Share

時々浮かぶ前世のカケラ

Author: 結城慎二
last update publish date: 2026-06-04 12:00:29

飯を食った後、水車小屋で泥のように眠った僕は、翌朝も無事に迎えることができた。

「おはよ」

「おはよう!」

 リリムは朝から元気だ。

 煮炊きに使っている穴に籾殻を入れて、昨日作ったかまどの中をほじくり返して火種を探す。

 よかった、残ってる。

 それを籾殻に乗せて息を吹きかけると煙がもくもくと上がる。

 なかなか火が移らない。

 咳き込みながら悪戦苦闘の末に着火に成功した僕は、今日の飯作り。

 飯を作りながら今日することを枝で地面に書き出す。

 前世でよくやったトゥドゥリストってやつだな。

 今日の作業は大きく二つに絞る。

 一つは薪集め。

 これには午前中いっぱい使おう。

 できれば二、三日しのげるほど集めたいけど一人で午前中だけってのはまぁ、難しいな。 いいとこ明日の分までだろう。

 薪をストックするには向こう十日くらい毎日午前中まるっと使って、その先十日分用意できるかできないかってとこだろうな。

 午後
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    中央広場にて

    「詳しいことはここに書いている。読み終わったらなるべく早く焼却してくれ」「判りました」 そうそう、情報の伝達のため僕は春からできる限り村人全員に読み書きを覚えてもらうようにお願いしていて、現在村の識字率は読むだけなら半数ができる。  物覚えの悪い人もいれば僕に反発して覚えようとしないやつもいるけど、まずまずだ。  ちなみにドブルは後者で読むことも満足にできない。  僕が文字の学習を始めた段階ではザイーダしか読み書きできなかったことを考えれば大進歩だけど、これは今後も課題であり続けるな。  連行の旅に出る二人を見送った僕は、村人の集まっている中央広場へ。  昨日は宴の翌日でみんな潰れてたから丸一日休息日にしてあった。  その間に僕は村のグランドデザインを考えている。  夕方には酔いのさめて頭のすっきりしたイラードとルダー、それにクレタを交えて話し合い。  この会合にクレタを呼んだのは村人の様子、状況を知るためのアドバイザーとしてだ。  そこで話し合ったことを今日この場で村人に示す。「みんな、集まってくれてありがとう」 と、まずは感謝の言葉で村人をねぎらう。  上に立つ人間として、これから命令として今まで以上に働いてもらうわけだから「みんなを大事にしているよ」と示しておかなきゃね。「今日は、この村の今後について僕の方針を示しておこうと思う」 ひと呼吸置いて村人の表情を確認するために見回す。  いろんな感情で僕を見てるな。 話した計画の概要はこうだ。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    村長、たくらむ

     名実ともに村長になった二日後の午前、僕はオギンとドブルという僕の反対派だった男を連れ立って、例の男を収容している家へ出向く。  二人にはすでに旅装をしてもらっている。  二人を残し、見張りの男と一緒に家に入ると、男が緊張した面持ちでこちらを見てきた。「そんなに緊張することはないよ。君の処分が決定しただけだ」 我ながらひどい言い方だと思っているけど、わざとだから。  男はゴクリと唾を飲む。「今日これからお前を州都ズラカルトに連行し、身柄を引き渡す」「…………」「食事をとったら出発だからな」 と、フレイラ粉を塩と水だけでこねたものを焼いた「無発酵パン」を食卓に置く。  この国ではロチャティムという。「後は任せた」 と、見張り君に任せて家を出る。「本当に良かったのですか?」 食事が終わるのをまっている間にオギンが訊ねてくる。「なにが気にくわないんだい?」「いえ、気にくわないといいますか……慎重なお館様にしては色々と解せない決定だと思いまして」 ほうほぅ、言いたいことは察したけど、一応訊いてみるか。「どの辺りが?」「州都に突き出すとこの村のことが男爵に知られてしまいます」「そうだね」「……それに人選が……その…………」 と、言いにくそうにドブルにちらりと視線を向ける。  さすがだね。「わざとだよ」「え?」「ドブル、昼になる前に出発させたいから急がせてくれ」「はい」 僕はドブルが家に入ったのを確認してから、口を開く。「州都まで律儀に送り届けなくていい」「! それは途中で逃がせと?」「いやいや、わざと逃す必要はないよ。そのための人選なんだから。道中……というか、途中の町では安心して寝るといい」「判りました」「詳しいことは……」 と、僕は手紙を取り出し

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    ルダーのアジ、村人を焚きつける-後篇-

    「そこだ!」 と、ルダーがその懸念を引き受ける。「実際、昨日この村も襲われた。だが! 思い返してもらいたい。お館様は事前に狙われていることに気がついて、俺たちを守るために力を尽くしてくれた」「戦ったのは村人みんなだ!」 と、反論を試みたらしい声が上がる。  それにはガーブラが睨みを利かせて再反論。「その戦いで誰一人死んでないのはお館様のおかげじゃないか?」 どうやらぐぅの音も出ない論破だったようだ。  「そうだそうだ」の声が強くその意見を支持する。  実際、野盗に襲われるとどこの村でも被害は甚大で、命が助かれば儲けもんというのがこの世界の村人の諦観だ。  女たち、特に夫や恋人を持つものたちはある種の覚悟を持って戦いに送り出したのだ。  そんな中で、ガーブラたち歴戦の戦士がいたとはいえ、村人たちが戦って一人の死者も出さず、村にほとんど被害損害を出さずに勝利した。  この事実は鮮烈に村人たちの胸に刻まれている。  反対派だってそんな実績を無視できるわけがない。  ルダーが再び演説を始める。  なんのかんのと器用にこなす。  あれかな?  安保闘争とか通ってきた組なのかな?  前世の世代的には団塊よりちょっと上の世代なはずだけど……。「そこでだ。改めてお館様にこの村の代表として今後とも指導してもらうことをみんなに賛成してもらいたい」 煽動がうまかったのか、酔いも手伝ってだろうけど一斉に賛同の声が上がる。  過半数どころかこりゃ九割がたの承認が得られた雰囲気だ。  この雰囲気の中ではさすがに反対の声はあげにくいだろうな。  僕もそれとなく村人の表情を観察して、快く思っていない人を数えてみる。  人間、三十何人も集まっていると合わない奴もいるもんだ。  それでもなんとか折り合いつけてコミュニティを形成するのが人間ってもんだ。  そして、上に立つ人間はこの人間関係に留意できなきゃならない。  彼らが孤立しないよう配慮す

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    ルダーのアジ、村人を焚きつける-前篇-

     そういえば今年はまだダリプ酒仕込んでいないんだっけ?  醸造技術が未熟で甘くてアルコール度数の低い果実酒だし、保存技術が確立していないから残ってんのは飲み切った方がいいのか。  うん、じゃ、ま・いっか。  全部飲み尽くしても。  ……そうか、醸造技術を洗練させれば長期保存のきく輸出用の酒ができるんだな。  フレイラやポモイトでも酒が作れないかな?  穀物酒は果実酒より日持ちしないんだっけ? …………。 どっちにしても僕の知識の中に醸造技術はないや。  ルダーならひょっとして……後で聞いてみよう。  一通り食べ歩いて腹も膨れた頃、そのルダーがみんなの注目を集める。「みんな、聞いてくれ!」 それまでの浮かれた喧騒が一度落ち着く。  すでに陽は落ちて肌寒い。  焚き木で暖と灯りをとっている。「野盗に襲われお館様以外すべてを失ったここで、再び村を作り始めてから二度目の秋を迎えた。村は復興し、俺たちはこうして楽しく穏やかに暮らせている」 そこで少し間を開ける。  村人から「そうだそうだ」などとはやし立てる声と笑い声が上がる。「これもお館様のおかげだと思わないか?」 賛同の声の奥の方でピリリと空気の変わる場所があった。「リリム」 僕は小声で妖精の名を呼んだ。「なに?」「僕の村長就任を快く思っていない人たちを数えておいてくれないか?」「判ったわ」 さて、ルダーはどう持っていくつもりだろう?  無理言って引き受けてもらった手前、僕は事の成り行きを黙って見守ることに徹する。「豊かな村は襲われるぞ!」 そう声をあげたのはイラードだった。「そこだ!」 と、ルダーがその懸念を引き受ける。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    かくて宴は始まった

     日が沈む頃、村の宴は始まった。  まぁ、準備ができたところから待ちきれない人たちが勝手に始めてあとは流れでお願いしますって感じだったので、僕が中央広場に着いた頃には始まっていたと言うのが正解だ。  くそっ!  みんな浮かれすぎだよ。  なにかあったらどうするんだ!?  ……ないだろうけど。「おつかれさま! はい、どうぞ」 僕を見つけてカルホが飲み物を持ってきてくれた。  お手伝いってやつか?  ウエイトレスを買って出ているようだ。  お盆に飲み物を乗せてあっちこっちと飲み物を運んで、おじさんおばさんたちからなんかもらってる。  ちゃっかりしてんな。  この村は意図的に集められた人たちで構成されているためか、人口構成がいびつで女子供が極端に少ない。  未成年(十五歳未満)はクレタとカルホ、アニーの他はロット・バロさん家のブロロくん四歳しかいない。  ちなみにお母さんはマッハさん。  すでにクレタは大人に混じって仕事をしている。  時代や地域性もあるけど、二十一世紀日本で過ごした前世を持つ身としてはちょっと考えちゃうよね。  各家庭で作ってきた自慢の料理を少しづついただきながらぐるりと村人をねぎらい歩く。  一緒に歩いているのはヘレンとルダーが忙しく立ち働いていて暇そうだったアニー。  連れ出して歩いてたらなんかいっぱいもらってる。  子供は得だな。  村人には普段からの働きに対する感謝の言葉を送り、昨日の戦闘に参加した男たちには自慢話をさせる。  部下の手柄はちゃんと聴いて、正当に評価して褒めてあげる。  これって結構大事なことなんだ。  人間、叱るより褒めた方がずっと伸びる。  日本じゃとかく減点評価が幅を聞かせていて学生時代も社会人になってからも苦労させられた。  叱るのも必要なんだけどさ。  それにしたってこの世界、酒を水代わりに飲むよな。  売り物に手をつけんじゃないぞ。  大事な収入源なんだから。

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    適任

    「ふむ……このタイミングならできなくないぞ、ザイーダ。村の復興に尽力してきたことは誰もが認めるところだ。そして昨日の野盗襲撃を陣頭指揮をとって見事に防ぎきった手腕。これでお館様を村長として認めないなんて他の村人が許さないだろうよ」「ああ、そりゃそうだね」「で? 俺たちに村長にしてくれってのはどう言うことだ」「いい質問だよ、ルダー。イラードが言った通り、今は絶好のタイミングなんだ。だけど僕が言ったんじゃ角が立つし下心見え見えだ。とは言っても、誰かが言い出さなきゃ不満を持っている村人の認識がいつまでも仮の村長のまま……しばらくすると『あいつでいいのか?』問題が再発するかもしれない」「なるほど、それでうちらに正式に村長に決めようって言ってもらいたいってことですね」「ご名答」 理解の早い人たちで助かるよ。「今なら嫌とは言いにくいからな。一度正式に村長と認めた以上、後から否やと言い出しても『イヤイヤあの日村の総意で決めたじゃないか』と説得できる」 僕はたぶん時代劇の悪代官的なニヤリ顔を作ったと思う。「多数派工作はいらないか?」 前世的発想だね、ルダー。「それはいらないでしょう。察しのいいオギンやサビーを始め、ジャスやチャールズも賛同するに違いありません」「で、この提案をする役をルダーにやってもらいたいんだ」「え? お、俺!?」「そう、ザイーダやイラードだとジョーの思惑を感じちゃう人が出ないとも限らない。村に来て日の浅い村人の提案では説得力がない。その点最古参のルダーなら『ああ言いそう』ってみんなに思ってもらえるだろ?」「う……うーん…………」「頼むよ」「……仕方ない。引き受けよう」 やったね!

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    五日ぶりの温かい飯

    「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。  お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    都市伝説は真実だった

    「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    さゔぁいぶ-後篇-

     村に戻った僕は村人の埋葬をする。  人の死には慣れている。  現世の僕が、だけど。  この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。  当然医療水準も高くない。  田舎だからってのはあるかもしれない。  大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。  魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。  でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。  だからこの村はよく人が死んだ。  子供は特によく死んだ。  僕にも姉と妹がいたらしい。  妹の方はかす

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    さゔぁいぶ-前篇-

     僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。  この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。  確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。  あまりにも切ない。  秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。  今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。  慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。  あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。  昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status