เข้าสู่ระบบ気をつかわなくていいのにと、柔らかな苦笑を浮かべて窓に歩み寄る。もっとよく庭を眺めようとして、あくびを洩らす。
朝から気を張り詰め、午後からは玲と歩き回っていたので、さすがにもう動くのが億劫だ。今夜は安定剤の力を借りる必要はないだろう。いくら心配事があるにしても、安眠できそうだ。 ふっと表情を引き締めた和彦は、窓に額を押し当てる。オンナである自分を、玲はどんなふうに見ていただろうかと、夕食時の様子を思い出そうとする。しかし、玲はあくまで自然体だった。そう和彦には見えた。 だからこそ、明日は一緒に行動していいものかと悩んでいると、携帯電話が鳴った。相手が誰であるか確信して、文机の上に置いた携帯電話を取り上げる。「……ぼくが連絡を忘れていると思って、かけてきたのか……」 開口一番、ため息交じりに和彦が言うと、電話の向こうから低い笑い声が聞こえてきた。『疲れた先生が、もうウトウトしかけているんじゃないかと思ってな。まだ起きていたか?』「かろうじて気をつかわなくていいのにと、柔らかな苦笑を浮かべて窓に歩み寄る。もっとよく庭を眺めようとして、あくびを洩らす。 朝から気を張り詰め、午後からは玲と歩き回っていたので、さすがにもう動くのが億劫だ。今夜は安定剤の力を借りる必要はないだろう。いくら心配事があるにしても、安眠できそうだ。 ふっと表情を引き締めた和彦は、窓に額を押し当てる。オンナである自分を、玲はどんなふうに見ていただろうかと、夕食時の様子を思い出そうとする。しかし、玲はあくまで自然体だった。そう和彦には見えた。 だからこそ、明日は一緒に行動していいものかと悩んでいると、携帯電話が鳴った。相手が誰であるか確信して、文机の上に置いた携帯電話を取り上げる。「……ぼくが連絡を忘れていると思って、かけてきたのか……」 開口一番、ため息交じりに和彦が言うと、電話の向こうから低い笑い声が聞こえてきた。『疲れた先生が、もうウトウトしかけているんじゃないかと思ってな。まだ起きていたか?』「かろうじて。実際、今日は疲れた……」『ご苦労だったな。秋慈や、綾瀬さんからも連絡をもらって、丁寧に礼を言われた。二人とも、先生を褒めていたぞ』 まるで子供扱いだなと思ったが、賢吾や長嶺組の名に泥を塗らなかったというのなら、素直に受け入れておくべきだろう。「綾瀬さんにはずいぶんお世話になったんだ。あとで改めてお礼を言わないと」『その代わり、先生が子守りをしたんだろう』 一体なんのことかと思ったが、すぐに見当がついた。「伊勢崎組長の息子さんのことか。子守りだなんて言ったら、失礼だ。高校三年生なのに。しかも、ずいぶんしっかりしている」『うちの千尋よりもか?』「……答えにくいことを聞かないでくれ」 話しながら和彦は、行儀が悪いと思いつつ布団の上に転がる。こうして賢吾と話していると、自分にとっての日常が戻ってきたような気がする。もちろん和彦にとっての日常とは、鷹津に連れ去られる以前のことを指している。 ささやかな胸の痛みを感じたが、
「言えよ、秋慈。俺の息子と、大事な客人が見ている前で」 御堂は怒りをぶつけるように、龍造の一つに束ねられた髪を掴んで引っ張る。ここで龍造が乱暴に腰を突き上げると、御堂が声を上げると同時に、髪を掴んでいた手が落ちる。その拍子に、指が引っかかったのか、髪をまとめていた紐が解けた。「……あなたに、関係ないでしょう」「関係あるだろ。お前は、俺の〈オンナ〉だ。お前を自由にする権利がある」 御堂が何か言いかけたが、龍造が唇を塞いでしまう。切迫した息遣いとともに、御堂が畳を蹴りつけた。その音で我に返った和彦は、咄嗟に玲の腕を掴んでその場を離れる。 慌しく廊下を歩きながら、真っ白になっていた思考が次第に色を取り戻していく。そこで、自分が今一番、何を気にかけなければならないのか思い出した。 立ち止まり、傍らを見る。玲は唇を引き結んではいるものの、非常に落ち着いているように見えた。むしろ和彦のほうが激しく動揺している。「あっ、大、丈夫、か?」 上擦った声で問いかけると、一拍置いて大きく息を吐き出した玲が、短く刈った髪に指を差し込む。「佐伯さんのほうこそ、大丈夫ですか? ……顔、赤いですよ」「ぼくは……平気だ。びっくりしただけで――」 いつの間にか熱くなった頬を撫でた和彦は、御堂の部屋のほうにちらりと視線を向ける。龍造が言った言葉が、しっかりと耳に残っていた。 男の庇護を必要としていない今の御堂を、龍造はまだ自分のオンナ扱いしていると知り、なぜか屈辱感にも似た苦い感情が込み上げてきた。行為の最中の戯言だとしても、御堂には相応しくないと思ったせいだが、そう感じるということは、和彦自身の経験のいくつかを、御堂に投影しているのかもしれない。「――つらそうな顔をするんですね」 ふいに玲に言われ、伏せていた視線を上げる。黒々とした瞳が、じっと和彦を見据えていた。「そうかな……」「自分が辱められたみたいな、そんな感じに見えます。……父さんに、そのつもりはないんですよ。
玲がさっそくスマートフォンを取り出し、何かを調べ始める。その様子を眺めているうちに、御堂の実家近くまでやってくる。 すでに御堂は戻っているのか、家の前に車が停まっていた。さらに、辺りを警戒するように立っている男たちの姿もある。「あれ――……」 声を洩らしたのは玲だった。和彦と同じ方向を見て、軽く眉をひそめている。「どうかした?」「あっ、いえ、あそこに立っているの、父さんの組の人間です。車も、そうだ……」 つまり、龍造が訪れているということだ。当然、御堂も一緒だろう。 和彦は、預かっていた合鍵をキーケースから取り出す。どうやら今日は使う機会はなかったようだ。「何か聞いてた?」「何も。思いつきで行動するのはいつものことなので、いまさら驚きませんけど。護衛につく組員たちが、いつもぼやいてます。行き先も言わないで、一人でどこかに行ってしまうって」 玲自身も苦労していそうな口ぶりに、和彦は微笑ましさを覚える。 家の前で車から降り立つと、さっそく玲が、龍造の護衛についているという組員たちと会話を交わす。和彦は会釈をしてから先に家に入ると、玄関には二組の革靴が並んでいた。 まっさきにリビングを覗いてみたが御堂と龍造の姿はなく、次にダイニングへと向かう。こちらには、テーブルで茶を飲んだ形跡があった。 御堂の部屋にいるのだろうかと思いながら、廊下に出た和彦は一旦立ち止まって考える。大事な話をしているのなら邪魔をしたくなかったが、戻ってきたことを報告しておきたい気もする。なんといっても和彦は、組長の子息を連れ回していたのだ。 荷物を置きに、使わせてもらっている部屋に向かっていた和彦の視界に、廊下を曲がった玲の姿がちらりと入った。他人の家だからと物怖じする様子のない玲は、まるで我が家のように堂々と歩き回っているようで、その様子に知らず知らずのうちに表情は緩む。 今日は一体どうなるかと身構えていたのだが、玲のおかげでずいぶん楽しめた。あの泰然自若ぶりは、慣れからくるものなのか、生来のものなのかはわからないが、救われたことに変わりはない。
「まあ、いろいろだよ。しばらく塞ぎ込んで、やっと落ち着いたところに、御堂さんに誘われたんだ。あの人に話を聞いてもらおうかと思って」 適当に誤魔化すこともできたが、向けられる真剣な眼差しに応えなくてはいけない気持ちになり、つい話してしまう。「じゃあ、予定外に登場した俺は、邪魔でしょう」「その口ぶりだと、君を連れて行くと伊勢崎さんが決めたのは、本当に急だったんだな」「どうでしょう。父さんの中ではとっくに決定事項で、ただ、他の人間に伝えたのが急だったのかも。……勢いと衝動で生き抜いているような人だから」 呆れたような口調ではあるが、父親を疎んじている素振りは一切感じられない。きっといい父子関係を築いているのだろうなと、和彦は思った。だからこそ、自分と俊哉の関係について思いを巡らせずにはいられない。 危うくため息をつきそうになったが、玲の視線を意識して、なんとか堪える。声をかけて店を出ると、和彦から促すまでもなく、玲が次の行き先を口にした。「ゲーセンに寄っていいですか?」「……意外だ。そういうところに行くんだ」「たまに、気分転換に。高校生も、ストレス溜まることがあるんですよ」 妙に老成したような物言いに、和彦は声を洩らして笑いながら、玲の腕に手をかけて歩き出す。「近くにある?」「ばっちり、チェック済みです」 玲の案内で、さっそくゲームセンターに向かう。和彦自身は一人でまず立ち寄ることがない施設だが、千尋に何回か連れて行かれたことはあった。 さすがに玲は慣れた様子でまっさきに紙幣を両替し、和彦も倣う。けたたましい音楽が鳴り響く中、きょろきょろと辺りを見回す。当たり前だが、若い客が多いのだが、和彦とそう年齢が変わらない、スーツ姿の男が熱心にクレーンゲームをしていたり、老夫婦がメダルゲームに興じていたりと、案外客層の幅は広い。 玲に誘われていくつかのゲームをやったが、自分のあまりの下手さに笑ってしまう。それでも、カーレースゲームでは、柄にもなく声を上げて興奮したのだ。我に返って冷静さを取り繕ったが、隣で玲が肩を震わせて笑っていた。
「……俺の父さんもなかなかのもんだと思っていたけど、佐伯さんのところも、けっこう……」「君のお父さんは、進学については、なんて?」「大学のランクについては、興味ないんですよ。あるのは、俺が大学生という身分を手に入れて、春にこっちに来ることだけ」 何かありそうだなと思ったが、ハンドルを握る綾瀬の部下にすべて聞かれているため、迂闊に探りを入れられない。 ただ、会話を交わしながら、新鮮な感覚を味わっていた。和彦の周囲には、千尋を含めて若者がいることはいるのだが、組と関わりを持つ堅気とは言いがたい若者が大半だ。しかし玲は、父親がヤクザではあるものの、本人は荒んだ様子もなく、ごく普通の高校生だ。こうして進学について話せるだけでも、和彦にとってはある意味、非日常の体験だった。「だったらもう、来るのは確定みたいなものだ」「それでも、多少はハッタリのきくようなところには行きたいですよ。将来、あの父親を、俺が食わせなきゃいけなくなるかもしれませんから」「あー、じゃあ、一人っ子?」「認知されたのは俺だけのようだから、多分、そうです」 和彦が複雑な表情をすると、横目にちらりと見た玲が口元を緩める。「こういう話、多いでしょう。この世界。男の甲斐性とか言って」「――……そうなんですか?」 返事に困った和彦が、ハンドルを握る綾瀬の部下に尋ねると、なぜか玲が噴き出した。「おもしろいですね、佐伯さん」 そうかな、と小声で応じる。 他愛ない会話を交わしているうちに、いくらか車中の空気が和んだ頃に、目的地の近くまでくる。 大学の周囲を歩いてみるかと言ってみたが、それは合格してからの楽しみにしておきますと答えられた。その代わり、次の目的地をリクエストされる。「ちょっと、服を見たいです。なんだったら、俺だけ適当な場所で降ろしてもらえたら、一人で店を回るんで」「いいよ。一緒に行こう。実は買い物好きなんだ」 和彦の言葉に、玲は大まじめな顔で忠告してきた。「値段が高いところはダメっすよ。
** 綾瀬が側についてくれていたおかげで、特に問題もなく時間を過ごした和彦は、昼を過ぎてから暇を告げる。しっかりと手土産を持たされて、敷地内にある駐車場へと案内されていると、途中で玲を見かけた。 手にしたスマートフォンと周囲を交互に見ており、何かを捜している様子だ。咄嗟に声をかけようとした和彦だが、どう呼びかけるべきなのか逡巡した。「――玲、くん」 大きな組織の幹部と同じ姓を、気安く呼ぶのに気後れしていた。玲は、訝しげにこちらを見て、居心地悪そうな表情を浮かべる。「すげー、呼びにくそうですね、俺の名前」 小走りで駆け寄ってきた玲の開口一番の言葉に、和彦は乾いた笑いを洩らす。「なんと呼んでいいのか、ちょっと迷ったんだ。君のお父さんと区別するために、名前のほうがいいかなって」「うちの地元じゃ、礼儀正しく『くん』や『さん』付けで呼んでくれる人間なんていませんから、一瞬誰のことかと思いました」 ふと和彦はあることに気づき、軽い周囲を見回す。玲が、組長の息子であることを思い出したのだ。「君、護衛はついてないのか?」 何を言い出すのかという顔をして、玲が肩を竦める。「ただの高校生に、護衛はつかないでしょう。父さんならともかく。その父さんも、護衛を嫌がって、滅多なことじゃ連れ歩きませんけど」「そういう、ものなのか……。それで君は、何をしてるんだ?」「用も済んだし、これから大学の見学に行こうかと思って。進学を希望している大学が、こっちにあるんです。こんな機会でもないと、どんなところか見ることできませんから」 玲が見せてくれたスマートフォンには地図が表示されている。どうやら最寄りのバス停留所か駅を探していたらしい。 本当に高校生なのだと、妙に微笑ましい気持ちになった和彦は、深く考えずについこう口にしていた。「ぼくも一緒に行こうか」「えっ……」「どこの大学を見たいんだ?」 戸惑いながらも玲が口にした大学名を聞いて、懐かしい気持ちになる。高校生の頃の和彦が、一時進学を望ん
長嶺組という看板に守られている和彦は、エレベーターの中で南郷に話しかけられたとき、ひどく不安だった。その理由が、今ならわかる。 長嶺組を恐れない男の前では、自分があまりに無防備で、危険を避けようとする本能が働いたのだ。 力があるのは長嶺組の男たちで、和彦自身ではない。頭ではわかっていても、あまりに周囲の男たちから大事にされ、少し浮かれていたのかもしれない。 「――……やっぱり、ヤクザは怖いな……」 声に出して呟いて、苦々しく唇を歪める。 カーテンを開けたままの窓から夕日が差し込む。眠るには明るすぎる気もするが、もう起き上がるのも
それでも今は、優しい錯覚に浸っていたい。 三田村に促され、サンドイッチを手に取る。和彦が眠っている間に、近くのファストフード店まで三田村が買いに行ってくれたものだ。具がたっぷりの大きなサンドイッチとスープは、和彦の普段の朝食としては十分すぎる量だ。「昼まで一緒にいられるんだろ?」 サンドイッチを頬張る合間に問いかけると、和彦を安心させるように三田村は目元を和らげる。「ああ。もうそんなに時間はないが、先生の行きたいところがあればつき合う」「別に今日、どうしても行きたいってところは……ないな。あんたこそ
「呆れた。そんなことまで調べたのか」「大事なオンナのことは、なんでも知りたい性質なんだ」 そう言いながら賢吾の手が柔らかな膨らみにかかり、残酷なほど優しい手つきで揉みしだかれる。たまらず甲高い嬌声を上げた和彦は、両足を開いたまま仰け反る。腰が震えるほどの強烈な快感だった。「捜さないでくれと先生が言い張ったら、佐伯家は引き下がると思うか?」「あの家の人間は……、ぼくの意見になんて耳を貸さない。ぼくを、好きに扱える人形ぐらいに、思っている……」「憎まれ口を叩くくせに、いやらしく
急に引き返したい気分になったが、それはできない。嫌になるほどヤクザの思考に染まっていると思うが、和彦は、賢吾だけでなく、鷹津の面子のことも考えていた。面子を潰された男は――怖い獣になる。 長嶺組が取ったという部屋は、男二人が寝ても持て余しそうな広いベッドがある、ダブルルームだった。大きな窓から見渡せる風景は感嘆するほどで、この眺望込みで、部屋の料金は安くないだろう。すでにワインまで準備されていた。 この部屋は、鷹津のためというより、和彦のために用意されたようだった。部屋を見回して感じるのは、和彦を安く扱う気はないという意思だ。「俺は、ホテルの部屋を取







