เข้าสู่ระบบ考え直すように言い続ける泉を無視して、カガリはどんどん流れてくる急患を癒していた。
泉医師も、軽症患者を診なくてはならない。 どのみち、バイオメタリック・エクソスーツに頼らなくてもカガリの腕力に泉は勝てないだろう。 最悪、力づくででも向かう気でいた。 『カガリ、イソガしい、カ?』 ふわふわと、m1,022型異星人のソラが、カガリの頭上で浮いている。 作業中に話しかけてくることは、珍しい。 「ソラか。ここでの作業が終わったら、パフィオペディルム型が暴れてる現場に行く」 『カスミガセキ、カ?』 ソラは予想通り、敵襲を理解していた。 過去に、他の地球外生命体《ヴォイドフォーク》が付近にくれば察知できると言っていたのを、カガリはしっかカガリは、とぼとぼと揚羽の病室を出た。 借りてきたトレーと食器を返さなくてはいけない。 「佐竹さんが……」 鷲塚と二人で、後列の旅客機型コープスイングの援護に行って戻らなかった。 その後の、どのタイミングだったのか。 鷲塚は何も明かさなかったので、詳細はわからなかった。 佐竹は、新米のカガリがひとっとびに同じ兵長になっても、嫌な態度をとらなかった数少ない隊員だ。 付き合いは浅いが、三年同じ部隊にいた揚羽はもっと衝撃だろう。 カガリにとっては、入隊してから初めて身近な死だ。 心の中で、覚悟していたものがいきなりかき乱された、そんな気分だ。 「不知火くん、ちょっといい?」 声をかけてきたのは、この度少佐になった御厨沙良だった。 極秘ミッションに参加した一部の支部は、もう所属基地に戻ったが、カガリたちのように特級知識保全区画シェルターを守る任にもついている。 結局、いまだ移送の情報漏れのソースは不明のままだ。 大移動してしばらくは、手抜かりがないように各支部から人手を出すことになっている。 今はその人員との交代待ちだ。 怪我をした久遠揚羽は、二人乗りでお茶の水基地に連れ帰る予定ではあるが、誰がその二人乗りをするかは未定である。 「久遠ちゃんと面会してきた?」 百四十五センチの小柄な体を傾けて、御厨がカガリを覗き込む。 「はい、元気でした……ただ」 「佐竹……曹長のこと……聞いた?」 「はい……」 御厨の目が、心なしか赤い。 覗き込まれなかったらわからなかったが、昨日から悄然としていたのはこのせいだったのか。 「ごめんね……私から話さなくって」 カガリと御厨は、人気のない区域に足を踏み入れる。 この富士宮支部基地は、基本的に静かだ。 有識者たちを守るだけに作られたので、地球外生命体への出撃コー
医師から許可が出たのは、極秘作戦の翌々日だった。 ただし、脳震盪は軽度とはいえこれから一週間は出撃してはいけないという。 久遠揚羽は、自分がカマキリ型地球外生命体にやられて、カガリに助けられるまでを特別に動画で見せられた。 ――わぁぁぁぁぁぁぁ! 地球外生命体の接近をつげるナビゲーションがないと、自分はこうも脆いのかと思う。 そして電光石火で揚羽を助けにいくカガリの姿は、ヒーローを越えていた。 他人事なら、キャーキャーはしゃげるレベルのかっこよさ。 また、カガリの見た目がこういうときに映えるのが憎い。 子供頃、揚羽の後ろをくっついて歩いていた面影は、どこにもない。 「地球外生命体が来るまでは、昔はこういう映画がいっぱいあったもんだよ」 担当の医師、泉は少しニヤけていて、それがまた恥ずかしい。 小さな頃、絵本で見た知識しかない揚羽でも、言いたいことは伝わる。 ――なんでこんな、ヒーローとヒロインみたいな……。 カガリに思いを寄せているであろう月子の目の前で。 そう思うと、胸が何故かちくりと痛んだ。 なんだ、この痛みは。 まるで――恋、してるみたいではないか。 「ないないないない、そんなまさか……」 「なにがないんだい?」 はっとした。 まだ、医師との診察中だ。 「いえ、なんでもないです!!」 「そう? あとはお茶の水基地に戻るだけだけど、後遺症が出たら延期だからね」 泉医師に、少し胡乱な目をされつつも勢いよく返事してしまう。 「あとは、この作戦のあとの話を隊長から聞くように」 「はい」 「なるべく横になっているんだよ」 極秘ミッションで怪我をした、揚羽以外の隊員はもうカガリによって回復していた。 なので、病室は揚
部屋のロックが外れた。 三時間以上だろうか。延々と、地球外生命体についてのテストが始まったのがやっと終わった。 霧山一等兵は、同じ四人部屋の阿部一等兵と男子寮の自販機に向かう。 考えることは一緒で、廊下が隊員でぎっちり埋まっていた。 「うーわー、これ基地全体?」 「カガリどこだろ。電話しても、返事かえってこないわ」 二人の階級は、一番のどん尻の一等兵。自分たちより下はいない。 なので、人ごみをかき分けるのは蛮勇というものだ。 「あ、畑のほう回ろうぜ」 「確かに、あっちも一個だけ自販機ある!」 麦茶や水などの地味なラインナップだが、この際わがままは言ってられない。 小さな通路から、二人は脇道に逸れる。 畑の方向に行くと、さすがに人はいなかった。 「……なあ、今回のなんだったと思う?」 「わかんねー」 四人部屋とはいえ、入隊一年目と二年目ばかりで上の考えていることを推し量れる者がいない。 カガリならば、と思ったが電話は返ってこなかった。 霧山と阿部とで、畑を見ながら麦茶をあおる。 「なんか、前例なさそうだったな……」 「そだなー、なんかざわついてたし」 自販機に近いのは階級が高い部屋で、霧山たち一等兵たちは遠い。 廊下での低音のざわざわは、尉官や下士官が多かったが――霧山と阿部は伍長・軍曹・兵長で構成される下士官すら頭上の階級だ――みんな当惑している雰囲気だった。 「――部屋に監禁というのは、うちの支部基地だけじゃないんだ」 不意に声がして、とっさに霧山たちは硬直する。 畑当番が出てきたのだろうか。 「同期に秘密で聞いてみたが、奥多摩のやつも新横浜のやつも同じことを言ってた」 「こっちもだ。市原のやつも静岡のやつも、言ってる。けど、それ以外はそんなことないらしいんだよな」
部屋には既に人がいた。 背の高い老人が、数十台のガラケーを台座にセットしている。 護衛官らしき隊員二人は彫像のように部屋のすみっこに直立していた。 「よければ水でも飲む? 喉は乾いてるでしょう」 「ではありがたく」 コップに水を注がれて、カガリは一気に飲み干す。 いっそジョッキでもいいくらいだと思いながら、更に注がれた水を半分まで飲んだ。 「会議を開くにはまだ時間がかかるの。良かったら座っていて」 「いえ、エクソスーツが汚れているので」 「クッションカバーは洗えるものよ、気にしないで」 夜坂《やさか》司令としては、まだ平然と立っていられるカガリの胆力の限界が分からない。 シェルターに辿りついたとき、オフィリア05部隊は無事なのは御厨隊長とカガリだけだった。 そしてその部隊隊長すら、そこで力尽きた。 ましてや、長時間移動の為に異髄力を使わないできたというのに。 一方、不知火カガリは、到着してすぐ応援にむかおうとしたり、怪我人の為に異髄力をさらに使っている。長時間の移動中も、異髄力を乱用しているにも関わらず。 ――まさに、未知数。 早めに本部にいれて見張るべきか、通例を守ってまだお茶の水基地におくべきか悩ましいところだ。 「こちらナンバー01、少しお話しても?」 立てかけられて携帯の一つから、お茶の水基地の生島司令の声がした。 「こちらナンバー00,どうぞ。数分ならば」 夜坂関東本部基地司令の応じ方で、カガリは検討をつける。 関東本部を0として起点にし、お茶の水基地が01ならば奥多摩支部が02になるのだろう。 番号は北上するのか南下するのかは分からないが、集団会議をするのに名乗りあっていては混乱する。 それを阻止するためのナンバリングなのだ。 「不知火曹長、無事でよかったよ。ずっと偵察ドローンごしに戦いを見ていたからね
富士宮支部基地は有識者たちを守る、特級知識保全区画シェルターから作られた特殊な基地だ。 有識者たちの町が中にあり、それを護衛するだけで地球外生命体への出撃は大月支部に任されている。 シェルターから、本部へと横切る長いエスカレーターに乗りながらカガリはその景色を見下ろした。 大きな空調と、ところどころの植えられた緑が目立つ。 「不知火曹長、あなたには他支部の怪我人も見てほしいの」 「はっ」 上空で、ぐわんと大きな音がした。 シェルターの開閉音だろう。 奥多摩支部の後列の仲間が着いたのだ。 「我々は最後ですか」 「ええ、他の支部はもう到着しているわ、なんとかね」 夜坂《やさか》司令の語尾は暗い。 カガリは、その言葉で他支部に起こったことを察した。 「みんながみんな、あなたのようにはいかないわ」 知らねぇよ、そんなこと――心の中でカガリは罵声をあげる。 癒しの力もそうだ、もっと同じ能力が生まれてくれれば――それを何故カガリに言うのか。 言われて増えれば仕方ないが、そんな都合の良いことはない。 いちいち、なんでそれを当人に聞かせるのか。 「本日は嶽村《たけむら》副司令は?」 「うるさいので本部付けよ。もっとも、さっきから私の携帯が鳴り続けているけれど」 煙たそうなのを隠しもしないで、軍服の司令は断続的に鳴り続ける携帯を無視した。 「怪我人はここよ、不知火曹長。よろしく頼みます」 点滴を持って走る医者がいて、よく見ると本部の泉医師だった。 バイオメタリック・エクソスーツを脱がされて、横たわる隊員は八人以上。 揚羽や月子は、奥に寝かされていた。 カガリの背後からストレッチャーが走りこんできて、奥多摩支部の隊員が運ばれてくる。 「カガリくん、無事だったか。参戦していたんだな」 泉医師が声をか
「五百雀、旅客機型の上に乗れ! 戦闘は無理だ」 「し、しかし……」 「乗れ! 上官命令だ!!」 言い争う時間もない。 カガリは、旅客機型コープスイングを運転する隊員にも怒鳴る。 「いいか、迂回するな! 必ず倒すから信じて、支部基地へ突っ込め!」 左翼には、相変わらず意識が戻らない揚羽が固定されていた。 その揚羽の真横を、カガリが飛行していく。 降り注いできた、タカアシガニ型地球外生命体は小型ながら無数だ。 もはや戦えるのは御厨とカガリだけ。 偵察ドローンの映像の向こう側で、多数の人間が絶望する。 「こちら、大月支部オペレーション! オフィリア05部隊、ローゼン02部隊、迂回して――」 「だから、迂回はいらねーってんだろーが!」 旅客機型コープスイング全体が光った。 揚羽を包んでいた光の結界が、先ほどの規模とは比較できない大きさで発現したのだ。 旅客機に触れていたもの、真上にいたもの、近づこうとしていたもの。タカアシガニ型地球外生命体が、一気に消滅していく。 まばゆい光の中、地球外生命体の死体さえ残らない。 「突っ込めーーーーーーーーーー!!」 旅客機型コープスイングは背中に、戦闘不能になった揚羽、月子を乗せたまま富士山麓シェルターに突き進む。 大月支部から飛び出してきた本部の部隊が、カガリたちの前後を取り囲んだ。 今更とは思ったが、富士
「オフィリア05部隊、出撃します」 「通達、了解。作戦プロトコル起動」 異界防衛軍、お茶の水支部。オペレーションルームで矢継ぎ早に言葉が飛び交う。 「偵察ドローン《スカウトオービット》、現地到着。映像、共有します」 「生体反応感知、偵察ドローン《スカウトオービット》を寄せよ」 渋い男の声が、指揮を執る。 お茶の水基地副指令、剣崎《けんざき》政虎《まさとら》がオペレーションルームの長だ。 剣崎が地球外生命体《ヴォイドフォーク》の異髄から得た力は『ニューロ・
検査室で、カガリは生島中佐と再会した。 会議が終わっての立ち合いだ。 生島の場合は検査結果より、カガリの心配で参加している。 「もう慣れてるので、中佐が立ち会わなくても……」 「いや、ぜひ立ち会わせてくれ。私は普段お茶の水支部から出られないからな」 検査機器を持っている人間、紙の書類を持って行き来する人間、と検査室の中は人が多い。 簡易着替えルームで、カガリは重たい礼服を脱ぎ、バイオメタリック・エクソスーツに着替える。 集団に観察される羞恥は、とうに捨てた。 異血覚醒してからというもの、そんなものは無駄でしかない。 検査台の上に横になると、ケーブル類が
「は~、だりぃな……」 不知火《しらぬい》カガリは、ため息をついた。 母親である知世中将の墓参りのあと、異界防衛軍本部に呼び出されたのだ。 亡くなった母の話題は、カガリには重い。 期待と好奇心を背負い続けて、十八になった。 不知火カガリ、階級は兵長。下から四番目の階級だが、今年防衛高を主席で卒業した身では、かなりの大抜擢だ。 異界防衛軍お茶の水支部、オフィリア05部隊にこの春配属されたばかり。 生島中佐は、お茶の水支部の基地司令でもある。 『ドウシタですか、カガリ。ソラとあうのヒサシブリです、うれしくないカ?』 地球外生命体《ヴォイドフォーク》の中で、
西暦2026年。春。 霊園の中を、軍服で歩く二つの影があった。 壮年の男が立ち止まると、まだ少年の面差しのある不知火《しらぬい》カガリも足を止める。 二つあった花束のうち、一つはもう供えてきた。 「ここだね、不知火兵長。君の母上のお墓は……よく手入れされている」 「はっ! 母も喜ぶでしょう。好意で手を入れてくれる方が多いので」 「私が育て、みんなを救ったヒーロー……。今の幹部の多くは不知火名誉中将に救われた面々が多い」 白髪の男――生島《いくしま》慎三郎《しんざぶろう》中佐は、ハンカチを顔にあてる。 過去の思い出が一気に生島の胸に押し寄せてきた。 不







