تسجيل الدخول「????」 更に訳が分からないという顔をしているぼくに、ヴァダーは肩を竦めた。「この町は、お前の引きでもってんだよ」「あの」「分からないか? お前、人に関する引きはいいんだ」「引き?」「そう、引き。なんだかんだ言ってアナイナは色々出来るヤツってのはお前も認めてるだろ?」「うん、まあ」「その直後に出会ったのが俺たちで、俺たちからサージュとファーレ夫妻」「うん」「シエルのおかげでスピティに納められる家具を作れたし、そこでポルティアと出会ってデレカート商会とトラトーレ商会って二大商会と取引が出来た。その帰りにアレやリュー、ヴァローレみたいなめっちゃくちゃ有能な連中がいる盗賊団を引き入れた。普通ここまで都合よく必要な人材に連続で巡り合えるなんてことはないぞ」「でも、次に会ったのがピーラーとデスポタじゃないか」「でも、外れじゃないだろ」「外れだろ?」「いや。むしろ当たりだ」 ヴァダーは空中を走る水路を見上げながら説明を続ける。「ピーラーの無茶な注文にこたえたおかげで家具の町グランディールはその名を馳せた。デスポタからはクイネやピェツと言った有能な人間をごっそりいただけた。被害は町長が頭を殴られたくらい。……まあくらいっって言っちゃなんだけどさ、それだけで町は大きくなった。違うか?」「詭弁のような気がするんだけど」「でも事実だろ」「事実っちゃ事実だけど」「一人の追放者がスキルがあるとはいえ一年もたたずにCランクの町を造るなんて、普通あり得ないだろ。お前の才能って言うか運って言うかがなければ、グランディールは文字通り空中崩壊しててもおかしくなかった」 ヴァダーは水路から時折落ちてくる水滴を、指先で弾きながら言葉を続ける。「なんでかは分からないけど、お前はグランディールを造るために生まれてきた気がするよ」「スキル「まちづくり」があるから上手く行ってるだけだよ。ぼく自身はほとんど何もしてない」「これはサージュの受け売りだけどさ、町には魂があるっていうんだと」「は?」「そもそもスキルを持てるのは自我と魂を持っている存在だけだって言う。なら、町スキルを持っている町って言う存在は魂を持っていてもおかしくない。スキル学にはそういう魂論があるって言ってた」 確かに……人間以外でスキルを持っているのはごく一
子供たちが学問所に通うようになってから、各所の子供関係問題は消えていった。 畑や牧草地で走り回って収穫物をダメにされたり、火の入っていない窯に忍び込んで危ういことになったり、そういうことはまるっきりなくなった。 うん、やることがないとろくでもないことしでかすのはどこの誰でも同じ。 アナイナは町長の妹で一番年上と言うことで、子供たちのリーダー格になっていた。と言っても子供たちを率いて何かやる訳でなく、むしろ今まで受けたことのない授業に退屈して遊びだす子供を窘めたり喧嘩の仲裁をしたりと忙しいらしい。一度授業を見に行きたいね。 で、アナイナはプラスして料理も習っている。 週三回食堂に通って、下拵えから学んでいるそうだ。 基本的にアナイナは一度始めたら極めるまで諦めないという、悪い方に向かえばヴァリエ以上のストーカーになるけどいい方に向かえばグランディール一の努力家になる性質を持っている。料理を習う目的はぼくに好かれるため……うん、兄妹とは言え目的はヴァリエと変わらない……だけど、料理にその性質を振り分ければ、師匠のクイネの技を全部覚えるまでやるだろう。それに自分流のアレンジも加えて。 ……アナイナは、ぼくが大好きで大好きで何をするにもぼく優先と言うブラコンなところさえなければ、興味を持ったものを完璧に学ぶまで決して投げ出さない努力型の天才なんだよなあ。 どんなスキルが目覚めたとしても、それを有意義に使えるだろうし。 思えばぼくが「まちづくり」のスキルを使い始めたのも、アナイナの提案なんだし。それを考えると発想力もあるかな。 可愛くて勉強が出来てダンスとか芸術系も得意で、彼氏の一人や二人いてもおかしくないと思うんだけど、残念ながらアナイナの彼氏は、ぼくが知っている限り一人しかいたことがない。 ある日、アナイナが五歳くらいの時か、「かれしなのー」と学問所の同級生を連れてきたことがあった。 家族全員笑顔で出迎えて、ちやほやしてたらアナイナが自分から彼氏を追い出した。 「なんで?!」と聞いたら、「おにいちゃんはダメって言わなきゃダメなの! アナイナはおにいちゃんのだからダメって言わないとダメなのー!」と大泣きした。 要するにぼくに嫉妬させたかったんだ。 彼氏は泣いて家に帰って、アナイナはぼくに縋りついて大泣き。あれは一種の修
「料理?」 小首を傾げるアナイナに、クイネは太い声で笑う。「自分みたいに食堂を始めるというのもあるし、何処かへ嫁に行くか婿をもらうかにしても美味い料理が出来るとそれだけで立場は上になるぞ。それに、町長も喜ぶ」「なんでお兄ちゃんが喜ぶの?」「町長の仕事はほとんど会議堂だろう?」 うん、と頷くアナイナに、クイネは笑いながら続ける。「食堂まで来れないからヴァリエが出前してるわけだが」 チラッとクイネはヴァリエを見る。さっきの接客態度で散々叱られたヴァリエがふくれっ面で立っている。「あんたが町長の好物を作って持っていったら、町長は喜ぶだろうし役にも立つ」 ふくれっ面がどんどん進行しているヴァリエと、目のキラキラが倍増しになっているアナイナ。おーい。「そっか! わたしがお料理作れれば、お兄ちゃんが食堂まで行かなくて家に帰ってきてくれることにもなるんだ!」 エキャルが目をすがめてアナイナを見ている。「そっか、そっか。お兄ちゃんと一緒にご飯食べれるし、お兄ちゃんに差し入れって持ってくことも出来るんだ!」 何か嫌な予感がしなくもないのだけれど、アナイナが目的を持ったならいいことだ。「店長!」 ついにヴァリエが口を挟んできた。「私には料理を教えてくれないのに、どうしてアナイナには教えるのですか!」「あんたは人の話を聞かない」「え?」「下拵えも、切り方も、調味料の分量も、一度でも自分の言う通りにしたことがあるか?」「し、してます!」「あれをしていますと言うなら、自分は相当教えるのが下手なようだ」 ……ヴァリエは料理が下手……と言うわけじゃないなあ。この分だと。本当に何も聞かず自分の感覚だけで料理を作って、料理が料理じゃないものになっていくんだろうなあ……。「町長、アナイナは料理は?」「お母さんにも教わってたし、学問所でも基礎は学んでいるから出来ないってことはない、はず」 料理とか、学問所の勉強とか、一度上手くなると決めたアナイナは、かなりの集中力を発揮するし、ヴァリエより人の話を聞くという能力は上……な筈。「なら、やる気さえあれば上手くなるだろう。どうだ?」「やる! じゃない、やります! 教えてください師匠!」 知らないことを教えてくれる人を尊敬し、学ぶという姿勢は学問所の時からあった。そしてクイネ
チキンを飲み込んで、ぼくは「アナイナへ」と書かれた封筒から手紙を取り出した。『アナイナへ。 お兄ちゃんが追放処分された時、絶対あなたは何か仕出かすと思ったけど、まさか町を出て行くとは思いませんでした。 未成年が町を出ることの大変さをあれだけ口酸っぱく教えたのに。 でも、あなたは一年町で待ったとしても、結局はお兄ちゃんを追って出て行ったでしょうから、同じことだろうけど。 何処かの町に受け入れられたそうですね。どこの町かは聞きません。 だけど、お兄ちゃんの迷惑にだけはならないように。お兄ちゃんは生きていくだけで精いっぱいなのに、あなたまで入ったらお兄ちゃんはきっと無茶をするから。だから、あなたは一歩引いて、お兄ちゃんの邪魔にならないようにしなさいね。 そして、幸せに暮らしてください。 お母さんもお父さんも、望むのはあなたたちが幸せに生きることです。 今は生きるのに精いっぱいでしょうけど、いつか、大切な誰かと一緒に幸せに暮らしてください。何かあったら手紙を送ってね。本当に、あなたたちはいい町に救われたのね。 元気で、病気をせずに。 母より。』 う~ん、さすがアナイナとぼくのお母さん。ぼくらのことがよく分かってるなあ。アナイナが放っておいても出て行ったことと、ぼくが結局アナイナを見捨てられないのもお見通し。「子ども扱いしてるよね」 ちょっと不満そうに、アナイナ。「実際子供だろ。あと半年ちょっと」「そーなんだけどさ」「お前は何がしたいんだ?」「え?」「成人になったら何をしたいんだ、って聞いたんだよ」「成人……大人かあ……」 ちょっと考えて、にっこり笑うアナイナ……。「お兄ちゃんと一緒にいる!」「違う」 ため息が出るぼくを、誰も責められないと思う。「何の仕事をするか、ってこと」「お兄ちゃんの手伝い」「無理」 単純に考える妹発言を切って捨てる。「ええ~?」「どんなことやってるか知りもしないでぼくの手伝いなんて言わないの。ただでさえぼくが足引っ張ってるようなものなのに、これ以上足手まといは増やせない」「お兄ちゃんが足手まといー?」「そう。政も知らない、他の町のことも知らない、町を豊かにするには何が必要かも知らない。ぼくがこの町の町長なのは、ひとえにスキル「まちづくり」のおかげ。でもスキルに頼り切りだ
書類を終わらせて、行けとアパルとサージュが片付けをしてくれるので、ぼくは会議堂を挨拶もそこそこに飛び出した。 会議堂は、町の中心である元水汲み場、現水路広場の向かいにある。 食堂は門から水路広場に向かう大通りの一角。夜遅くまで明かりが灯っている。 酔客が歌いながら出て行くのと入れ替わりに食堂に入ると、ほとんど人のいなくなった食堂の一番奥の席で、アナイナは頬杖をついて待っていた。「ごめんアナイナ! 遅くなった!」「最悪の事態は避けられたからいいよ」 アナイナは嬉しそうな顔をした。「突然仕事入って来れなくなるって可能性も考えてたから」「……悪い」「いいよ。シートスとフレディにも言われたもん。お兄ちゃんは町を造った町長。町長のお兄ちゃんを独り占めしたら、町のみんなもお兄ちゃんも困るって」「うん。ありがとう。分かってくれて嬉しい」 笑って言うと、アナイナも笑って頷く。「でも、ちょっとでいいから……お仕事を離れた時は、わたしのお兄ちゃんでいてね」 そこに突き刺さる視線を感じて、ぼくは振りむ……かなくても分かった。 一つは今ぼくらが座ってるテーブルの端に陣取っていたエキャル。 もう一つはお冷を持ってきたヴァリエ。「いらっしゃいませ町長! 会いに来てくれて嬉しいです!」 レモンの果汁を一滴垂らした水がぼくの前に置かれる。 ……ヴァリエ、エキャル、アナイナの三角形に囲まれて……辛いです。 これが久しぶりに妹と食事しようという空気でしょうか。「……ヴァリエ」「はい!」「今日のお勧めは」 とヴァリエが言いかけた所にアナイナが割って入る。「炙り焼きチキンだって、お兄ちゃん」「お前は何か食べたのか?」「ううん。お兄ちゃんと一緒に食べようと思ってたから何も」「炙り焼きチキン二人前と、エキャル用に茹でた豆」 エキャルが顔を上げた。今までアナイナとヴァリエを威圧していたのが浮かれたように首がひょいひょい動いている。「はいかしこまりましたー」 途端にはっきり機嫌が悪いと分かるヴァリエの声。仲良くなったと思ってたけど、どうやら地雷を踏んだようだ。 ヴァリエが厨房の方に戻っていくと、銅鑼声がいきなりこっちにまで響き渡る。「今のがお客様に対する態度か! どんな理由があってもどんな相手であっても笑顔で出迎えるのがウェイトレス
「えーと、ここと、ここと、ここに、サインと町長印を。こっちは個人印で」 言われるがままにサインを書き、印を押す。 にしての自分の名前が短くてよかった。ヴァローレは確かヴァローレ・ヴィーゼンだったか。名前を書くのが面倒くさいとよく呟いていた。 短くても面倒なのには変わりないけどね。 もうこの一刻で名前を何回書いたか覚えてないよ! 町長って言うのは利き腕を壊す仕事だとよく言われた。やったら分かった。自分の名前を何回書いても書いてもすぐに次が来る。 印はそれほど力を入れなくてもいいけど、ぼく以外に町長印は押せないから手がくたびれる。 あ~手がおかしくなる。 そこへ、こんこん、と窓からノックの音がした。 そっちを向くと、エキャルが嘴で窓を叩いている。「エキャル?!」 出したのは昨日の朝なのに。ここからエアヴァクセンまで結構距離あるのに。翌日の夕方帰ってくるって早すぎるよ! アパルが近付いて窓を開けると、エキャルは優雅に飛んできて止まり木に留まった。「エキャル、そんなに急いで来なくてもよかったのに」 立ち上がってその頭をコリコリしてやると、エキャルは機嫌よさそうに首を伸ばす。「とりあえず休憩にするか。町長も手紙を読みたいだろうし」「ありがとう。手がヘロヘロだよ」 軽く右手を振って、グーパーして手の感覚を取り戻す。「エキャル。ぼくに急いで届けてくれたんだね。ありがとう」 エキャルは得意げに封入れが括り付けられた首を差し出した。 そこから手紙を引っ張り出す。 クレーへ、アナイナへ、と見慣れた筆跡でそれぞれ書かれた封筒二通。「アパルかサージュ……」 腰の軽いアパルが立ち上がった。「アナイナに渡してくるんだろう?」「ありがとう」 アパルにアナイナ宛の手紙を渡して、ぼくは手に馴染んできたペーパーナイフで封を切る。その間にサージュがお茶を淹れてくれた。 お茶を一口、口の中を湿らせて、封筒の中身を取り出す。『クレーへ。』 丁寧に書かれているこの字はお父さんのものだ。『無事でよかった。そして、お前を受け入れてくれる町があってよかった。どこの町にいるかは聞かないよ。父さんたちは元気だから安心しなさい。お前たちがいなくなったことで何かがどうなったわけでもないから。 それから、自分を受け入れてくれた町の人のためにしっかり働きな
盗賊団の皆さんが感動と号泣と荷運びを終えたところで、ぼくとアナイナがいる家にやってきた。 手に手に、焼けた魚だの炙った干し肉だの多分酒が入った壺だのを持っている。「……えーと?」「飲もう!」「えーと」 シエルさんの端的な言葉に悩んでしまったぼくに、ヒロント団長が笑いかけた。「儂らだけの町を造ってくれたお礼と、儂らのこれからを祝って、宴会をしようと言う話になった。主役は君だ。来てくれるかな?」「そ……」「喜んで!」 ぼくより先にアナイナが返事した。「アナイナ……」「こういう時はね、盛大にお祝いするのがいいの! みんなもそれを願ってるの! 何がどうあってもこの町を造ったお
正直、ショボい光景を覚悟して目を開けた。 所詮はレベル1Maxのスキルだ、ボロ家の一軒でも立っていれば大ラッキーという気分で。 ゆっくり開いた視線の先、眼の前にあるのは、門だった。 衛兵がいてもおかしくないような、立派な門。 左右を見れば、城壁と言ってもいい立派な塀。 エアヴァクセンよりも立派な入り口だった。「これ……は……?」「おいおい、レベル1のもんじゃないぜこれは」 盗賊団の皆さんも呆然と入口を見上げている。 アナイナだけが、自分がやったわけでもないのに得意気に胸を張っていた。「ほーら、やっぱり、お兄ちゃんじゃない」 何だその威張り方は。「い、いや、塀だけが立
一瞬空気が凍り付き、動き出すのに数秒かかった。「簡単に言ってくれるなお嬢さん」 盗賊団、スキル「法律」のアパルさんが苦笑した。「町を造るには、色々なスキルの持ち主が大勢集まらなければならない。まずお嬢さんは未成年だからスキルもない。そして我々もそのようなスキルはない……」「一応食事には困らないけど、洞窟の中での生活があんたに耐えられるとは思えないけどね」 スキル「食獣」のマンジェさんが不愉快そうな顔をした。確かにそうだよな、家を建てるみたいなスキルがない限り、雨風をしのげるところなんて洞窟とかしかない。聞いた限り、反エアヴァクセン盗賊団の中に家を建てられるスキルはない。「お兄ち
「あのー。もしかして皆さん、エアヴァクセンの町長、知ってる? ミアスト・スタット町長」 まだもがもがやっているアナイナの口を塞いだまま、ぼくは聞いた。「知ってるも何も」 盗賊の一人が言う。「俺らを追放したのはあの野郎だからな」「え。もしかして……皆さん、元、エアヴァクセンの住人だったって、こと?」 一番若そうな盗賊が頷いた。「俺はな、Bランクの町から栄転でエアヴァクセンに来た。スキルは水を操る「水操」、レベルは50でレベル上限は3000だった」 そりゃすごい。水を自在に操る能力をレベル3000で持っていたら、十二分に町のために働けるだろう。「だけど、移転者歓迎







