เข้าสู่ระบบ佐奈side「ごめん。佐奈や会社の将来のことをずっと考えていたんだ。今すぐ結婚はダメでも、ほとぼりが冷めてから結婚すればいい。俺たちは事件の当事者じゃないんだから、誰に咎められる筋合いもないとも言ったんだ」颯は必死に弁明をしているが言えば言うほど、私の心に傷をつける。もう別れを選んだ私たちに優しい言葉や相手への想いを伝えることは、傷を深めるだけでしかない。「だけど、横から母親が『そのほとぼりが冷めるまでに一体何年かかると思っているんだ。あなたももう三十を過ぎている。将来子供を持つことを考えたら、悠長に待っている時間なんてないのよ』って。そのうち考えれば考えるほど……」「私もね、これで正しいのか。本当にこの選択がお互いのためになるのかってずっと考えていた」無理して笑って見せたが、今の私にそんな心の余裕はなくて、引き攣った笑顔はすぐに歪み、先程よりも大粒の涙が次から次へと頬を伝い、床へと落ちていく。「本当は、答えなんてお互いとっくに出ていたのかもね。だけど、その言葉が言いだせなくてここまで来たのかもしれないね」「――――ああ」蓮が静かに頷くのを見て、私は仕事用の鞄からキーケースを手に取り、蓮のマンションの鍵を抜き取った。「これは、もう返すね。今までありがとう。……蓮、最後に一つだけ聞いてもいい?」私は涙で霞む視線のまま、彼の顔を真っ直ぐに見つめた。「蓮、本当は子ども欲しかったんだよね?早く欲しいし、出来れば不妊治療も積極的にして欲しかったんだよね?」蓮は表情を崩し戸惑った様子を見せた。「それは……出来たらいいなと考えた時期もあったよ。でも」「……ありがとう。昨日、蓮のお母さんが言っていたの。『蓮は子ども好きだから、子どもが出来たら毎年家族で海外旅行をするのが夢だと語っている』って」「そんなことを言っていたのか」「うん。だからあの事件がなくても、蓮に無理させていたって気がついたの。だから、悲しいけれど、きっとこれで良かったんだよ」「佐奈、ごめん。でも愛していた。佐奈のことが好きで幸せにしたかった気持ちは本当だから」「うん、知ってる。私も大好きだったよ。ありがとう、蓮。さようなら」お互いに愛の言葉を囁いているはずなのに、口から出る言葉は既に過去形になっている。蓮は、真っ直ぐに私の瞳を見つめている。私も、蓮の顔をしっかりと心に焼き付け
佐奈side翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日を感じながら身体を起こすと、寝ぼけながら隣に手を伸ばすと、蓮の姿はなく玄関のドアが閉まる音で遠くから聞こえた。(あれ、蓮もう起きたの?着替えるために戻ったとしてもいつもより早いな……)キッチンへ向かい、昨夜のシチューの鍋を冷蔵庫から取り出そうとしたとき、ダイニングテーブルの上に置かれている物に目が留まった。(あ、蓮、スマホ忘れてる……蓮が忘れ物なんて珍しいな。相当疲れているのかな?届けた方がいいかな?連絡したいけどどうしよう?)迷いながらスマホを手に取ったその瞬間、画面が明るく点灯し通知を知らせる短い振動が掌に伝わった。『母さん』画面に表示された送り主と通知欄に冒頭の数行が表示されていてる内容を見た瞬間、私の心臓は瞬時に凍りついた。『佐奈さんには伝えた?昨日私からも話をしたわ。いつまでも引き伸ばすのは良くないから、今日中にけじめをつけてきなさい』「私に……伝えた……けじめをつけてくる?」頭を強く殴られたような衝撃が駆け
佐奈side夜十時を過ぎた頃にようやく蓮が私の家に来た。仕事が長引いたのだろうか蓮の顔には隠しきれない疲労が滲んでいる。夕食もまだ食べていないだろうと思い、蓮の好きな野菜をたっぷり入れた温かいシチューを用意していたが、「こんな時間に食べると明日堪えるから」と力なく首を振った。せっかく用意した鍋は一度も温められることなく、静かに冷蔵庫の奥へと押し込まれたのだった。「最近、ご両親とはどう? 話とかしている?」ソファに座り、スマホの操作をしている蓮にお茶を出しながら尋ねると、蓮は一瞬、苦い顔をしたが、すぐに取り繕うように困ったような微笑を浮かべた。「うん、まあ……話はしているよ。どうにか説得できるといいんだけど。心配かけてごめん」「何かキツイこと言われたり困ったことはない? 私にできることがあったら、どんなことでも教えてほしいの」「ありがとう。でも、今は大丈夫だよ。大きな問題はないから心配しないで」そう言って蓮は優しく笑う。けれど、その笑顔が今の私には切なかった。昼間、彼の母親に呼び出され、実際には父親との話し合いが平行線であること、折り合いがつく見込みなどないことを聞かされているからだ。
佐奈side蓮がご両親の説得を始めて二か月以上が経っている。(蓮とのことで、私にできることが何かあればいいのに……)そんなことを想いながら日々を過ごしていた私に、その日はある日突然やってきた。平日、私のスマホに見覚えのない番号から着信があった。恐る恐る出ると、電話の向こうから聞こえてきたのは、蓮の母親の凛とした声だった。「佐奈さん?急にお電話してしまってごめんなさいね。実は折り入って頼みがあって、蓮には内緒で会ってくれないかしら」都心から少し離れた老舗ホテルのラウンジを指定されて、向かうと奥の方の席で蓮の母親がソファに腰を掛けて私の到着を待っていた。こんな出来事があってから、蓮には内緒で会いたいなんて嫌な予感しかしない。しかし、ここで拒否することも待ち合わせに行かないことも私には考えられなかった。重い足取りで近付くと、蓮の母親は小さく微笑みを浮かべながら、向かい側の席に腰を掛けるように促した。「主人が今回の件をどれほど重く受け止めているか、蓮から話は聞いているでしょう? 」「はい……。父の会社のことで多大なご迷惑をおかけしていることは重々承知しております」
佐奈side車を走らせているとフロントガラスを叩く雨脚が急激に激しくなってきた。ワイパーを最速にしても視界が白く霞むほどの豪雨に、蓮はハンドルを握る手に力を込め、国道沿いにあるパーキングエリアに車を滑り込ませた。エンジンを切ると、車内には雨がボンネットを叩く激しい音だけが響き、車内の孤独感を際立たせている。何か明るい話題を探そうとしたが、隣に座る蓮の横顔を見て息を呑んだ。何かに耐えているように唇をギュッと閉じる蓮に、思い付きの話をするのは違うと思ったからだ。蓮はハンドルに額を預けるようにすると、長い沈黙のあと、ようやく重い口を開いた。「佐奈、本当のことを話すよ」蓮の声は、雨音に消されそうなほど小さくて低かった。わずかに震える声に私の身体も小さく身震いをする。彼はゆっくりとこちらを向き、今まで避けていた私の瞳を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、隠しきれない疲弊と絶望が滲んでいた。「連絡が遅かったのは、仕事のせいじゃない。父さんと母さんを説得しようとして、ずっと話し合っていたんだ」「説得って……私たちの、結婚のこと?」蓮は小さく頷き、深く重い溜息をついた。「MURAKIの不祥事が公になってから、うちの役員会でも問題になった。うちの両親
佐奈side日曜日の昼前、蓮が家の前まで迎えに来てくれた。せっかくの休みだというのに、今すぐ激しい雨が降りそうな黒く重そうな雨雲をチラリと見て、助手席に乗り込む。木曜日の昼に送った会いたいというメールの返信が届いたのは、金曜日の夜だった。以前なら数時間で返ってきたはずの言葉が、丸一日以上も返ってこないことに蓮の心が離れてしまったような気がしてこのところ溜め息ばかりが続いていて、私の心は今日の空と同じようにどんよりと曇りきっていた。「最近、連絡くれたのに返事遅くなってごめん」車が走り出してすぐ、蓮は前を向いたままそう言った。(会って早々に謝罪の言葉を口にしてくれたことは嬉しいけれど、できるなら正面から顔を見て言ってほしかったな……)でも、蓮が仕事が忙しいのは分かっているし、理解のある婚約者でいたいと思う私は、自分の中の寂しさを飲み込んで「大丈夫」と短く返事をした。いつもは何かしら話をしているはずだけれど、どんな話をしているか思い出せない。何故だか今日は、沈黙が気まずく感じていた。「佐奈、怒ってる?」信号待ちで不意に尋ねられ、言葉に詰まった。今の気持ちに怒りは一ミリもない。ただ、そう思われたことへの悲しさに似た感情が入り交じっていた







