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第5話(38)

Author: 北川とも
last update Last Updated: 2025-11-16 11:00:42

 賢吾が目を細め、ひどく酷薄そうな表情となる。このとき和彦の心臓は、確実に賢吾の見えない手に鷲掴みにされていた。

「そうしてほしいか? そうなる覚悟で、三田村と寝たんだろ」

「……だったら、順番はぼくが先だ。先にあの男を手にかけたら、金輪際、ヤクザに手を貸してやらない」

 賢吾の目の中で、大蛇がゾロリと身をしならせたような気がする。巨大な体で和彦をギリギリと締め上げてくるのも時間の問題かと思われた。

 本当は、賢吾に向けてこんなことを言う恐怖に、身も心も凍りついていた。些細な衝撃で砕け散っても不思議ではないほどだ。

 しかし賢吾は、和彦を手荒に扱おうとはしなかった。それどころか、また唇を吸ってくる。もちろん、その口づけに応える余裕は和彦にはない。されるがままだ。

「やっぱり肝が据わってるな、先生」

「これがぼくなりの、ヤクザらしい駆け引きだ。……与えられるばかりじゃ、退屈する。たまには、自分から欲しがらないと……」

「俺のオンナなら、それぐらいふてぶてしくて、逞しくないとな。見た目は色男で、体は、どん
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    「見たまま、怖いですよ。生粋のヤクザというやつです。冷たく歪に固まった鉄のよう――という表現がしっくりくるんです。遊撃隊なんてものを指揮しているぐらいですから、当然、頭は切れる。だからといって慎重というわけでもなく、必要とあれば、ブルドーザーみたいに強引に物事を進める。……不気味で、怖い人です」「そして、総和会会長のお気に入り」「会長の手足となって動く人間は、もちろんいます。ただ、第二遊撃隊の一部の人間しか関わらせないようにして、南郷さんは会長から秘密の仕事を請け負っているようです。そういう意味で、本当にお気に入り――信頼されているんでしょうね」 料亭での、守光と南郷の姿を思い返す。守光が普段、組員たちにどんな態度で接しているのかは知らないが、少なくとも、南郷に寄せる信頼を感じることはできた。南郷にしても、守光には長年世話になっているという口ぶりから、畏怖と尊敬以外に、親愛の情めいたものが滲み出ているようだった。 一方で、その守光の息子である賢吾を語るとき、南郷の口調は変化した。 あれは一体――。和彦は無意識に眉をひそめていたが、突然、眼前にグラスが突きつけられた。驚く和彦に、中嶋が首を傾げながら言う。「これ、飲みませんか?」「えっ、ああ、でも君の――」「飲みすぎました。俺には半分残してくれればいいですよ」 いつの間にか、中嶋との距離が近くなっている。和彦が気づかないうちに、間を詰めてきたらしい。 部屋で二人きりになるとわかったときから、意識しないわけにはいかなかったが、こうも間近に中嶋の存在を感じると、もう、強く意識するしかない。 和彦が水割りを一口、二口と飲んだところで、さりげなく、しかし待ちかねていたようなタイミングで中嶋が問いかけてきた。「で、南郷さんをたぶらかしたんですか?」 和彦は唇をへの字に曲げて、グラスを突き返す。そんな和彦の反応に、中嶋はニヤリと笑う。「読めないなー。先生のその反応だと、何があったのか」「……ぼくはどれだけ、誤解されてるんだ」「周囲にいる人間のほうが、物事を正しく認識しているなんてこ

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  • 血と束縛と   第18話(7)

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