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第124話

Author: 花朔
彩が、文翔を溺れたときに救った恩人?

だから、文翔はあんなにも彼女を大切にするのか。

でも、本当は......

紗夜の瞳に複雑な色が浮かぶ。

ちょうどそのとき。

「深水さん?」

聞き慣れた女の声が落ちる。

顔を上げると、彩が車椅子に座り、皮肉めいた笑みを向けていた。

周囲の看護師たちは彼女を見た途端、蜘蛛の子を散らすように離れていく。

紗夜が口を開こうとした瞬間、彩が先に言葉を滑り込ませた。

「中で話しましょう」

仕方なく、紗夜は彩の後ろについて診察室に入る。

入るや否や、医師が箱を取り出し開けて見せた。

「竹内さん、こちらが長沢社長からお預かりした薬です。病院に残っているのは、もう一本しか......」

「聞きました?」

彩が視線を上げ、紗夜に向かって微笑む。

「これは文翔が『私のために』用意してくれたものよ。正直、私の回復にここまでの薬は必要ないんだけど、私が一言言えば、すぐに持ってきてくれたの」

誇示、優越、勝者の余裕。

2億円の薬――

必要かどうかなんて関係ない。

「彼女が望めば」手に入る。

その現実を紗夜に見せつけたかった。

紗夜は挑発に飲まれまいと深く息を吐き、丁寧に口を開く。

「竹内さん。もし本当にお使いにならないのなら......その薬を、譲っていただけませんか」

――本来は自分のものだった薬なのに。

今は「奪った側」に頭を下げてお願いするしかない。

胸の奥がひどく冷える。

それでも、母を救うために、彼女には選択肢がなかった。

彩はふっと笑い、あえて難しい顔を作る。

「でもあなたの態度を見る限り、そんなに切羽詰まってるようには見えないんだけど?」

「......竹内さんは、私にどんな態度を求めているんですか」

「もっと誠意を見せなさい」

彩は顎に手を添え、唇の端を少し上げた。

「例えば、『いただけませんか』じゃなくて......すがる、とか」

屈辱を味わわせたい。

その感情が隠そうともせず透けて見える。

紗夜は唇を噛み、最終的に頭を下げる。

「竹内さん。お願いします」

「本当に素直ね」

彩は笑い声を洩らす。

その目は驚きよりも、勝ち誇った愉悦で光っていた。

五年間奪われた位置、注意、光――

今日、ついにその借りを返させる。

踏みつけ、押し潰し、屈服させる。

それで
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