに」「…&hel

  • 100日後に離婚する嫁   63

     最後に「=(イコール)」のボタンを強く押した。 2人の甥っ子の目の前に、計算結果が表示されたスマートフォンの画面を突きつけた。「すべて合わせて、約30万円」 30万円。 小学生の子供にとっては、想像もつかないほどの大金だ。 彼らは突きつけられた画面の数字を見て、絶句した。「あなたたちのお母さんが、このお金をすぐに払えると思う? パチンコで負けて、夕飯も他人の家にたかりに来るようなお母さんが、30万円なんて大金を用意できるかしら」 香奈さんの言葉には、子供騙しではない現実の重みがある。 その現実を容赦なく叩きつけられて、悪童兄弟はうなだれた。「もし払えないなら、どうなると思う?」 香奈さんはわざと間を置き、彼らの顔を交互に見つめた。 2人の目は恐怖で見開かれた。喉の奥からヒュッと短い息が漏れる。「お義姉さんは、他人の家を壊した泥棒として、あなたたちを警察に突き出すことになるわね。警察の人が家に来て、あなたたちに手錠をかけるかもしれないわ」 警察。手錠。 その単語が出た瞬間、兄の顔から完全に血の気が引いた。 弟の方はもう、唇をワナワナとさせて今にも泣き出しそうだ。「それだけじゃないわ」 香奈さんはさらに追い打ちをかける。「陽菜ちゃんに暴力を振るった事実は、児童相談所にも通報される。そうなったら、あなたたちは『乱暴で危険な子供』として施設に入れられて、お母さんや、おばあちゃんとはもう一緒に暮らせなくなるかもしれないわよ。一生ね」 一生、親と引き離される。 その言葉が決定打となった。「いやだぁぁぁっ!」 弟の方が、ついに耐えきれなくなった。大声を上げて泣き出す。 その場にペタンと座り込み、顔を歪めて号泣を始めた。 兄の方もポロポロと大粒の涙をこぼしながら、必死に香奈さんに向かってお願いを始めた。「ごめんなさい! ごめんなさい! もう絶対やらないから! 警察呼ばないで!」「施設やだぁ! ママとば

  • 100日後に離婚する嫁   62:鉄の裁き

    「さて……」 香奈さんが手帳を開き、ボールペンを構えた瞬間。 つい先ほどまで動物園のサル山のようだった我が家のリビングは、裁判所の法廷のような冷たく重い空気に完全に切り替わった。 私の腕の中で泣きじゃくっていた陽菜も、そのただならぬ雰囲気に気圧されたのか、しゃくり上げるのをやめて私の首にしがみついている。 対照的に、2人の悪童兄弟は目に見えて動揺していた。 彼らは自分たちがしでかしたことの重大さを、香奈さんの冷たい態度によってようやく理解したらしい。 兄の方が、顔を引きつらせて弟の袖を引っ張った。「か、帰る! おれたち、もう帰る!」 兄に引っ張られ、弟はなおも言った。「ばぁばに言いつけてやる! 香奈おばちゃんがいじめるって!」 ……言いつけは無駄じゃないかな。 義母もどちらかというと香奈さんを怖がっているから。 甥っ子たちは泣きそうな顔になっている。私と香奈さんの横をすり抜けて、玄関の方へ逃げ出そうとした。 しかし香奈さんは、そんな子供騙しの逃走を許すほど甘くはなかった。 素早くリビングの入り口へ移動し、彼らの退路を完璧にふさぐ。「どこへ行くの。まだ話は終わっていないわよ」 香奈さんの声は一見すると冷静だ。怒鳴っていないし、言葉遣いも落ち着いている。 けれど下手に怒鳴られるより、ずっと恐ろしかった。 一切の妥協を許さない、氷のように冷たい声。 逃さないし許さないと、態度で告げている。 逃げ道をふさがれて、悪ガキ兄弟がヒッと息を呑む音が聞こえた。「晶子お姉ちゃんを……お母さんを呼んでも無駄よ。あなたたちが他人の家を壊し、小さな女の子に怪我をさせたという事実は、誰にも肩代わりできないんだから」 香奈さんは彼らを見下ろしながら、手元のスマートフォンを操作し始めた。 電卓アプリを起動し、慣れた手つきで数字を打ち込んでいのが見える。 ピポ、ピポと

  • 100日後に離婚する嫁   61

     香奈さんの目には、実の兄に対するはっきりとした軽蔑の色が浮かんでいた。「呆れて言葉も出ませんね。自分の家が壊されて、自分の娘が泣かされているのに、ゲームで徹夜したから寝ている。完全に父親としての責任放棄です」 香奈さんがそこまで言い切った時。 ソファの上で暴れていた甥っ子たちが、ようやくリビングの入り口に立っている人物の存在に気がついた。「あ……」 兄の方が、手に持っていたクッションを取り落とした。 弟も動きを止め、目を見開いて香奈を見つめている。「香奈おばちゃん……」「なんでここにいるんだよぉ」 それまで我が物顔で家の中を破壊し、暴言を吐いていた彼らの態度が、嘘のようにピタリと止まった。 彼らは知っている。 香奈は親戚の中でも、絶対に自分たちを甘やかさない。 パチンコ狂いの母親は怒らない。 祖母は何をしても褒めてくれる。 和也おじちゃんはゲームばかりで注意しない。 ……真由美おばちゃんは召使いだから、言うことを聞く必要なんかない。 しかし香奈さんだけは違う。 悪いことをすれば絶対に容赦しない。 一番怖い存在であることを、彼らは過去の経験から学習しているらしい。 香奈は彼らに一瞥もくれず、まっすぐにローテーブルへと歩み寄った。 録画状態のままになっている私のスマートフォンを覗き込んだ。 画面には、壁紙を剥がす彼らの姿から、陽菜が突き飛ばされた瞬間の映像まで、すべての音声とともに記録されているはずだ。「お義姉さん。これ、最初からずっと回していたんですか」「ええ。私が言葉で注意しても、彼らは『ばぁばが何してもいいと言った』と聞かなかったので。証拠を残すために録画ボタンを押しました」 香奈は短く頷いた。「素晴らしい判断です。お義姉さん、録画はもう止めて大丈夫ですよ。器物破損と暴行、それに管理責任の放棄を証明するには、十分すぎるほ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status