Suami Titipan

Suami Titipan

last updateLast Updated : 2024-08-03
By:  Aqeera DanishOngoing
Language: Bahasa_indonesia
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Synopsis

Charlotte tak menyangka, keputusannya ‘pulang’ ke Tanah Air setelah satu dasawarsa berlalu akan menjungkir-balikkan dunianya, mengubah jalan takdirnya, hingga merekacipta hidupnya. Nyaris tiga dekade meniti hidup, ia tak pernah berpikir sama sekali akan jatuh ke dalam pelukan gurunya sendiri, seorang ustadz madamat pondok yang terpaut jarak usia teramat jauh darinya. Fajri, sosok ustadz kader berkarisma yang mewakafkan diri seutuhnya ke bumi Darussalam. Kemalangan hidup mengantarkannya ke mahligai pernikahan tanpa cinta. Laki-laki dingin nan pendiam itu akhirnya menemukan kedamaian dalam Ma’had sekaligus diri santriwatinya sendiri. Namun sayang, ia harus menekan rasa dalam sebuah ikatan sakral bersama perempuan lain.

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Chapter 1

Bab 1

「……っ、はぁ……ぁっ……!」

 全身を引き裂かれるような痛みに、藤倉佳苗は汗で濡れたシーツを握り締めた。

 眩しい手術灯。鼻を刺す消毒液の匂い。何度も響く機械音。

 苦しい。

 息ができない。

「もう少しです! 頑張ってください!」

 医師の声が遠い。

 お腹の奥が裂けるように熱い。

 それでも佳苗は必死に意識を繋いだ。

(赤ちゃん……)

 やっと会える。

 悟との子供。

 愛する夫との、大切な命。

 その一心だけで耐えていた。

 けれど次の瞬間、医師たちの声色が変わった。

「血圧低下!」

「出血が止まりません!」

「急げ!」

 視界がぐらりと揺れる。

 寒い。

 急激に体温が奪われていく。

「佳苗さん! しっかりしてください!」

 誰かが叫んでいる。

 でも、もう指一本動かせなかった。

(やだ……)

(まだ、赤ちゃんを抱いてない……)

 涙が滲む。

 そのときだった。

 病室の外から、聞き慣れた声がした。

「……本当に、佳苗は助からないのか?」

 悟だ。

 夫の声。

 だがその声に、佳苗を心配する色はなかった。

 ぞくり、と背筋が冷える。

「仕方ないじゃない。もともと体弱かったし」

 続いて聞こえたのは、妹――坂井恵の声。

 どうして恵がここに……?

 ぼんやりした頭で考えた瞬間、二人の会話が耳に飛び込んできた。

「でも、これでやっと私たち本当の家族になれるのね」

「……ああ」

 悟が安堵したように笑う。

「正直、佳苗には感謝してるよ。代理母としては完璧だった」

 ――だいりぼ?

 意味が分からなかった。

 佳苗の思考は止まる。

「お姉ちゃんって昔から私に逆らえないもんねぇ。妊活頑張ろうって言ったら、あんなに嬉しそうにして」

 恵がくすくす笑った。

「不妊の私の代わりに産んでくれるなんて、本当に便利なお姉ちゃん」

 ……なに、を。

 言っているの。

 耳鳴りがする。

 視界が滲む。

「まあ、死んじゃったのは想定外だけど。でももう役目は終わったし」

「だな。子供さえ無事なら問題ない」

 悟の声は、驚くほど冷たかった。

「佳苗も、自分の子を俺たちに育ててもらえるなら本望だろ」

 二人が笑う。

 楽しそうに。

 幸せそうに。

 その笑い声が、佳苗の心をぐちゃぐちゃに引き裂いた。

(……うそ)

(そんな……)

(私は……)

 愛されていたんじゃなかったの?

 赤ちゃんを望んでいたのは、二人で幸せになるためじゃなかったの?

 全部。

 全部嘘だったの?

 喉が震える。

 声を出したいのに、息すらうまく吸えない。

 涙だけが頬を伝った。

(じゃあ私は……)

(何のために……)

 命を懸けたの?

 その瞬間、機械音が鋭く鳴り響いた。

「心停止!」

「除細動準備!」

「佳苗さん!!」

 誰かが叫ぶ。

 けれど佳苗の意識は、ゆっくりと暗闇へ沈んでいく。

 最後に見えたのは、真っ白な天井だった。

 悔しい。

 悔しい。

 悔しい。

 もし、もう一度やり直せるなら――。

◇◆◇

「――佳苗? 聞いてる?」

 不意に耳元で声がした。

 佳苗ははっと目を開けた。

「え……?」

 見慣れたリビング。

 昼下がりの光。

 テーブルの上に置かれたマグカップ。

 そして目の前には、困ったように笑う夫――藤倉悟がいた。

「ぼーっとしてどうした?」

「……さ、とる?」

 佳苗は震える声で呟く。

 悟は怪訝そうに眉を寄せた。

「何その顔。疲れてるなら今日は休めば?」

 優しい声音。

 けれど、その笑顔を見た瞬間。

 佳苗の全身にぞわりと鳥肌が立った。

「っ……!」

 反射的に身体を引く。

 ガタン、と椅子が鳴った。

「佳苗?」

 悟が手を伸ばしてくる。

 その瞬間。

 病室で聞いた言葉が脳内に蘇った。

『代理母としては完璧だった』

『役目は終わったし』

「いやっ……!」

 佳苗は悲鳴のような声を上げた。

 荒く息を吐きながら、自分の腹部に触れる。

 平らだった。

 妊娠していない。

 出産も、していない。

 スマホを掴み、震える手で日付を見る。

「……っ」

 一年前。

 妊娠する前の日付だった。

 佳苗の呼吸が止まる。

(戻ってる……?)

(私……死んだはずじゃ……)

 混乱する佳苗を見て、悟は眉をひそめた。

「本当にどうしたんだよ」

 その声すら恐ろしい。

 佳苗は唇を噛み締めた。

 もう騙されない。

 もう利用されない。

 この男の子供なんて、絶対に産まない。

 そのときだった。

 ピロン、と悟のスマホが鳴る。

 画面を見た悟の口元が、わずかに緩んだ。

 佳苗は見逃さなかった。

 表示されていた名前を。

『恵』

 心臓が凍りつく。

 やはり。

 二人はもう――。

「……誰から?」

 震える声で尋ねると、悟は一瞬だけ目を逸らした。

「ああ、仕事関係」

 嘘だ。

 佳苗には分かった。

 前世では気づけなかった。

 けれど今なら分かる。

 この男は、ずっと自分を騙していたのだ。

 佳苗はゆっくり拳を握り締めた。

(逃げなきゃ)

(今度こそ――)

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