ログイン「昨日、剛のヤツ大丈夫だったか?」「え?」学校へと向かう道すがら、叶弥からまさか剛の名前が出るとは思わなかったため驚いてしまった。「あ?なんだよ、"え?"って」「いや......まさかお前の方から剛の事を気にかける言葉が出てくるとは思わなくて......」「あー......。なんつーか、京もガキの頃に両親亡くしたじゃん?だから、少し面影が重なってな......」「叶弥......」本当に叶弥の"生"はオレを中心に回っているなと思った。それが申し訳なくも嬉しくもある。そんなオレはズルい男であろうか......。まぁ、そんなオレも叶弥が中心になっている事はバレないようにしなくては。小っ恥ずかしいからな。「まぁ、夜に母親を想って泣いてたな。でも抱きしめたら落ち着いたみたいですぐ泣き止んだよ」「そうか......。て、抱きしめる必要はねぇだろ!」「それが一番手っ取り早いだろ?」「......」「ん?どうした?」「いや。オレも泣けば京が抱きしめてくれるかと」「こんな公衆の面前で出来るか!」なんともまぁ、子供じみた言い分であろうか。子供ならまだしも、男子高校生の言う事では無いだろう。オレは呆れながら声を荒らげた。「......お前も大人になったと思ったんだけどなぁ......。オレの気の所為だったか......」「あ?なんだよ。ガキではねぇよ」「......いや、剛といい勝負だと思うけど」「んだと?!」「オーッス。五十嵐に田河。朝から夫婦喧嘩か?」「いや、夫婦漫才かもよ?」気付いたら学校の近くまで来ていたようで、クラスメイトから声をかけられた。「お前ら......なんでそう"夫婦"で一括りにするんだよ......」「何言ってんだよ京。オレらはどっからどう見ても"夫婦"だろうが」「もう好きに言ってろ......」「あら、奥さん。もう反抗はやめたんですね?」「認めるのはいいことですわよ?」クラスメイトは悪ふざけの口調でオレを煽ってきた。だが、オレは逆に冷静になり、叶弥とクラスメイトを置いて校門をくぐった。「おーい、置いてくなよ京ー!」「知るか」オレは目を伏せながら歩いていた。その時だった。"ドン"と誰かとぶつかってしまったのである。「痛ってぇ......。すみません。大丈夫ですか?」「こちらこそ。申し訳ないのですが
オレ達は調理を終え、料理を広間に運ぶと、広間には和やかな雰囲気に包まれていた。剛が凛太朗さんの足の間に座ってキャッキャとはしゃいでいたからである。「おーい。メシ出来たから手の空いてるヤツは手伝ってくれ」「お。おはよーさん、京司。」「おはようございます、凛太朗さん。剛、良かったな。凛太朗さんに構ってもらえて」「おう!おじさん優しくて好きだ!あ!でも一番好きなのはけーじだからな!」「フフッ。ありがとう。ホラ、朝メシ持ってきたからコッチ座ろうな」「ハーイ!」オレがそう言うと剛は凛太朗さんの足から降り、オレが示した席に座った。そして、全員の所にメシが運び終えると一斉に食べ始めるのであった。「叶弥、京司。急だが剛の幼稚園は来週からになったからな」「いつの間に手続きしてたんですか?」「昨日のうちに前園にやらせておいたんだわ」前園とは、組長付きの秘書である。この男はとても仕事が早く、凛太朗さんは勿論、組の連中からの信頼もあつい。オレが湊先輩に攫われた時、尽力してくれたのもこの前園だ。「まったく。組長も人使いが荒くて困ります」「前園、お疲れ様」「京司さん。ありがとうございます。私の朝一の楽しみは京司さんの作る朝食ですよ」前園はそう言いながらオレに笑みを向けてきた。普段は爽やかで物腰の柔らかい男だが、怒らせるととてつもなく恐ろしい。「そう言ってもらえると作るかいがあるよ。でも最近、お前みそ汁おかわりしすぎ。塩分の摂りすぎには気をつけろよ?」「ハハッ。......ついつい」「けーじのメシはうまいから仕方ねーよな!」「そうなんですよ、剛坊ちゃん。分かってくれますか?」「おう!」......剛は大分この組に馴染んでいるようだ。安心は安心だが、こんな強面の連中に慣れてしまうのも将来的には不安ではある。「京。お前も早く食わねぇと遅刻するぞ?」「あ、ヤベェ......。いただきます。」そうしてオレも朝メシにありついた。自分で言うのもなんだが、今日のみそ汁の出来はかなり良い。前園がおかわりを繰り返すのも分からなくは無い程自信作だ。「ん、ごちそーさん」「ごちそーさまでした!」「はい。お粗末さまでした」オレ達はメシを食い終えると、キッチンへと食器を片付け行く。洗い物は若衆の連中がすると言うとで、後を任せ、学校へ行く仕度をする。「けーじ、今日何
「んー、けーじ......」「オラ、寝坊助。起きろ。朝だぞ。早く起きねぇとメシ抜きにされちまうぞ?」「んー......ん?!きょーや?!なんで?!」「京は朝メシと弁当作らなきゃいけねぇんだよ。だからオレが代わりにお前の面倒見に来てやったの」「あ、ありがとう、きょーや。おはよう」「おう。おはようさん」叶弥はそう言うと剛の頭に手をやった。そして剛を着替えさせると、一緒に広間へと向かったのであった。「京司さん、剛坊ちゃん大丈夫っスか?」「あぁ。昨日少し泣いたけど、今は叶弥がついてるし大丈夫だろう」「え、若がっスか?」「な。意外だよな。今日朝来て、オレが見てるから朝メシと弁当の支度してこいよーって言ってな」「......意外ッスわ......。あんだけ剛坊ちゃんと張り合ってたのに......」若衆達からも意外と言われる叶弥って...とオレは思ってしまった。まぁ、元々子供っぽい性格をしていたから若衆達が言いたい事も分からなくは無い。精神年齢は剛とどっこいどっこいなんじゃないか?と思ってしまう。それを言うと若衆達も「あはは」と笑っていた。そうして話しをしながら調理をしていると、剛と手を繋いだ叶弥が広間へ向かう前にキッチンへと入ってきた。「はよーッス」「はよッス!」「若、剛坊ちゃん!おはようございます!」「今日も良い匂いだな。腹減ったァ」「はらへった!」気が付いたが、剛が叶弥の言葉を真似しているのである。それに指摘したかったが、指摘をしてしまうと、せっかく仲良くなったのに水をさしてしまうと思ったので、あえて触れないでいた。...のだが、気楽な若衆がつい言葉を発してしまった。「剛坊ちゃん、若と仲良くなったんスね!」「あ、バカ!」「!ち、ちげぇし!オレは大人だからきょーやの面倒をみてやってるだけ!」「あ?んだとガキ...。コッチはお前が"けーじがいなくてさみしー"って態度とってるから付き添ってやってるって言うのに......」「あー!ハイハイ。ケンカしないの!」「「ケンカじゃない!」」「......仲が良いんだか、悪いんだか......」似た者同士だな、とオレは感心してしまった。オレは「叶弥、剛」と二人の名を呼ぶと、昨日同様二人の口に玉子焼きを放り込んだ。「ん。いつも通り美味いな」「うまーい!」「フフッ。ありがとう。ほら、も
風呂から上がり、剛に寝巻きを着せ、頭をドライヤーで乾かしているうちに剛はコクリコクリと船を漕いでいた。「ほら、剛。まだ寝ないの」「んー......うん」「あと少しだからなー」そうして、剛の頭を乾かし終えると剛はもう目が開いていなかった。オレは仕方ない、と思い剛を抱き上げると叶弥に声をかけ自室へと向かった。そして剛をベッドに寝かせると、オレもその横に横たわって目を瞑った。それからどれくらいの時間が経っただろうか。グスッグスッと言う音に目を覚ました。横にいる剛を見ると、涙を流していた。「......さ、ん......おかあさん......」剛の口からは母を呼ぶ声が漏れていた。それはそうだろう。突然母がいなくなり、知らない人ばかりがいる、知らない場所に置いていかれたのだから。オレも経験が無い訳ではない。けれどオレの場合と剛の場合、年齢が違う。小学生であったオレも寂しさに泣くことが無かった訳ではないが、オレには同い年の叶弥がほぼ常に隣にいてくれた。でも剛には年の離れた人間しかいない。それにここには、母親代わりになるような女性もいないのだから。「剛......大丈夫だからな」オレはそう言うと、剛をそっと抱きしめた。すると無意識か、オレの服をギュッと掴んできた。そして、静かな寝息が聞こえてきた。オレはそれにホッと安堵すると、再び眠りについた。翌朝、オレはいつも通りに目を覚ますと剛を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、制服へ着替えキッチンへと行こうとした。か、しかし剛が起きた時オレがいないと不安になるだろうと思い、少し早いが剛を起こす事にした。「剛。朝だぞ、起きれるか?」「んー......けーじ?あさぁ?」「あぁ。オレは朝メシと弁当を作りに行かなくちゃいけないんだが......」オレが言葉を続けようとしたその時だった。部屋のドアが開かれ、叶弥が入ってきた。「京、はよ。メシの支度あんだろ?剛はオレが見とくから行ってこいよ」「え?いいのか?大丈夫?」「心配いらねぇよ。ホラ。行ってこい」そう叶弥に言われ剛を叶弥に任せると、オレはキッチンへと向かった。すると朝メシの当番だった若衆がオレの姿を見るなり「おはようございます!」と声をかけてきた。オレはそれに応えると早速料理へと取り掛かったのだった。
「ハァ...。生き返るわァ...」「おい、叶弥。オッサン臭いぞ?」「オッサン!オッサン!」「良いだろ。ウチの風呂は広くてデケェんだからさ。」「京もガキの頃はしゃいでたじゃねぇか。」と言われるとオレはぐうの音も出ない。たしかに、五十嵐の家の風呂は温泉みたいで子供ははしゃぎたくなるだろう。現に剛も湯船に浸かりながらバシャバシャと遊んでいる。「剛。楽しいか?」「おう!楽しいぞ!3人で入っても広い風呂ってスゲェな!」「おいガキ、さっさと100数えて一人で上がれ。オレは京と二人、夫婦水入らずを過ごしたい。」「ヤダ!上がる時はけーじと上がる!それに、お前、いっつもオレのこと"ガキ"って言う!...オレには"剛"って名前があるんだぞ!」「...ハァ。悪かったよ、剛。」「!お、おう!」珍しく叶弥が折れ大人を見せたなと思った。オレはそれがなんだか可笑しくてつい笑ってしまった。「...オイ、京。何笑ってやがる。」「い、いや。フフッ。お前も大人になったなぁと思って。」「ハァ?意味分かんね。オレはもともと大人だ。」「剛に張り合ってたクセに?」オレがそう言うと、叶弥は「仕方ねぇだろ......」と言った。「?何が仕方ないんだよ」「お前の事となると、大人も子供も関係ねぇんだよ」「分かれよ。」とほんのり顔を赤らめていた。「?オイ、きょーや、顔赤いぞ?のぼせたか?」「いや、のぼせてねぇよ。なんだァ?心配してくれてんのか?」「!い、いや!心配じゃねーし!」「本当かぁ?」叶弥はニヤニヤしながら剛を問い詰めていた。そういう所が子供なんだよ、と心の中でツッコんでしまった。「さぁ、もう長風呂になるし全員で上がろう。本当にのぼせちゃう前に、な」「ハーイ!」「しゃあねぇな。京、今度は二人っきりで入ろうな?」「バーカ」本当に叶弥はバカだ。子供の前でそういう事を言わなくても良いだろうが。オレはのぼせてもいないのに、静かに顔を赤らめていた。「?けーじ、上がらねぇの?」「!いや、上がるぞ?今日は上がったらもう寝ような?」「ん......ハーイ」剛は素直で良い子だ。これなら幼稚園でも上手くやって行けるだろう。オレは心の中でそう思ったのであった。
事件が起こったのはその日の夜であった。夕メシを済ませ、皆がのんびりと過ごしていた時であった。剛が爆弾を落としたのである。「けーじ!風呂!一緒に入ろ!約束したろ!!」その爆弾に皆が衝撃を受け、視線をギギギと一点に向けた。そこにはキレる寸前の黒いオーラを纏った叶弥が座っていた。「おいガキ。京と風呂だと?何ふざけてやがる。オレだって京と風呂入ってねぇのに」「当たり前だろ。子供と張り合うな。大人気ないぞ......」「そーだそーだ!オレは子供だからいいんだぞ!」「...剛もあんまり煽らないでくれ......」叶弥と剛の間に火花がバチバチと散っていると、若衆達はそそくさと広間を去っていった。「あーもー!だったら三人で入るぞ。それならいいだろ?」「え...?京、いいのか?」「別にいいだろ。減るもんじゃねぇし」オレがそう言うと、叶弥は嬉々としてガッツポーズをし、天を仰いだ。「京との裸の付き合い......!何度夢に見たことか......!」「ガキの頃はしょっちゅう一緒に入ってたじゃねぇか」「昔は昔!今は今!ガキがいるのは余計だが、それはまぁ許容範囲という事にしてやる。おいガキ。オレと京の邪魔はすんじゃねぇぞ?」「ヤダ!けーじはオレの!ジャマはお前!」「......なんだとこのクソガキ......」「二人とも。ケンカすんなら一緒に風呂入んねぇぞ?」「「それはイヤだ!」」......なんともまぁ、変なところは似ているようだ。「それじゃあ風呂に入る支度するぞ。剛、おいで。叶弥もさっさとしろよ」「ハーイ!」「はいよ」二人ともオレの言葉にすんなりと従ったので、オレは一安心した。叶弥が鼻歌混じりでご機嫌な様子で部屋に行くのを見届けるとオレはしゃがみこみ剛にこっそり耳打ちした。「今日は一緒に寝てやるから、それで許してくれるか?」「!いいのか?!」「あぁ。......でもこれは叶弥に内緒だぞ?バレるとまた邪魔されちゃうからな。いいな?」オレは人差し指を口元に持っていき、シーっとすると、剛は口に両手を当てコクコクと首を縦に振った。「良い子だ。それじゃあ風呂に入る支度をしに行くか」すると剛は、先程のように声には出さずに手をピシッと挙げることで返事をした。そんな剛の様子が可愛らしくて、オレは剛の頭をわしゃわしゃと撫でた。すると剛は嬉しそうに笑
そんな夢から目を覚ますとオレは涙を流していた。涙なんていつぶりだろう...そう思っていると部屋の扉が開かれた。「京、早く仕度しねぇと入学式に遅れるぞ。」「悪い叶弥。急いで支度する。」「...ってお前。何泣いてんだよ。"鬼の目にも涙"ってか?」そう。あれから叶弥と共に体術などを学び、見る見るうちに力をつけていって、中学卒業する頃にはここら一帯じゃ"五十嵐組の番犬"言われ恐れられるまでにケンカの腕を磨いたのであった。叶弥は叶弥でガキ大将だったのが嘘かの様に、次期組長に相応しい貫禄を身につけていたのであった。そうしてオレはベッドから降り、真新しい制服へと袖を通す。「お待たせ、叶弥。
こうして無事?出席確認を終えると、大森に引き連れられ、校舎案内となった。そこでは並び順なんて関係ない様で叶弥がオレの元へやって来る。「京ー。お前早速目ぇつけられてんじゃねぇか。」「...お前も人の事言えないだろ。大森、あえて口には出てなかったけどお前の金髪見て眉間にシワ寄せてたぞ。」「マジか。」そう軽口を叩き合いながら校舎案内を終え教室へと戻ってくると、教科書配布やらなんやら細々としたものを行い今日は解散となった。オレは貰った教科書を机の中に突っ込んで帰り仕度をする。すると、大森が「五十嵐ー、田河」ーと呼んできた。「お前らちょっと居残りな。教室で待ってろー。」そう言い残し大森は
「えぇー、以上を持ちまして入学式とさせていただきます。新入生の皆さん、保護者の方々、本日は本当におめでとうございました。」そう教師がマイクに向かって言うと入学式は終了となった。50音順に並んでいたため、オレと叶弥は少し離れてしまっていたが、それでいても叶弥が欠伸をしつまらなそうにしている様子は確認できた。...後で説教だな、これは。教師の「では新入生退場。」と言う言葉で新入生は並んでいる順に教室へと向かう。そうして自分達のクラスへとやって来ると、各々が自分の席へと着く。ちなみに新学期なため、最初の席は50音順で決まっていた。オレも自分の席を確認すると早速席に座る。教師が来るまで少し時間
黒い髪をサラサラと靡かせ学校へと向かう。今日の入学式を祝うかのように桜の花びらが風に煽られ舞っている。オレの隣には少し長めの金髪を後ろで一括りにして気怠そうに歩いている叶弥がいる。「朝っぱらから疲れた...」「凛太朗さんじゃ無いけど、ホントお前ってオレの事になると子供の頃のガキ大将みたいになるよな。」「...ウルセェ...」オレが叶弥にそう言うと叶弥は力無く項垂れるのであった。そんな叶弥にオレは追い打ちをかけるような言葉をかける。「いいか、叶弥。中学の時みたいに誰彼構わずケンカ売るなよ?」「...それは京にも言える事じゃねぇか?」「オレはケンカを売ったことは無い。...買い